老いらく1章(出会い)

ベッドに横たわっているじゅんに誠は
「じゅん」
と一声耳元で囁いた。
じゅんは
「うん、なに?」
と返事しながら振り向いた。
その時、二人の唇がそっと振れた。
先ほどまで悶え愛し合っていた名残がベットの
上に散乱していた。
じゅんが一言
「誠、お尻が冷たい」
と言って誠の体にしがみ付いて来た。
誠はじゅんの体を抱きしめ
「ごめんよ」
と小さな声でじゅんの耳元で囁きながら
「子供ができたかな?」
と考えていた。
誠はじゅんを抱きしめながら
「じゅん、帰ろか」
と言った。
じゅんは誠の胸に顔を埋めながら
「もう少しこうしていたい」
と言って力を込めて誠にしがみ付いて来た。
誠は
「時間大丈夫?」
と言ってじゅんの髪の毛をそっと撫でていた。
じゅんはその時29歳。
誠は、公園のベンチに腰を掛けて木枯らしが
吹く夕空を見つめて
「こんなことも合ったなあ・・・・」
と一人呟き、今頃じゅんはどうしているのだろう
と考えるのであった。
誠は、この世に生を受けて70年。
「俺は何をして来たんだろうか?」
と考えていた。
今更70年の人生を後悔するつもりはないが、
生きてきた人生を考えると涙が止まらない誠であった。
涙の向こうに、今まで誠と関わり合った女性
が走馬灯のように過ぎ去って行くのが見えた。
「まこと~!」
と、後ろからまことを呼ぶ声が聞こえてきた。
振り向くと、女性が走って近づいてくるのが見えた。
じゅんである。
5年ぶりに見るじゅんの姿である。
大きく手を振りながら息せき切って走っていた。
誠の前に来るなり頭を掴み大きな息をしながら
物凄い勢いでキスをした。
誠の口な中に、じゅんの吐く息が怒涛の如く
なだれ込んで胃袋が一杯になりそうである。
キスをしながらじゅんは
「誠、好きだよ!大好きだ!」
とじゅんは言っていた。
誠も
「俺も好きだよ!」
と言いたかったが、じゅんの唇がしっかりと
誠の唇に密着している為言葉にならなかった。
時間にしたら10秒位のキスだが誠は1年位
キスをしているような感覚に陥っていた。
じゅんは、誠の唇から自分の唇を離すとじゅんは
「誠!!この5年間何をしていたのよ!!!!!」
といって誠を睨みつけた。
じゅんは
「誠が居なくなって私は、必死に誠を探したよ」
「でも見つからなかった!!」
「何処で何をしていたのよ!!!!」
じゅんの目にうっすらと涙が浮かんでいた。
誠はじゅんのうっすらと涙を浮かべた顔を
見ながら
「ひさしぶり」
声を震わせて一言言った。
じゅんは
大きな声で
「まこと~」
と言って大粒の涙を流しながら誠の胸に
顔を埋めるのであった。
しばらくそんな状態の後じゆんは手の甲で
涙を拭きながら
「誠、誠にいい話聞かせて上げる!」
「ま!こ!と!の!む!す!め!」
誠は、じゆんが何を言っているのか一瞬理解で
来なかった。
もう一度どじゆんが
「ま!こ!と!の!む!す!め!」
と言った時、誠は、は❗❗と思った❗
俺の娘❗❗
一瞬信じられ無かった。
誠は頭の中で
「俺、70のじいさんだよ❗」
「そんな馬鹿な❗」
と頭の中で呟いた。
70歳の年寄りに信じられ無かった。
じゆんは
「誠の娘だよ!」
「ゆきちゃん。て言うんだよ!」
と言って、目を細めた。
「ゆきちゃん。ゆきえだよ!」
と言って、人差し指を誠の唇に押し当てた。
誠は誠の唇に押し当てた人差し指が何の意味か
解らなかった。
じゆんは、誠の唇に押し当てた指を見ながら
「この指何か解る」
と言いながら誠の唇から指を離した。
誠は何か解らなかった。
唇から離したじゆんの指を見ていると
人差し指の根元に紫の紐が巻き付いていた。
じゆんはその指を誠の目の前で左右に振った。
「じゆん。その紫の紐なに?」
と言って、じゆんの手をそっと握りしめた。
じゆんの目線は、誠の瞳をしかりと捉えていた。
じゆんは一言
「死んだお母さんが言ったの」
「じゆんが、何も出来ないほどの困難に合った
時、一回だけじゆんを助けてあげる」
「それはね、右の人差し指の根元に紫の紐を
巻いてくくりつけなさい」
とお母さん自信が困難にぶつかった時の事を私に
話してくれた事がある。
「だから、誠がいなくなり探し続けて1年
経った日にこの紫の紐を結びつけたのよ」
「そうすれば、お母さんが1回だけ私を
助けてくれると信じたの」
「誠に会えると信じたの」
「ゆきちゃんの為にも信じたの」
じゆんの瞳は空の彼方を見つめていた。
誠はじゆんの肩をそっと抱き寄せた。
真っ赤に染まった太陽が二人を包み、その影
だけが黒々と浮かんでいた。
二人は暫くそのままの姿でじっと動かなかった。
じゆんが小さな声で
「まこと、ゆきちゃんに会いたい?」
誠の顔を見ながら言った。
誠はじゆんの体をそっと話すと
「じゆん、じゆんはゆきちゃんを俺に
会わせたくないの?」
とそっと意地悪く言った。

なし

じゆんの目は、優しく笑っていた。
誠は、もう一度じゆんの体を引き寄せ強く
抱きしめた。
じゆんは誠に抱きしめられながら
「5年よね」
誠も
「うん」
と言って答えたが言葉にならなかった。
じゆんは、誠から体を離しながら
「今夜誠はどうするの?」
と誠にたずねた。
誠の頭の中は今起こった事が整理出来ず
返事に戸惑っていた。
誠が最初に思った事は娘に会いたいと言う一心であった。
「ゆきに会いたいな」
じゆんから聞いた答になっていなかった。
じゆんも誠の心の内は想像出来ていたので
「私に似て超美人だよ!」
と言っておどけて見せた。
「まこと~。今夜どうする?」
それでも誠は
「う~ん」
と言うだけであった。
じゅんには誠は即決できない男であると言うことは解っていた。
「まこと!ゆきちゃんを保育園に迎えに
行こう!」
と言って誠の肩を叩いた。
誠はじゅんに肩を押されて
「うん」
と言うのが精いっぱいであった。
すっかり日が落ちた街灯の下を
二人は寄り添いながら保育園に歩いていた。
じゆんは、誠の顔をのぞきこんで
「まこと、今どんな気持ち」
と微笑みなが言った。
「うん」
と誠は頼りない返事をするのみであった。
じゆんは
「嬉しくないの?」
「どうなの?」
と言いながら、ほほをふくらめた。
「どうなのよ~?」
「嬉しくないの?」
じゆんは人差し指で誠のほほを指さした。
誠は
「じゆん、嬉しいよ」
「でも?」
誠は、俺に子供ができる?
頭の中で冗談だろ!
薄暗い街灯の先が急に明るくなった。
子供達が窓越しに外を見ている。
じゆんが言った。
「みんな、お母さんがお迎えに来るのを
あのような格好をしながら待っているのよ」
笑っている子供、泣いている子供、お母さんが
迎えに来て走って甘える子供。
誠は、俺が子供頃は迎えなど無かったたあ
と思っていた。
その時、じゆんが
「誠、ゆきちゃんだよ!」
と言って指指した。
誠は、じゆんが指指した方を見ると髪を頭の
上でくるっと巻いている。
じゆんに似て小顔だ!
「綺麗だ!」
と頭の中で叫んだ。
じゆんが、誠に
「どう、可愛いでしょ。」
「誠の子供だよ!」
誠は
「俺の子供?ほんと?」
と言って、じゆんを見るとほほを膨らめて
怒った素振りを見せたがその目は微笑んでいた。
「お母さん」
と言って、ゆきがじゆんの所に走って来た。
ゆきが
「お母さん、この人は?」
と言って指さした。
じゆんがゆきに向かって
「だれかな~」
と言ってゆきの顔を覗き込んだ。
ゆきは、不思議そうな顔をして首を傾げた。
じゅんは
「ゆきちゃん、お父さんよ。」
と言って誠を見た。
ゆきは
「お父さん?」
「ゆきのお父さん?」
「ゆきには、お父さんはいないよね。お母さん。」
といってじゅんに抱き着いた。
じゅんは
「ゆきちゃんには優しいお父さんがいるのよ。」
「お母さんとゆきちゃんの一番大切なお父さんがいるのよ。」
ゆきはじゅんの体に抱き着いたまま離れなっかった。
じゅんは誠を探し歩いた1年のことを思い出していた。
誠もこの5年間の事を振り返っていた。



****  老いらく2章に続く

老いらく1章(出会い)

老いらく1章(出会い)

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-10

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 1
  2. 2
  3. 3