社のなか

 森の中、少し若い女が、水に花を浮かべている。水は、井戸の中で水面におてんとうさまを映していた。花は白い大きめの花で、どうやら匂いを吐いている。
「おっかさまも、おいでになればよかったのに」
 少女は、白い花をポトリ、ポトリと井戸の中に投げ入れながら、深くとも浅くともない溜め息をついた。井戸の中で、彼女の声が少し反響した。
 井戸の中の花がぐらり、と揺れる。
 井戸の上では大風が吹いて、少女の黒く長い髪がたゆたゆと揺れた。
 ちいさな指先は、白い花に飽きたようで、視線を森の奥へと移し、そこまで落ち葉をふかふかと踏んで進んでいく。進んでも進んでも、同じ木が、さわさわと騒めく。赤やら黄やら茶の色の葉が、惜しげもなくバラバラ、バラバラと音を立てて落ちる。
 少女にはやはりそれが面白く、ゆっくりゆっくり、少し微笑みながら、奥へ奥へと進んでいくのである。
 暫く歩いたところに、小さな社がたたずんでいた。
 少女は新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりに、たたた、と駆け寄り、その古めかしく、殺伐として今にも崩れてしまいそうな引き戸をざざ、と開いた。
 中は濃い墨のような色をしていて、少女はア、と声を上げた。
 黒い闇の中に、もごもごと動くものがあった。

社のなか

社のなか

女の子が死ぬお話です。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-14

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