赤ずきん
その狼は以前から、赤ずきんを食ってやろうと虎視眈々と狙っていました。
赤ずきんは、街の外れの森の中の家に住む、可愛らしい女の子です。
ある日、赤ずきんが病気のおばあちゃんの家にパンを届けに行くことを狼は知りました。
これは絶好のチャンスだ、と狼はさっそく行動に出ました。
先回りしておばあちゃんの家に行き、おばあちゃんを食って成り代わってしまおうと考えたのです。そしておばあちゃんだと思って赤ずきんが油断したところでぱくっと――。
狼はほくそ笑みながら、おばあちゃんの家のドアの前に立ちました。
ノックをします。だけど、中からおばあちゃんの返事が聞こえてくることはありません。
狼がドアノブを回すと、そのドアは鍵もかかっていませんでした。
家の中に入ってみましたが、おばあちゃんはベッドの上どころか、どこにもいません。
病気で寝込んでいるはずなのですか――。
ともかく、赤ずきんだ、と狼はおばあちゃんの服を着てベッドの中に潜り込みました。
じきに何も知らないであろう赤ずきんがやって来ました。
赤ずきんは狼が潜むベッドに近づいてくると、不思議そうに言いました。
「今日のおばあちゃんは何でそんなに耳が大きいの?」
狼はすかさず用意していた返事を、老婆のしわがれた声を真似て答えます。
「お前の言っていることがよく聞こえるようにね」
「それに目も大きいわ。何でそんなに目が大きいの?」
「お前の可愛い顔をよく見るためだよ」
「あと手。おばあちゃんの手ってそんなに大きかったっけ?」
「だって大きくなくては、お前を抱いてやることができないじゃないか」
「それに何よりも口よ。おばあちゃんの口は何でそんなに大きいの?」
「それはね、お前を――」
「お前を?」
「食ってやるためさ!」
狼はがばっとベッドから起き上がって、赤ずきんを襲おうとしました。
しかし、寸前のところでぴたりと止まりました。あることに気付いたからです。
それは、まだ一度も噛み付いていないのに、赤ずきんから血の臭いがすることでした。
赤ずきんは狼が正体を現しても、なおも不思議そうに首を傾げながら言います。
「私の身体からは何で血の臭いがするの?」
「え?」
狼はベッドの上で後ずさります。後方には壁しかなく、逃げ道はありません。
「私のずきんは何でこんな黒みがかった濃い赤色をしているの?」
「な、何を――」
狼は先程の威勢はどこへやら、赤ずきんの異様な雰囲気にすっかり怯えてしまいます。
赤ずきんはそんな怯える狼に、どんどん近づいていきます。
「何でここにおばあちゃんはいないの?あなたが食べたの?」
「い、いや、俺が来たときには、もうおばあちゃんはいなくて――」
「じゃあどこにいるの?」
「そ、そんなこと、俺が知るわけ――」
「教えてあげる。おばあちゃんはどこにもいないのよ。だって私が食べちゃったから」
「た、食べたって、どういう――」
「あなたもね、私が綺麗に食べてあげる」
狼は震え上がりました。赤ずきんの口の端が裂け、ぱっくりと開いたからです。
ぱっくり開き、大きく大きく、狼の身体よりも大きく開いていって――。
赤ずきんは天井に届きそうなほど大きくなった口で、げらげら笑いながら言いました。
「私の口は何でこんなに大きいの?それはね、お前を――――」
赤ずきん