一般的な猿の思考は

去った昨日にさよならモンキー

 おはモンキー。クレオパトラの顎を無くしたのは先日の事だった。課題でコガネムシの触角と合成する実験を行っている時でアルコールランプの芯から暖色の火を燃やしてビーカーの液体をコボコボと熱していた。ボクの机は栗の木で加工されていて噂ではボーリング場の床に貼られているらしくとっても硬いのだ頭を伏せて寝るのには最適ではなかった。額が痛く大理石に打ち付けている気分になるし、おまけに赤く腫れる。その栗の机にクレオパトラの顎を置いていたのだ。けれども、ちょっと目を離した隙に消えて無くなっていた。その所為でだ実験には急遽、猫の長靴で代用した。しかし予想していた星屑の塵は生まれず、孔雀石が煙と共にパラパラと舞い散った。悔しい気持ちになって悲しくてやりきれない声を出した。そんな時、ボクの隣で実験していた奴がナナフシの卵とかなり古いローマの金貨を合成した。ビーカーの縁から沸騰した泡が零れて机に弾けた。と、小さい粒どもは一つにまとまっていき、等々一個の球体が出来上がった。成功だ、成功だった。九つのリングが弧を描いて回転していて、太陽系第六惑星のミニチュアの完成であった。奴の得意げな表情を見てムカついた。ボクだって作れたさ、そりゃ、もっと素晴らしい物をさ。だからせっかくのバイト代を投入しまくってクレオパトラの顎を買ったって言うのに、歯がゆいよモンキー。
 それが五日前の話で、カーテンから入って来る日差しに起こされてベットから降りた。歯をシャキシャキと磨いてリンゴをばっくんと飲み込んで木からするすると何時もの様にして地に降りた。久しぶりの休日でウキウキとして嬉しいなぁと思っていると、或る事に気づいて身構えてしまう。空に浮いたアクリルパネルがそこにあって、しかもそのアクリルパネルには人と街が映っていた。オカシイよだって、ボクの住んでいる所は林と芝と花が存在するだけのタウン街なのに、この科学的な摩訶不思議的な幻想はまったく似つかわしくない。アクリルパネルをもう一度見ると、ゴッシク建造物とハットとスーツを身に着けた猿どもがスタスタと歩いていた。
 びっくりした。
 だからだ。市場へと走ったんだ。と言うのは市場も同じ現象が起きているのか気になった。通り過ぎる景色にはアクリルパネルの壁がスクリーンの様にして乱雑に浮いていた。チラッと視線をそこに送るとパネルには、十二単を着た顔の白い女の猿がこっちを見ていたり、彫刻や絵画を多用した複雑な内部にはドームと偉そうな柱があって金髪の貴公子がこっちを見ていた。他のパネルを見ると、巨大な三角の帽子の貝が触手を伸ばして魚っぽいのをバクバク食べていた。怖いよと思った時であった。
「こいつは平安時代、隣のやつはバロック建築の建物の中、そんでこの貝はカメロケラスだよ、大昔の生物だ」
 声の主は五日前に惑星を作って得意げな表情をしていた奴だった。ボクは現実に戻された。
「今朝から、こんなアクリルパネルが至るところに現れているんだ。しかも全部、大昔の映像が映っているんだ。市場でも、学校でも、家でも、公園でも、レストランでもね」
 ボクは偉そうに説明する奴に、やっぱり何だかムカついて「あっそ」と言った。そう答えると奴はボクに「あっちに行こうよ」と腕を引っ張った。
 林の奥を進み小川を超えた先に大きなアクリルパネルが宙にあった。そのパネルには何だか銃だがダイナマイトだがミサイルだが飛行機だが戦車だがウヨウヨと羽虫みたいに這いつくばって戦っていた。と、途端にきったない花火がパァアって光って全部消えちゃったのだ。
「わかったよ。このアクリルパネルはきっと、この惑星の思い出なんだよ。どうしてか分からないけどこんな風に映像化されてるんだ……」
 ボクはその言葉を聞いているふりをして芝の先をひっそりと見詰めた。そこには小さく光るパネルが浮いていた。ボクはどうしてかその小さなパネルが気になってしまい、近づいて映し出されている映像を見た。なんてこったい。きったない、きったない猿がボクの机からクレオパトラの顎をポケットに入れた後、ゴミ捨て場の檻の床に向かってハンマーで粉々に打ち砕いていた。奴だった。
 だからボクは尾を引きちぎってやったモンキー

一般的な猿の思考は

一般的な猿の思考は

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-13

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