亡き月の王
「あの月は世の物だ。」
「あの月は世の物だ。」
最後にそう言い残して国王は崩御なされた。
彼の命日は翌年より祝日となり国民全員がその日一日、
王の冥福を祈って喪に服することになった。
彼が死に際に放ったその一言により
その国では月は王の物だとされることになった。
死を目の前にしてもなお彼は手の届かぬ輝きを欲した。
誰もが見上げるしかない、 誰も奪うことなどできないと分かっていて
それを なおも彼は自分の物だと主張した。
民にも臣下にもそれがどうして
そこまで王にとって大事なのか分からなかった。
誰も月を盗もうとなどは考えないのに。
それでも今日も人々は、死してようやく
あの光に辿り着いたかもしれない
彼の魂に祈った。
今は亡き月の王に冥福があらんことを。
亡き月の王