大学が爆発した。

 大学が爆発した。
 今は校舎全体が立ち入り禁止で、大学には学生は一人もいない。潜り込もうとしたのだけれど、警察も消防も来て、追い出されてしまった。
 だから、詳細なことはわからない。
 だけど、多分爆発元は、僕たちの研究室だ。
 というより、大学が爆発した原因は、僕だ。
 なんとなく、本当になんとなく、最近イライラしてたって理由だけで、僕は水素爆弾を作った。たまたま、僕が化学系の研究室に所属していたから、材料は当たり前のように手に入った。
 水素爆弾なんて、誰にでも作れる。小学生にだって可能だ。Google先生に聞けばいくらでも作り方を教えてくれるし、実際に調べてみたらわかると思うけれど、本当に図工の宿題より手軽にできる。あんな危険な物質が、誰にでも触れることが出来る場所に置いてあること自体、問題だとおもうけれど、でも研究には確かに必要なものだし、そこは学生たちの思慮分別に任せているのだろう。化学薬品なんて、扱い方によっていくらでも危険になる。大学側もまさか学生がこんな使い方をするなんて、思わなかったのだろう。いや、当然可能性は頭にあっただろうけど、本当に実現させる人間はいないだろとタカをくくっていたのだろう。
 爆弾を作ったのは、昨日だ。
 昨日、僕は苛立っていた。同じ研究室の睦美ちゃんが、僕ではない男と仲良く話をしていたから。男とは言っても、そいつは同じ研究室のメンバーだから、見ず知らずという訳では無い。むしろ、研究室内では、それなりに仲の良い部類に入ると思う。
 こんなことを言うと、多分こう思うかもしれない。「おいおい、それじゃあただのストーカーじゃないか」と。好きな子にだって男と話す権利はあるぞ、勝手に恋して勝手に相手に怒るなんて身勝手にも程があるだろ、と。
 そのご指摘は最もだ。僕はたしかに、ストーカーの素質を持っているのかもしれない。でもこういう気持ちは誰にだってあるのだと思うけれど、どうなのだろう。好きな人が、自分以外の人と楽しそうに話していて、それに不満になってしまう気持ち。悲しいと、悔しいと思う気持ち。感じないのだろうか。
 まあ、いい。とにかく僕は苛立っていた。その苛立ちの大きさは主観的なものだから、他人にとやかく言われるつもりは無い。例えくだらないと言われようと、僕は苛立っていた。
 それで、気がつけば、僕は爆弾を作っていた。
 おいおい、衝動的やしませんか、と思うかもしれない。でも、僕にとっては、これは日常的なことだ。ストレスを発散させる方法なんて、人それぞれだ。友達に愚痴ったり、日記に罵詈雑言を書いたり、バイクで海沿いを爆走したり。僕は、爆弾を作ることで、発散させていただけ。もちろん、使いはしない。作るだけ。爆弾を見ると、怒りがすうっと抜けていくのだ。別に自分が異端だとは思わない。ただ、一般的でないだけ。材料が手に入らないから、みんなやらないだけ。健全かそうでないかは、誰にも判断して欲しくない。誰にも迷惑をかけてないだけ、マシだとすら思う。
 公道で爆走するほうが、他人に愚痴をいう方が、よっぽど危険だというのに。たくさんの人に迷惑がかかるのに。
 こうは言うけれど、僕だって爆弾を作ってることがバレたら、問題になることは頭では理解している。だから、見つからないようにしてた。大学の授業が終わって、研究室に誰もいない深夜の時間を見計らって、僕は研究室で作業をするようにしていた。
 でも、昨晩は本当に驚いた。
 睦美ちゃん、ツイッターで「帰宅なう」って言ってたのに。今日はバイトで疲れたからすぐ寝るって、言ってたのに。
 まさか、あんな時間に研究室に入ってくるなんて、思いもしなかった。しかも、中崎も一緒に。あ、中崎っていうのは、同じ研究室の例の男。最近、睦美ちゃんと仲の良い男のこと。
 僕はとっさに隠れたけど、爆弾には気づかれちゃって。「なんだろこれ」みたいなこと、中崎と話してて。そのまま2人でソファに腰掛けて。もう、見てられなかったよ。頭こんがらがっちゃってさ、僕は研究室を飛び出したんだ。
 それで、気がついたら、大学が爆発してた。
 立ち入り禁止になってるから、研究室がどうなったのか分かんない。できることなら、研究室に忍び込んでその有様を見てみたいのだけれど、厳重な警備でそれもかなわない。
 まあ別に、どうだっていい。僕の研究室がどうなってしまったなんてことは。
 ぼくが気になるのは、たった一つだけ。
 研究室のソファの上に横たわっているであろう二人の死体が、どんな姿をしているのか。
 それだけは、どうにかして自分の目で確かめてみたい。

大学が爆発した。

大学が爆発した。

むしゃくしゃしてて、気付けば爆発してた。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-26

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