最低な私
掌編です
断るべきだっただろうか。
学校から帰宅し、倒れ込んだベッドのシーツに顔を埋めて考え込む。
今日、友人である涼に、彼女の誕生日プレゼント選びを手伝ってほしいと頼まれた。
普通なら、女である私が彼女のプレゼント選びを手伝うなんて、あまりに不自然であると断っていただろう。
ただ、この場合私は、そう簡単には断ることが出来なかった。
なぜなら、涼は私の想い人だからである。
しかし、冷静になってみれば、私が涼の頼みを聞くことに、デメリット以上のメリットなんてあるのだろうか。
涼は私に女からみて喜ぶものを選んで欲しくて頼んだだけ。
それに対し私が不純な動機で付き合ってしまうことに、彼女に罪悪感を感じる。
それだけではない。
たとえ私が涼と二人の時間を過ごしていても、涼は1ミリも私のことなど見てはいない。
私がどんなにオシャレをしたって、髪型を変えたって、向こうは気づきはしないだろう。
それを身をもって知るだけだ。
今からでも断ろうか。
そう思い、放り投げた携帯を手繰り寄せて、LINEを開く。
涼とのトークルームを開こうと思った矢先、友人の春奈から新着メッセージが届く。
私は先にそちらを開いた。
そこには、1枚の写真が送られてきていた。
涼と彼女が2人で仲良く歩く姿。彼女の顔は見えないが、涼は、私が見たことないような笑顔で彼女に笑いかけていた。優しく穏やかで、少し情けないような、暖かい笑顔。
『駅で発見、ほんとバカップルだよね』
私の好きな人を知らない春奈は、そんな文面を送ってきた。
私は、それを適当に返し、再び画面を閉じて布団に伏せた。
写真を見て、私の感情は、ほぼ諦めにも見た感情に変わっていた。
そして、ある種の期待を描いた。
涼が彼女のためにプレゼントを選んでいる時に見せる笑顔はきっと彼女に見せる笑顔と同じかもしれない。
私はそれを隣で見た時、その笑顔は私に向けられていると幻覚を見るだろう。
幻覚だと知った時、耐えきれないほどの虚しさに襲われることに違いない。
しかし、幻覚を見ている時の私はきっと、今までにないくらい幸せかもしれない。
後のことを優先できるほど私の気持ちに余裕はなかった。
目先の希望にしがみつくことしか出来ないのだ。
きっと私が彼女のいる男と2人で買い物をしたことを知られれば、色々な人に恨まれるだろう。
親友の恭子にも怒鳴られるかもしれない。
だからこれは私と彼だけの秘密。
どこか、隣町のお店に行こう。誰にも見られないように。
きっと適当なことを言えば、涼は何の疑問も持たず私について来るだろう。
涼が単純でよかったと、こんな時だけ思う。
そこまで考えて、私はいつの間にか涙を流していた。
自分の性格の悪さに涙が出てきたのだ。
ごめんなさい彼女の優希ちゃん、騙すようなことをしてごめね涼、性格の悪いことをしてごめん恭子。
私がこんなんだから、涼は私を好きになってくれないんだ。
そんなことを考え、今度は嗚咽が漏れ出す。
目を腕で覆って、私は口元を僅かに緩ませる。
「……私って、本当に最っ低」
最低な私
初めて完成した小説を投稿しました。
批評をくださるとありがたいです。