昭和生まれの男の、どうってことない話 3
子供の俺に客室盗聴させて稼いでいたくせに。天井裏からカセットデッキに男女の喘ぎ声を録音しろと命令し、断ると煙草の火を体中に押し付けていただろうが。
録音テープが集まると駅裏のアダルトショップに売ってたな、クソババア。
村での空き巣もすべて俺のせいにしたな。
おかげで村中から嫌われイジメにも遭った。
なのに、お前ら夫婦はどうしようもない息子でと被害者ヅラ。俺は、お前らがつけた煙草の焼け跡を見せてやろうかと思ったが、やめたんだ。何故か。
子供っていうのは、どんな親でも望みを託してしがみついてしまう生き物だからだ。
どうしようもないくらいにな。
だから俺は総てを棄てたんだ。
「なのに何故またここに」
大江田は、どっと疲れ眠りに落ちた。
深夜だった。布団の中に下着姿の婆さんがいた。
母だった。
「何やってるんですか!」
大江田は声を上げた。
「お客さんが人肌恋しいと思って。よければ私を抱いてもらえればと」
母はニヤリと笑った。
大江田は酸欠の鯉のように口をパクパクさせた。目の前が暗くなり倒れそうになったが堪えた。
「いいですから。つ、疲れて、疲れているので」
息も絶え絶えに断ると、
「そうですかぁ? 残念ですぅ」と妙に甘えた声を出し、部屋を出た。
扉の向こう側で父の声がした。
「なんだ。失敗か」
「ああ。近親相姦物で売ろうとしたのにさ」
「久しぶりの録画だったのになあ」
大江田は両親の会話を耳にして、気を失うように布団に倒れた。
つづく
昭和生まれの男の、どうってことない話 3