Nの労苦
"ふぁぼしたひとの派生イメージより 掌編" シリーズ
N氏は工学の徒であった。彼はついに世紀の発明をなしとげた。衣服を透過して撮影ができるポラロイド・カメラであった。
ところで、N氏は女性の手首をとても好んで鑑賞した。とりわけ華奢な女性のそれを。男性のものには興味がないどころか、中年の醜い肉の付き方をした手首などをみると吐き気すら覚えるのだった。彼はある種のフェティシストと言えよう。
この冬の寒い時期、道行く人々は皆長袖を着ている。手首を露出させた女性は稀であった。
N氏は思いついた。例のポラロイド・カメラで撮影すればよいではないか、と。
ひとまずは行きつけのバーに行き、条件にあてはまる女性をひとり探し出した。骨格の細い、その儚げな女性はSと名乗った。
N氏は彼女を撮影する機会をうかがった。不自然に写真を撮ろうとしては怪しまれる。N氏はウイスキーを啜りながらその時機を見計らっていた。
じきに女性は、酔いも回ったのか、お手洗いに行ってきますわ、と言い残し席を立った。N氏はどうにか彼女を連れ出せないものだろうかと思案した。ずばぬけた名案は浮かばなかった。N氏は工学のこと以外では凡骨だった。
頭を悩ませる間に、突然の悲鳴がN氏の鼓膜をたたいた。Sの声であった。
「どうしました」
トイレに駆け付けたN氏は、Sが開けたドアを覗き込んだ。そこには便座が上がった便器が見えるだけで、異常などは見受けられなかった。
「ゴキブリが出ましたの。それで驚いてしまって……」
そういうことなら何ら問題はなかった。N氏においては、虫は苦手とするところではなかった。だがN氏はそれどころではなかった。
家に帰り、N氏はカメラを捨てた。
Nの労苦
あのコピペより