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外見でいえば,後ろ姿が似ている,らしい。ママがリビングでした話もそうだった。あなた達はよく似ている,たまに区別がつかなくなる,黙々と食器を洗ってくれてる時なんて特にそう。右かなぁ,左かなぁって,座りながら,クイズみたいに遊んでる時があるのよ。そう,正解,名前を呼んでみて,振り向いてもらってるでしょ?あれがそうなの。ごめんね。あなた達のどちらかが,髪でも切ってくれたら,一発で当てるけど。失格ね。ママ。良くない,よくない。
背丈も一緒,スタイルも大して変わらない。肌の焼け加減も似たようなもの,同じ日焼け止めクリームを使っているし,スカートを履くし,ズボンも履く。そしてママの言うとおりに,髪もセミロングで同じ,髪質もパパ似のサラサラストレートなのだから,それはそうなんだろう。だって,後ろ姿だから。振り向くと,タイプが違う私たちと言われる。どちらも可愛い美人系(?)と幼少時から形容されてきた私たちの顔には,異なる印象を与える力がある。振り返ると,私と妹は二つに分かれる。それぞれの用に応じて,話しかけられる。その上で,お小遣いの使い過ぎとかで,一緒に怒られたりもする。二歳違いの私たちには,共通の趣味があり,興味があり,どちらにも同学年の彼氏がいて,友人がいて,家族がいて,内緒にしたい話がある。誰にも話したりしない,ベランダでアイスをやけ食いした思い出がある。夏でも冬でも,スマホを手放さない。新学期が始まる春にはワクワクして,秋にはだらける。過ごしやすくて,頻繁に出かける。だからバイトも始めたし,買い物のし過ぎで怒られた。でも,懲りたいしない私たちは,服の貸し借りをしたりした。幸いにも,好みの範囲は広くて,アバウトで,「似合う!」と言われれば満足する。シンプルな一面が重なり合える。強気と弱気のどちらにも見られる,性格な一致。ただ,お互いの服を交換するたびに,混乱は増すことになった。私は妹のクラスメートに話しかけられることになったし,妹はデート中に私の彼氏に遭遇した。後ろ姿を発見されて,あとを付けられて,行く手を阻まれた。自身の彼氏にも誤解された。妹から,ものすごく怒られた私であり,しきりに誤っていた私の彼氏だった。私は姿見の前でポーズをとったり,写メを頼んだりしたけど,実感が湧かないまま,周りの評価を受け入れた。妹もそうだったのだろう。ママにアプリで加工してもらった後で,二人して,画面を見比べて,どっちがどっちかを言い当てられるのは私たちだけだったのだから。ママはとっても,不思議がっていたし,私たちだって,とっても不思議がった。その違いは,共通のジーパンの上で明らかだった。それが誰の目にも写らないのが,謎で仕方なかった。ヒップラインとかではない,私と妹のそれぞれの癖。
部活で外周をランニング中にハードなコンタクトを片方,落としてしまった私は,それを見つけられないまま,館内に戻って,もう片方を外した。裸眼でも見えないことはなかったから,いつもの動きに比べて精彩を欠くことになることを承知の上で,最後まで部活に参加した。部活が終わっても,そのままでケアして着替えて,みんなと別れた。家の方向が逆な私は,いつもと違って,ほとんどが暗く,街灯や車が不自然に通り過ぎるバス停までの道を恐々と歩いた。久し振りの生(なま)の夜道だった。とはいえ,今さら残る片方を付けるというわけにはいかない。目薬は切れて,近くに水道はなかった。こけたりしないように,何より,信号を下手に間違わないようにすることに気を使った。余裕で渡れるはずなのに,私はいちいち立ち止まったから,右折の車は不思議がっていたと思う。途中で一度,パパッと光で合図されたのは,「どうぞ」という親切だった。私はそれを無視した。そうせざるを得なかった。運転手の顔は見えなかった。意味もなく,鞄を漁ったりして,室内シューズをひっくり返した。中身がぐちゃぐちゃの,確かな混乱だった。
何個目かの横断歩道,ゆっくりと歩いていた私は,そこで待つ姿をなんとなく捉えて,確かめた。長い髪,多分同じ学校で,一人の女子。大きな荷物を持っていて,ときどき担ぎ直す。現れるライトに照らされるシルエット。タイミングよく,重心が移る。左,右の動き。だから髪が揺れているはず。その瞬間を,私はよく捉えている,捉えてきた。実はせっかちな所がある。移した重心をすぐに戻したがる,私はそっちが様になるって豪語する。お姉ちゃんも見習ったら?と,教えられる。そんな時だけ強気になる。そんな時は,合わせてあげる。二歳下のくせして,私と同じ背丈ってことは,向こうの身長はまだまだ伸びる。だから今だけ。今だけの似姿。
声をかけて合流した。妹が予備で持っていたメガネを借りた。昔のやつで、余計に度が合わなかったけど,無いよりはましだった。看板が見えた。車が見えた。信号が見えたし,走って向こう側に渡れた。タイミングが悪かったみたいで,途中,運転手に怒られた。妹にも注意された。だって,行けるって思ったんだもん,と答えておいた。スマホが鳴った。後輩に出会った。それぞれに,それぞれが軽く挨拶をしてから,私は妹に言った。
「いいよ。」
と妹は答えてくれた。館内の補修だか何だかで,明日の部活は休みで決まっていたから,都合がいい。午前中で新調した後は,また,ランチと買い物をしたいと思った。
そう思っていたら,名前を呼ばれた。私たちは振り返った。私たちに関係のある名前だったから。私はこっちから,妹はそっちから。
だから多分,それを見た人は,私たちを上手に分けられたと思う。鏡を真ん中に置いたみたいに,私たちは見たのだから。この際,メガネは度外視していい。それはたまたまの事だから。トレードマークとはいえない。
写真にも写らない。私たちの姿。似ていないと思っている。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-05

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