庭石

西の空に渦巻く暗き雲、
生暖かき風に流され、
僕の庭に雨を落とす。

白き砂の紋様に影を落とし、
波を砕く激しきさまを、
背を丸めたまま、じっと見ていた。

風が擦する裏山の笹の葉の音が、
僕の耳元で鳴っている。

この季節、
いにしえの覚えを語る僧達が、
見知らぬ山間から降り始める。

何者を供養するためにか。
逃げ出した盗賊を、
いま再び、呼び出すならば、
僕の記憶を盗み出すためにか。

僕の庭に雨を降らせ、
若き立木の枝を震わせ、
池に流れ落ちる滝を溢れさせる。

もうすぐ、
庭の木戸を叩き、
白き砂を踏みにじり、
縁側に座り込んだままの
僕の視界を遮る大きな影が
空を覆う。

見よ。
彼は、僕の未来を
告げに来たのだ。

庭石に掘り刻まれ、
苔生した懐かしい筆跡の主を
僕に教えるために。

庭石

庭石

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-07-08

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