娯楽
三題話
お題
「生き返る」
「豚」
「物音」
「あっれー、ここは豚小屋か? くっせえなー」
「あっちからブヒブヒ聞こえね?」
いつものように、笑いながら教室へ入ってくる二人。その言葉は僕に向けられたものだ。
イジメ、というほどではない。
こんな言葉は無視すれば何も気にならない……はずだ。
笑われても、デブであるという自覚はあるから。
豚とからかわれるのは、当然の流れか。
ただ少し気になるのは、彼らに合わせて周りの目もそのように変化してきたことだろうか。
前後左右の席の人が、まるで僕を避けるように少し机を離しているように感じる。
元々仲の良い友達なんていなかったけど、最近は特に独りでいることが多くなったように感じる。
男子も女子も関係なく、遠巻きに僕のほうをちらちら見ては笑っているように感じる。
それは自意識過剰なのかもしれない。
僕は勉強でも運動でも目立つことはないし、こんな見た目だから恋愛面でも何も起こらない。
いや、運動に関しては悪い意味で目立つか。どんくさいのろま、として。
僕は毎日を静かに過ごしたい。そう思ってるのに。
「おい、なにやってんだよ」
そんな僕のささやかな希望は叶うことがない。
全ての物音を遮断するのが、僕の防衛法だった。
…
結果として、こうなるのは必然であったというか、まあ誰にでも想像に難くない、かもしれない。
無視していればそのうち終わる、なんてのは甘い考え。
それが正しい対処法であるかもしれないが、エスカレートしてゆく場合もある。
まさにうなぎ登り。彼らはとどまるところを知らない。
それじゃあ抵抗すればいいのかというと、そうでもない。
この場合もエスカレートしてゆくこともあれば、手を出さなくなることもある。これは抵抗の程度にもよるかもしれない。
つまりは、彼らの興味が他のものへ移るまで何をしても何もしなくても無駄なのだ。
対処法に正解なんてない。たまたまその時の状況で良悪に二分されるだけ。
すぐ終わることもあれば、いつまでも続くこともある。
周りの大人達は何もわかってない。
自殺をして、または何か事件を起こして、そこで初めて認識される程度。
イジメられるほうにも問題があるなんて、そんなことはあり得ない。
イジメる側の人間が、他に娯楽を知らないからこうなるんだ。
ある意味、イジメという娯楽に熱中しているといえる。
だってそうだろ?
面白くなければ、わざわざ臭い豚なんか相手にしないだろ?
その結果がこれだ。
僕の目の前には血まみれになった人が倒れている。
そして僕の右手には赤く染まった金鎚がある。
ささやかな抵抗で、僕としては抑止力的な冗談のつもりだったのにね。
これだけ滅多打ちにされたら完全に死んでいる。もう生き返ることはない。
それがわかったのだろう。もう一人は早々に逃げていった。
まさか本当に■してしまうなんてね。
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