まだ決まらない
ポーン、間抜けにはじけたような音だけが聞こえた。
何の気なしに、そんな言葉が良く似合う。
黒
朝、カーテンからこぼれる日差しに目を細める。
「今日夜なにかあるの」
「特に無いよ。ずっといれるじゃん」
この時点でまず私は思う。
ああ、どうやって追い返そうかな。
昨夜飲んだであろう缶ビールが床中に散らばっていて
あれ、どのタイミングで寝たんだっけ、セックスってしたんだっけ
うろ覚えでうろたえる。
2年半程前から友達という名ではあるが、会うたびにセックスをする。全身真っ黒な服を着て前髪が長くてピアスが幾多も耳にぶら下がってる彼。
目鼻立ちがくっきりしてるから何を着ても似合うんだろう。
かと言って別に今更なんとも思わないし、何かと人肌恋しい季節にもなってきたせいで彼の首に手を回す。
「うーん、幸せだなあーー」
私の身体を引き寄せては、呟く。
「私も、幸せ」
馬鹿な女のふりをした。
気を遣わせているのは百も承知だけれど、生きにくい。この空気。
嫌いじゃ無いのに嫌いになってしまいそうだった。
そう思ってるってことは相手も思ってるんだ、きっと。
そういえば出会った頃、お互い彼氏彼女がいたんだっけ。
いたけど、そうだ、渋谷の宇田川のあたり
酔っ払った私たちサラリーマンの目をよそに路上でキスして。それで、ああそうか。あれからもうそんなにたつのか。
「ほんとに、君はさ」
「んー?」
もう終わりにしよう。
って今回思ってたんだ。
「今の彼女もやっぱり嘘をつくんだ。俺は正直になんでも話すのに」
「じゃあ私のことも?」
「まあ、それは置いておいてさ」
もう終わりにしよう。
って今回思ってたんだ。
別に君の1番になりたいなんて思ったことも無いし
寂しさを埋めるだなんて、埋めるどころかまた私は
喘息の君の前じゃタバコの一本もすえないじゃないの。
「そうだ、私夕方から仕事だった」
そんなことあるわけないじゃ無いか。
まだ決まらない