永遠アイドル
約4000人の中からグランプリに選ばれたときはわけがわからなかった。
舞い散る紙吹雪ときらきらしい王冠を頭にかぶせられた後、あちこちから眩しいくらいのフラッシュと拍手喝采を浴びた。
そのままぼーっと夢心地のまま東京から地元の福岡に帰ってきてようやく「美少女コンテスト2016」で優勝したのだという実感が一気に湧いた。
帰宅後は親戚総出で集まり地元の温泉宿の宴会場を貸し切って家族とその喜びを分かち合った。
再来月から東京にある事務所と契約したマンションに引っ越して歌とダンスのレッスンが始まる。
一年後には新人アイドルとして芸能界デビュー。輝かしい人生のはじまりだと信じて疑わなかった。
一年後、私がいたのはテレビカメラの前ではなく秋葉原の電機街の狭いフロアの中だった。
来月発売のイメージDVDの宣伝の為、水着になってファンの前で様々なポーズをとっていた。
集まったのはたったの13人。
どうして私はここにいるんだろう。
自分の思い描いていた未来とのギャップにうちひしがれる毎日だった。
デビューして思い知ったのはこの業界では自分のような顔だけしか取り柄のない人間なんて腐るほどいるという事実だった。
バラエティーや舞台やドラマで活躍できるのはほんの一握りで大半は小さなイベントでの活動ばかりだった。
こんなはずじゃなかった、と頭を抱えた。
当然それだけじゃ生活できなくていまだに両親の仕送りに頼っていた。
いつまでもたってもこんな仕事ばかりやらされていたら快く送り出してくれた両親に顔向けができない。
私はてっとりばやく人気を獲得するために某人気アイドルグループの傘下に入った。
だけどそこでも注目されるのは特に容姿が可愛い訳でもない、事務所の力でごり押された人間ばかりで私なんか下っ端もいいとこだった。
消えていくのはレッスン費だけでステージに立つことはできない。
毎年行われる人気投票では言わずもがなランキング圏外だった。
私は考えた。
もっと沢山の人に注目されるにはどうすればいいか。
考えた末に私は整形手術を受ける決心をした。
手術を終え鏡に映った自分の顔がまるで別人のように感じた。
これでもっと売れる。
そう信じて疑わなかった。
だけど順位は変わらなかった。
まだだ。もっともっと綺麗になれば誰かが私を見てくれる。
今度は胸にシリコンを入れ、エラを削り、鼻にプロテーゼを入れた。
それと引き換えに借金もどんどん増えていった。
だから手っ取り早くお金を稼ぐために際どい水着を着てまたDVDを出した。
それでもお金は足りなくて事務所の社長からもっと稼げる仕事を紹介された。
それは裸になって男の人に股を開く仕事だった。
それだけは…と最初は拒否したが、社長が今すぐ借金を返せとまくし立てた為結局従った。
私は処女だった。
初対面の知らない男と寝るのは苦痛以外の何物でもなかった。
元アイドルのAVデビューと銘打ったお陰でDVDは売れた。
そんな私に誰もが注目してくれた。
アイドルの頃には獲れなかった一位の座を初めて別の形で獲得することができた。
私は田舎に帰りたかった。
両親の喜ぶ顔が見たかった。
でも帰れなかった。
両親に合わせる顔がないからだ。
頻繁に電話がかかってくるが出ることもできなくなった。
いつのまにか東京に来て五年。
身も心もボロボロになっていた私を友達がホストクラブヘ誘った。
たまたま隣の席に座っていたホストの彼は初対面にも関わらず優しく私の悩みを聞いてくれた。
次の日もその次の週もその彼のもとへと通った。
仕事で稼いだお金は瞬く間になくなった。
気づけば返せないほどの莫大な借金が溜まっていた。
彼に泣きついたら手っ取り早く稼げる仕事を紹介された。ソープ嬢だ。
そこのお客さんは好みのタイプじゃなかったけど彼の為に何度も抱かれた。
その度に彼に貢いだ。お金だけが私と彼を結ぶ唯一の絆だった。
あるときふと興味本位でエゴサーチをかけた。
検索トップに躍り出た掲示板には私の悪口ばかり書かれていた。
整形モンスター、ホスト狂い、親不孝者。
ネットでも街に出ても後ろ指さされているようで毎日不安で眠れずひきこもるようになった。
私は遂に心療内科に行き精神安定剤と睡眠薬を貰った。
それでも眠れなくて手元にある睡眠薬を全てのんだ。
そしたらとても幸せな夢を見られるようになった。
その夢の中では私は大きな会場と沢山のお客さんたちの前で歌を歌っていた。
光輝くステージで皆が私の名前を読んでいる。
両親が小さく手を振ってくれている。
ここには私を貶めたり辱しめたりする人は誰もいない。
ここにいる誰もが笑顔でいる、幸せな空間。
小さい頃からの夢が叶った瞬間だった。
夢なら覚めないでと願った。
そして私は永遠に夢から目覚めることはなかった。
永遠アイドル