名階可岳先生の化学授業(無機)

元素特定のごろあわせ

「無機をやる。
無機は鉄とか亜鉛とかアルカリ金属だとかアルカリ土類金属だとかハロゲンだとか、主だった元素を一つ一つ特徴を覚えていく所だけど…。
これをマスターするにはコツがあるよ。
はい、教科書の一番前の表紙開いて。何がある?」
「周期表ですか?」
「うん。短い一言の特徴をここに書き込んでいくんだ。塩素は毒があって黄緑だから『毒緑』とかね。
『アルカリ土類金属』とか、縦の属性が書かれている周期表がいいね。
大きめにコピーして書き込んでもいい。
それから、『金属で一番電気を通しやすいのは銀』とか、細かい情報を、全部周期表の余白に書き込んでいくんだ。ごろ合わせとかも全部。
とにかく一枚にする。もしくは2枚。
そうしないとたくさんのノートを復習するのはおっくうだし、何より、ほら!これ僕の。見て。
文字だけで『1族アルカリ金属はカリウム・リチウムなどで、水素は含まない。そしてその特徴は炎色反応と陽イオンへのなりやすさと、水に入れるだけでOH⁻と結合することである。2族アルカリ土類金属は…』って、1族2族って言われるより、『一番左の行はこの特徴。左2番目はこの特徴。一番右が希ガス、右2番目がハロゲン』と覚える方が、はるかに覚えやすい。
表で場所を特定すると、覚えやすくなるからね。
人の名前も、あいうえお表上に並べて覚えている人いるしね。ホテルのドアマンとか。」

はい、それから、これだけが無機じゃないよ。
一番のクライマックスは、たくさん混ぜた無機質を分離して分析することだ。
酸に溶けやすいとか、強塩基じゃないと無理だとか、銀イオンと結びつくのはこれとこれだけだとか、そういったことを利用して、7種類くらい混ぜた無機質を一つ一つ分離してしかもそれを当てるんだ。
これできると、ちょっと科学者になったみたいな気がするよ。

とにかく覚えること多いから、でもここは覚えるだけだから、覚えやすい表を作って持ち歩くといいよ。
暗記だけだから、ある意味いただき問題だ。」


「無機はやることいっぱいあるけど、基本覚えるしかない。それも大量に。
そしてクライマックスは、『元素特定』だ。
だから、まずこの『元素特定』のごろ合わせだけ教えるね。
なぜってこれが一番大変だから。全部知ってなきゃ解けないよ。」

[元素特定]
何を混ぜたらどうなるのか?

塩素Cl⁻で沈殿する
「銀杏水」:銀Ag⁺ 鉛Pb⁺ 水銀Hg⁺
*PbClは被膜をつくるので両性金属だがHClに溶けない。

CO₃²⁻・SO₄²⁻で沈殿する
「バカなカバ スルー」:Ba² Ca²⁺ Pb²⁺ Sr²⁺(アルカリ土類金属+鉛)
*Ba SO₄ PbSO₄はともに白い沈殿。溶けない。
でもBaCO₃ PbCO₃はHClで弱酸遊離して溶ける。

H₂Sとの反応
酸性ほど沈殿しにくい。言い換えればもともと沈殿しやすいものは酸性でも沈殿する。
だから、ここはイオン化傾向が問題になる。

イオン化傾向おさらい
K(貸そう) Ca(か)Na(な) Mg(ま)Al(あ) Zn(あ) Fe(て) Ni(に)Sn(す)Pb(な)(鉛)  H₂(ひ) Cu(ど) Hg(す) Ag(ぎる)Pt(しゃっ)(白金)Au(きん)
先に行くほど沈殿しやすく、前のものほどすぐイオン化する。

この傾向で、一番後ろを先頭とすると、
Snまで 酸性でも沈殿
Znまで 中性・塩基性でも沈殿
Znより下 Al以下 何をやっても沈殿しない

*H ₂Sは弱酸。だから、酸性だと[S²⁻]が遊離しにくくなる。(溶解平衡の式で。ここでは省くけれど、[H⁺]×[S²⁻]が一定なので、[H⁺]が増えると[S²⁻]が減るので。)
とにかく酸性だと[S²⁻]が減る。その分沈殿も作りにくくなるが、それでも溶けるものが存在する。それで見分けがつく。
*沈殿物の色が基本「―S」は黒だけれど、その色が変わる。
MnS +マンガン→ピンク
CdS +カドニウム→黄色
ZnS +亜鉛→白
覚えるしかない。要注意。


・ほとんどのものが沈殿するが
OH⁻との反応:K⁺ Ca²⁺ Na⁺(『貸そうかな』) これだけが沈殿しない。強塩基だから。

・Ag(OH)は存在しない。
→Ag₂O(褐色)のみが存在する。


・溶けるかどうかはどの分子と錯イオンを作りやすいかによる。
NaOHとの反応:両性金属がOH⁻となじむ。
両性金属は「ピースあるぜ」 Pb Sb Al Zn (煙草をイメージ)
*これらは[OH⁻]をたくさん入れると(=つまり沈殿物を強塩基に溶かすと)最初は沈殿するが、錯イオンを作って溶ける。
*このうちPbとSbは14族で同族。

NH₃との反応:
「ZAC」 Zn Ag Cu (洋服屋さんをイメージ)
これらも最初は沈殿するがNH₃をたくさん入れると錯イオンを作って溶ける。
Ag ⁺→Ag ₂O(褐色)→[Ag(NH₃)₂]⁺
Zn²⁺→Zn(OH)₂→[Zn(NH₃)₄] ²⁺
Cu ²⁺(青)→Cu(OH)₂(青白)→[Cu(NH₃) ₄]²⁺(深青)


炎色反応(の歌)
Li赤 リチウムリコピントマトの赤
Na黄 ナトリウム泣き虫黄色
K赤紫 カリウムカムカム赤紫
Ca橙 CA(キャビンアテンダント) 代々 CA
Ba黄緑 バカだね ねえ君 黄緑色
Cu青緑 網どう?青緑

(やや難)CrO₄²⁻との沈殿(問題は)色が変わること
PbCrO₄(黄色) 
Ag₂CrO₄(赤褐色)
BaCrO₄(淡黄色)

化学が役に立っている証拠「化学工業」

「化学工業がテストに出るよ。何と言っても化学が役立っている証拠だから。
 方法、触媒、何を作るか、全部覚えてればこれは解ける。」

①NaOHの製造(イオン交換膜法)
 食塩水(NaCl)を電気分解。
 +ではNaOH(気体はH₂)
 -ではCl₂が発生する。
 陽イオン交換膜を通るのはナトリウムイオンである。
*+ではO₂よりも陰性度の強いハロゲンが発生。だからCl₂。

・さらに-極では
2H₂O+2e⁻→H₂↑+2OH⁻
*このOH⁻がNa⁺と合わさってNaOHが発生。

・陽イオン交換膜を間にはさめば、Cl₂もNaOHも両方回収できる。
(HClとNaOHは分けておかないと反応してしまうので。
Cl₂+H₂O→HCl+HClO)



②Na₂CO₃(炭酸ナトリウム)の製造
*ガラスの製造に使う。
*石鹸の材料でもある。
*塩基性。NaHCO₃も塩基性。

「アンモニアソーダ法」もしくは「ソルベー法」と呼ぶ。

「材料」アンモニア 水 塩 CO₂(CaCO₃を焼く)

ⅰ)塩・アンモニア・CO₂でNaHCO₃を作る。
NaCl+NH₃+CO₂+H₂O→NaHCO₃↓+NH₄Cl

ⅱ)NaHCO₃を焼いてCO₂回収。
2NaHCO₃→Na₂CO₃+H₂O+CO₂↑

*NH₄Cl→これはそのままでも肥料になる。
でもまたNH₃にして使うとすると、このように回収。
(回収方法)Ca(OH)₂+2NH₄Cl→CaCl₂+2H₂O+2NH₃
乾燥剤のCaCl₂もできる。

*まとめると
CaCO₃+2NaCl→Na₂CO₃+CaCl₂
(石灰石+塩→材料・炭酸ナトリウム+乾燥剤・塩化カルシウム)


③硫酸の製造
「接触法」
触媒:酸化バナジウム(Ⅴ) V₂O₅

S→SO₂→SO₃→H₂SO₄

・S→石油精製の際に取り出せる。
・濃硫酸にSO₃を溶かして「発煙硫酸」を得る。
水に硫酸を直接入れると発熱して危険だから。

・SO₂:二酸化硫黄
・SO₃:三酸化硫黄

④アンモニアの合成
「ハーバー・ボッシュ法」
N₂とH₂を高圧にしてNH₃にする。
N₂+3H₂→2NH₃

・触媒:Fe₃O₄(四酸化三鉄)

・硫安 (NH₄)₂SO₄を作るのが目的。(肥料)

硝酸(火薬の原料)にももちろん使える。

*NH₃は発熱反応だから低温高圧がよいが、
反応速度を大きくするには高温高圧がよいので、
比較的高温かつ高圧下で行われる。

*ハーバーボッシュ法は、第一次世界大戦で疲弊したヨーロッパに肥料を供給した人助け法である。(もともとは戦争のために火薬を製造するために作られはしたけれど。)


⑤硝酸製造
火薬とかいろいろ使える。
「オストワルト法」
NH₃を酸化して硝酸にする。

NH₃→(酸化)→NO→(酸化)→NO₂
触媒:白金 
*NO₂を水に入れるとHNO₃とNOができる。
余ったNOは返して再び酸化させればよい。

*白金の表面に水素が吸着され、水素原子間の結合が緩むため。



*触媒は三種類出てくる。
接触法の酸化バナジウム(Ⅴ) V₂O₅
ハーバーボッシュ法のFe₃O₄(四酸化三鉄)
オストワルト法の白金

この区別がテストに出るので覚えなければならない。
よって、「勝算は金(硝酸白金)」とおぼえて、
ハーバーボッシュ法の高温高圧が黒錆び(鉄だからざっくりと)を使うと覚えれば、
自動的に残る酸化バナジウムが接触法となる。


⑥肥料の三要素 NPK
そのうちPはCa₃(PO₄)₂ 骨 固くて水にも溶けない。 
でも硫酸をかけると溶ける Ca(H₂PO₄)
(*リン酸2水素カルシウム(弱い酸)これは水に溶ける。)

N→アミノ酸
P→ヌクレオチド
K→浸透圧
にそれぞれ必要である。

名階可岳先生の化学授業(無機)

名階可岳先生の化学授業(無機)

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-25

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND
  1. 元素特定のごろあわせ
  2. 化学が役に立っている証拠「化学工業」