小説感想た行作家
「竜が最後に帰る場所」恒川光太郎
風を放つ……平成19年5月号「群像」
以下「エソラ」収録
迷走のオルネラ……平成22年3月号
夜行の冬……平成19年7月号
鸚鵡幻想曲……平成20年8月号
ゴロンド……平成21年4月号
独立した短編集だが、非現実的な世界を描いた作品群で、根底にあるテーマ性は同じ。
"好奇心から来る渇望"を描いていたように思う。
恒川光太郎さんは初読み。
この作家さん、もう少し早く読みたかったなぁ。凄く好みだ。
『非現実的な世界の話』は、各人の好き嫌いに大きく左右される。
ドラマチックな展開はないし、オチは無い。退屈だと感じるかたもいらっしゃるかも。後味が悪いとも思うかたも。
私は、好きだ。この浮遊感。
ここではない何処かの世界の一部分を切り取った一枚の絵画のようなお話だ。
文章に色彩がある。絵を眺めるのが好きなかたには楽しめる作家さんなんじゃないだろうか。
南の領域を、夜が包んでいる。
月光がぼんやりと、島と海を照らしている。
気高く大きな生き物は、夜の海風に乗り、ゆっくり羽ばたいている。
『ゴロンド』より引用。文章が絵的で凄く綺麗だ。
『鸚鵡幻想曲』が一番好き。
主人公の宏が電子ピアノを購入すると、アサノという男に話しかけられる。
ピアノ教室を開いていると言うアサノに勧誘なら断ると返したのだが、実は目的は別にあった。
この世には【擬装集合体】という存在があり、紛れているという。
実際にアサノは目の前で携帯電話機を【蟻】に分解した。
この時点で不思議な世界に引き込まれて夢中になっていると、話が二転三転し、思わぬ結末に辿り着く。
ファンタジー小説は大体、不思議な設定が【常識】となっているパラレルワールドで、その不可思議さより、主人公たちの冒険と成長を描いた作品が多い。
この作品は違う。我々の現実世界から、1歩進んだ先にある【不可思議さ】そのものが淡々と書いてある。
イメージとして、科学者がファンタジーを理論だてて語っているような。
普段はファンタジーをあまり読まないかたにオススメ。
2011年6月13日のblog記事
「南の子どもが夜いくところ」恒川光太郎
南の子どもが夜いくところ……平成20年4月「サントリークォータリー」
以下「野生時代」
紫焔樹の島……平成21年7月
十字路のピンクの廟……平成20年9月
雲の眠る海……平成20年12月
蛸漁師……平成21年3月
まどろみのティユルさん……平成21年10月
夜の果樹園……平成22年1月
恒川さんは2作品目。
前回と同じくそれぞれ独立した短編なのかな、と思っていたら、オムニバスだった。
南の島「トロンバス島」で起こる不思議な物語。
物語は別な誰かに視点が移ったりはするが、中心に居るのは、両親が借金苦で無理心中をさせられそうになった日本人の男の子タカシと、呪術師のユナだ。
無理心中をさせられそうになっていた時に家族を助けてくれたのがユナで、彼女は若く見えるが120歳だという。
タカシは両親と離れ離れで暮らすことになり南の島「トロンバス」で生活を送ることになった。
相変わらず、ちょっと恐いけど、不思議な世界を覗き込む好奇心をくすぐられてスラスラと読める。
そして、やっぱり文章が絵的で綺麗。
今回は【南の島】が中心だから、尚更色彩感覚への訴えが強い。
このへんとか。
『あたりにはピンクがかった光が降り注いでいる。夕暮れには草木がほっとしているのがティユルにはわかった。大地のリズムに体全体が影響を受けている。』
まどろみのティユルさんから引用。お話もコレが一番好き。
ティユルさんとの出会い方、会話、別れまで全部好みだ。とても愉しい。
テーマは何なんだろう。
不可思議さと絵画を眺めるような浮遊感で、正直テーマなんか無くても楽しめたが。
敢えて言えば【生を引き継ぐこととは何か?】だろうか。
不老不死のユナと盛衰を繰り返す周囲の対比で、それを強く感じた。
万人にはオススメできるタイプの作品ではないけれど。
美術館なんかでお気に入りの絵を何十分も眺めてしまうような人は多分好きな作品。
あ~。これ挿絵書きたくなるなぁ。
ティユルさんとか。最終話のマンゴー顔家族と犬とか。
光景を絵に描きたくなる。
絵を描くのが好きな人にも、とてもオススメ。
2011年7月21日のblog記事
「夜市」恒川光太郎
平成17年10月30日「角川書店」
第12回 日本ホラー小説大賞受賞
今宵は夜市が開かれる。
夕闇の迫る空にそう告げたのは、学校蝙蝠だった。学校蝙蝠は小学校や中学校の屋根や壁の隙間に住んでいる生き物で、夜になると虫を食べに空を飛び回るのだ。
夜市は岬の森の中で開かれる。
学校蝙蝠は言った。
夜市にはすばらしい品物が並ぶことだろう。
夜市には北の風と南の風にのって、多くの商人が現れるからだ。
西の風と東の風が奇跡を運ぶだろう。
学校蝙蝠は、町をぐるりとまわりながら自分が町に告げるべきことを告げた。
今宵は夜市が開かれる。
冒頭より引用。
読み始めから一気に不思議な世界に引き込まれた。
私は、ホラー小説は恐いから読めない。
けど、恒川さんのは平気だ。愛嬌が勝るから? とにかく怖くないのだ。漫画で言うと『夏目友人帳』に似ている。
実際に出会ったら恐いのだろうけど、共通して主人公があまり恐怖を感じてないからかもしれない。
最初から、その世界に馴染んでしまってるのである。
相変わらず、文章の映像喚起力が半端ない。
読んでる間、ずっと色彩豊かな画像が頭上周囲をくるくると廻る。
それに加えて、おそらく『賞を狙いに行った』作品であるから、構成が見事だ。
3転するが、全部驚いた。こんなオチは予測出来なかった。
巻末にある選評はベタ褒めだ。けど、無理もない。欠点を探す方が難しい。
ただ、好みで言えば、私は、『出来すぎた話』の「夜市」より、書き下ろしで収録された「風の古道」の方が好きだ。
こういうパラレルワールドの話はすごく好み。
謎は謎のままだし、終わりもあっさりしすぎていて、不満に思う部分は多いが、最近読んだ恒川さんの作品に感じる『浮遊感』はこちらのほうが強い。
しかし、本格的にハマった。
こんな面白い作家さんを今まで知らなかった事が惜しい。
ファンタジーが好きな方は是非。
ホラーファンはどう思うのかな。あんま怖くないんだよな、ホントに。
2011年8月27日のblog記事
「秋の牢獄」恒川光太郎
今朝は8時30分に起きました。6時に目覚ましで1度起きたんですけど、どうも眠くて二度寝。日曜日だけはコレが出来るからいいですね。パートは火曜日と日曜日が休みなんですが、火曜日はZさんが仕事なので、いつもどおり起きて朝食と弁当をこさえねばならないので。
いつもより遅く起きてきた私にしめがご立腹で「飯をよこせ!」と言わんばかりに走り回るのを少し待たせてすぐにTVをつけました。
「おぉ、ちゃんと11月8日だ」
と呟きました。
昨日、11月7日に購入して読み終えた「秋の牢獄」
秋の牢獄
神家没落
幻は夜に成長する
3作品の短編集でした。表題の秋の牢獄が「11月7日から抜け出せない」話です。先日ゆずちゃんがラジオで紹介してまして、これは11月7日に読まねばなるまい! と思ったのです。
自分の記憶は積み重なり、周りは同じことを繰り返すという世界に最初は恐怖を覚えます。ですがどれだけ散財し豪遊しても、怪我しても朝になれば元通り、死んでも生き返る! という11月7日から抜け出せないけれど社会のしがらみからは自由になれることにある種の羨望を抱きます。
ただ、同じく11月7日を繰り返す仲間に出会い、彼等の話を聞くうちに、何もない平穏な日常生活を送っていた女子大生の主人公は良くても、人生で最悪だった11月7日を繰り返す人にとっては生き地獄であると気づかされるのです。
私は昨日の11月7日なら、繰り返しても絶望はしませんが、これが数年前の11月7日なら。逃げ出しても、自殺しても、相手を殺しても、目が覚めたら自分に暴力をふるう男の隣で眠っているわけです。まだ相手が仕事の日であれば次の日に説教される心配が無いので抜け出すことはできても、お金が無いので遠くには行けませんし、何も買えません。もし休日なら更に悲惨です。
リピーターはSF小説では使い古された設定なのですが、恒川光太郎さんが紡ぐとこんな物語になるのだなと惚けています。なんて色彩感のある文章を書けるんだろう。恒川さんの小説を読むといつも絵を鑑賞した気分になります。
ちなみに作品としては「神家没落」が一番好きです。こちらも身代わりを探さないと家から出られない閉じ込められる設定では使い古された手法。展開とオチがいいです。とても気に入りました。
読書は傾倒具合で読む楽しさが変わると私は考えています。
11月7日に読み終えて良かったです。
2015年11月8日のblog記事
「共鳴」堂場瞬一
平成23年7月25日「中央公論新社」
大学生の新城将21歳は2年間、夜間にコンビニ巡りをするだけの引きこもり生活を送っていた。
いつものように夜中マンションを出たところで拘束、拉致される。
抵抗したがものすごい力で逃げられない。
すると、拉致している人間が
「将」
と名前を呼ぶ。10年間会っていなかった母方の祖父、麻生和馬だった。
冒頭にじいさんに拉致される引きこもりの孫、という展開に「面白そうだ」と惹き付けられて図書館で借りた作品。
堂場瞬一さんは初読み。
実はあまり読みたくなかった作家さんだ。
私は、面白そうだなぁとは思ってもシリーズ物をたくさん出している作家さんには出来るだけ手をつけたくない。
読み始めてしまったら制覇したくなるからだ。
最近は読書ペースがスローなのに、そんなんしたら他の作家さんが読めなくなってしまう。
ただ、ドラマで「警視庁失踪課・高城賢吾」シリーズの原作者だと知ってしまって。
私は、あのドラマが大好きなので。映像化がこれだけ面白いのだ、きっと原作も素敵だろう、と。読みたい欲の我慢が出来なくなった。
で、相性を見る為に、読み切りタイプの今作を手に取った次第。
さて、困った。
相性いいどころじゃないんですけど。
なんつう面白さか。
麻生和馬という老人が、たいそう魅力的。
74歳だが、めちゃくちゃ元気である。元刑事で、定年後は警察OBが就く防犯アドバイザーに籍を置き、毎日競歩で鍛える、張り込みする、盗撮する、盗聴する。
腕っぷしも強いが頭も切れる、パソコンをパソコン通信時代からこなし、過去に無線もやっていて、家にパソコン機器を買い揃えているスーパーじいさんだ。
「お前もスマートフォンにしたら?」とか孫に言う。
ただ、頑固者で実の娘、つまり、将の母親と絶縁状態にある不器用なじじいである。
和馬パートと将パートで交互に語られていく構成で。
まぁ、お約束展開で、2人は徐々に心の交流を深めていくのだけど。
"共鳴"というタイトル通り、父に対して頑なだった将と、娘に対して意地を張っていた和馬が、少しずつ、自分を見つめ直し、立ち直っていく。
ラストがいい。後日談をまったく書かないラストは人によっては物足りないと感じるだろうが、アタシは好きだ。この書きすぎないところ。
嬉しくて泣いた、オススメ!
2012年2月20日のblog記事
小説感想た行作家