中華料理
腹が鳴る。
煌びやかな装飾が施された派手な門をくぐると、一気に異国の雰囲気が増す。赤色が映える派手な建物がライトアップされて黄金に輝いているように見える。夜の暗がりを照らす厳かな光に包まれながら、私は今日の夕食のことを考えていた。
本場の中華料理を求めて、私は中国に来ていた。
フカヒレスープ
まずはスープを頼んでみた。フカヒレはあまり食べたことがないし、この際にどのような味がするのか確かめてみよう。
黄金色のスープにしっかりととろみが付けられていて、液体といえども、胃に溜まってくる。具材はえのき茸と細切りの筍とフカヒレだ。
筍の食感と風味が強くて、どれがフカヒレの味なのか正直よくわからない。見た目は透明で春雨のように見えるが、どうも味が隠れてしまう。時折ぷつりと柔らかいものが切れる感触で、これがフカヒレかな、と考える。だが必死に舌で味をとらえようとしてもつるりと歯と舌の間を通り抜けてしまってもどかしい。
少し残念だが、美味しかった。今度は大きなフカヒレを丸ごと煮た姿煮を食べてみたい。
四川風麻婆豆腐
次に私は四川風麻婆豆腐を注文した。かなり辛いらしい。
余談だが、私は辛党だ。辛ければ辛いほど好きだ。どんな料理でも辛味が付いていればそちらに飛びついてしまう。
普通の麻婆豆腐も好きなのだが、四川風の文字につられて、四川風麻婆豆腐を注文した。
見た目は真っ赤だ。赤唐辛子が丸ごと乗っかっているし、炒められた豆腐も赤く染まっている。ひき肉とごま油の香りが食欲をそそる。
豆腐から染み出す味とひき肉の旨味、あとからじわじわとやって来る辛味。少し山椒も入っているだろうか。じわじわと熱い口の中で時折痺れるような辛さも感じる。辛いのだが、箸が進む。
口内が熱いような、ぴりぴりと痛いような感覚だ。しかし、これが気持ちいいのだ。
体が温まってきた。次は何を頼もうか。
小龍包
テレビの特集でよく見る、本場の小龍包。そのままかじりつくのは中身の出汁が熱いから危険だ、というイメージがある。麻婆豆腐の辛味でぴりぴりと痺れる舌に熱いものを乗せるのは危険だ。よく冷まして食べなければ。
レンゲに一つ小龍包を乗せて、箸で皮を破く。とたんに出汁が溢れ出てきて、少しびっくりした。まずはよく冷ましてから出汁を啜った。中身の肉の旨味も一緒になった鶏がらスープだ。さらっとしているが、味は濃い。これは美味しい。
付け合せの細切り生姜を、破いた皮の切れ目から押し込んで、その上に軽く醤油もかけて、一気に口に放り込んだ。鶏がらスープを吸った肉の旨味がすごい。皮ももちもちとして食べ応えがある。あっという間に三つを食べきってしまった。
もう一皿注文しようかな……。
北京ダック
北京ダックはなんとなくここでしか食べられないのではという感覚だ。アヒルの皮なんて日本食では絶対に見ない。
一つの皿に、薄くスライスした北京ダックと細切りのねぎときゅうり、半透明の薄い皮が乗ってきた。この薄い皮に具材を包んで食べるのだろう。餃子の皮とは少し違う気がする。この皮は一体何から出来ているのだろうか?
皮を広げて、北京ダックとねぎときゅうりを乗せる。出し忘れていたのか、店員が慌てて持ってきたたれもつけて畳むように包んだ。
ねぎときゅうりのしゃきしゃきした食感の中で、時折ぱりぱりの鶏皮の味がする。たれは味噌ベースだろうか。北京ダックの味を引き立てていて美味しい。焼き鳥の皮とは少し違う。ぱりぱりとして香ばしい。
国の文化や宗教によって食べられる肉が異なることが面白い。日本ではきっとお目にかかれない、貴重な肉(の皮)を堪能できて良かった。
今度は、アヒル肉をまるごと、食べられるような店に行ってみたい。
激辛! タンタン麺
本場のラーメンも食べてみたい。
私はメニューの激辛! の文字に惹かれて、激辛タンタン麺を注文した。店員が少しなまった日本語でかなり辛いことを伝えてきたが、大丈夫だと返した。
出てきたタンタン麺はまた真っ赤だった。真っ赤なスープにみじん切りの唐辛子が大量に浮いている。これは私にとって新たな挑戦になるかもしれない。
麺をつまんで引き上げると、唐辛子が大量に張り付いてきた。少し冷ましてから麺を啜った。
唐辛子の欠片や辛味の強いスープがのどに張り付いて、少しむせそうになる。一気に啜ると危険なようだ。だが、ここで負けるわけにはいかない。私は妙な意地を張ってゆっくりと麺を啜り続けた。
このタンタン麺は辛さと旨味が両立している。辛いのだが、程よい塩味とごまの風味がしっかりと出てくる。飲み込むたびに食欲がそそられて、箸が止まらないのだ。
辛さを推して売っているものには、たまに辛さだけを意識しすぎて旨味が隠れてしまっているものがある。そうなってしまうと、辛さに耐えて食べるだけで、ただ辛いだけだ。
良いタンタン麺に出会えた。
ピータンと豆腐のサラダ
さっぱりしたものが食べたくなってきたな。
メニューのサラダのページを見ていると、気になるものが目についた。
ピータン。黒々とした卵だ。一体どんな味がするのか。気になったので注文してみることにした。
ピータンは茹でて皮を剥いた状態で、白身は黒く透き通り、黄身は真っ黒だった。噂では生臭いと聞いたことがあるが、臭みは感じない。少し緊張しながら一つ口に運んだ。
普通の卵より固めの触感だ。薄く塩気がついていて美味しい。豆腐と一緒に和風ドレッシングに和えて食べてもイケる。
見た目はグロテスクでも食べてみると美味しかったりする。ピータンは新たな発見だった。
餃子
中華といえば、これを忘れてはいけないな。本場の餃子はきっと美味しいだろう。
横長の皿に六つの餃子が並んでいた。薄く焦げ目のついた皮が所々で張り付いている。皮の焼けた香ばしい香りがする。中身はかじってからのお楽しみということか。
箸で隣の餃子とくっついている餃子を引き剥がし、醤油と酢とラー油を混ぜたたれを少しだけ付けて齧りついた。口の中に肉の旨みとにんにくの香りが満ちる。具がたっぷりで、ぎっしり肉の中に野菜もたくさん入っている。しゃきしゃきとして、野菜の食感もしっかりしている。噛み締めるたびに味の色が変わるようだ。とにかく飽きない。ごはんも進む。
一際目立つのは、にんにくだ。とにかくにんにくの味が濃い。たれが無くても、十分なように感じる。
にんにくとビールはよく合うと聞いたことがある。ここまでにんにくの味が立っていれば、きっとビールも美味しいのだろう。だが、私はまだ未成年。一年後のお楽しみにしておこう。
私は半ライスを二個の餃子で平らげ、もう一杯ごはんを追加注文した。
杏仁豆腐
そろそろお腹がいっぱいになってきた。もうこれ以上は入らないだろう。最後のデザートに行くかな。
杏仁豆腐。中国発祥のデザートで、日本でもおなじみのスイーツだ。これならきっと疲れてきた胃にも優しいのではないだろうか。
見た目は、いかにも寒天で固めました、というようなものではない。クリームをそのまま出したように滑らかだった。
一口掬って口に入れてみると、とても濃厚な甘みが広がるが、あとから爽やかな風味も出て、甘ったるくない。舌触りはムースのようで、舌に乗せた途端に蕩けてのどに落ちていくようだった。
杏仁豆腐を掬う手が止められないが、一気に食べてしまうのは、もったいないというか、なんか違う気がする。できる限り長くこの甘さを味わっていたい。つまり、一気に食べてしまうのはもったいないということだ!自分でも何を考えているのかよく分からなくなってきた。
私は一口一口の甘みを丁寧に堪能しながら、ひとかけらも残さず胃に収めた。最後の一口は名残惜しさで涙が出そうだった。いや、実は出た。
少し食べ過ぎたかもしれない。念願の本場中華料理をお腹いっぱいに食べることが出来て良かった。明日胃がもたれてしまわないかが気がかりだが、そうしたら朝ごはんには薬膳粥を食べてみよう。
私は膨れた腹をさすりながら、宿泊予定のホテルへと向かった。
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