僕と君と想い寄せと空 第2話
居候
乃湖は自転車を元の場所に戻すと、家の黒いドアの前に立った。
インターホンを連打する。
「開けろやぁ。」
小さく呟いた。
「もうお姉ちゃんうるさい!!」
聞こえてきたインターホンからの声は、乃湖の弟榛吾(しんあ)だ。
「うるさい、バカ榛吾。ブリッ子。うーざーいぃ!!」
「お前もピンポン、ピンポンうるさい!!」
「ほら、本音出た。ブリッ子だぁ。」
「あーはいはい。開けるから待ってろ。」
「かっこつけ。」
「うるさい!!」
榛吾にドアを開けてもらうと、乃湖はノッソリと家に入っていった。
冷たい少しの廊下を抜けて、リビングに行く。
「はぁぁ!!」
バッグを放り投げ、大の字に倒れる。
「疲れたぁー。」
冷たい床に引っ張られるようになる感覚がある。
しばらくして、起き上がるとそこに母の姿があった。
「乃湖。」
「はい??」
「今日からお客さんが来るから、早く着替えてよね!!」
「えー!?めんどいぃぃぃ!!…ってか何??今日か・らって。」
「お楽しみぃー!!」
「はぁ??ってか何アラフォーにしてそのテンション。」
「アラフォーって言わない!!お母さんは25歳!!」
「…ないな。」
「うるさい!!早く着替えなさいよ。」
「へいへい。」
『今日から』
その言葉が気になったまま、乃湖は自分の部屋に着替えを取りに行った。
15分程経って、インターホンの音がした。
母が「はーい」とやけに高い声で言いながら、玄関へ向かった。
私も気になって後ろから付いて行く。
ガチャっとドアから音がすると、ゆっくりとドアが開いた。
乃湖にはその時間がとても長く思えた。
そこには、女の人とその女の人とあまり背の変わらない少年が立っていた。
「こんにちは。」
清楚なワンピースを着こなした女の人が小さい声で、礼をしながら言う。
それに合わせて、少年も小さく礼をした。
少年は乃湖と同じところの学校の制服にネッグウォーマーをしていた。
左肩にはスクールバッグ、右肩にはエナメルバッグを持っている。
乃湖はその少年のことを知っていた。
なぜなら、もちろん同じ学校で同じクラスだったから。
少年の名前は斉藤 駕楠(かなん)。
乃湖とは身長はあまり変わらなく、乃湖よりも細かった。
クラスでも人気者で、乃湖は離れた存在と思っていた。
まさか、家(ここ)にクラスでモテモテな人気者が来るとは思っていなかった乃湖は
一瞬、夢ではないかと思った。
でもそれは頬を抓らなくても分かった。
でも、ここに来る理由も理由があったとしてもなんでよりによって乃湖の家なのか
全く分からなかった。
呆然としている間に駕楠が乃湖に
「よろしく。」
と小さな声で言った。
「よろしく。」
と言い返す乃湖。
よく考えてみれば2人がまともに話すのは、初めてだった。
僕等
母と乃湖、そして駕楠はリビングに入っていった。
こたつで宿題をしていた榛吾が振り返り、驚いた顔をする。
「こんちわ。」
榛吾はその顔のまま、体型に合った大きい声で言う。
「こんちわ。」
駕楠が挨拶を返す。
「今日から駕楠くんにはうちで生活してもらいます!!事情は駕楠くんは聞かされてるよね?」
「はい。」
「基本的に自分の普段の生活とは変わらないと思うから、分かんなかったらそいつに聞いて!!」
『そいつ』と母が指を指したのは乃湖だった。
「はぁ!?アタシ?」
「そうそう。よろしくねぇー。」
「あーはいはい。…駕楠くん。」
「??」
「とりあえずどこで何をするのか説明するから、付いて来て。」
「うん。」
乃湖と駕楠は2階へ上がった。
「えとね、ここで寝るの。」
「(゜△゜)))!?」
「…ごめんなぁ。うちは何時もは家族で並んで寝てんだけど、さすがに
駕楠くんはダメだね。ってお母さんがね。」
「それならいいですよ。」
「…敬語??」
「あんまり田中さんと話したことがないから。」
「あんま、心配しなくてもいいよ^^クラスじゃ駕楠くん達、人気者が目立ってるから
アタシ達は地味でいなきゃいけないんだよ。」
「そんなコトないよ…。」
「どうかなぁ。」
「じゃあ、よろしくね。」
「…よろしく。」
それから、少しして乃湖達は夕ご飯を食べ始めた。
「うまっ!!…ちょっと榛吾ーぁ!!から揚げ食いすぎ!!」
「そんなことないしぃー!!」
「今日のから揚げは駕楠くんのためにあるんだから。」
「はいはいぃ。」
「駕楠くんも、食べないとこのデブに全部食べられるよ。」
「…マジやん^^」
「乃湖、榛吾、駕楠ー食べ終わったらお風呂に順番に入ってね。」
「はいはいー!!じゃあ駕楠くん、榛吾!!終わったらジャンケンな!!」
「うん」
「おぅ!!」
ここまですぐに自然に話せるのは不思議だった。
僕等はここであったのが初めてではないかもしれない。
あり得ないが真剣にそう思った。
僕と君と想い寄せと空 第2話