日曜日は孤独

 そう。
 あの子のことが好きだと自覚した僕は、いつのまにかあの子のことばかりを想い耽るようになり、あの子の顔を思い出しては道ばたに咲く野花を摘むようになり、あの子の白い首を思い起こしてはトマトジュースを飲むようになり、あの子の細い脚を思い返しては制服のワイシャツにアイロンをかけるようになり、あの子の裸を想像しては家の中の物を何か一つ壊すようになった。

 そう。
 僕はあの子のことが好きなのであるが、あの子は僕ではない人が好きで、その人は大人で、奥さんがいる人で、子どももいるような人であった。

 そう。
 あの子は純正の人間ではないのである。
 おとうさんがヒツジで、おかあさんが人間で、つまり、あの子の半分はヒツジで、半分は人間の、最近ではあまり珍しくない混合種であるが、母系遺伝子が強く反映されたあの子の外見はどこからどう見ても人間で、しかし足はヒツジのそれであり、そこらへんに生えている草も好んで食べる。

 そう。
 あの子の頭には角がある。
 渦を巻いた丸い角がある。

 そう。
 僕の日曜日は孤独である。
 僕はひとり、あの子のことを想い耽りながら、誰かの家の生け垣に咲いている花を摘みとり、ドラッグストアで安売りしていたトマトジュースを大量購入し、明日着る制服のワイシャツのしわを丹念にのばし、おとうさんが使っていた一眼レフカメラをトンカチで叩き壊した。
 おとうさんは三十日前に星に帰った。
 おかあさんは四年前に海へ還った。
 三十日前におとうさんではなくなったおとうさんが家においていったものを、僕は日曜日を迎える度にひとつずつ破壊している。
 先週はゴルフクラブ、先々週はセピア色の地球儀。
 ゴルフクラブは盛大に叩き折り、セピア色の地球儀は粉々になるまでコンクリートの地面に叩きつけた。
 飛び散った地球儀の破片で、右頬を少し切った。

 そう。
 半分はヒツジで、半分は人間で、妻子ある人に恋をしている可哀想なあの子と同じクラスの、半分は異星人で、半分は海洋生物である、僕。
 血の色は紫色である。
 おとうさんのような触角はおでこに生えなかったけれど、おかあさんのように海の中で呼吸をすることができる。

 そう。
 あの子の血の色は赤色である。
 ヒツジの血は、赤いのである。
 人間の血も、赤いのである。

 そう。

日曜日は孤独

日曜日は孤独

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-02

CC BY-NC-ND
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