同調率99%の少女(11) - 鎮守府Aの物語

同調率99%の少女(11) - 鎮守府Aの物語

=== 11 川内型誕生! ===
 ついに必要最低人数に揃い、艦娘部が正式発足した。那美恵は川内に合格した流留、神通に合格した幸を連れ、鎮守府へと赴く。二人の着任式が、そして鎮守府Aの今後を担う川内型艦娘の物語が、ようやく始まる。

艦娘部と生徒会

 川内と神通の着任式は、次の週の土曜日に行うことになった。幸が同調の試験に合格した日からだいぶ空くが、提督の都合、五月雨たちの都合、そして那美恵たちや顧問の阿賀奈の都合上仕方なくの日取りとなった。
 それまでの間に流留と幸には川内と神通の制服が届く手はずになっているため、それを試着するために鎮守府に寄る必要がある。

 前の週が開けて2日ほど経った日、那美恵たち3人は阿賀奈から呼び出された。艦娘部としての部室は彼女らの高校には存在しないため3人は一旦生徒会室の前で集まり、それから職員室へと向かう。
 コンコンと職員室の扉をノックし、那美恵は一言断ってから入る。阿賀奈は自席から手を振って那美恵たちに合図を送っていた。
「先生、何かあったんですか?」
 3人は阿賀奈に近寄り、那美恵が開口一番質問した。すると阿賀奈はニッコリと笑って答える。
「提督さんから連絡あってね、川内と神通の制服ができたんだって!内田さん、神先さん。二人の艦娘の制服よ。楽しみよね~。」
「えっ!?あたしたちのですか!!?」
「でね、時間のあるときに試着しに来てだって!」

 流留は素直に声を上げて喜ぶ。幸も声こそ上げないが、顔をあげて息を飲む動作をしたため、那美恵はひと目で気づいた。
 制服の試着と聞き流留はワクワク心踊り始めた。ついに漫画やアニメのようなヒロインになれる自分が目前に迫ってきていると、気持ちが高ぶって仕方がない。
「うわぁ!うわぁ!すっごーく楽しみ!ねぇなみえさん。今日帰りに鎮守府寄りましょうよ?」
「先生もみんなの艦娘の制服姿、生で見てみたいなぁ~。」
「じゃあ先生も一緒に!」
 流留は興奮の勢いそのままに阿賀奈を誘うが、阿賀奈はクビを横に振った。
「ざんねーん。先生すぐには帰れないのよぅ……。」
 その直後、流留の隣にいた那美恵からも断りの言葉が発せられた。
「流留ちゃん、あたしも今日は生徒会の用事で行けないんだ。明日なら大丈夫だから、明日行こ?さっちゃんもいい?」

 幸はコクリと無言で頷く。流留は待ちきれないという様子を全身(主に拳で)で表しながらも、我慢することを伝えた。
「はい……わかりましたよ。明日っていうことで。」
「明日かぁ。明日なら先生も早く出られるかなぁ~無理かなぁ~」
 阿賀奈は自分のスケジュール帳を開いて予定を確認しつつ呟いている。
「先生、試着の日もいいですけど着任式の日、忘れずに鎮守府に来てくださいね?」
「わかってますって光主さん。先生ちゃーんと覚えてるんだから、ね!」
 結局その日は那美恵たちは誰も鎮守府に足を運ばず、知らせを聞くだけにとどめておいた。


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 翌日の放課後、那美恵たちは一旦生徒会室に集まり、それから鎮守府へと行くことにした。川内と神通の制服の話を那美恵は三千花らに話していたので、三千花たちは流留たちの着任の準備が順調に進んでいることを自分たちの事のように喜んだ。
 特に三戸は流留、和子は幸に対して喜びを伝える。

「いや~内田さん。よかったね~艦娘の制服。」
「うん!今から楽しみ!」
「俺も見に行きて~な~内田さんのあんな姿こんな姿とかー」
「三戸くん何言ってるのさ~。あたしの見るくらいならなみえさんやさっちゃんのほうが見て楽しいよきっと。」
 そう言う流留だが、三戸からすれば素の美少女度としては流留がトップだと評価している。もちろん彼は男同士でしかそんなことは話さない。もし女性陣の前でうっかり口を滑らそうものなら那美恵たちからの株を落としそうだし、目の前の少女からすら危ないと直感し自制した。
「いやいや、内田さんはもっと、気づいたほうがいいよ。」
 三戸の言葉を理解できず、?な顔をする流留。自制した結果、このセリフが彼の限界だった。

 一方の和子と幸は流留たちよりも静かに喜んでいる。
「さっちゃんの制服着た姿、私も見たいな。あとで写真で送ってね?」
「……うん。なみえさんに撮ってもらったら送る……ね。」
 コクリと頷いて和子の言うことに承諾する幸。言葉少ないが、唯一の友人の和子への精一杯の歓喜をともなった返しである。

 知り合い同士のやりとり見ている那美恵と三千花。三千花はふと気づいたことを口にした。
「ねぇなみえ。内田さんも神先さんもお互いやなみえのこと名前で呼んでるけど、あれなに?」
「うん。これから艦娘部としてやっていくからさ、もっと仲良くしたいって願いも込めて先輩後輩じゃなくて、名前で呼び合うようにしたの。」
「そっか。なみえらしいといえばなみえらしいなぁ。」
「エヘヘ~」
 那美恵ははにかんでしばらく流留たちを見た後、三千花に向かって言った。
「身近な知り合いが学生とは違う存在になるってさ、やっぱ不思議に感じるものなのかな?」
「ん?どうしたの?」

「流留ちゃんは三戸くんがきっかけに、さっちゃんはわこちゃんがきっかけに艦娘の世界と出会ったでしょ?自分たちがきっかけで知り合いが知らない世界のヒロインになる。それはとんでもない世界の存在で、危ない目にあうかもしれない。普通に生きる人達からすれば現実味のない、ありえないものと感じるかもしれない。けど艦娘は間違いなく現実のもので、そんな特別なものじゃない、日常の延長線上にある、少し不思議な存在。現実と非現実が混ざるヒロインに、知り合いがなるんだよ? 不思議に思わざるを得ないでしょ、って思ってさ。」
 那美恵が感慨深く思いを打ち明けると三千花は相槌を打った。
「お、なみえ真面目モード?」
「んもう、みっちゃん!あたしだって真面目に語りたい時もあるんだよぉ~」
「アハハ、ゴメンゴメン。」

 ふぅ、と三千花は一息つく。視線は那美恵から流留たち4人に向けた。
「私だってさ、あんたが艦娘になったって前に聞いた時、内心飛び上がりそうなくらい驚いたんだよ。それになんで友人の私になんの相談もなくやりはじめたんだって。話には聞いてた艦娘になみえがなるって、確かに現実味なかったけど、あのとき私達を見学に連れてってくれたでしょ。」
「うん。」
「それで私達は艦娘が本当に今あるものなんだって、理解することができたよ。それと同時に、誇らしいって思ったわ。」
「誇らしい?あたしを?」
「えぇ。そりゃあ不思議にも思ったけど、私はそれよりもなみえを誇らしく思ったよ。あんたの言葉を借りるなら、現実と非現実が混ざるヒロインに、なみえがなる。校長を説得したときのやりとりじゃないけどさ、数年後、数十年後、私の知り合いは世界を救ったヒロインなんだって言えたら、すごくない?私は誇りに思うよ。私はなみえの功績を語り継ぎたい。これまであんたを手伝ってきて、私はそう本当に思えるようになったわ。」
「みっちゃん……へへっ、なんか嬉しいやらむず痒いやら。今まで色々ありがとね。そしてこれからもよろしくね?」
「うん。なみえたちは思う存分艦娘の仕事やってね。校内のことや学校と鎮守府の間のことは任せてくださいな、生徒会長。」
 三千花が笑顔とややさみしげな表情がない混ぜになった表情でわざとらしく会釈をして那美恵を鼓舞した。それに対し那美恵はともすれば不謹慎ど真ん中の冗談を交えて明るく返す。
「はーい。副会長にお任せしちゃいます。まぁ~あれですよ。あたしがうっかり戦死しちゃったら骨拾ってくれよな~」
「バカ!縁起でもないこと言わないの!」
「エヘヘ~」

 最後は茶化し茶化されながらお互いの今後を鼓舞しあう那美恵と三千花。適度におしゃべりが一区切りついた後、那美恵は最後に提案した。
「ねぇみっちゃん。」
「ん?なに?」
「流留ちゃんとさっちゃんの着任式、見に来ない?」
「え?私達艦娘じゃないし、もう鎮守府に勝手に入ったらまずいんじゃないの?」
「へーきへーき。あの提督だもん。そんなきっちりした制限決めてないって。あとであたし提督に話つけておくからさ。ね? 四ツ原先生も来る予定だし、みんな揃っていこーよ?」

 那美恵からの提案は、以降艦娘の世界とは関わりがなくなる三千花らにとっては最後の繋がりとも思える場とイベントであった。三千花は躊躇したが、親友そして自分たちの努力と人々との繋がりによって得られた二人、内田流留と神先幸の3人揃った○○高校艦娘部メンバーの門出を祝うにはふさわしい場だと思った。三千花は三戸と和子に声をかけて聞いた後、その提案に乗ることにした。

「ねぇ三戸君!毛内さん!」
「「はーい。」」
「今度の土曜日さ、私達も鎮守府に行って、内田さんと神先さんの着任式見に行かない?」
 三千花の誘いを聞いて三戸と和子は驚きの表情を浮かべ、一瞬顔を見合わせて少し戸惑った。
「えー、でもいいんすかねぇ?俺たちもう艦娘のみんなとは関係ないっしょ?」
「私はさっちゃんが心配ですし見に行きたいのはやまやまですけど……。」
 おおよそ同じ心配を浮かべた二人に対し、三千花は説得の言葉を連ねた。
「那美恵が西脇提督に話をつけておいてくれるって言うし、私達が艦娘の皆さんに関われるのってもうこれが最後かもしれないでしょ?だったら三戸くんも毛内さんも、せっかくの友達の門出を祝ってあげないと、ね?」
「まぁ、そういうことでしたらいいですかねぇ。会長、ちゃんと言っといてくださいよ!」
「はーいはい。任せといて。」

「じゃあなみえ。土曜日だよね、一緒に行けるのかな?」
「そーだね。あたしと流留ちゃんとさっちゃん。そしてみっちゃんに三戸くんにわこちゃん、そして四ツ原先生。7人揃って行こうね!」

 そして那美恵たち3人はしばらく経ってから下校し、その足で鎮守府へと向かった。

川内型揃い踏み

川内型揃い踏み

 鎮守府に到着した那美恵たち3人はすぐさま本館の執務室へと向かった。那美恵はノックをして中から聞こえてくるはずの声を待ってからドアを開ける。聞こえたのは女の子の声。執務室にいる女の子なぞ、那美恵は一人しか知らない。つまりは五月雨だ。

「あ、那珂さんこんにちは。」
「五月雨ちゃんこんにちは~。あれ、提督は?」
「今日はもう会社に戻られましたよ。」
「え~!?川内と神通の制服届いたっていうから来たのにさぁ~。もう帰っちゃうなんてそっけないなぁ。」
「提督って会社員なんですか?西脇提督って提督じゃないんですか?」
 五月雨と那美恵はすべての事情をわかっているがために話をどんどん進めているが、まだよくわかっていない流留と幸は提督が会社うんぬんと言われて?な顔をする。

「あー、二人にはまだそこまで話してなかったっけ。艦娘制度の提督、つまり管理者ってね、公務員や自衛隊だけじゃなくて、民間人からも選出されるんだって。その大勢のうちの一人が、西脇さん。例えるなら、40年以上前まであった裁判員制度みたいにね。って言っても今はその制度ないから、私もおばあちゃんに昔聞いただけなんだけどね。とにかく、全国民の中から選ばれて運用されるらしいよ。」
 那美恵から説明を聞いた流留と幸はたとえがよくわからんと思いつつも、自分たちがこれから所属する鎮守府と呼ばれる艦娘の基地の総責任者、西脇提督のことをわずかに知り、捉え方を深めた。

「へぇ~本業のほうと行き来するなんて、提督も大変だなぁ~。」と流留。
「いないことも多いから私も秘書艦として頑張らないといけないんです。」
「うんうん。五月雨ちゃんはもっと大変だもんね。偉いぞ偉いぞ~。」
 流留は提督に感心し、那美恵は五月雨の頭を優しく撫でて褒める。撫でられた五月雨ははにかんで照れ顔になった。
 大体事情がわかってきた流留はまとめるとともに感想を述べる。
「つまりはこの鎮守府って、マジで西脇提督と五月雨さんの二人で回ってるってことなんだね~。人は見かけによらないねぇ。すごいわ二人とも。」
「エヘヘッ。それほどでもありませんよ~。わたしなんかまだまだですから、みんなの協力がないと。だからお二人の着任、待ち遠しいんですよ私も!」
 照れながらも謙遜と相手を持ち上げる五月雨。素直な期待感が伺えて那美恵はウンウンと頷いて達観してみせたのだった。


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「そうだ、五月雨ちゃん。川内と神通の制服届いてるって聞いたけど。どこにある?」
「あ、はい。ちゃんと仕舞ってますよ。」
 五月雨は秘書艦席の背後にある棚から紙袋を取り出し、机の上に置いて中身を出した。
「これが川内で、これが神通。はい、内田さん、神先さんどうぞ。」
 五月雨は流留と幸にビニール袋で圧縮して包まれているそれぞれの制服を手渡す。それを受け取った二人は思い思いの感情をもって制服を眺めている。クリーニングしたてのような、新品のような独特の匂いが二人の鼻腔をくすぐる。流留は数秒眺めたあとにすぐにビニールを破り、制服を取り出してバサッと広げて全体を見た。
「うわぁ~これがあたし専用の川内の制服かぁ~!カッコイイなーー!すごいすごい!」

 一方の幸は流留が制服を取り出したのを見てから自身もビニールを破いて制服を取り出した。直接感想こそ言わないが、一瞬漏れた笑みから嬉しさが垣間見えた。その様子を那美恵と五月雨も笑顔で見ている。

「ねぇねぇ五月雨さん!これ今着てもいい?」
「はい、どうぞ。2階に更衣室あるのでそこで着替えてきて下さいね。」
 五月雨がそう促すと、那美恵が引き継ぎ流留と幸を更衣室へと案内した。
「更衣室案内したげる。こっちだよ。」

 更衣室は2階の端、東寄りの階段の隣の部屋だ。執務室や待機室のある3階から東寄りの階段へと向かって降りて更衣室にたどり着いた。那美恵が更衣室の扉を開けて流留たちに入るよう促すと、流留と幸は更衣室のチャーミングな壁紙にまっさきに反応した。
「なんか……更衣室えらくカラフルですね。」
「そーでしょ?これね、五月雨ちゃんがデザインしたんだって。」
「へぇ~。あの子こんな壁紙作りも出来るんですね~。」
「もちろんやったのは業者さんだよ?」
 那美恵からツッコミが入って流留は焦りつつもごまかそうと手をパタパタと仰いで言い訳をする。
「ンフ! も、もちろんそんなのわかってますよ~。こういう、デザインを考えるのすごいなぁ~~。」
 焦り具合から多分本当に勘違いしていたのだなと気づいたが、那美恵は突っ込まないで着替えを促した。

「さ、二人とも着替えちゃって。」
 そう言いながら那美恵が更衣室のロッカーを見渡すと、自分のロッカーの隣にあるロッカーに、流留と幸の名札が入っていることに気づいた。どうやら更衣室の準備もできているようだとわかってホッとする。
「はーい。じゃ早速。」
 そう言って流留は自身のロッカーに寄り、着替え始めた。幸も同様に自分のロッカーに近寄る。しばらくロッカーを眺めた後、扉を開けて制服をひとまず掛け、自身の学校の制服に手をかけた。
 二人が着替える間、那美恵は鏡の置いてあるテーブル傍のイスに腰掛けて二人の様子を眺めることにした。

 流留が学校の制服のシャツを脱ぎ、ブラを露わにする。
 でけぇ。でかいぞこの娘。もしかしなくても普通にあたしよりでけー!と那美恵は顔は涼しげに、内心発狂するくらいに驚く。着痩せするタイプかい!とも思った。見たところフルカップブラ。明らかにかなりでけぇ証拠。
 冷静に分析する那美恵の眉間には皺が寄っていた。
 一方の幸もシャツを脱いで上半身を露わにする。ブラジャーならば必然的に飛び込んでくる肌の割合は少なく、代わりに薄いピンク地が目に飛び込んでくる。那美恵は幸の胸元からスカートの中へと仕舞われているソレを舐め回すように見た。ふぅ……と一安心。流留のブラに対し、幸は肌着、ニットインナーだ。その膨らみはわずかに見える程度。
 那美恵は1/2カップブラ。世間的にも主流で、最近買った黄色地のデザインの可愛いヤツ。ふふ、サイズでは流留ちゃん“には”負けてるけど、センス的やその他総合的には後輩たちに勝ってるぜぃ!と謎の思考を張り巡らせる。
 正直暑さで頭が参っている感も否めない。


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「流留ちゃん胸おっきいね~。あたし負けたわ。」
 那美恵は思わず口に出してしまった。それを聞いて流留はとたんに真っ赤になり、胸元を腕とこれから着ようとしていた制服で隠す。

「ちょ!ちょっと何見てるんですかなみえさん!! あたしの見たって仕方ないでしょ~!」
「いやいや流留ちゃん。あなたそんなにスタイル良くて、めちゃ可愛いならさ、ちゃんと流行のファッション覚えて服とか着こなせば、同性からも絶対モテるようになるよ。」
「うーーあんま女子女子らしいことは苦手なんですよぉ。スタイルだってあんま気にしたことなかったし……。」
 言葉を濁し始める流留に対して那美恵は視線をジッと向けて言った。
「流留ちゃん私服のセンスも結構いいよね? 流留ちゃんの私服姿一度見たけどさ、実は女子力密かに磨いてたり~~このっこのっ!」
 那美恵からフォローという名の茶化しを受けて、釈然とした態度を崩そうとしない流留。困惑の表情を浮かべたままの流留は思いを吐露し始めた。
「いやいや。そんなことないから。スタイルはまぁ……ふつーに運動とかしてるだけだし、甘いもの好きじゃないから間食しないとか一応食生活は気をつけてるだけ。ファッションだって雑誌に載ってるのでピンと来たもの選んでるだけだし。それに可愛いファッションしても男子にモテるだけでしょ?」
「いや~それは偏見というか間違ってるというか。ステキなファッションして、それに憧れるのは男の子だけじゃないよ。私もああなりたい!って、一種のアイドル的に憧れるのが女の子だよ。」
「アイドルですか?」
「そーそー。憧れね。だ~か~らぁ~。スタイル実はめちゃ良かった流留ちゃんに、あたしもたった今憧れちゃいました~!」
 わざとらしく自分の胸を寄せて強調する那美恵。その直後流留の胸を指差して言った。
「う~、なんか違和感しかないなぁ。やっぱ、女子らしくとか苦手。てか、女子男子って意識すると調子狂いそう。ゴニョゴニョ…… 」
「ん、おお!? なになに?」
 ぶっきらぼうに言い捨てる流留に、那美恵は身を乗り出すように近づいて問うた。

「あたしは趣味とかでバカ話できる人と適当にやれればそれでよくって。ぶっちゃけ男子だろーが女子だろーが誰でもよかったんです。ただ、あたしのコアな趣味についてこられたのは男子だったってだけで。性別意識の意識はないつもりでした。そこで性別を意識して振る舞っちゃうと、なんか違うんだよな~って気がして。」
「うーん。なるほどねぇ。それじゃああえて男子側の意見を解説してあげます。……あぁ、これは三戸くんから聞いた意見ね。」
 那美恵は心の中で(話しちゃうけど三戸くんゴメン! )と謝りつつ、述べ始めた。その突然の打ち明けの方向性に首を傾げる流留だが、聞く姿勢は保っている。
「流留ちゃんみたいに可愛い子が自分たちに話を合わせて接してくれるから、嬉しくてつるんでた面もあるんだって。でもね……」
「やっぱそうなんだ~~~。はぁ……。思い返すと今まで接してくれた男子って、あたしの思いとは関係なく結局あたしが女だからチヤホヤしてたんですかねぇ。……そう考えるとあたしの求めてた日常ってなんだったんだろうなぁ~。」
 那美恵が言葉を続けるのを遮るように流留はため息を吐いてすぐさま反応した。思わず飛び出る小愚痴。

 流留は小さいころ従兄弟たちと遊んでいた頃のことをふと思い出した。あの頃は男女の違いなぞ意識したことがなく、周りの人間と接することができていた。
 しかし今は違った。那美恵の言葉を受けて思い返すと、たしかに男子は自分に対してチヤホヤしていたのかもしれない。流留としてはチヤホヤされることに悦を感じていたこともあるが、決して自分のルックス面としてではなく、趣味で気が合うためでしかないと思っていた。自分が美貌に恵まれている、とはまったく思ったことがないわけではない。男子と接する上での態度、そして話はほとんどしなかったが女子からの羨望の念でなんとなく感じていた。しかしそれを得意げに武器にしたつもりはまったくなかった。
 心身ともに成長して中性的な美少女になった流留に日常接する男子は、思春期であるがゆえに否が応でも意識してしまっていたのが実情であった。女子も、流留のような美少女が男子をまるで手玉に取るかのようにはべらせて遊んでいる、そう勝手に思い込みそう信じて嫉妬の念を蓄積させていたことが現実だった。
 流留自身としては趣味での交流を広げた結果、内容が濃すぎたのか、流留の周りには男子しかいなくなっていただけなのだが、周りはそうは思っていなかった。流留はそんな周りからの念に気づいていなかった。

 結果として構築した、気のおけない男子たちとの付き合いは流留にとって生命線ともいえる日常の根本であった。それがギクシャクして、消滅してしまう事態だけは避けたい。 だから極力男子に合わせる。男子の気持ちを察する。そう思い込むことに徹し、無意識で男子とつるむようにしていた。自身さえ気をつけておけば、周りはきっと自分を見捨てないでいてくれる。いつまでも気軽に付き合えるかもしれない。
 そう心がけて頑張ってきたはずなのに、気づいたら同性から疎まれ、イジメを仕掛けられ、一番懸念していた事態になった。結局、自分が気をつけたところで、それは自分勝手なだけで、周りには伝わっていなかったのかもしれない。
 流留に告白してきた吉崎敬大、そしてよくつるんでいた男子生徒。今にして流留が思うところによると、普段とは違う視線を感じていたが、そういう思いは一切をシャットアウトしてきた。あくまで自分が大事。相手がどう思っているかなど、考えてこなかった結果が先の出来事。
 細かく考えないようにしていた。そんな思いから逃げても問題ないと考えていた。それが流留の振る舞い方だった。

 影を落とし始める流留に那美恵が遮られていた言葉を続ける。
「ちょっとまってまって。話を最後まで聞いてよ。確かに流留ちゃんがすごく可愛い女の子だから接してたってのあるかもしれない。けどね。三戸くんもそうだと思うけど、今まで男子が流留ちゃんと仲良くやれてたのは、可愛い女の子が自分たちに親しげに接してくれるってだけじゃないと思うの。」
「それって……?」

「流留ちゃんがただ可愛いだけじゃない。趣味やフィーリングが合うから、流留ちゃん自身に魅力が揃ってたからこそ、みんな接してくれてたんだと思う。それが人望とか、そういうたぐいのもの。それが大事なポイントなんだよきっと。普通に可愛いだけだったら、あたしやさっちゃん含め他の女子生徒と同じ接し方しかしなかったはずだよ。」

 流留は那美恵の言葉に頷くなどのリアクションを取ることをせず、ただひたすら耳を傾けている。
「ただね……あなたのお友達関係が男子だけってのはちょっと極端すぎて女子からは良い感情持たれてなかったのかもしれないのは事実だね。ちょっとつらいかもだけど、言うよ。流留ちゃんは、今まで偏りすぎてた。それはハッキリ言える。」
「う……。」若干俯く角度を深める流留。
「あなたの学校生活はあんなことになってしまったけど、これはある意味チャンスだと思うの。」
「チャンス?」
「うん。艦娘部に入るって決めたことも合わせてね。リセットされたって思えば、新しい環境で、新しい交友関係を築けるチャンスなんだよ。ただそのためには、流留ちゃんは一度ちゃんと自分の女子力を磨いておかないと。」
 一拍置いて那美恵は続ける。
「艦娘の世界って圧倒的に女性社会らしいし、今の流留ちゃんにとっては同性と付き合わなくちゃっていうまだ不安があり得る世界だと思うけど、 趣味が合う明石さんや男の人だけど西脇提督がいる。自分の得意分野で艦娘の世界でも交友関係を増やしていくのもアリだけど、もっと同性が憧れる女の子として、自分を磨いて生きたって、誰も何も文句は言わないし、気にしたりしないよ。流留ちゃんにはそれができる、そうあたしは信じてる。自分の魅力を増やして成長することで、今後の学校生活を持ち直せるかもしれない。当然艦娘としても強くなれるかもしれない。これからは男子だけじゃなくて同性、ううん。もっと色んな人にステキな貴方を見せてもいいと思うの。」
 流留は那美恵の言葉を聞く傍から強く噛み締めていた。
“偏っている”
 同性の友達が今までできなかったことから、それは痛感した。けれど、趣味で繋がれるのはどうしても捨てられない。
 自分にとって交友とは何か。女子らしくってなんだ。キャピキャピすればいいのか。いや、さすがにそれは違うのはわかる。
 自分らしく生きた結果が今までの人生ならば、どうするのがこれからのためになる?

 難しい。何かしようにも、女子らしくするための知識も材料も足りなすぎる。
「わかりません。何をどうすればいいのか、今のあたしには。だから……」
「だから、教えてあげる。もちろんあたしだけじゃないよ?五月雨ちゃんたちもいるし、これから入ってくる人たちもいる。流留ちゃんは社交性高そうだから、とにかくいろんな人にガンガンアタックしていくのがまずは大事かなって思う。きっとみんな、親身になってくれるよ!」
「……はい。あーーー!変に小難しく考えるのはあたしの性に合わない! なみえさんの期待を裏切るようだけど、あたしはやっぱ趣味が合う人がいい! まずはそれで切り込んでみて、他の事はそれから考えます。とにかくアタックすることだけはわかりました。」
 片手で髪の毛をくしゃくしゃと乱し、思考をリセットすべく頭を振る。流留は那美恵に今まとめた思いを告げる。すると那美恵はニッコリと微笑んで言った。
「うん、まぁ。切り口はそれでいいと思う。とにかくこれからだから……ね?」
 うっすらと苦笑いを浮かべてはいたが、那美恵は流留の決意たる言葉に相槌を打つのだった。


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「それじゃーつぎはさっちゃんかなぁ。」
 今まで蚊帳の外で話題に入れなかった(というよりも流留の話題だったため入る必要がなかった)幸は、那美恵から急に振られて焦った。すでに神通の制服のインナーウェアを着ていたが、下半身は学校の制服のスカートを脱いでまだ下着という状態である。
「え? え? ……私?」
「そーそー。さっちゃんのことまだなーんも知らないし。わこちゃんからそれとなく聞いてはいるけど、それも全てじゃないだろーからね。本人の口から、きちんと聞きたいでーす。」
「そうですねぇ。さっちゃんのこと色々知りたいな。例えば……どうして艦娘になろうって思ったの? あたしはイジメがきっかけで逃げてきた口だけど。」

 那美恵と流留から畳かけられるように急かされた幸は眉を下げて困惑の表情を浮かべる。二人は期待の眼差しで幸を見つめる。どうしようか迷っていると、那美恵が自身のことを言い始めた。
「まー、さっちゃんだけに言わせるのもなんだから、あたしがどうだったか教えてあげるね。あたしはね、学校のこと、生徒会のことばかりの毎日で飽き飽きしてたんだ。夢だったアイドルになることも毎日の忙しさでぜーんぜん近づけなかったし。どうにかしたいなーって思ってた時に、たまたま雑誌で鎮守府Aの艦娘の募集広告を見つけたの。そしたら、川内と那珂の両方に受かっちゃった。それで、なんか惹かれた那珂になって、今現在も邁進中です!」
 非常に軽い口調で自身の身のうちを明かす那美恵。そして最後の締めの言葉も軽い口調、テンションで発した。

「だから、高尚なこと考えて艦娘になったわけじゃないんだぁ。どお?普通でしょ?てへ!?」
 那美恵の告白を聞いた幸は最後の問いかけには愛想笑いをして返答を濁す。那美恵が艦娘になった経緯を噛みしめるように脳に刻み込む。それなら自分の目的はきっと恥ずかしいものじゃない、この人たちならきっと笑わない、粗相をしてしまった自分のことを一切茶化さずに片付けを手伝ってくれた那美恵たちを、信じて打ち明けても良いかなと幸はそう思い、口を開いた。

「わ、私は……今の自分を、変えたくて……」
 幸ははっきり言ったつもりだったが、自信の無さと不安げな感情が表れてしまい言葉の最後にいくにつれて声がくぐもってしまう。当然最後の方の言葉は那美恵も流留も聞き取ることはできない。
 ただ、二人とも急かすことはせず、期待に満ちた眼差しを向けるのみだ。ひとまず口をつぐんでしまったが、仮にも同じ艦娘という存在になるために集まった者同士。幸は勇気を出して再び口を開けて続けた。
「今までの自分が嫌で嫌で……変えたいと思ったんです。」
 やっとはっきり伝えられた幸の言葉は、少し離れた場所で座っている那美恵にも確かに聞こえた。幸の言葉を聞いて那美恵は具体的な事を聞き出そうと優しく聞き返した。

「自分を変えたくてかぁ。うんうん。なんかわかるよその気持ち。で、どうしてそれが艦娘だったの? 何かきっかけがあるのかな?」
「えぇと。……はい。私は……これといって趣味もないし、運動も得意なわけじゃなくて、得意といえば学校の勉強くらいで。普段の生活で自分を変えられるようなものが……今の生活で思いつかなかったんです。」
 那美恵と流留は相槌を打つ。流留は着替えを進めながらの相槌だ。

「近所で艦娘になったという人がたまたまいまして……その人は艦娘になってお給料がものすごく高くなって、いろんな地方場所に行けるようになって、前のその人とは雰囲気が見違えるようになったんです。うちの近所だけじゃなくて町内でも有名人になるくらいになったんです。」
「へぇ~。じゃあその人に憧れて?」
 那美恵が質問すると、幸は頭を振った。
「はい。その人はもともと明るくて近所でも優しくて気の利く女性だったので、憧れといえば憧れでしたけど……私は別に有名になりたいわけじゃないし、お金ももらいたいわけでもなくて。その艦娘というのが、自分を変えるのに良い方法なのかなということをなんとなく感じたんです。」
「自分を変えたいねぇ~。さっちゃんは口数少ないし何考えてっかわかんなかったけど、結構アグレッシブだなぁ。意外と熱血?」
 流留がそう感想を述べた。それを受けて幸は言い返す。

「そんな……私、そういうつもりじゃ……。」
「自分が嫌だったから変えようと艦娘部の展示見に来て、同調何度も試して合格勝ち取ってここにいる。さっちゃんは今の時点でも十分変われてると思うな。」
 那美恵がそう評価する。それは的確なものであったが、幸の表情は曇ったままだ。
「それじゃ……まだダメな気がするんです。近所の女性のことがすごく印象強かったので、自分もそのように変わりたいんです。私の今までの生活だと無理でも、まったく接点がなかった艦娘になるなら、今こうしている自分もまったく違うものになれるかもと思ったんです。そんな気がするから、今のままじゃまだまだ嫌なんです。」

 饒舌に語る幸の内に秘める思いを知った那美恵と流留。自分らと経緯とやり方は違えど、実は彼女は熱い人物なのだと認識するのにもはや時間がいらなかった。
 幸をフォローすべく那美恵が再び口を開いた。
「そっか。じゃあこれから、自分の思うままに艦娘の世界で動いてみるといいよ。基本的なことはあたしも教えるけど、五月雨ちゃんたちも提督も教えてくれるし、慣れてくればさっちゃんの望みはきっと叶うと思うなぁ。」
 那美恵がそう希望を含ませて言う。そしてさらに続ける。

「でもねさっちゃん。性格から何からなにまで変わる必要ないと思うな。なんていうのかな……自分らしさ? 自分じゃ悪くて嫌だと思っても、他の人からすればその人の良さかもしれないでしょ? まー、それを見極めるのはさっちゃん自身も、あたしたちだけでもダメだろうから、それはのんびり見出して必要なところだけ変えていけばいいと思うよ。」

 幸はコクリと頷いた。
 幸の話が一段落する頃には、流留はすでに着替え終わっていた。あとはベルトを締めてアウターウェアを整えるだけである。一方の幸はこれから橙色のアウターウェアを着るところである。幸が話している間に流留は着進めていた。


--

「なるほどね。二人のことやっとわかってきたよ。あたしたちこれから仲良くやれそうって確信得たよ。なんたって同じ学校の生徒で、なおかつ川内型っていう似たような艦に選ばれた繋がりだもん。これで仲良くできないわけがないよ。ね!ね!そう思わない?」
「はい! なみえさんの言葉、ありがたいです。信じてついていきますよ。」
「……私も、です。」
 流留と幸も、身を乗り出さんばかりの勢いで語る那美恵と同じ気持ちそして確信を得ていた。

 幸も着替え終わり、流留と幸は背格好や体型はやや違えど、二人ともほぼ同じ姿になった。それは、川内型の艦娘の制服のなせる効果である。ここで那美恵も着替えれば3人揃うが、那美恵本人はその日着替える気はさらさらなかった。
 着替え終わった二人の様をマジマジと見る那美恵。着慣れていない感も相まって流留と幸は恥ずかしがっている。
「ハハッ。いざ着替えると、まーだ恥ずかしい感じしますね。なんかコスプレみたい。」
「まだ……しっくりこないです。」
 流留は胸元を隠すように両腕で自身を抱きしめるような仕草をし、幸はもともと引っ込み思案で自信なさげな態度がさらに悪化したように身をかがめて姿勢を悪くしてしまう。
 そんな二人を見て那美恵はフォローするついでに提案をした。
「いやいや似合ってるよ二人とも。これで艤装すべてつければ完璧だけど今日は制服までね。さーて、その姿でいっちょ出歩いてみますか!」

「えっー出歩くの!?なみえさんに見せたからもういいんじゃないですか!?」
 流留が拒否を訴え出ると幸もコクコクと素早く頷く。しかしそんなわがままを許す那美恵ではない。那美恵がニンマリと嫌らしい笑顔になっていくのを流留と幸は見てしまった。
「あたしだけ見たって仕方ないじゃん。ホントは提督に見て欲しかったけどいないし、せめて五月雨ちゃんには見てもらお? ほらほら、試着なんだからフィット感を秘書艦さまにお伝えしないといけないでしょー?」
 那美恵は流留と幸の手を引っ張った。着替えも終わり、見せに行かなければならない。気恥ずかしかった流留と幸だが、やや諦めの表情を浮かべ引っ張られるがまま、那美恵に付き従って更衣室を後にした。


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 再び執務室に来た3人は早速中にいた五月雨に、流留と幸の川内と神通としての姿を初お披露目した。入ってきた3人の姿、特に流留と幸の姿を一目見て沸き立つように五月雨は席から立ち、跳ねるように机を迂回してトテトテと駆け寄ってくる。
「うわぁ~!すごく似合ってます! 那珂さんもよかったですけど、お二人もいいですね~。」
 二人の艦娘の正装の様を喜び素直に褒める五月雨。
「寸法は大丈夫ですか?なんかあったら測りなおして制服直してもらうので遠慮せず言って下さいね。」

 流留と幸は服をところどころクイッと引っ張ったりだぶついたところ、きついところがないかどうかをひと通り確認する。
「うん。大丈夫かな。」
「私も……大丈夫です。」
「二人ともこれでバッチリ~」
 那美恵が二人の背中をポンと叩きながら一言念押しした。

「それじゃあ写真とろ?五月雨ちゃんも入ってさ。」
 那美恵はそう言って学校のブレザーのポケットに入っていた携帯電話を取り出して流留たちにプラプラとかざして見せる。二人ともそれぞれの友人に見せる約束をしていたので快く承諾した。
 流留だけ、幸だけ、流留と幸、那美恵・流留・幸、五月雨・流留・幸、4人は思い思いの組み合わせで写真を撮った。

「よーし。満足ぅ~。」
「なみえさん。あとであたしの携帯にも写真送っといてくださいよ?」
「あ……あの、私もお願いします。」
「あ、那珂さん。私にもください!」
「おっけぃおっけぃ。それじゃあ早速送っちゃうよぉ~。」
 そう言って那美恵は流留、幸、五月雨3人のメールアドレスにさきほど撮った写真を添付して早速送信した。流留と幸は携帯電話を更衣室に置きっぱなしのためすぐには確認できなかったが、五月雨は秘書艦席の上に置いてあったためすぐにピロロロと通知音が鳴り、写真を確認できた。

 写真を送った那美恵は流留たちを連れて更衣室へと戻ろうとしたが思い出したことがあるので扉の手前で立ち止まり方向転換して五月雨に問いかけた。
「あ、そうだ五月雨ちゃん。一つ聞いていい?」
「はい。なんですか?」
「あのね、二人の着任式にみっちゃんたち、つまりうちの高校の生徒会のメンバーも参加させたいんだけど、ダメかな? 記念に同席してもらいたいんだけど……。」
 那美恵から問い合わせを受けて五月雨は数秒考え込んだ後答えた。
「わかりました。提督にあとで確認しておきます。多分大丈夫だと思いますから、中村さんたちには先に連絡しておいてもらってかまいませんよ。」
「おぉ! さすが秘書艦さんだ~頼もしいぜぃ~。」
「エヘヘッ。那珂さんに頼られるってなんだか嬉しいですっ!」

 那美恵の言葉を額面通り素直に受け取り、素直に満面の笑みで喜ぶ五月雨。茶化し混じりの五月雨への言葉は、彼女の自尊心を満足させるものになった。
 聞くものも聞いたので那美恵たちは五月雨に別れの挨拶をし、流留と幸を連れて更衣室へと再び案内した。途中にある艦娘の待機室に寄ろうと奈美恵は思ったが、もし全員いようものなら今日中に二人の制服姿を見てしまうことになり、着任式の楽しみを減らしてしまう可能性があるためあえて寄らずにまっすぐ更衣室へと戻った。
 当初の恥ずかしさはどこへやらと、騒ぎたい気分になっていた流留が案の定寄ろうと言い出したが、那美恵は彼女の要望を却下した。


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 更衣室に戻る途中、唯一会ってしまったのは夕立こと立川夕音だ。ちょうど女性用トイレから出てきたところを那美恵たちは見つかってしまった。

「あーー! 那珂さんのお友達が制服着てるー!」

 指さしながら夕立は大声で叫んで小走りで那美恵たちに近づいてきた。那美恵はそれを人差し指で内緒の仕草をしながらそれ以上叫ばせるのを静止する。
「夕立ちゃん!しーっ!しーっ!みんな来ちゃうでしょ!?」
「え~、別にいいじゃん!川内さんと神通さんになるんだっけ?カッコいいっぽい~!那珂さんもよかったけど二人とも決まってるよ!」
「アハハ。ありがとう、夕立ちゃん。」
「あの……ありがとうございます。」

 流留と幸は苦笑しながらも感謝を述べる。一方の那美恵はこれ以上知られてしまうとまずいとヤキモキしながら夕立に説明する。
「あのね夕立ちゃん。流留ちゃんとさっちゃんのこの姿さ、みんなには着任式の日に見てもらいたいの。今この場で見ちゃうとさ、みんなの楽しみが減っちゃうでしょ?」
「え~そうかな~?あたしはいいものは何回見ても楽しめるっぽい。気にしないよ?」
 夕立は思ったままのことをスパスパ口に出す。が、それは那美恵の思惑にはそぐわない。
「夕立ちゃんが良くても、他の人は違うかもしれないでしょ? あたしは皆を驚かせたいの。だから皆にはまだ内緒ね?」
「うー。まぁ那珂さんがそこまで言うならわかったっぽい。」

 口では理解したことを言っても、頭では納得いってない様子の夕立。那美恵は夕立が本当にわかったかどうか不安になったがとりあえずよしとしておいた。
「それじゃあ二人を連れて行っちゃうから、夕立ちゃん、また今度ね。」
「はーい。」
お互い手を振ってそれぞれの場所に歩を進めて別れた。


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 更衣室に戻った3人は誰が早いか、大きく息を吐いて安堵の表情を浮かべあう。
「はぁ~なんかどっと疲れちゃった。」と那美恵。
「それはあたしらのセリフですよ。たった二人とはいえ、違う学校の子たちに艦娘の制服姿見られるなんてドッキドキでしたよ~。」
 幸もコクコクと連続して頷いて流留の意見に賛同した。
「でも見られることの練習にはなったでしょ?」
「あ~まぁそれはそうですけどね。」
 那美恵の指摘はズバリ当たっていたので歯切れの悪い言い返し方で反応する流留。

「あたしの計画ではまずは提督と五月雨ちゃんに見てもらって、他の子たちには着任式の時に初めてすべて見て知ってもらうっていう考えだったの。」
「はぁ。あたしはどっちでもよかったですけど。」
「私は……見られるのは一回で済ませたい……です。」
「結果的には提督じゃなくて夕立ちゃんに見られちゃったんだけど、あの子結構口軽いらしいから、ちょっとだけ心配なんだよねぇ。」
「いいんじゃないですか?どのみちもうすぐ見られるんですし。」
「あたしにはあたしの考えがあるんだけど……流留ちゃんたちがいいって言うならいいや。」

 那美恵が納得の意を見せたので、流留と幸は艦娘の制服を脱ぎ、ロッカーに閉まってある学校の制服を取り出して着替え始めた。
 夏本番の夕方。日は少し落ちたとはいえ暑さは辺りを支配している。更衣室内はさきほど那美恵たちが来た時にエアコンを付けておいたので涼しく快適だったが、廊下を歩いている間に那美恵たちは汗をかいてしまっていた。

「汗かいちゃったし、今日どこか寄って涼んでく?それともまっすぐ帰る?」
「なんか飲んで帰りたいですね~。さっちゃんはどう?」
「私も、賛成です。」
 二人の賛同を得られたので、那美恵は号令をかけた。
「よっし!じゃあ着替え終わったら途中のファミレスに寄っていこー!」
 流留と幸が着替え終わった後那美恵は執務室にいる五月雨に一言行って鎮守府を発ち、途中にある、普段鎮守府Aの面々がよく使うファミリーレストランで30分ほど飲みながら涼んで3人はそれぞれの家へと帰っていった。

着任式当日

着任式当日

 着任式当日になった。その日は土曜日だ。土曜が休みの学校もあるのだが、那美恵たちの高校は土曜日も授業はあり半日で終わる。授業が終わると同時に同じクラスにいた那美恵と三千花は帰り支度を素早く済ませて生徒会室へと向かう。
 前日までに阿賀奈や1年生組全員に連絡を済ませていたので、生徒会室でしばらく待つことにした。


「いよいよだね、川内と神通の着任式。先輩としてはいかがですか?」
 三千花が珍しく茶化すようにマイク代わりのげんこつを那美恵の口元に持って行き尋ねる。
「ん~そうですね~。あたし主役じゃないけどドッキドキですよ。初同調したときのように恥ずかしいことになったらどうしよーとか思っちゃってますよ。だからみっちゃん、側にいてぇ~!」
 くねくねしながら今の気持ちを口にすると、最後に那美恵は三千花に抱きついた。
「あ゛~暑い! 真夏に抱きつくんじゃない!」
 ペチン!と那美恵のおでこはいい音を立てた。

 しばらくすると三戸が入ってきた。
「お疲れ様っす~。」
「三戸くん~1年生組だと君が一番乗り~!」
「うおっまじっすか! なんか本人たちよりワクワク楽しみにしてるみたいだなぁ~俺。」
 後頭部を頭をポリポリと掻きながら三戸は生徒会室に入り、那美恵たちの向かいの席に行ってバッグを置いて座った。
「いいんじゃない?外野が盛り上げたほうが内田さんたちも喜ぶわよきっと。」
「そーそー。あと三戸くんは提督を除いた唯一の男子なんだから、頑張って盛り上げてくれないと!」
「俺責任重大じゃないっすか!!」
 三戸と那美恵・三千花が冗談を言い合いながらしゃべっていると、続いてその数分後には和子・流留・幸が生徒会室に入ってきた。

「お疲れ様です。あ、三戸くん、先に来てたんですね。」と和子。
「おっつかれ~。おぉ、三戸くんもう来てるし。はや~。」流留は胸元をパタパタさせながら入ってくる。
「……お疲れ様です。」
 最後に入ってきた幸は至って涼しい顔をさせて一言言い、生徒会室の戸を閉めた。
「あとは……四ツ原先生が来れば皆揃って出られるね~。」
「少し待ってましょ。」と三千花。

 那美恵たちは生徒会室でそれぞれ適当に時間を潰した。


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 開けた窓の側に立って風に当っていた三戸が流留や幸に話しかけた。流留たちは椅子に座っている。

「そういえばさ、内田さんと神先さんの艦娘姿、バッチリ見たよ。いや~眼福眼福。」
 やや下心ありな目線で流留たちを見る三戸に流留が反応した。
「どう?カッコ良かった?あたし決まってた?」
「うん。カッコ可愛いって言えばいいのかな。とにかくグッとキたよ。」
「う~可愛いって……あたしはカッコいいほうが~。」

 可愛いと言われ慣れていないのか、流留は三戸からの評価に鈍い反応しか見せない。その表情には照れなどは一切含まれていない残念そうな表情。三戸は彼女の反応を見て付け足す。
「あーいやいや。どっちかっていうとカッコいいと思うよ。あとは艤装フル装備した姿見てみたいなぁ~。絶対カッコいいよ!」
「それいいね! どうせならその姿見てもらいたいなぁ。」
 三戸の方を向いていた流留が正反対の位置にいる那美恵に視線を移して那美恵に言った。
「ねぇなみえさん。着任式終わったら艤装全部装備して海出られるのかな?」
「うーん。どうだろう。提督に言えば出させてもらえるんじゃないかなぁ。記念の日だし、それくらいは許してくれると思うよ~。」

 回答ともつかない那美恵からの想像を聞いた流留は三戸の方を再度向いた。
「三戸くん!もしOKもらえたら、フル装備川内になったあたしをちゃーんと撮ってよね?」
 ウィンクをして三戸にお願いをする流留。三戸はそれを受けて親指を立てて了解のサインを送った。
「うん。OK! 任せてくれよ。」


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 三戸たちが話しているその端で、和子と幸は静かに話していた。二人の話題もやはり先日撮った幸の神通の制服姿やこの後の着任式である。

「さっちゃんどう?今ドキドキしてる?」
「……うん。それなりに。」
「そっか。そうそう、さっちゃんの神通の制服姿、なかなか可愛かったよ。」
 幸は無言でコクコクと頷いた後ぼそっと呟いた。呟いたその表情には密やかな笑みがあった。
「……ありがとう。」

「さっちゃんさ、どうせ普段と違う格好になるなら髪型変えれば? 前髪煩わしくない?」
 和子からの指摘を受けて、長い前髪で隠れて見えづらい表情を悩み顔に変化させて数秒悩む。前髪で隠れてなくとも和子以外の人にはその表情から感情は見えづらい。

「でも私……流行りのヘアスタイルわかんないし、多分似合うのなんてないよ……。」
「そんなことないと思うけどなぁ。ちょっとゴメンね?」

 和子は一言断って、幸の顔に両手を近づけ、彼女の顔の左右にかかっていた前髪をそうっと優しくかき分けて顔のすべてを外に出す。幸の素顔が露わになった。
「前髪をこうやってはねるようにパーマ当てるだけでも違うと思うな。私もあまりヘアスタイル詳しいわけじゃないからこれくらいしか言えないけど……。あとは会長や内田さん、鎮守府にいる他の艦娘の人たちに意見求めれば似合う髪型探してくれると思うよ。」
「……うん。」
「思い切ってイメチェンしちゃえば一気に変われるよ。頑張ってね。」
「……ありがと、和子ちゃん。」

 ほのかに周囲を花が舞い散ってそうな雰囲気でおしゃべりをする幸と和子。その二人を少し離れた場所で見ていた那美恵は三千花に小声で話した。

「さっちゃんってば前髪上げると印象すっげー変わるね!?」
「そうなの?」
「さっきわこちゃんが彼女の前髪クイッと手櫛で分けてたのちらっと見たの。そしたらすげー可愛いの!」
「へぇ。……ってあんた三戸くん並に興奮してるわね。」
 やや興奮気味になっている那美恵に突っ込んだ。

「あんたは漫画かドラマのヒロインかよ!って話っすよ、みちかさんや。根暗な少女が突如イケイケの美少女にって。」
「あんた……テレビの見過ぎ。そしてさりげなく悪口言ってるわよ。まあでも神先さん自信なさげなのは仕方ないとしても、前髪くらいきちんと分けたらいいのにね。」
「そーそー。さっきちらっと見たさっちゃん、かなりイケてそうなのにもったいないよ。なんとか口説いて食べちゃいたいくらい。」
 そのセリフを那美恵が言うと、また那美恵のおでこがペシリといい音を立てて叩かれた。
「だから、そういうおっさん臭い茶化しはやめなさいっての。」
「うぎぃ。でもホントに可愛かったんだよぉ。でもね、お胸の大きさはあたしが勝ってるんだよ?」

 その一言に三千花がやや引き気味で那美恵に向かって呟きそして詰め寄った。
「あんた……彼女に何したの? てか何見てるのよ!?」
「誤解だぁ~。ただ鎮守府で着替えてる時に見てただけなんだよぉ~。」
 弁解をする那美恵を三千花はおでこを指で押しながら問い詰める。
「なみえのことだから見ただけじゃ終わらないでしょ。何したの?」
 両手を目の前でブンブン振って否定する那美恵に対して疑いの視線を返す三千花。那美恵が次に言うセリフにまたも引くことになる。
「さっちゃんに対しては何もしてないよ。流留ちゃんは胸大きかったので思わずおっぱいにズームインしてしまいました、はい。」
カメラで覗きこむような感じで那美恵は流留の代わりに三千花の胸を凝視した。
「……あんたは……。」

 三千花が呆れ顔で力なくツッコむと、向かいの席にいた流留が少し頬を赤らめて那美恵たちの方を見ていた。那美恵の声が大きかったので普通に聞こえていたのだ。さらに窓際にいた三戸もなぜか顔を赤らめていた。彼は気まずそうに那美恵と流留に視線を行ったり来たりさせている。
「なみえさーん?いくらあたしとはいえ男子のいる前で自分の胸の話されると恥ずかしすぎて嫌なんですけどぉ~!?」
「ア、アハハ……そーだよねぇ~。」
「まったくもう!なみえはへんなとこ無神経だよね! そういうところこれから気をつけなさいよ?」
「はーい……気をつけます。」

 流留の代わりに那美恵を叱責した三千花は軽いチョップを当ててその場を締めた。
 なお三戸は那美恵の発言を反芻しようとして流留にキッと睨まれて咎められた。女子同士のそういう開けっぴろげな話に慣れてはいない流留。男子とそういうネタ話をするほど心許してベッタリしていたわけでもなく、三戸にそういう目で見られたら今後どうしていいかわからないのだった。


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 20分少々那美恵たちが生徒会室でしゃべっていると、那美恵の携帯にメールが来た。阿賀奈からだ。
「お、四ツ原先生からだ~。なになに?出られる準備できたけどどこかで集まるの?だってさ。ここに来てもらっていいよね?」
「いいけど、職員室は1階でしょ?だったら私達がここ出て下駄箱に行けばいいんじゃない?同じフロアなんだし。」
「そーだね。じゃあこっちから行くって伝えとく。」
 那美恵が一旦提案するが、それを三千花が現在の状況を踏まえて対案を出す。那美恵はそれに従うことにした。那美恵がメールを送信し終えたことを三千花らに伝えると、それぞれ出る準備をし始めた。

「よっし。じゃあいこっか。」

 那美恵の一言で6人は生徒会室から廊下に移動し那美恵が鍵をかけたのを見たのち、1Fにある下駄箱へと向かった。下駄箱に着くと、職員用の下駄箱の側に阿賀奈が立っていた。那美恵たちをその場で待っていたのだ。

「あ、来た来た。光主さん!みんな!」
「先生、お待たせしました~。」
「この7人で行くのね?」
「はい。」
「じゃあ光主さん、鎮守府まで案内してね!」

 那美恵と阿賀奈のやりとりを確認すると、途中で他のメンツは先に下駄箱まで移動して靴を履いて校庭へと出始めた。ほんの少し遅れて那美恵と阿賀奈も校庭へと出て残りの5人の集まっている場所へと姿を表す。


 高校から駅までそれぞれ思い思いの会話をしながらの道中。三千花は那美恵に着任式のスケジュールを確認した。
「ねぇ、着任式って今日の何時から?」
「えーっとね。えーっとぉ……」
「14時からだよ!」
 那美恵が答える前に答えたのは阿賀奈だ。
「先生ちゃーんと覚えてるんだから、ね?」
「さすがですねー先生。あたし時間のことはすっかりど忘れしてましたよ~。」
「先生に感謝しなさいよね、なみえ。」

 阿賀奈が先生らしいところを見せようと発言し、那美恵が本気が嘘か判別しづらいボケをかまし、最後に三千花が親友にツッコミを入れる。
 そんな光景が展開されているその後ろでは、1年生組の4人がしゃべっている。三戸と流留は最近のゲームの話題を明るく弾むような口調でやりとりし、和子と幸は身の回りの雑多な話題をひそやかな声と口調で穏やかにしゃべりあっていた。


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 のんびり歩いて駅についたのは13時。電車に乗っている時間ととなり町の駅から鎮守府Aまでの徒歩の時間を合わせると30分程度かかる。そのためお昼を食べるにはもう早くはないが、遅すぎるという時間でもない。絶妙な時間だ。

「みんな、お昼どうしよっか?」那美恵が全員に聞いた。
「あー。なんだかんだでもうこんな時間ですよね。どっかで食べていきます?」
 流留が真っ先に提案した。
「とりあえず提督にお昼適当にするって連絡しておくね。」
 そう那美恵は言って提督に向けてメールを送った。

 一行はちょうど来る頃だった電車に乗り込み、のんびりと揺られていく。途中で那美恵の携帯に通知が届いた。那美恵はバッグの外ポケットから携帯電話を取り出してスクリーンを見ると、提督からのメールだった。
「あ、うーんとね。みんないいかな?」
「どうしたの?」
 隣にいた三千花が那美恵の声に振り向いた。
「あのね。着任式が終わったら、鎮守府に所属する艦娘全員揃って懇親会するらしいから、お腹すかせて来いだって。提督からのメール。」
「西脇さん太っ腹ね。じゃあお昼は食べないでも大丈夫なのかな?」と三千花。
「へぇ~艦娘みんな揃うんですね。楽しみだなぁ~。」
 流留は素直な期待を述べる。それに賛同するかのように幸もコクリと頷く。

「全員! ということは夕立ちゃんこと立川さんも来るってことっすよね? うおぉ!!」
「まーた三戸くんは……。そんなに夕立ちゃんのこと好きなんですか?」
 艦娘全員と聞いて自身の勝手な欲望をたぎらせる三戸、そんな彼に和子が突っ込んだ。和子のジト目付きのツッコミを受けて三戸は慌てて弁解する。
「いや~好きっていうか、パッと見た目清純でお嬢様っぽいのに、口ぶり幼くてアホの子っぽくてなんか妹みたいというか、ペットとして欲しいっていうか……」

 弁解になっていない三戸の発言は和子だけでなく、和子の隣にいる幸、そして三千花をドン引きさせた。3人共ジト目で三戸を睨みつけている。那美恵と流留はその発言にプッと吹き出しケラケラ笑っている。彼の考えていることなどお見通しといった様子だ。
「三戸くん……あなた先生いる前でよくそこまで言えますね……。」
「え?あぁ!あがっty、四ツ原先生いたんだっけ!」
 和子の指摘にハッと気づく三戸。教師がいることを本気で忘れていた。当の阿賀奈本人は生徒たちの集団から少し離れたところをポケーっと立っていたため、よくわかっていない様子で三戸に言った。

「へっ、三戸くんはその子が好きなのね!わんこっぽくて?わかったわ先生応援したげる!仲取り持ってあげるわ!」
「ああああぁ~先生!冗談っすから真に受けないでくださいよ~!」
 三戸は阿賀奈の不穏なやる気の方向性に最大限の危機を覚えたのですぐさま阿賀奈に詰め寄る仕草をしてその場で弁解し直した。が、三戸の言葉を受けてもなお無駄に食い下がろうとする阿賀奈はその後も2~3問答やりとりしてようやくおせっかいを諦めた。


「三戸くんは好きな娘がたくさんいて面白いね~。」
 最後に那美恵が一言で茶化した。



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 わずか数分間の電車内でのやりとりが終わる頃にはとなり町の駅にまもなく到着する頃だった。那美恵は6人を案内すべく先頭に立って歩く。時間があればのんびり歩いていくことも問題ない距離だが、この日は途中バスを使い、最寄りの停留所で降りて鎮守府までの道のりを徒歩で進んだ。

 13時をすぎて日中まっただ中。湿度は少なく、カラッとした暑さと照りつける太陽の光が一行の体力を奪う。ほぼ無言で歩みを進めていた一行だが、それなりに会話をする。

「そういえばまだ鎮守府に来たことないのって、先生だけなんだっけ?」
 那美恵の何気ない疑問を受けて阿賀奈が答える。
「そうね。私一度も来たことないわ~。今回が初めてよ!」
「そうですか~。じゃあぜひのんびり見学していって下さい!」
「そうさせてもらうわ~。けど夏じゃなければゆっくり見るんだけどね~。こうも暑いと建物の中入ってゆっくりしたいわ~。」
「アハハ。じゃあ室内だけでも。」

 ふと、三千花が阿賀奈に尋ねた。
「そういえば、先生って職業艦娘の試験受けに行ってどうなったんですか?合格して艦娘にならないとまずいのでは?」
 三千花の質問に待ってましたとばかりに、阿賀奈は目を輝かせて素早く反応した。
「んふふ~。よくぞ聞いてくれました!先生ね~いつ言おうかな~って思ってたけどタイミング掴めなくてね~。」
「え?え?え? 先生何に合格したんですかぁ!?」
 先頭を歩いていた那美恵が振り返って阿賀奈に詰め寄って尋ねる。

「聞いて驚かないでよ~。先生ねぇ……なんと! 軽巡洋艦阿賀野に合格しましたー!」
「「「「「「おぉーー……お!?」」」」」」

 6人ともとりあえず驚いてはみたが、全員?な表情で顔を見合わせる。誰が口火を切ろうか迷っていたところ、6人の心境をズバリ那美恵が口にする。
「先生、その……軽巡洋艦阿賀野ってなんですか?」
「え? え……と。えーと。えーとね? んーーーーー。先生もよくわからないの。」

「わからないんかぃ!」
 先生なのにもかかわらず那美恵は阿賀奈の肩を軽く叩いて鋭いツッコミを入れた。
「一般の人でも知ってそうな艦の艦娘って募集されてなかったんですか?」
 三千花もツッコミを入れる。
「え~だってだって~。他の艦娘の募集もあるにはあったの。戦艦っていう艦娘の艤装の試験。でも戦艦ってなんだか怖そうだったしぃ、軽巡洋艦ならなんかふわふわ軽くてなったら楽しそうじゃない?」

「えー……?」
阿賀奈以外全員、呆れたという面持ちで微妙な反応しかできないでいる。当の阿賀奈は生徒の反応なぞ気にせずウィンクをして続けた。
「それに名前もなんだか私の阿賀奈とすっごーく似てるし。それでね、軽巡洋艦阿賀野の試験受けることに決めたの。」
 試験を受けて合格してくれたことは嬉しく思う那美恵たちだが、正直反応に困る艦だった。


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 那美恵達の時代ともなると、第二次大戦などのことは一部を除いてほとんど全く一般人からは忘れ去られている。戦後も110年経つと、国民の意識もその手を狂信する輩も表面上はほとんど一掃されていた。那美恵たちの時代から遡ること40~50年前のことである。
 それは一部の国が崩壊したり国同士の完全な手打ちが決まったことで、敗戦した国、勝利した国という意識付けから、過去そういう歴史があっただけの普通の国という意識に変わった影響でもあった。領土問題等はあいかわらず残る地域もあったが、それらの一部はその後深海凄艦が現れて甚大な被害を受け、支援した国がかつて自分らが侵略した国だったということで、新たな関係が築かれることになる。
 当時の軍事に関することは、150年以上昔のものとなると機密でもなんでもなく、ただ歴史上ある時点に存在した武器・乗り物にまつわる情報でしかなくなった。かつては軍艦をネタにしたテレビ番組や漫画・ゲームもあったが、時代が中途半場に古くなり、各メディアでもほとんど全く取り上げられなくなった。

 艦娘制度という独自の体制下で軍艦の情報が取り上げられたのは、那美恵たちの時代からさかのぼること20年近く前のことで、世間的には久しぶりとなっていた。化け物に対抗するために特殊な機械を装備して戦う人たち。海で戦うことになる彼ら・彼女らの装備する武装とコードネームとして旧海軍の軍艦・海上自衛隊の護衛艦と同じ流れで名前をつけたのは、艤装の元になった技術Aを研究し、世界に先駆けて人間サイズの艤装を開発して世に送り出した日本の技術者集団だった。彼らのなかに軍事オタクあるいは海自の関係者・研究者がいたのだ。
 そんなごく一部の人たちや、一般人の軍事オタクやゲーム等で知る機会がなければ知らぬ旧海軍の軍艦名を使った艦娘の存在は、この時代の人間にとっては完全に未知の存在であり新鮮そのものだった。


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「ち、ちなみにその戦艦ってなんっていう名前だったんすか?」
「あ!あたしもそれ気になります!」
 三戸が興味ありげに阿賀奈に聞き、流留もそれに乗る。それを受けて阿賀奈は右頬に指を当てて眉をひそめながら必死に思い出し、その名前を口にした。
「確かね、戦艦大和っていうのと、戦艦扶桑っていうの。」


「「ええーーーーー!!?戦艦大和!?」」
 さらりと言い流した阿賀奈の発言を聞き逃さずに取り上げたのは、三戸と流留だ。

「三戸くん。大和って……だよね?」
「うん。あれ。」

 小声でひそひそ話しあった流留と三戸は再び阿賀奈の方を向いて彼女にツッコミをしたのち説明し始めた。
「先生。すっげーもったいないっすよ!艦娘の大和が軍艦のほうと同じかどうかわからないっすけど、元にしてるんなら絶対最強の艦娘でしょ!?」
「そうそう。あたしも三戸くんも艦隊のゲームやったことあって知ってるから言えるけど、大和になってたら間違いなく先生英雄ですよ。ヒーローですよヒーロー!」
「え?そーなの? ……そんなこと言われると先生なんだかもったいないことしたみたいじゃないのぉ……。」

 盛り上がる三戸と流留をよそに那美恵たちはその状況にいまいち乗り切れていない。
「日本史の授業で大和って聞いたことはあるけど、そんなにすごいんだ。へぇ……。」
「なみえすっごく興味なさそうだよね。」
 白けた顔で那美恵は三戸と流留をぼーっと眺めている。そんな親友の隣で同じくいまいち興味なさげな表情で冷静にツッコむ三千花がいる。
「うん。ぶっちゃけ興味なし。」
「ホントにぶっちゃけたわね。まぁ私もあまり興味ないから同じだけど。」

 和子も幸も同様の様子だったようで、無表情になっていた。

 興味ない那美恵だが、艦娘の事情を踏まえてなんとなく思ったことを口にする。
「でもさ、戦艦大和がすごい船だったなら、職業艦娘で戦艦大和もすごそうだよねぇ。」
「そういうものなの?」
 三千花が尋ねた。

「いやわかんないけど。性能がすごいならそんな艤装は燃費もすごそうって話。それに担当する人もめっちゃ高給取りになりそうじゃない? もし先生がそんな艦娘になってたら、維持も大変そうだし、うちの鎮守府の予算使い果たして破産するかも~。提督ショック死しちゃったりぃ?」
「あぁそういうことね。確か職業艦娘って給料出るんだっけ。」
「そうそう。先生は儲かるけど、我らが西脇提督の胃はきゅ~っとなっちゃうかもね。」
 艦娘の展示を経てある程度事情をわかっている三千花が那美恵に確認混じりの相槌を打つ。那美恵は親友の反応に対して、普段誰かをからかうときにするようないやらしい笑顔で頷いた。

 一行が鎮守府Aに辿り着いたのは、13時を20分回って少し経つ頃だった。

着任式直前

 鎮守府Aの本館に着いた那美恵たちはひとまず暑さを逃れるため早々にロビーに入った。那美恵は提督を呼ぶために執務室へと向かった。この日の主役である流留と幸はどうすればいいのか手持ち無沙汰でボーっとするか、友人たちと雑談するしかなかった。
 那美恵が行こうとすると、阿賀奈が呼び止めた。
「ちょっと待って光主さん。挨拶しなくちゃいけないから先生も一緒に行くわぁ。」
「はい、お願いします先生。」

 5人を待たせて那美恵は阿賀奈を連れて執務室へと向かった。3Fに上がり執務室の扉をコンコンとノックをすると、男性の声でどうぞを聞こえてきた。那美恵と阿賀奈は丁寧に「失礼します」と断って扉を開けて執務室に入った。
 するとそこには提督、五月雨、妙高の3人が揃っていた。
「お、光主さんいらっしゃい。」
「提督、みんな連れてきたよ。連れてきてよかったんだよね?」
「あぁもちろんだよ。」
「提督さん!ご無沙汰しております。○○高校の教師の四ツ原阿賀奈です。この度はうちの生徒がお世話になります!」
「四ツ原先生、ご無沙汰しております。その後はいかがですか?職業艦娘のほうは?」
 阿賀奈は待ってましたと言わんばかりに、先ほど那美恵たちに見せたそのままの反応で提督に向かって示した。
「うふふ~。やっぱり提督さん気になります?なりますよね~?」
「へっ? えぇまあ。そりゃあ学校提携で必須のことですし。」

 一瞬たじろぐ提督。その様子を見て阿賀奈は満を持してとばかりに大きめの声で提督に伝えた。
「実はですね、この度軽巡洋艦阿賀野に合格しましたー! いかがですか、提督さん!?」
「おぉ!?軽巡洋艦ですか! いいですね、軽巡洋艦の艦娘。一人でも多く欲しいところなんですよ。」
「ホントですかぁ!?」
「はい。うちに阿賀野の艤装が配備されたら、先生に真っ先に連絡致します。楽しみにしていてください。」
「はい!! 楽しみに待っています!」

 最初から最後までハイテンションで提督に向かっていった阿賀奈。本人としては提督が驚き、期待を込めてくれたので満足も満足。大満足なのであった。
「本当なら四ツ原先生も艦娘として着任できれば完璧だったんだけど、阿賀野はうちにはまだ配備されないので今回は生徒さんだけということで。」
「それは全然かまいません!まずはうちの生徒をよろしくお願いいたします!」
「こちらこそ、これからお力を借りるのでよろしくお願いいたします。」

 提督と阿賀奈は社交辞令的な言葉を交わし合う。秘書艦の五月雨と妙高は提督の後ろでその様子をにこやかな表情で眺めていた。


--

「それでは内田さんと神先さんには着替えてもらって、艦娘の待機室に行ってもらって下さい。今日はうちの鎮守府の艦娘たちは全員揃ってますので、時間までは皆と自由にしてもらってかまいません。」
「わかりました! 光主さん、みんな連れていきましょう!」

 阿賀奈は提督からこの後の流れを聞いた後、那美恵に向かって指示を出した。那美恵は快く返事をする。
「はーい。先生も一緒に行きましょうよ~。みんなを紹介しますよ?」

 那美恵が阿賀奈に一緒に行こうと提案したが、それを提督が一旦制止した。
「ちょっと待って。四ツ原先生にはこの後ちょっと話があるから、ここに残ってほしいんです。」
「え?私にですか?なんですか?」
「今後の御校との連携についてお話しておきたいことがあるので。」
「あ~。わかりました!私も教師ですから、それなら仕方ないですね~。」

 阿賀奈から了承を得た提督は上半身の向きを変えて五月雨と妙高に向かって指示を出す。
「五月雨、君は一緒に待機室に行って時雨たちを連れてロビーで着任式の準備をしてくれ。着任証明書とか、台を持って行ってほしいんだ。」
「はい。わかりました。」
「妙高さんは着任式の後の懇親会の準備を進めておいていただけますか?手伝っていただいてる大鳥さんは今って……」
「はい、承知いたしました。大鳥さんは娘さんと一緒に必要なものの買い出しに行ってもらってます。もう少ししたら戻ってくると思います。」

 提督と妙高が触れた"大鳥さん"。那珂はその人達のことを知らなかったので五月雨に小声で聞いてみた。
「ねぇねぇ五月雨ちゃん。」
「はい?」
「大鳥さんってどなた?艦娘?」
 五月雨は頭を横に振って返した。
「いえ。妙高さん…黒崎さんのご近所の方です。うちが出来た当初から黒崎さんと一緒に何かとお手伝いをしてくださってる人です。」
「へぇ~そうなんだ。」

 そう言って那美恵はクスっと笑った。
「どうしたんですか?」と五月雨。
「ううん。なんだかここって、バリバリ戦闘する鎮守府じゃなくて、ご近所さんとも付き合いがあるアットホームなところだなぁって思ってさ。」
「あ~そうですよねぇ。」
「戦いから帰ってきた艦娘が癒やされる場所って感じがしそう。好きかも。」
「私も好きな雰囲気です。」

 クスクスっと笑いあった後、那美恵と五月雨は提督に一言告げて執務室を後にした。


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 ロビーで待っていた三千花たちはしばらくして五月雨と一緒に来た那美恵が視界に入ったので声をかけた。
「あ、五月雨ちゃん。こんにちは。」
「はい!中村さん、皆さん。こんにちはー。」

「みんな、これから待機室行くよ。その前に流留ちゃんとさっちゃんは先に更衣室行って制服に着替えてきて。あたしも後で行くから。」
「「はい。」」
 那美恵は流留と幸に指示を出して二人を先に行かせた。

 その場には那美恵と三千花ら生徒会メンバー、そして五月雨だけとなった。
「あのさ、なみえ。私達も?」
三千花が当然抱く質問を聞いてきた。
「うん。みっちゃんたちも待機室へどうぞってこと。もちろん唯一男子の三戸くんもOKだよ。」
「うおっ!?俺もマジでいいんすか!?艦娘の花園…みなさんがいらっしゃる素晴らしい場所へ?」
「会長。私達はいいとしても三戸くんはまずいのでは?興奮止まらなそうですよ?」
 全員心配した点は一緒だが三戸は興奮し、和子は興奮している隣の黒一点を心配にプラスして那美恵に訴える。

「さすがに三戸くんだけハブってここにいさせるのもかわいそうでしょ?それに三戸くんには書記として着任式の撮影もしてほしいの。おっけぃ?」
「は、はい。」
「それから今回三人とも初めて会う艦娘もいるから、ちゃーんと挨拶してね? うちの高校として恥ずかしくないように。いい?」
「わかりました!」

 三戸の威勢のよい返事を聞き、那美恵たちは艦娘の待機室へと足を運んだ。三千花と和子はなんとなく不安を持ったが、那美恵が問題なしとふんだので100%ではないがとりあえず納得して了承した。


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 流留たちは更衣室へ着替えに行っているため途中で那美恵も入り、自身も着替えていくから五月雨に三千花らを連れて先に行ってくれと頼んで任せた。
 三千花は一瞬不安に感じたが、時雨たちとはすでに面識があるため、気まずい空気にはならないだろうと考えを改め、五月雨の案内に続いていった。

 更衣室に入った那美恵は、流留と幸がすでに着替え始めていたのを見て、自身もロッカーの前に行き着替え始めた。

「なみえさん、今日は着替えるんですね?」と流留。
「うん。さすがに今日は艦娘として参加しないとね。川内型揃い踏みだよ。」
 揃い踏みと聞いて流留は身が引き締まる思いがした。背筋がピシっと自然に伸びる。

「どしたの?」
「いや、なんか自分の艦娘名をガッツリ呼ばれてる気がして。」
「そういやそうだよね~。なんかね、何々型って、ネームシップっていう艦らしいよ。」
「はい。知ってます。」
「知ってんの!?」

 流留は自身が知っていることを説明し始めた。
「あたしはゲームで知った口なんですけど、軍艦って姉妹艦があって、たくさん作られたそうですよ。んで、ネームシップというのは最初に作られたベースとなる艦、いわゆるお姉さんなんです。」
「へぇ~そうなんだ。あたし船とか軍隊とか興味ないから知らなかったぁ。そういう言い方するんだってただなんとなく使ってたよぉ。」

 万能な生徒会長でも知らないわからないことがあったことに驚き、そんな彼女に勝てる要素があったことを誇らしく流留は思った。
「なみえさんでも知らないことあるんですね~。」
「あたしをなんだと思ってるのさ~。普通のJKだよぉ?」
「ハハッ。なみえさんに教えられることがあってなんか嬉しいですよ。」
「そりゃあね~。流留ちゃんはこれから川内ちゃんになるんだし、"お姉さん"ですもんね~。あたしとさっちゃんのお姉さんなんだからあたしたちより頑張ってもらわないと。ね?さっちゃん。」
 幸は無言でコクコクと頷いて賛同した。

「うーなみえさんに頼られるのは嬉しいやら恥ずかしいやら。ものすんごいプレッシャーなんですけど。」
「気にしない気にしない~。」

 ブーブーと不満を漏らす流留をサラリとやり過ごす那美恵。それを見ていた幸がクスリと笑みを漏らす。凸凹あるが、数日前に出会ったばかりとは思えないほどの仲の良さを醸し出す3人。先輩後輩としても、艦娘としても、プライベートとしてもすっかり仲良くなっていた。
 着替え終わった3人は更衣室を出て、先に三千花たちが向かっている艦娘の待機室へと行った。



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「おまたせー!川内型3人、ただいま入りましたー!」

 那珂たちが入ると、そこにはちょうど待機室から出ようとしていた五月雨と時雨、席に座ってる夕立・村雨、4人から離れたところで座っている不知火。そして五十鈴がそのとなりの席に座っている。艦娘たちからは離れたところ、扉付近に三千花ら一般人が立っているという構図だ。

「なみえ。内田さんと神先さんも。着替え終わったのね。」
「うん。みっちゃん、ちゃんと挨拶した?三戸くんは大丈夫?」
「えぇ。ちゃんと見張っていたから大丈夫よ。」
「そ。」

 那珂は三千花に確認し終わった後、スタスタと部屋の中を進み五十鈴の元へと来た。同時に不知火も視界に入る。

「五十鈴ちゃんおひさ!」
「えぇ。お久しぶり。」
 先日鎮守府までの道中で会ったばかりだが、鎮守府内で艦娘としては久方ぶりだったのでハイタッチをして再会を喜ぶ二人。五十鈴は知り合いが来ている那珂に対し素直に喜べないところがあったが、ともかくも笑顔で返す。
 五十鈴と笑顔で再会を喜び合ったあと、那珂はそのまま横に視線を移す。不知火が目に入ってくる。不知火も那珂もお互い気になっていたが、面識がない者同士、視線を合わせづらいところがあったのでなんとなく外し合っていた。だが那珂は進んで話しかけた。


「不知火さんだっけ?初めまして。中々一緒に仕事する機会がなかったから、これが初めてだよね?あたし、軽巡洋艦那珂やってる光主那美恵です。女子高生です。よろしくね!」

 那珂から自己紹介をされて不知火は勢い良く席から立ち上がり、自身も自己紹介をし始めた。

「私、智田知子(ちだともこ)といいます。○○中学2年です。駆逐艦不知火をやらせてもらっています。……よろしくお願い致します。」
 おとなしそうな雰囲気。幸と似てると那珂は思ったが、その口調は幸とは違い、ハキハキとしたものだ。
「うん。よろしくね!」

 那珂につづいて流留と幸も五十鈴と不知火に挨拶と自己紹介をする。これで鎮守府Aの艦娘たちは全員面識ができた。


「いや~ついに揃ったね。鎮守府Aの艦娘全員。妙高さんと明石さん入れると11人?」
「そうですね。ただ明石さんはちょっと特殊なので実質10人です。」
 那珂の感想と確認を受けて五月雨が答える。

「10人超えるって多い方なの?少ない方?」
 流留が誰へともなしに質問すると、それには那珂が答えた。
「以前隣の鎮守府の人に聞いた時はあっちは60人超いるっていうから、うちはまだ少ない方だと思うよ。ね、五月雨ちゃん?」
 以前天龍に聞いた人数を答え、詳しいことを確認しようと視線と身体の向きを流れるように五月雨の方に向ける。

「あ~えーと。そうだと思います。私、他の鎮守府の人数とか気にしたことないので。」
「五月雨ちゃ~ん。せめて近隣の鎮守府の情報は収集して整理しておこうよぉ。頑張ってよ、秘書艦さん!」
 五月雨が曖昧な答えを言うと、軽く諫めつつも厳しくならない口調で那珂はアドバイスを口にした。五月雨は横髪を摘んで撫でつつ
「エヘヘ。はい……。」
と照れ混じりに返事をした。


--

 その後、五月雨と時雨は5分前くらいになったら全員ロビーに来てくれと案内だけ残して、着任式の準備のためにロビーへと先に向かって部屋を出て行った。とはいえ時間はすでに13時45分を回ったところ。ここでおしゃべりするのもロビーでおしゃべりするのも変わらないということで、那珂は全員に向かって提案した。

「ね、みんな。どうせあと少しだし、全員でもうロビーに行っちゃおうか?」
 それに真っ先に五十鈴と三千花が賛同する。
「そうね。早め早めが肝心だわ。」五十鈴は至極真面目な反応を見せる。
「私もなみえに賛成。どのみち時間あと少しなんでしょ?」三千花は親友の言葉に流れを任せるかのように賛同した。

「おっけ~。他のみんなもいい?」
 夕立らや三戸と和子も返事をした。それを聞いた後、那珂は流留と幸の方を向いて強めの口調で声をかけた。
「流留ちゃんとさっちゃん、二人は主役なんだから早めの行動お願いね~。」
 いきなり名を呼ばれて一瞬反応が遅れる流留と幸だが、那珂の指示にシャキッとした返事で返す。那珂はそれを見てウンウンと満足気に頷いた。

 待機室に残っていた者たちは全員廊下に出て、階段を降りロビーへと足を運んだ。ゾロゾロと人が現れたことに先に降りていた五月雨と時雨は驚いたが、時間を見るとすでに10分前ということで納得の様子を見せ、ペースを上げて着任式の準備を終わらせた。

「それじゃあ私、提督呼んできますね。」
 そう言って五月雨は執務室のある3Fへと一人で向かっていった。

 手伝いをしていた時雨は終えると夕立たちの集まる場所に歩いていき、一息つくためにソファーに腰を下ろした。那珂を始め他のメンツもロビーにあるソファーに腰掛けたり、ブラブラ歩いてロビー内や外にある運動場を眺めたりしている。
 那珂は三千花・流留・三戸とおしゃべりをしていたが、側にいたはずの幸がないことに気づいた。辺りを見回すと、本館の裏にある運動場を大きな窓越しに和子と一緒に見ていた。隣にはなぜか不知火もおり、3人揃って黙ってジーっと見ている。

 和子や幸が何かしゃべっていたとしても、二人の元々の声量のせいもあり、那珂と三千花のいる場所からは聞こえない。3人の中では一番積極的にしゃべるし動く和子が隣の幸の方を向いて口を動かす。幸は和子の方をチラッと見てかすかに口を動かす。そののち幸は不知火の方を向き、和子がしたのと同じように何かを口にした。不知火も先ほどの幸と同じように隣を向き、かすかに口を動かす。
 那珂たちのいる位置からはやはり聞こえないが、彼女らなりに何かを楽しんでいる様子だけは那珂も三千花も理解できた。

着任式

着任式

 那珂がふと時計を見ると、あと2~3分で14時という時間になっていた。ほどなくして近くの階段を提督と阿賀奈を連れて五月雨が降りてきた。

「みなさーん。お待たせしました。これから着任式を行います~。内田さんと神先さんはこっち来てくださーい。」

 ロビーに足を踏み入れた五月雨が号令をかける。提督は五月雨に合図をして着任式の行われるロビーの一角、先ほど五月雨たちが準備をしていたテーブル付近に立つ。
 そこは、那珂が着任式をしてもらったときと同じ場所だった。

「流留ちゃん、さっちゃん。さあここからはあなたたちが本気の主役だよ。あとは提督と五月雨ちゃんの指示に従ってね?」
「「はい。」」

 那珂は二人に声をかけて背中を押し、ロビーのある一角に集まった皆の中央に誘導する。全員の前、つまりその場の真ん中に今回の主役が姿をあらわすと、ざわついていたその場が静かになった。
 流留と幸の周りにはさきほどまで一緒にいた那珂、三千花、三戸、和子の同高校の生徒、教師の阿賀奈。五十鈴、不知火、そして少し遅れて工廠よりやってきた明石。その面々の向かいには五月雨、時雨、夕立、村雨の白露型の4人。そして懇親会会場の会議室より遅れてやってきた妙高がその後ろに4人の保護者かのように立っている。なお、手伝いに来ている大鳥親子は関係ないのでそのまま会議室で懇親会の準備続けていた。

 学校の行事と違う空気が張り詰める。流留も幸もその普段しないレベルの空気により強い緊張感を抱いている。そんな流留と幸の正面には提督が立っている。流留と幸はいよいよこれから、艦娘になるのだという意識を改めて持った。
 提督はニコリとわらいかけ、そして口を開いた。

「それでは内田流留さん、神先幸さん両名の、着任式を行います。」
「「はい。」」
 二人は真面目に、そしてハッキリと返事をした。返事を聞いて、西脇提督は艦娘たちの管理者・上官として真面目な面持ちで着任の儀を進める。

「内田流留殿、神先幸殿。あなた方を軽巡洋艦型艤装装着者、通称艦娘川内、神通としてここに任命し、着任を許可致します。そして……光主那美恵殿。」
 提督は最初の一文の最後に突然那珂の本名を口にしてその場の全員の視線を那珂に集めさせた。さすがの那珂も突然のことで慌てふためく。

「へ?へ? なんであたし?」
「光主さん、二人の後ろへ来てください。」
「? は、はい……。」

 困惑した様子の那珂が流留と幸の間の真後ろに立った事を見ると、提督は言葉を続けた。

「あなたの尽力により、我が鎮守府と○○高校の提携が成りました。もちろんあなただけでなく、そちらにいらっしゃる○○高校生徒会の皆さんのお力添えもあってのことです。あなた方のおかげで、大事な生徒さんが二人も艦娘として着任していただけることとなりました。まこと感謝に絶えません。鎮守府……もとい正式名称、深海凄艦対策局および艤装装着者管理署千葉県○○支局・○○支部、支局長および支部長、西脇栄馬より正式に感謝を述べさせていただきます。」
 提督は鎮守府と提督と呼ばれるものの正式名称で丁寧なお礼を述べた。それは国が決めた長くて味気ない名称だった。しかしあえてそれをこの場において正式名称に触れることで、目の前の少女達がどういう組織に入るかというのを現実のものにさせたい目的を持っていた。現場の各責任者および艤装装着者はほとんどのケースで通称で呼ぶものであるため聞き慣れない言葉ではあるが、艦娘になった者は自然と身が引き締まる思いをする。

「これからあなた方3人には侵攻止まぬ深海凄艦という怪物との戦いに従事していただくことになります。……大人としてあなた方のような少女たちに戦ってもらうのは非常に心苦しいものがあります。テレビのヒーローのように私があなた方の代わりに戦って守ってあげられればと思うこともあります。ですが私は艤装を使えず戦うことができません。だから私にできるのは、艤装に選ばれて怪物と戦うことになるあなた方をあらゆる手を使って支援、つまりバックアップすることです。
 私を無責任な大人だと思うかもしれません。ですが外に出て戦うあなた方を、疲れて帰ってきたあなた方を、優しく迎え入れて心身ともに癒やしを与えられる場所、そして安心して皆と交流できる日常の延長線上たる場所を提供することはできます。あなた方の戦い、そして生活を助けたいのです。それだけは心の奥底に留めておいてくれると幸いです。

 軽巡洋艦川内になる内田さん、神通になる神先さん。あなたたちには五月雨、那珂、そして五十鈴とともに鎮守府Aの中枢を担っていただきたい。俺があなた達に望むのは、すべてをまとめあげる統率力、恐れず果敢に立ち向かう勇気、冷静な立ち居振る舞い、皆を励まし元気づける明るさ、そして知恵と策を生み出す豊かな発想力です。どれか一つ欠けてもいけない。5人がそれらすべてを持ってくれるなら助かりますが、無理に求めません。足りない部分を互いにかばいあって運用していければと思います。

 先の5人だけではありません。時雨、夕立、村雨、不知火、妙高。そして将来あなた方に続く新たな艦娘たち。あなた方もうちの鎮守府の大事な一人ひとりです。俺一人だけでは鎮守府を回すことはできません。作戦をミスすることもあります。あなた方に理不尽に厳しく当たってしまうこともあるでしょう。俺はあなた方が思っているほどできた大人・人間ではないのです。だからこそ、みんなの力が必要なのです。
 あなた方は一人で戦うわけではありません。今だってこれだけの艦娘仲間がいるのです。助け合い、励まし合い、時には厳しく衝突してお互い競い合って精進していってください。そして人々の生活を脅かす深海凄艦を、根絶やしにして平和を取り戻そうではありませんか!皆で一丸となり、暁の水平線に、勝利を刻みましょう!!」

 最後に発した掛け声は、その場にいた艦娘なら誰もが己の着任式のときに聞いたことのある一言であった。それは西脇提督という人物が気に入っている言い回しでもある。
 おっとりしていてドジだが純真で優しく聡明、周りを癒やす存在感の五月雨、少々幼いが天真爛漫で恐れを知らない夕立、物静かで思慮深く慎重派、皆の陰のまとめ役である時雨、鋭い指摘をして皆を現実と向き合わせる事が多い、結構なお金持ちの家のお嬢様な村雨、寡黙で冷静沈着な不知火、真面目で努力家な五十鈴、近所の主婦で提督と近い年代の、おっとりしているが皆を優しく包み込む母性を醸し出す最高齢艦娘の妙高、皆立場も性格も感じ方も異なる。
 提督の言葉は特段寒くもなくバカ受けしているわけでもなかった。しかしほどよくロマンに浸った彼のその言い回しは、艦娘としての彼女らの上長である西脇という者の人間性を好意的に捉えさせる一つの要素となっていた。

 一拍置いた後に提督は締めた。
「この言葉を持ちまして、川内と神通の着任式とさせていただきます。ただ今回はそれだけではありません。二人が加わったことで、当鎮守府の所属艦娘は10人超えました。一つの節目として、この時、この日を、このメンバー同士で大切にしたいと思っています。……これからもよろしく頼むよ、みんな。」

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 提督からの非常に長い言葉だった。長かったが、流留と幸は慎重な面持ちで飽きることも眠くなることもだれることもなく、提督の発するセリフをしかと耳に詰め込んだ。二人ともその長い言葉から、目の前にいる西脇という男性の持つ思いを感じ取ることができた。
 場所が場所なら、おそらくこの人は生徒のあらゆる思いに応えてくれる熱血教師にもなったであろうとか、自分の弱点を認められる素直な人、それを踏まえて自分らに協力を求めてくるほど頼りなさそうだが純粋で人の良い人だなど、感じ方は異なるが流留と幸の感じ取り方が向かう先は共通していた。
 提督の言葉を受け、川内となった流留、神通となった幸は深くお辞儀をして返事を返す。
「よろしくおねがいします!この川内に任せて下さい!」
「……新参者ですが、軽巡洋艦の艦娘として精一杯頑張ります。よろしくお願い致します!」
 二人の返事は強い決意がこもっていた。今回ばかりは幸も可能な限りの声量で勢い良く返事をする。
 二人の言葉の後、自然と拍手が湧き上がった。


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 そして二人の間におり、位置的には提督の真正面に立つ形になっていた那珂は自分の時とは違うそのセリフを聞き、新鮮に感じつつも今まで彼に対して感じていた感情を思い返してより一層たぎらせる。
 提督はカンペ等は一切見ずに長いセリフを発し、視線は言及したその人らにしばしば向けられた。が、基本的には那珂、川内となった流留、神通となった幸の3人に向けられており、主役は川内と神通だけではなく、那珂を含めた川内型3人としていたことが伺えた。そんな捉え方の中で、那珂は言葉の一つ一つをかみしめていた。
 素直で純粋に突き刺さった言葉。しかし悪く言えば自信がなさげで考えが幼稚なところがあるがゆえにストレートに伝わってしまう言葉。自分ら艦娘となった少女たちを鼓舞し、大切な人と思ってくれているような言葉。
 言葉の一つ一つが那珂の心に突き刺さってくる。

 着任してからの今までのことが思い出される。自意識過剰かもしれないが、今こうして提督の言葉を聞けるのは、自分の行動があってのことかと那珂は思った。見ず知らずの後輩だった流留と幸がここで自分の前に立ちこれから人々と世界のために戦おうとしているのも、自分の行動が縁になってのことなのだと自信を持って言える。
 那珂として、光主那美恵としての行動一つ一つが、西脇提督率いる鎮守府Aを形作ってきた。自分の行動が役に立ったのかもと思いを巡らせた途端感極まり、提督を見る彼女の瞳はいつの間にか潤んでいた。茶化す者が茶化されてはいけないと、目の潤みを指を使わないで必死に抑えようとする。

 那珂の真正面にいる提督が那珂の様子に気づくが、彼はそれを見なかったかのように視線を逸らす。那珂はすぐにうつむいて左手の人差し指で潤んだ目をこすって拭いとった。そのおかげか、それとも流留と幸の死角となったため皆が気付かなかっただけなのか、那珂の感極まって涙を浮かべた表情は提督以外の誰にも気づかれずに済んだ。


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 着任証明書を流留、そして幸に手渡す提督。二人が定位置に戻ったのを見届けると、両手でパンッと威勢のよい音を出して掛け声をかけた。

「さて、堅苦しい式はこれで終わりだ。みなさん、お付き合いありがとうございました。」
「ありがとうございました!!」
 全員周りの人それぞれに向かって感謝の言葉を掛け合い、川内と神通の着任式は締められた。

 ガヤガヤと全員声を出し始める。
 
 川内はおもいっきり背筋と腕を伸ばしてストレッチする。神通は胸に手を当ててホッと溜息をついて安堵の表情を浮かべる。那珂はそんな二人の肩を叩いて自分のほうに振り向かせた。その後二人に声をかける。

「お疲れ様、川内ちゃん、神通ちゃん!さ?張り切って色々頑張ってこ~ぜ~!」
 振り向いた二人は那珂に微笑みかけた。川内に至っては那珂にヒシッと抱き着いて現在の心境を暗に伝えようとしている。那珂はその気持ちを察したのか、川内と神通の手を握りしめグイッと引っ張りお互いの顔を近づけさせた。そして3人だけに聞こえるくらいの小声で励ましの言葉をかけた。

「これでゴールじゃないからね。これから始まりなんだよ?あたしが引っ張りこんだんだから、あたしが責任持って二人を立派な艦娘にしたげる。あたしはね、川内型のあたしたち3人が揃ってこの鎮守府の裏の顔になることが狙いなんだ。」
 励ましの言葉のあとに、いきなり野望にも似た目標を語られて戸惑う川内と神通だったが、この生徒会長の言うことだからそのまま受け入れ、信じてもよいだろうとふんだ。

「裏の顔って?」川内は何気なく尋ねた。
 すると那珂は何か企んでいますよと誰が見てもそう見える表情をした。
「うん。表の顔は提督と五月雨ちゃんの二人。これはきっと今も昔もこれからも変わらないと思うの。変えてはいけないものだとあたしは思ってるのね。だからぁ、私達は裏で好き勝手やらせてもらって、二人を陰で支える最強の存在になって周りをアッと言わせてやろうと思ってるの。」

 那珂の狙いがある一つの思いにつながっているとなんとなく気づいた川内と神通。ただ今この場で深く突っ込んで話すことではないとして相槌を打つだけにしておいた。だが那珂の考えは活発な性格の川内、そして自分を変えようとして艦娘の世界に飛び込んできた神通の琴線に引っかかった。
「いいですね~。なみえさ…那珂さんの考え、あたしは乗りますよ。面白いことが待ってそうだし!」
「……私も、どこまでもついていきます。」
 那珂は二人の反応を見て満足気にコクリと頷いた。


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 その場で各々がおしゃべりをしはじめやや収拾がつかなくなってきたため、提督は次のプログラムを発表すべく再びパンッと手を叩いて全員に促した。

「それではみなさん。今回は特別、一つの節目ということで、懇親会の場を設けました!会議室に飲み物や軽食ですが食べ物を用意いたしました。そちらに移って歓談を楽しんでいただければと思います。」
 提督の言葉に夕立や村雨は率先して黄色い声を上げて盛り上げ、五月雨と時雨も控えめながらその空気に乗る。那珂たちも提督の方を振り向いてやいのやいのと声をあげる。妙高は会議室にいる大鳥親子に伝えるために一足先に会議室へと向かっていった。それを提督は見届けた後、再び音頭を取った。

 提督を先頭に、五月雨たちや那珂たちはロビーから移動し始めた。懇親会の会場である会議室は、ロビーに一番近い部屋だ。提督は会議室と呼んでいるが、実際はオフィス用品店から長机を取り寄せて並べただけの多目的ルームといったほうが正しい。施設の広さの割には人も使い道もまだまだ不足しているため、使い切れていないのが現状なのである。

 そんな鎮守府Aの本館のとある会議室の一室で、総勢11名+αによる懇親会が催され、その日はすでに見知った者同士、初めて会う者同士、まだあまりお互い知らなかった者同士食事を取りながら交流を深め合った。

同調率99%の少女(11) - 鎮守府Aの物語

なお、本作にはオリジナルの挿絵がついています。
小説ということで普段の私の絵とは描き方を変えているため、見づらいかもしれませんがご了承ください。
ここまでの世界観・人物紹介、一括して読みたい方はぜひ 下記のサイトもご参照いただけると幸いです。
世界観・要素の設定は下記にて整理中です。
https://docs.google.com/document/d/1t1XwCFn2ZtX866QEkNf8pnGUv3mikq3lZUEuursWya8/edit?usp=sharing

人物・関係設定はこちらです。
https://docs.google.com/document/d/1xKAM1XekY5DYSROdNw8yD9n45aUuvTgFZ2x-hV_n4bo/edit?usp=sharing
挿絵原画。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=58796377
鎮守府Aの舞台設定図はこちら。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=53702745
Googleドキュメント版はこちら。
https://docs.google.com/document/d/1GYVIk6nW689WpZE7-FBXM0-S3yhMEiF69NMX84If5V4/edit?usp=sharing

同調率99%の少女(11) - 鎮守府Aの物語

ついに必要最低人数に揃い、艦娘部が正式発足した。那美恵は川内に合格した流留、神通に合格した幸を連れ、鎮守府へと赴く。二人の着任式が、そして鎮守府Aの今後を担う川内型艦娘の物語が、ようやく始まる。 艦これ・艦隊これくしょんの二次創作です。なお、鎮守府Aの物語の世界観では、今より60~70年後の未来に本当に艦娘の艤装が開発・実用化され、 艦娘に選ばれた少女たちがいたとしたら・・・という想像のもと、話を展開しています。 2016/12/01---5話目公開しました。全話公開中しました。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-29

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 艦娘部と生徒会
  2. 川内型揃い踏み
  3. 着任式当日
  4. 着任式直前
  5. 着任式