犬女、急に城に登る。

女が一人でいると、急に登りたくなるものだ。

最近犬女脱皮してきたなあ。あんまり犬に構ってないです。

犬を連れて行こうとは思わなかった。

現在進行形モラトリアムの中で、私はやるべき勉強も余裕があると見て、ごろごろうだうだしていた。
そしてヤフーブログと星空文庫を行ったり来たりしすぎて、制限がかかりアイフォーンが使えなくなって、私の頭も使えなくなって、ごろごろしながらおう松さんとかぼくのおじさんとか、楽しめない現状に気が付いて、一階に行ってみることにした。

一階では祖母と母がまったり韓ドラタイムだ。
私は炬燵に潜り込み、しばらくなんかいたが、やんなって「外行ってくる」と言ってジャケットを着こみ、バックパック背負って母のクロックスつっかけて出かけて行った。

最初は駅の本屋を目指した。
一発目、ドアが開かなかった。
がちんと閉じられたドアにぶつかる私を見て、明らかに避けて行った人がいた。

二発目、カップルのさらし者になった。
ただ彼らはいたのだが、私のたっぱのあるせいで、目立つ見た目から「馬鹿ちゃう」とお小言を頂き、喧嘩勃発にならないように気を付けて歩いた。背が高いとは得てしてこんな弊害を生む。

次に図書館に入り、カフェが老人に牛耳られているのを見て、「ああ、田舎あるあるだ」と思いながら通り抜けた。
コーナンに入る。

たこ焼きを非常に買いたかった。しかし無視した。
園芸コーナーと熱帯魚コーナーを主に見て回り、「ディズニーなんとか」というメダカを探したがおらず、「やれ嘘を吐かれたか、はたまた売れたか」と思った。可愛いうえに安かったらしい。

外に出て、街頭から流れるラジオを聞きながら歩き、こちらを睥睨している城を見て、「そうだ、城登ろう」と思った。

なんという無駄な発想、暇。暇人の発想。
私は居酒屋の前を通りながら、三年前ここに帰って来た時ねねという知っている犬の幽霊をこの店の中で見たことを思い出した。
ねねは、狂犬であった。

さて、城に着き、登っているとやはりこういうのが好きで、体が自然ハイスピードになる。
ちょっと飛ばしすぎ、と思っているとステッキをついた山登りスタイルの人がスマホを覗いていて、「ああツイッターとか載せちゃうんだろうな」と思った。

あと頂上に着いたら援助交際中らしき高校生とおじさんがいて、私を睥睨していたが、私は何とも思わず桃の香るおいしい水を買って飲み、しばらくベンチに座って城下を眺めてから、やがて写真を撮り、下りた。

下りる時は駆け足になった。
とっとっと、と走っていく私を見て観光客が「走ってはる~」と笑った。
一人ぼっちな黒い服の人がいて、かわいそうと思ったがそ知らぬふりをした。

さて、堤防の下を通り、有名な菓子店の裏を通って、信号前に来ると、昔お好み焼き屋だった店舗から仲間連れで出てきて、オーライオーライとしているので眼鏡をチャッとかけ直し、位置を確認してから信号を渡った。

メロディーの鳴る商店街を、どうしても通りたかった。あれは反則だと思う。
ノスタルジーが薫っていた。芳しい香り。何年も買われていないのに開いている文房具屋のしなびたノート達。

ああ、と私は思いながら商店街を歩いた。

写真屋の前で七五三の写真を眺めながら、人を避けて歩き終わり、本格的な帰り道となった。
帰りに安い八百屋で柿一盛り100円というのを買った。
父のおやつだ。猿は柿が好き。父は申年だ。

帰ってきたらお客様。玄関前で母と車越しに話している。
見てみると親戚の偉い人だった。
こんちは、と挨拶して、じゃ、と行くと「元気で頑張ってな」とお声がけいただいた。
大変頼もしく思うが、頼るわけにはいかない。
はい、と返事して別れた。

さて、家に入ると犬が吠えた。
「うるさい子誰!」と言うと腹を見せ、ぐふうと鳴いた。
祖母が爆睡中。
母が来て、「お婆ちゃん最近よく寝る」と言う。だから入らず話していたのだ。
なんだか来るものを感じなくもない。

ま、今はいっかとブログに城写真を上げて、今日はもう終わり。

犬女、急に城に登る。

こんな一日です。

犬女、急に城に登る。

「そうだ、城登ろう」

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-04

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