人権派の信念

 人間は罪を犯したからそれで、終わり。ではないのだ。それを償い、心改めれば普通の人間と何も変わりないのだから。そのような元罪人に意地でも
社会復帰させまいと、それを阻もうとする人間達と休む暇なく戦っている。世間一般から言えば私は謂わば人権派弁護士というヤツだ。先日私は罪人の
人権を無視し、必要以上に厳しくする刑務間に私の考えを説いてやった。

 その刑務官がいる刑務所私は赴いた。それも普通の刑務所ではなく、殺人、強姦、放火それらを行った、もしくはそれら全てを行った罪人達が集められた場所だ。凶悪であればあるほどやりがいを感じるというものだ。

 そこに着くと私は看守に軽く頭を下げた。
 「お待ちしておりました。先生」

 彼は私を案内した。連れて行かれた場所は広い教室だった。教室と言い切れる理由は正面に黒板が張り付けられていたからである。そこに集められて
いたのは大勢の囚人である。こちらを睨みつける者や足を乱暴に机に乗せている者もいる。その中で講義を行った。少しでも彼らが改心するようにだ。

 講義が佳境に差し掛かった頃、刑務所内が騒がしくなる様子が感じられた。無能な刑務官達に怒りを覚えた。講義中くらい静かにさせることはできな
いのかと。無論、騒がしいのは仕事の出来ない刑務官の責任であり受刑者達の責任ではない。そう考えていた所に先ほどの彼が駆け込んできた。

 「先生、大変です。今すぐお帰りください」

 「どうしたのだ。まだ講義が終わっていないんだ」

 「囚人の一人に牢の鍵を奪われまして、脱走したその一人が他の牢を開けて回っているんです。つまり、危険な状態ということです」
 「そうか。では、私を出口まで警護してくれ」

 「それはできないのです。今は、事態の収束に一人でも人員が必要です。ですから、お一人でお帰りください」

 私は、目の前の男に怒鳴り散らした。
 「そんなことをしたら、ここを出る前に死んでしまう。考えなくともわかるだろう」
 「いいえ。大丈夫でしょう。先生はその襟に付いている金色に光るバッチを見せてこう言えばいいんです。」


 「私は人権派弁護士だ。ってね」

人権派の信念

人権派の信念

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-24

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