机の落書き~早朝の夢~

 私には夢がある。


それは、小説家になること。けれどこれは、親にも友達にもまだ誰にも言えていない。
自分だけの秘密だ。こっそりと自分だけの物語を書きためていることも。
学校の授業や自己紹介で何度か、将来やら夢やらを聞かれたこともあるが、いつもなんとなく誤魔化したまま終わらせてしまっている。

私は自分に自信が無い。
友達としゃべっていても特に面白い話もできないし、別に外見もたいしたことないし、成績は中の下、スポーツは苦手、これといった特技も思いつかない。こんなふうに自分に対してはずっと、ネガティブな考えばかり抱いていたからか、今まで自分で書き溜めてきた私の物語を誰かに読んでもらうことも、なにかの賞などへ応募することもしてこなかった。

そんなモヤモヤを抱えていたある日の早朝、始業にはまだ早い時間。
私は、学校のパソコン室にいた。昨日、学校で大事なものを失くしてしまい、探しているのだがなかなか見つからない。焦った私は、とにかく昨日自分が通った所を探すことにした。この部屋にも昨日来ていたので探しに来たのだが、ここにも無いようだ。もうそろそろ授業が始まってしまう、さすがに教室へ戻ろうと思い、室内の椅子の一つに置いておいた通学鞄を取ろうとしたその時。

ガタガタガタッ。

そんな音とともに、椅子の前の机に置いてあるパソコンのモニターやらキーボードやらが、私に向かって倒れこんできた。間一髪かわすことができたが、驚きで数秒固まってしまった。数秒後、慌ててモニターを立て直し画面に傷がついてないか確認する。…どうやら大丈夫のようだ。鞄にコードが絡まっていたので、おそらく持ち上げた時に、どこかが引っかかってしまっていたようだ。
ほっとしたことで気がゆるみ、今までの焦りもあり何となく疲れたように感じ、モニターも鞄もそのままに近場の椅子へと腰かける。そしてそのまま前の机の上に上体を倒し、ため息をつく。全く、昨日からついてない。そんなことを考えながら目を閉じる。

ふと時計を見ると、七時三十分だった。探し物もここには無いようだし、そろそろ帰ろうとモニターを元に戻す為、机に目を向け気づく。ちょうど、机の真ん中。普段ならモニターとその前に置かれるキーボードによって隠れているだろうそこに、シャーペンで書いたのだろう動物の落書きがあった。ネコやウサギ、イヌ…かわいらしくデフォルメされた動物たちの顔が並んでいる。落書きの内容からして書いたのは女子だろう。
なんとなくその落書きを眺めていた私は、落書き動物たちの横に最近考えた物語のあらすじを書いてみた。初めは適当に書いて消すつもりだったのだが、書いていくうちに話の内容が浮かんできてしまい、つい熱中してしまっていた。

「こら、もうホームルームの時間だぞ。」

突然背後から聞こえた声に驚き、振り返る。
パソコン室の入口に、私のクラスの担任の先生が立っている。あわてて時計を見ると八時二十五分、ホームルームは三十分からだからあと五分しかない。かなり集中してしまっていたらしい。

「ほら来なさい、一緒に行こう。」

先生にせかされ、私は急いでパソコンを元の場所に戻す。机の文字を消す時間は無い。

(休み時間に消しに来ればいいか。一応、モニターとキーボードを置けば隠れるし…。)

そう考え、鞄を持ってパソコン室を後にした。
教室につきホームルームが始まる。そこで、私は一時間目が体育の授業だったと思い出した。体育の授業は体操着に着替えなければならない。つまり前後の休み時間は、着替えに時間を取られてしまう。パソコン室に残した落書き…、消すだけならまだしもメモとして書き写す時間は無いだろう。

(仕方がない。その次の休み時間に行こう。見られたら恥ずかしいけど、あの席は端とはいえ一番前の席、先生の前だし誰かが座ることはそんなに無いよね…。)

自分にそう言い聞かせながら服を着替え、授業の行われる運動場へ友達と会話をしながら向かう。しかしその後、友達とおしゃべりしたり授業を受けたりするうちに、

私は、パソコン教室に残してきた落書きのことをすっかり忘れてしまっていた。

その後たまたま学校の宿題が多かったり、友達の誕生日会を開催したりと予定が多く、小説を書くことはサボり気味になってしまった。その影響もあり、私がそれを思い出したのは、二週間も後のことだった。
夕食後、いいかげん続きを書こうと、自宅で小説用のノートを開いて内容を考え出した時に、ようやくパソコン室の落書きを思い出した。

(あ、あの落書き!!二週間もあのまま放置してしまった!どうしよう、どうしよう、誰かに読まれていたりしたら!!…どうしよう!…)

もし誰かにあれを読まれていたらと想像して、赤くなったり青くなったりさらには、意味もなく歩き回ったり、かと思えば頭を抱えて机に突っ伏してみたり…と、しばらく恥ずかしくて身悶えていた。しかし、もう過ぎてしまったこと。夜も遅い時間のため、今から落書きを確認しに行くなんてもちろんできない。

(もう仕方がない。とにかく明日の朝、早めに登校して消しに行こう…。)

そう考えて自分を落ち着かせ、今日は早めに寝てしまおうと、机に広げたままになっていたノートを閉じた。

机の落書き~早朝の夢~

机の落書き~早朝の夢~

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-18

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