金の斧、銀の斧

 ある日、木こりがいつものように木を切っていると、誤って斧を湖に落としてしまいました。
 斧がないと仕事ができない、と木こりが困っていると、突如湖の水面が光り始めました。
 木こりが驚いていると、光る水面から美しい女性が出てきました。
「あなたが落としたのは、この金の斧ですか?それともこの銀の斧ですか?」
 女性は二本の斧を面食らう木こりに掲げました。
 一本は金色に輝く斧、もう一本は銀色に輝く斧でした。
 木こりは「しめたぞ」と思いました。その女性が湖の女神だと気づいたからです。
 この湖には、昔から『湖の女神の伝説』がありました。
 斧をこの湖に落とすと、湖の女神が出てきて「あなたが落としたのは金の斧?銀の斧?」と訊ねてくる、それに欲張って、「はい、金の斧を落としました」とも、「銀の斧を落としました」とも言ってはいけない、「私が落としたのは普通の斧です」と答えれば、落とした斧を返してもらえるだけではなく、金の斧も銀の斧ももらえる、というのが伝説の内容でした。
 木こりは内心ほくそ笑んでいるのを隠しながら、首を横に振りました。
「いいえ、違います。私が落としたのは普通の斧です」
 さぁ、俺にその斧を二本とも寄越せ、と木こりは期待を込めた目で女神を見つめます。
 しかし女神は、首を傾げて言いました。
「違うんですか。それでは仕方がない。私はこれで」
 なんと女神は落とした斧を返すこともなく、湖の中へと帰っていってしまいました。
「あっ、おい!正直に答えただろうが!せめて俺の斧を返せ!」
 木こりは喚きましたが、女神は二度と湖から出てくることはありませんでした。
 ここで終わってもいいのですが、話はまだ続きます。
 女神に怒った木こりは、女神に復讐することにしました。自分の住む村の村人たちに女神が自分にした仕打ちを大袈裟に話し、復讐の協力を仰ぎました。
 その村はとても平和な村で、刺激に飢えていた村人たちは二つ返事で復讐に参加しました。
 復讐といっても、中身は大したことではありません。
 村中からありったけの斧を持ってきて、それを村人総出で湖に投げ込んだのです。
 そんなことをしても神には効果がなさそうですが、じつはこれが効果てきめん。湖の中で必死に女神は斧から逃げましたが、何個かの斧に当たってあっさり死んでしまいました。
 すると、女神が死んだ後の湖はみるみるうちに水が枯れていきました。
 水が完全に干からびて浅く大きな穴になり果てた湖の底には、たくさんの死にかけの魚と村人たちが投げ込んだ斧、それとは別に金の斧と銀の斧が大量に転がっていました。
 村人たちは目が眩み、我先にと金の斧や銀の斧を拾いました。
 しかし、金の斧も銀の斧も、村人の手に触れた瞬間に、ぱらぱらと砂になったように細かく砕けて消えていってしまうのです。
 がっかりした村人たちは、干からびた湖にはもう用はないと湖を埋め立ててしまいました。
 今では湖のあった場所は、田畑が広がっているばかりで、湖の跡形もないといいます。

金の斧、銀の斧

金の斧、銀の斧

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-16

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