でじゃヴ
きっと、これはデジャヴ。
「3minuteだ」
ゆっくりと俺は息を吐いた。
ため息か、なんなのか、よく分からねえが。
俺は今、最強にキレている。
「人の寝込み襲うとはいい度胸してんじゃねえか。それなりの覚悟はあんだろ」
寝込みを襲われた。
そんなのな、襲われた方は普通に迷惑なんだよ。うざってえ。
結構身長があって見た目は大柄な奴なんだが、こいつの気配を感じて、寝起きながらも押し倒せたほどの軟弱さ。真っ黒なマント着てフード目深にかぶりやがって。見た目だけだな、こいつ。弱いからこそ人のスキをつくんだろうけどな。
常備している銃を腰から抜き取り、銃口をつきつける。
「3minuteの間、この世に別れを言いな」
クソ野郎のツラを見ようと、フードに銃口をかけてめくりあげた。
世界が、ひっくり返ったような気がした。
「まあまあかな」
世界がひっくり返ったんじゃねえ。俺がひっくり返ったんだ。
スキをつかれた、という訳じゃない。
気付けば押し倒されて、
銃口向けられて、
立場大逆転。
くそったれ、
「力も、まあまあ。体格も、まあまあ。瞬発力も、まあまあ」
さっきまで全然動かなかった口が、よくもまあうざいくらい動くな。
「顔も、まあまあ」
あ、ちくしょう。
窓からはいってきた月の光でクソ野郎の顔がよく見えた。
「…は?おまっ、女か?」
待て待て待て待て待て待て待て待て待ちやがれい。
俺が、女に、押し倒されている?俺が?
プライドとかいろんなもんが、音をたてて崩れ落ちてった。
「あんた、もっかい言ってみ?」
銃口がおでこに接触して、ぐりぐりと陥没されそうなくらい押された。
「だから、おまえ、おん、」
「誰が女だ目腐れ野郎!」
でっかい目がもっと大きく見開かれた。
金髪の長い髪を後ろで一つに束ね、小さい顔に透きとおるような肌。これが俺と同性?男?いや、ありえねえから。
長いまつげをゆらして、そいつは不機嫌そうに発言した。
「一回しか言わないからよく聞け」
目を閉じて、ゆっくりと開ける。
「僕を、守ってくれ」
Ⅰ. 男と金髪少年(1)
「俺が、お前を守るとして、だ」
銃口を向けられている以上、俺は言葉を選んで話さなきゃならない。だが起きたてで頭が回らない。最悪だな、こりゃ。
短いため息がでた。
「俺になんのメリットがある」
「なにもないわけじゃないさ」
ヂャリンッ、と耳元で金属が弾き合う音がした。
目だけでそれを確かめると、なるほどな、と理解できた。
「金で俺を買う、てか」
「金に困っていそうだし、悪い話じゃないだろう。
元暗殺部隊隊長さんのJr.ナツメさん?」
心臓を素手で思いっきりつかまれたようだ、
変な汗が頭皮からじわりと出てくるのが分かる。
動揺を隠そうと、口角を上げようとしたが、失敗した。ひきつった。
そんな俺をよそにこいつはにやりと笑ってみせる。
「嘘が下手くそだね」
「…こいつは昔からでね」
「よく隊長なんてできたもんだ」
「あんなの猿でもできる」
こいつは俺の全てを知っている訳じゃなさそうだが、一番嫌いな二つ名を知っている。
捨てたはずの、俺の名を。
「そんな俺を買って、お前は誰から守れっつうんだ」
「その、暗殺部隊、zeroからだよ」
俺の命もあとちょっとらしい。
でじゃヴ