ぼんやり

人はぼんやりとした感覚を忘れてしまいそうになるのです…。

或る日、私はぼんやりとしていた。この時、何も考えないで、という人がいるようだが、何も考えないというのは至難の(わざ)であるので、私は適当に総合的な事柄を頭に想起させながらぼうっとしていた。眼前に見えるは、港区の高層ビル群が一望できる海岸である。うっすらと朝日が、空の色模様にグラデーションをかけ、まるで絵に描いたような淡々とした薄白と橙が織り交ぜられていた。その下に、四角四面な建造物がそれらをはっきりと裏切るような黒い影となっていた。しかし、その影は逆に典型的な光景を創り、常人が目に浮かぶような光景なのである。海は無数のうねりを為しながらこちらに塩水を向かわせていては退かせる運動を只管に続けていた。私は、その運動の終わりの瀬際(せぎわ)の所に縮み込んで(さび)しそうに座っていたのだ。まるで、自らの統合を失った極度に(さび)れた人のように…。
私は、波の音に無言で話しかける。一体、何故にあの現象が私の心をこうにも堕落したものにさせたのだろう?いや、あれはそもそも現象というものなのだろうか?それにしても、何と答えの見出しようのないような波の答え方であろうか…。
私はいつしか疑問を投げかけるのをやめ、顔を伏していた。

ぼんやり

ご拝読ありがとうございました。

ぼんやり

500字小説です。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-29

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