手を、

「○○ちゃんはどんな人がタイプ?」
いつもの教室。可愛い同級生、クラスメート。
お昼休みはあと10分で終わっちゃう。
「私はねー、守ってくれる人!」
言って、キャーと恥ずかしそうに顔を隠す。
(可愛い、な。)
私は、女の子は好きだ。別に変な意味じゃない。
女の子は優しいから好きだ。弱くて、独りでは生きていけないけど。それでも、やさしい。
「ね、○○ちゃんはー?」
ほら、こうやって私を話の輪の中に入れてくれる。
「私は、手を…、」
言いかけて、呑み込んだ。
「えぇっと、私は優しい人がタイプかな。」
半分、本当。あと半分は言ってない。恥ずかしくて言えない。

がらがらと扉が開いて先生が教室に入ってくる。次は、数学。午後最初が数学かぁ。ダルいなぁ。みんなだらだらと席に着く。
(おしゃべりに、さそってくれてありがと。)
この一言が素直に言えたらいいのにな。
誰かを助けるのには勇気がいる。かわいそうだなって思っても、そこから手を差し伸べることはすごく難しい。
助けきれなかったらどうしよう。
もっと傷つけちゃったらどうしよう。
そんな不安がぐるぐると頭を廻る。
でも、だからこそ「ありがとう」は嬉しい。助けられてよかったーってすごく幸せな気分になる。
だから私は「どういたしまして」って言うより、私も「ありがとう」っていいたくなる。前にうっかり「ありがとう」って返しちゃってすごく笑われたっけ。
それでも「ありがとう」を伝えたくて 「どういたしまして」と一緒に笑うようにしてる。
「ありがとう」をにっこりに変えて言う。
(あの子にも、…。)
やっぱり「ありがとう」って言えばよかった。私に声をかけるのに勇気を出してくれたかもしれないのに。私なら、きっとすごく勇気を出さなくちゃいけないもの。
私も、ああいう風にだれかに手を差し出せる人になりたい。
誰かに手を伸ばされて、その手をひいて歩いてあげられる人になりたい。
でも、それはすごく難しいこと。大変なこと。

夕方、帰るときにまたあの子が「ばいばい」って声をかけてくれた。うれしかった。お昼の言えなかった「ありがとう」の分も伝わるように今日一番の笑顔で私も「ばいばい」って返す。
明日は、私から「おはよう」を言ってみようかな。
上機嫌で歩いていると、中学の時の友達と会った。また背が伸びたみたい。男の子はいつまで大きくなるんだろう。
私に気づいて、彼が手を振って近づいてくる。私も笑顔で駆け寄る。
「聞いて!今日ね、…」
彼は黙って聞いて、ニカッと笑って「良かったな」って言ってくれた。私は、それだけで良かった。
私は彼が好きだ。
恋かどうかはわからない。

私は、手を伸ばしたら、その手を繋いでくれる人が好き。
手をひいてくれなくてもいい。それはとても難しいことだから。
だから、ただ繋いでくれるだけでいい。となりにいてくれればいい。
そんな人と巡り合えたなら、幸せだろうね。

恥ずかしくて言えなかった、私の憧れ。


私も、せめて誰かの手を繋いであげられる人になりたいな。

手を、

手を、

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-07-08

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted