星をさがす
"ふぁぼしたひとの派生イメージより 掌編" シリーズ
「嫉妬する?」
「嫉妬?」
彼女は鼻で笑った。手のグラスのなかの液体が揺れた。わずかなとろみを伴う金色のアルコールは彼女のお気に入りだった。ウォッカに蜂蜜をまぜた、香りが良いのだと言う。
話題は彼女の恋人が浮気をしていたのが発覚した、という、笑い話か事件か区別のつかないようなものだった。
「相手の女に? まさか」
蜂蜜の香りがこちらまで漂う。
「人生に裏切りはつきものだから。ギターの弦はそのぶん正直でいいよね。限界になったら素直に切れるし、使いこんでいる間は裏切らない」
つまみは生ハムのサラダにスモークチーズだった。塩辛い味に彼女の喉を懸念する。明日、人前で歌う用事があるはずだった。
「弦は買い替えるけど、でも私は裏切った相手を絶対に許さない」
彼女は笑ったが、その瞳には信念とも愛憎ともつかない色が覗いていた。
彼女の腕時計が、照明を受けてきらりと光った。華奢な手首に、花形に加工された金属の装飾がよく似合っていた。その光に、星を思った。
「あなたは待っているのね」
深夜一時、そろそろ冷え込んだ空気にたくさんの星がその姿を映しているはずだった。
「自分の星から離れ、その出現を」
「待ってるんじゃない」
彼女は明確に笑んだ。
「さがしてるの」
星をさがす
desire