栗鼠

「さわちゃん、それいつまでやってんの?なんでせんせいにゆえへんの?」
そうゆってにしかわせんせいは、さわこのてからおべんとうばこをとりあげて、ろっかーのなかの、きいろのかばんにおしこんだ。
「はよおいで。ぐーちょきぱーやるよ」
「ぐーちょきぱーで、ぐーちょきぱーで、なにができるー」と、ほかのこたちはすとーぶをかこんでうたってる。またおこられてしまった。さわこはしゅんとなって、せんせいにてをひかれて、みんなのなかにまじる。みんないじわるなめでさわこをみてくる。
 うしのかたちをしたおべんとうばこは、にだんがさねになってて、こうしのかたちのしょうゆいれもついてる。おべんとうのじかんは、みんなかわいいとゆってほめてくれた。にしかわせんせいもかんしんしてた。でも、おべんとうばこはおおきすぎて、みんなそろってうたいはじめるときになっても、ぜんぜんかばんにはいらんかった。
 みぎてがぐーで ひだりてがちょきで
 かたつむりー かたつむりー
 みんなわらってうたってるけど、さわこはなきそうになる。きょうは、おこられるのさんかいめや。さいしょは、ようちえんについてすぐのとき。かさをたたむのにじかんがかかってしまって、きょうしつにはいるのがおくれたから。まじっくてーぷのかさやったらええのにな。さわこのかさは、ぼたんでとめるやつやから、ふくらんだかさにひもをまきつけたあと、とめるのがどうしてもむつかしい。
 にかいめは、おえかきのとき。
「さいしょはたてにせんをひいて、つぎはよこにせんをひいてください」
にしかわせんせいはそうゆったけど、さわこはどっちがたてで、どっちがよこかがわからんかった。それで、かみのまえでかんがえてたら、
「さわちゃん、なんでせんせいのはなしきけへんの?」
とゆっておこられた。ちゃんときいてたのに。
 かにとか、ほうきとか、おはなとか、ぐーちょきぱーでいろんなもんができていく。でも、さわこはしょんぼりしたままやった。ようちえんはきらいや。つかれるから、はやくかえりたい。
「ああ!」
とつぜん、たっちゃんがおおきなこえをだした。
「たっちゃん、うるさいよ」
「せんせい、かおるちゃんが、どんぐりたべた」
「ええ?」
みんな、いっせいにかおるちゃんをみた。かおるちゃんは、おままごとようの、どんぐりがはいったくっきーのかんかんをもって、にやにやわらってる。かおるちゃんは、ぷくぷくふとってて、いちにちじゅうほとんどしゃべらんと、ずっとこんなかおをしてる。
「かおるちゃん、どんぐりたべたんか?」
「……」
「ほら、はやくだして」
「もう、だした」
「ええ?」
「かまれへんかったから、だした」
かおるちゃんは、つばだらけになったどんぐりをてにのせて、せんせいにみせた。たっちゃんが、「ぷーっ」とゆって、わらいだす。それから、みんなもわらった。
「ちょっと、みんな、わらいごとちゃうねんで」
「りすは、どんぐりたべんねん」
きゅうに、かおるちゃんがしゃべりだした。それで、みんなちょっとわらうのをやめる。かおるちゃんが、こんなにはっきりしゃべるのは、はじめてやった。
「りすはな、ちっちゃくてな、どんぐりたべんねん」
みんな、りすのことをかんがえた。りすって、ちゃいろかったっけ。しましまやったかな。どんぐり、「かりかり」ってたべるんかな。
「かおるちゃん、なんでりすのことしってるん」
せんせいがきいた。
「うちも、りすかってんねん」
「いえで?」
「うん、いなかのおじいちゃんが、もってきてくれてん」
「ええなあ」
さっきまでわらってた、たっちゃんがゆった。それでみんな、かおるちゃんがうらやましくなった。かおるちゃんのこと、うらやましいとおもったのは、はじめてやった。さわこもりすかったら、みんなうらやましいとおもってくれるんかな。
 まどのそとは、はいいろで、さむそうやったけど、あめはやんでるみたいやった。ようちえんは、つかれるし、おこられるからいややけど、おもしろいこともちょっとだけある。

 きょうあそぼってゆわれて、きょうはあかんってゆったら、みきちゃんはきげんがわるくなった。
「なあ、なんでなん?」
「おとうとがかぜひいてるねん。それで、あそびにいったらあかんってゆわれてん」
さわこはうそをついた。ほんまゆったら、きょうはあんまりあそびたくなくて、いえにおりたかった。
わかったわあ、とゆって、みきちゃんはしたをむいてしまう。おかえりのときは、にれつになって、となりのひととてをつないであるくけど、きょうみたいにかさがあるときは、てをつながへん。いちばんまえといちばんうしろにはせんせいがおる。とちゅうでとまるばしょがみっつあって、いえがちかいひとからじゅんばんにれつをはなれていく。さわこはいえがとおいから、いちばんさいごのばしょまでいかな、おむかえのおかあさんにあわれへん。みきちゃんとこのおばちゃんがまってるのは、にばんめのばしょやった。
 みきちゃんはちょっとおこってる。みきちゃんがきてるほしのもようのじゃんぱーとおなじくらい、ほっぺたがふくらんでる。おこらすのはいややけど、さわこはともだちとあそぶより、おとうとのだいくんとあそびたい。だいくんは、さわこのふたつしたのよんさいで、まだようちえんにいってないけど、さわこにはだいくんとふたりのにんぎょうあそびがいちばんおもしろい。
 それに、みきちゃんは、すぐまねしてくるからいやや。さわこがおけしょうせっととか、まほうのすてっきとか、びーずのさいふとか、おもちゃのみしんとか、なんかかってもらったらすぐじぶんもかってもらう。
それから、「みきとたっちゃんはりょうおもい」ていつもじまんしてくる。
「みきな、たっちゃんがすきやねん」
まえ、みきちゃんにそうゆわれた。さわこもたっちゃんがすきやけど、はずかしいから、
「ええ、さわこいやや。だってたっちゃん、おもしろいやん」
とゆったら、みきちゃんは、
「おもしろいからええねん」
とゆった。「おもしろい」てゆうのはおかしかった、「へん」てゆういみやったのに。そうかんがえてたら、
「たっちゃんも、みきちゃんがすきやねんで」
とひろしくんがはいってきてゆった。それで、みきちゃんはよろこんで、さわこはがっかりした。
 しょうがない。たっちゃんはたぶん、さわこのこときらいやとおもう。だいぶまえやけど、さわこがおもらししてしまったから。あのときは、みんなに「ぽっとん」とかゆわれた。たっちゃんにもゆわれたし、みきちゃんにもゆわれた。みきちゃんは、やさしいときもあるけど、みんなといっしょのときは、いつもさわこにいじわるしてくる。ようちえんでおりがみしてるときとか、わからんようになって「おしえて」てゆっても、「じぶんでやり」てゆってくる。なんでなんやろ。いつもやさしかったらええのに。
「あ」
みきちゃんがきゅうにてをのばして、まえの、まがりかどのあたりをゆびさした。
「りすや。りすおる」
「え?」
みきちゃんがゆびさしたほうをみたけど、なんもおれへん。
「りす?」
「ああ、にげてもうた。りす、おったやんなあ、さわちゃん」
まわりのこが、みきちゃんとさわこのほうをみる。みきちゃんは、すごいうれしそうなかおをしてる。
「うん、おった」
ほんまはみてなかったけど、さわこはそうゆった。みきちゃんは、もっとうれしそうなかおをする。まわりのこも、「りすやって」「すごいなあ」てゆってる。
「りす、どこにすんでるんかなあ」
「うーん、どこかなあ」
「あ、おかあさん」
しょうゆのにおいのするおせんべいやさんのところに、みきちゃんとこのおばちゃんがたってた。おばちゃんは、ほかのおばちゃんたちとなんかしゃべってる。
「おかあさん、さっきな、りすおってんで」
みきちゃんはそうゆって、おばちゃんとこにはしっていった。さわこは、みきちゃんのきげんがなおってよかったな、とおもった。それから、にかいもうそついてしまったな、とおもった。

「おばあちゃんのへやにいこう」
だいくんがゆった。ふたりでぽてとちっぷすをたべてるときやった。
「おばあちゃん、いまぬいものしてんねんで。あぶないからいったらあかんねんで」
「だいじょうぶやって」
だいくんはじしんまんまんにゆう。おばあちゃんのへやにはおもしろいもんがいっぱいある。たんすのひきだしはあけたらへんなおとがなるし、「きょうだい」てゆうつくえにはかがみがいっぱいついてて、「むげんかがみ」ができる。でも、はりがでてるときは、へやにいれてくれへんのに。
 ぽてとちっぷすをたべるときは、かずをかぞえながら、いちまいずついっしょにたべる。「いーち」でまずいちまい。「にーい」でにまいめ。おかあさんは、「おんなじくらいいれてんから、いちいちそんなことしいな」てゆうけど、どっちかがおおかったらずるいもん。それで、ふたりとも、たべるのにじかんがかかってしまう。
へやのひきどはあいてて、おばあちゃんのせなかがみえた。おばあちゃんはたたみのうえにすわって、さいほうどうぐをひろげて、きいろいぬのをちくちくぬってる。
「おばーちゃん」
へやのまえにたって、だいくんがよぶ。おばあちゃんはふりむいて、びっくりしたようなかおをする。
「さわちゃん、だいちゃん、はりおいてるからあぶないで」
おばあちゃんがゆうと、だいくんはきゅうにおじぎをした。
「おばーちゃん、おたんじょうびおめでとう」
そうゆって、だいくんはへやにはいっていく。あれ、きょうはおばあちゃんのたんじょうびとちがうのに。
 だいくんはそのままちょこんと、おばあちゃんのよこにすわった。さわこをみてにやっとする。
「ふ、ふ、ふー」
おばあちゃんはこまったようなかおをしてわらう。あ、そうか。これがだいくんのさくせんか。
「ふ、ふ、ふー」
おばあちゃんはわらってる。さわこもおかしくなってわらったら、
「な、ゆったやろ」
とゆって、だいくんもわらった。ちらかったへやのまんなかで。
 おとうさんがしごとでとおくにおるから、さわこはいま、おばあちゃんのいえで、おばあちゃんと、おかあさんと、さわこと、だいくんのよにんでくらしてる。おばあちゃんは、おかあさんのおかあさん。おじいちゃんのほうは、さわこがうまれるまえにしんだから、あったことがない。
 おばあちゃんは、「よしえ」てゆうなまえやけど、じぶんのなまえがすきとちがう。おばあちゃんのおかあさんが、きんじょのひととおんなじなまえをつけたとかで、ちゃんとかんがえてほしかったってゆってた。「さわちゃんのなまえは、ええなまえやで。おとうさんとおかあさんが、いっしょうけんめいかんがえてくれてんで」とゆってくれる。さわこは、ほんまは、ともだちみたいににもじのなまえがよかった。「みき」とか「ゆか」とか「えみ」とか「ゆみ」とか。そうゆうなまえのほうがかわいいし、なまえがかわいいほうが、かおもかわいくみえる。でも、おばあちゃんにほめてもらうと、「さわこ」でもええかなっておもえてくる。
 なまえだけやなくて、おばあちゃんはさわこのこといっぱいほめてくれるから、さわこはおばあちゃんがすき。おかあさんもすきやけど、おかあさんはちょっとこわい。
 ばんごはんのてんぷらをたべてたら、ぴんぽんがなった。
「こんばんはあ」
「しょうこか」
おばあちゃんがたって、げんかんにいく。かぎをあけるおとがする。しょうこちゃんは、きんじょにすんでて、このいえのかぎももってるのに、いちいちぴんぽんをならす。
おかあさんが、ためいきをつく。しょうこちゃんがきたら、おかあさんはいつもためいきをつく。じぶんのいもうとやのに。
「さわちゃん、だいちゃん、こんばんは」
しょうこちゃんは、そとのくうきといっしょにはいってきたから、ちょっとつめたかった。「こんばんは」とゆいながら、さわこはしょうこちゃんのもってきたけーきのはこをみてしまう。しょうこちゃんは、けーきやさんではたらいてて、ときどきのこりをくれる。
「ごはん、いるんか」
おさらをだしながらきいたおばあちゃんに、「うん」とゆって、しょうこちゃんはおかあさんのとなりのいすにすわった。
「だいくん、しょうこちゃんのひざにのる」
だいくんがゆう。だいくんは、しょうこちゃんがだいすき。びじんやからやとおもう。
「ごはんたべてからにしなさい」
おかあさんがおこってゆった。だいくんは、たまねぎのおみそしるをいそいでのみはじめる。さっきまで、すごいゆっくりたべてたのに。
「さわちゃん、きょうはようちえん、おもしろかったか?」
しょうこちゃんはそうゆって、さわこのかおをみる。しょうこちゃんはちっちゃくてやせてるから、こどもみたいにみえる。つりあがったおっきいめが、やせてるせいでよけいにおっきくみえる。おかあさんとぜんぜんにてない。
「きょうはな、りすみてん」
「りすー?」
おばあちゃんからごはんのはいったおちゃわんをうけとりながら、しょうこちゃんがへんなこえをだした。
「かえるとき、みちにおってん。さわことみきちゃんだけがみて、ほかのこはみいひんかってん」
おこられたことはゆいたくなかったし、かおるちゃんのことわらったらおかあさんがおこるから、さわこはうそをついた。
「このさむいのに?どっかのいえからにげたんやろか」
しょうこちゃんは、しんぱいそうなかおをした。そういえば、しょうこちゃんはどうぶつがだいすきやった。いらんことをゆったかもしれへん。
「さがしにいこかな」
「なにゆうてんの、あんたは、ほんまに」
おちゃをいれながら、おばあちゃんはこまったかんじでゆった。そのとき、がしゃんとおとがして、よこをむいたら、だいくんがおみそしるのおわんをひっくりかえしてた。いそいでのみすぎたんやとおもう。
「いやあ、だいちゃん、だいじょうぶか?」
おばあちゃんがゆって、おかあさんとふたりでだいくんにかけよる。だいくんのとれーなーは、こぼれたおみそしるでちゃいろくなってる。だいくんは、めをまんまるにしてる。
「あつないか?」
「うん、ぜんぜん」
だいくんは、おこられるとおもったのに、しんぱいされてびっくりしてるみたいやった。おみそしるは、もうさめてたから、やけどもなんもなかった。
「びっくりするやんかあ、ほんまに」
おばあちゃんとおかあさんは、ふたりでそこをかたづけはじめた。しょうこちゃんは、ぼーっとしてる。ぜんぜんこっちをみてへん。
「しょうこちゃん?」
よんだけど、しょうこちゃんはぜんぜんきいつかへんみたいやった。そのかおが、なんとなくやけど、こわかった。

 めがさめた。へやはまっくらやった。となりをみたら、だいくんがおる。でも、おかあさんがおれへん。
 いまなんじぐらいなんやろ。なんか、こわいゆめみてたきがする。
「あんたなあ、じぶんのこどもやろ。かわいそうとおもえへんのか」
いっかいから、おばあちゃんのこえがきこえた。いつもとぜんぜんちがうこえやった。
「あんなおとこのこども、いらんゆうてるやろ」
しょうこちゃんのこえもきこえる。
「みんなでそだてるから、あんたはしごとつづけてええから、おねがいやからひとりぐらいうんでくれって、みんなゆうたからうんだのに、みんなうそばっかりついて。わたしは、こどもなんかほしなかったのに。しごとしたかったのに。うんだとたん、みんなでやめろやめろゆうて、こどもわたしにおしつけて」
しょうこちゃんは、ないてるみたいやった。おかあさんもいっしょにおるんやろか。
「おしつけるてなんやの。じぶんのこどもやろ。けんたくん、ようへいさんが、いまむこうのおかあさんとそだててはるんやで。なんでもどったれへんの」
「あいつのせいで、しごとやめてんで、わたしは。しごとやってええゆうたから、けっこんしたのに、こどもほったらかすなとかゆうて、あんなやつはしらん」
「あんた、ええかげんにしいや!」
こわくなって、さわこはふとんにもぐった。ふとんはあったかいけど、からだがふるえる。なんのはなしをしてるんやろ。しょうこちゃん、むかしおっきいかいしゃではたらいてたってゆってたけど、そのことやろか。
「ほんで、かるとみたいなことやってな」
「かるととか、ゆわんといて」
「かるとやんか!」
「ちゃうわ!あのひとらは、ちゃんとわかってくれるねん」
ふとんにもぐっても、こえはきこえてきた。さわこはみみをふさいだ。それから、ちがうことをかんがえようとした。でも、うまいこといけへん。
「さわちゃん?」
こわくなってないてたら、だいくんもめをさました。
「さわちゃん、ないてるん?」
ふとんにもぐってるからかおはみえへんけど、だいくんのこえもなきそうになってる。
「おかあさーん、おかあさーん、さわちゃんがないてるー」
いっかいのこえがきこえなくなる。ぱたぱたぱた、とおとがして、おかあさんがかいだんをあがってくる。

 おしょうがつは、いちねんでいちばんさむいきがする。でもわくわくする。ぴかぴかのいちがつついたち、さわことだいくんははやおきして、だいどころにおりていった。そして、せきゆすとーぶのまえで、あたらしいふくにきがえた。さわこは、しろのとっくりと、あかのとれーなーと、しろのたいつと、こんのきゅろっと。だいくんは、ちゃいろのしゃつと、きいろのとれーなーと、みどりのずぼん。とれーなーはおそろいで、まんなかにぺんぎんのえがかいてる。
 すとーぶのうえでおもちをやいた。おしょうがつはわくわくする。おもちはぷうぷうふくらんでる。おばあちゃんとおかあさんは、おじゅうをはこんだり、おさらや「いわいばし」をだしたりする。
「さわちゃん、それもうふくらんでるで」
ぼんやりしてたら、だいくんにゆわれた。だいくんのほっぺたはまっかになってる。さわこもめがかわいていたい。
「だいくんのもふくらんでるで」
「わかってるわ」
だいくんはゆった。だいくんのしゃべりかたには、ときどきはらがたつ。
「わかってへんやろ。ひっくりかえしてへんやん」
「いまやろうとおもっててん」
「あんたらしょうがつからけんかしいな」
おかあさんがはいってきた。
「だってだいくんがさきゆってきてんもん」
「やめってゆうてんねん」
「しょーがつからけんかですかー?」
ねんまつからかえってるおとうさんが、だいどころにおりてきた。それで、さわこはだまる。じぶんのおとうさんやのに、あんまりあってへんから、なんかへんなかんじがする。なにしゃべったらええかわかれへん。
「おとーさん」
だいくんはよろこんで、おとうさんにだきつきにいく。それをみて、さわこはうらやましくなる。だいくんは、「ひとみしり」とちがうから、だれとでもしゃべる。
 おぞうにのおみそは、いつもとちがってしろいやつで、これをのむと、おしょうがつってかんじがする。みつばと、まっかなにんじんと、ちっちゃいだいこんと、とりにくがはいってる。さわこはおもちをふたついれてもらった。さわこはほそいけど、よくたべる。おせちでは、えびがすき。だいくんもいっしょやけど、えびをむくのはさわこのほうがうまいから、だいくんよりいっぱいたべれる。でも、あんまりはやくたべると、だいくんはおこって、おかあさんやおばあちゃんにむいてもらったりする。
「さわちゃん、えびじょうずにむけるようなったなあ」
おばあちゃんがゆう。
「えびばっかりたべてんの?」
おとうさんががゆう。さわこはちょっとはずかしくなる。
「ことしはしょうこちゃん、きはれへんのか?」
おとうさんがおかあさんにきいた。おかあさんはちょっとこまったかおをする。まえ、けんかしてたときから、しょうこちゃんはうちにきてへん。くりすますのけーきももらわれへんかった。
「さあ……あのこもいそがしいから」
「でんわしよか!」
おばあちゃんが、いきおいをつけて、いすからたちあがる。
「ええやん、ほっといたら」
「なにゆうてんの。しょうがつぐらいちゃんとしたらな」
おばあちゃんは、でんわのだいやるをまわす。おかあさんは、すねてるみたいなかおをしてる。
 おばあちゃんは、じゅわきをもったままへんなかおをした。
「どうしたん?でえへんの?」
「……でんわ、つながれへんわ」
「つながれへんて?」
「げんざい、つかわれておりません、ゆうて」
「ええ?」
おとうさんがたちあがる。
「ぼく、みてきますわ」
「れいじさん、ええ、ええ、わたしいってきまっさかい」
「せやけど、なんかあったら」
「ええねん、わたし、あのあぱーとに、しってるひといてまっさかいに」
おばあちゃんは、あかいろのはでなじゃんぱーをはおって、どあのほうにむかう。おとうさんはたったままで、おかあさんはなきそうなかおをしてる。
「ほな、すぐかえってくるわ」
おばあちゃんはでていった。すると、だいくんがなきだした。
「だいすけ、どないした、だいじょうぶやで」
おとうさんがだいくんをだっこする。でも、だいくんはぜんぜんなきやめへん。おとうさんはいつもいっしょにおらんから、なきやまされへんのやとおもう。
「さわこ、だいくんとげーむする」
さわこはゆった。
「げーむ?」
「うん。げーむしたら、だいくんなきやむねん」
「おい、げーむしたいゆうてるで」
「さしたって」
おかあさんがゆった。それで、さわことだいくんは、にかいのわしつにいった。
 まりおのかせっとに、「ふーっ」ていきをかけて、ほこりをとって、せっとする。ふぁみこんをやるのはだいくんだけ。さわこはせえへんけど、みるのがすきやから、いつもだいくんのとなりでみてる。
 がめんのなかで、まりおはきのこをとって、それからふらわーをとって、ふぁいあーまりおになった。ひのたまをとばして、くりぼーをたおす。どかんにはいって、ちかのせかいにいく。だいくんはほんまにげーむがうまい。いちめんでは、めったにしねへん。でも、かるがるうごくまりおをみても、きょうはいつもみたいにたのしくなられへんかった。これはげーむやから、ほんまのせかいとはちがう。
 へやのなかは、がすすとーぶのへんなにおいでいっぱいになってる。まどをみたら、くもってしろくなってた。しょうこちゃん、どうしたんやろ。おばあちゃん、ちゃんとあえたんやろか。
「さわちゃん、みて、みて、いっきにたおすで」
「ごめん、さわこ、といれいってくるわ」
さわこがたちあがったら、だいくんはへんなかおをした。
「ほんまにといれ?」
「うん、ほんま」
「すぐかえってくる?」
「うん、かえってくる」
そうゆったら、だいくんはいちおう「わかった」てゆって、げーむにもどった。さわこはわしつをでて、ぬきあしさしあし、いっかいにおりて、おばあちゃんのへやのえんがわから、つっかけをはいてそとにでた。
 うわぎきんとそとでたから、からだがめちゃくちゃつめたい。ゆびがいたいし、はながいたいし、みみもいたい。でも、さわこははしった。しょうこちゃんのあぱーとは、すぐそこやった。
「どこいったて?」
いまだのおばちゃんのこえがする。さわこは、でんしんばしらのかげにかくれながら、あぱーとのほうをみた。
「どっかわからん。しゅうきょうやってるひとと、いっしょにくらすゆうて」
おばあちゃんのこえやった。おばあちゃんは、ないてるみたいやった。
「ほんまか、それ」
「ほんまや、みてみい、ここにかいてあるがな」
「これ、あのこがかいたんか」
「あのこや。まちがいあれへん」
ううーっとゆって、おばあちゃんはなきだしてしまう。いまだのおばちゃんがなぐさめる。さわこはこわくなって、はやあしで、いえのほうにあるきだした。
 しょうこちゃんは、どっかいったんや。それだけはわかった。もうあわれへんのかもしれへん。
 となりのいえのいぬが、さむいのにこやのそとにでてた。いぬは、あんまりあらわれてへんからくさいけど、ふとっててかわいい。
「ぼぶ」
ちゃいろのけがぬくそうやったから、さわこはいぬのなまえをよんで、ちかづいた。それで、なでようとしたら、いぬはさわこのてをかんだ。
「いたい!」
いたくなかったけど、びっくりしてこえをだしたら、いぬはすぐにはなれた。てをみたけど、ちもでてへん。
みると、おさらのなかにえさがのこってた。さわこにとられるとおもったんやろか。
 さわこはしょんぼりして、いえの、えんがわのほうにあるいていった。せっかくおしょうがつやのに、さいあくやな、とおもった。

「だいすけくんは、おおきなったらなんになるんや?」
「がらのわるいにいちゃん」
「え?なんて?」
「がらのわるいにいちゃん」
「がらのわるいにいちゃん?そうか、がらのわるいにいちゃんになるのんか」
やおやのおっちゃんはそうゆって、おもしろそうにわらう。さわこは、おもしろいことゆえるだいくんがうらやましくなる。
 ほうれんそうをかって、さわこは、おかあさんとだいくんといっしょに、かえりみちをあるいた。ほうれんそうは、さわこがもった。おかあさんは、さっきすーぱーでかったぎゅうにゅうとたまごと、さわこがすきなちょこれーとのびすけっとをもってる。
 にちようびは、ようちえんがないからうれしい。あさいつもよりおそくおきて、うぐいすあんぱんをたべたあと、だいくんと「そるぶれいん」をみて、それから「そるぶれいんごっこ」をやった。
 しょうこちゃんは、かえってけえへん。「けいさつは、ばしょしってるけど、こどもとちゃうからおしえてくれへん」ておばあちゃんがおかあさんにゆってた。さわこは、ほんまはいろいろききたいけど、きいたらあかんみたいやから、がまんしてる。「しょうこちゃんのこと、だれにもゆったあかんよ」てゆわれてるし。
 しょうこちゃんは、きっとこどもがおったんやとおもう。でも、いっしょにくらしたくなかったんやとおもう。それをかんがえたら、こわいし、かなしいし、しんじられへん。さわこは、おかあさんとくらされへんかったらいやや。ぜったいにいやや。
「おかあさん」
「なに?」
おかあさんはこっちをむいた。
「さわこな、おかあさんがいちばんすき」
おかあさんがどっかいったらいややから、さわこはそうゆった。おかあさんは、まえをむいて、こうゆった。
「おかあさんは、おとうさんがいちばんすき」
さわこは、しゅんとなった。それから、なんでかしらんけど、「やっぱりな」ておもった。
 そのとき、まえのまがりかどのとこで、なんかうごいてるのがみえた。
「りす?」
「ええ?」
「りすや!」
さわこは、はしりだした。
「さわちゃん、ちょっとまち、りすなんかおれへんよ!」
りすは、かどのむこうにきえてしまう。あとをおってまがったら、さわこはこけた。ほうれんそうがおちて、まえにとんでいく。
「さわちゃん、だいじょうぶか?」
おかあさんのこえと、あしおとがきこえる。いたくてなみだがでてくる。かおをあげたけど、りすはもうおれへんかった。
 「りすつかまえたよ」てゆったら、しょうこちゃんはもどってくるかもしれへんのに。そしたら、おかあさんもさわこのこともっとすきになってくれるかもしれへんのに。でも、りすはにげてしまったから、しょうこちゃんはもどってけえへん。おかあさんも、さわこのこときらいになって、どっかいってしまうかもしれへん。そうおもったら、なみだがとまれへんようになった。
 おかあさんがきて、さわこをおこしてくれた。だいくんが、とんだほうれんそうをひろった。さわこは、さみしくて、かなしくて、こえをだしてないた。
 そらははれて、あおくてあかるい。しょうこちゃんがおらんでも、みんなふつうにいきてる。せかいじゅうで、さみしくてかなしいのは、さわこだけみたいやった。

栗鼠

栗鼠

すばる文学賞二次選考通過作品を改題・改編したものです。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-03

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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