青の文脈
"ふぁぼしたひとの派生イメージより 掌編" シリーズ
「あれ、なんだっけ、ブルーキュラソー? 使った、青いカクテル」
「いろいろあるよ」
「あれよ、レミといっしょに島に行ったときの」
「ああ、ブルーカイピリーニャ」
「そうそれ、カイピリーニャ。あれ飲みたい。メニューにはないけど」
西表島の海。
カイピリーニャの青は透き通った海の青より青かった。
レミとふたり、目的もなく旅をしたのはふた月ほど前のことになる。
彼女と出会ったのは中学の終わりごろに通い始めた学習塾だった。通う学校は違ったものの、受験を控えた時期にもなればほとんど毎日顔を合わせるようになる。もともとお互いに気が合う気配を察知していたふたりが仲良くなるのに、そう時間はかからなかった。
高校もまたそれぞれ別のところに進学したが、交流は続いた。大学を卒業しても、彼女の働くバーに飲みに行く日々だった。
「はい、田舎の娘さん」
「なにそれ」
「カイピリーニャの意味」
“田舎の娘さん”でいられたころは気楽だった。
西表島で青色の海を見た。二度と人生に再生されない、失われる青色だと思った。
カイピリーニャを呷ったら喉が焼けて、涙が出た。
涙もいつか青くなって、生きてきた旅路のなかにやり場のない海をつくるのだろうと思った。
海は青かった。ふたりとも青かった。
あの青色になりたかった。
ブルーキュラソーが喉に染みた。いくらか青に近づけた気がした。
私はあの青色になりたかった。
青の文脈
おきなわのうみ