習作 3
オーストリアのペンパルから教わったことについてです。
オーストリアの友達
中学校で宇宙人扱いされていた僕の一番の友達は、実はオーストリアにいた。
名前はコルネーリアといって、International Chatというウェブサイトで知り合った。確かコルネーリアと僕は同い年で、出会ったとき彼女は14歳だったので、中学2年のときからの付き合いのはずだ。
大体コルネーリアとは3,4日に一度メールをした。コルネーリアには一度も会わなかった。絵葉書は2、3通交換した。アルファベットを母語とするひとの英語は読みづらかったが、それがむしろコルネーリアが確かに何千キロの向こうのオーストリアのザルツブルクから、日本の田舎町に住む僕に葉書を書いていることを確かに実感させた。
一度家族でハワイに出掛けたとき、ホテルのフロントから絵葉書を送ったことがある。お返しにトルコ辺りのリゾート地から絵葉書が返ってきた。
「ハワイなんて遠い遠いところから葉書をもらうことがあるなんて、思わなかった。」
と書いてあった。
コルネーリアと僕との関係は、最初東洋の片田舎に住む少年と、西洋の美しくはあるがやはり小さな街に住む少女とが抱く、地平線の向こうの向こうのそのまた向こうに住む人々への好奇心に出発したといっていいと思う。
秘密の相談
最初はお互いの日常生活が話題だった。
コルネーリアは僕にこんなことを話した。
ザルツブルクはとても小さな街で、静かな街であるということ。モーツァルトがザルツブルクで産まれなければもっと静かないい街だっただろうこと。
今彼女はギムナジウムに通っていること。
ギムナジウムではギリシャ語とラテン語を教わるということ。そしてそれはそれは退屈な授業だということ。
コルネーリアの父親は東欧の方から労務者を集めてきてオーストリアの作業現場に派遣するような仕事をしていること。
そしてコルネーリアの両親は離婚していること。
僕がコルネーリアに何を話したかはもう忘れてしまったが、恐らくコルネーリアが僕に話したようなことは僕もコルネーリアに話したと思う。
メールのやり取りを始めて一年くらいして、コルネーリアはメールでこういってきた。
We are good friends, aren't we?
Peharps, yes we are.
なんとなくモヤモヤした感覚をPeharpsの一語にこめて返事をした。
すると彼女は今好きな人がいること、何回かデートしていること、でも彼が彼女を好きなことに確信がもてないことを書いてよこしてきた。
僕は心中穏やかではなかった。
僕はそのとき嫉妬していた。
コルネーリアに好かれているその少年にではなく、好きな人がいてドキドキした毎日を過ごしているコルネーリアに対して。
いや、しかしそれだけではないだろう。彼女がどこか遠くにいってしまう気がして、寂しいというか、切ない気持ちになった。
ただ、僕の元来の気質である対象を突き放してみる態度のお陰で、僕は彼女のgood friendであり続けることができた。
僕はこう答えた。
Just go ahead.
Believe in your goodness - wiseness, kindness and beauty.
ただ客観的に、コルネーリアを観察したままを伝えた。
実際に彼女は理知的だったし、気立ても優しかった。顔立ちも、コルネーリアが前に送ってきた写真を見ると、beautiful というわけではないが、彼女全体から滲み出る雰囲気はcute, attractiveと形容できるようには思われた。
beautyというのは、まあ、出血大サービスだ。
コルネーリアは喜んでくれた。
数日後、彼がキスしてくれたと話してきた。
その1週間後、どうやら今週末に彼の家に行くことになりそうだと伝えてきた。
「みんな初めては痛いっていうんだけど、大丈夫かな。。」
「痛かったら痛いって言えばいいよ。きっと彼は無理にそれ以上進めようしないから。」
「場が白けない?」
「好きな子が痛がってるのを見るほうが嫌だよ。」
good friendであり続けることの鬱陶しさと、コルネーリアの秘密を打ち明けられていることの誇らしさがない交ぜになった気持ちで、やはり僕は客観的に、励ました。
コルネーリアは励まされたと言ってくれた
。
また数日後、コルネーリアは彼との初めてがうまくいったことを嬉しそうに伝えてきた。
まあ、良かったんじゃない?
そんなふうに思いながら、こうタイプした。
I am happy to hear that.
灯台下暗し
コルネーリアと彼との仲は順調に深まっていった。それに比例して、コルネーリアから来るメールの頻度は減っていった。
人間が持てる関心の総量は決まっている
。一人に注がれる関心が増せば、他の男に注がれる関心は減るのも当然だ。
何千キロ向こうの男よりも、歩いて10分のところに住んでいるクラスメイトに分があるのは明らかだった。
「熱しやすく冷めやすい」「来る者拒まず去る者追わず」を地でいく僕は、世の中こんなものだという風で、コルネーリアの変化に対して案外に平気でいた。
ある日のこと、忘れた頃にコルネーリアからメールが来た。
「ねえ、あなた彼女作らないの?」
返事をした。
「どうも自分がモテる気がしないよ。」
彼女からの返事は僕の恋愛に対する考え方をひっくり返した。
「ねえ、世の中には、色んな女がいるよね。それで、それぞれ好みも違うよね。だから、誰々に好かれやすい人、っていう人はいると思うけど、みんなに「モテる人」っていうのはいないと思うよ。」
コルネーリアはメールを書きながら段々腹が立ってきたらしい。
「大体あなた、前にすごい無口で真面目な女の子がティッシュを借りに来たり、宿題をみせてもらいにきたり、いきなり何かのグループワークか何かで隣に座ってきたりするっていってたでしょ?あれ、私あえて黙ってたけど、きっとその子あなたのこと好きだったんだと思うよ。シャイな女の子がそういうことするって、どれ位勇気がいることが知ってる?あなた、何で外国の女の子にはあんなに優しいのに、同じ町の女の子にはそんなに冷たいの?ねえ、私にgo aheadっていってくれたの誰だか覚えてる?あなたよ。あなた。今度は私の番だね。Go ahead. Go ahead for her!」
コルネーリアは全く主観的に、感情をほとぼらせて、僕にアドバイスを書き送った。
彼女からのメールを何度も読み返して、こうタイプした。
You are abusolutely correct.
習作 3