祠
家の裏庭から、石段を登り切ると、
小さな祠にたどり着く。
去年の朽ちた枯葉の上に
新しき枯葉が降り積もる。
僕は、いつも苔に覆われた石臼に腰を掛ける。
椎の木の葉影の先で、
波もない内海が陽に輝いている。
ただ、小さな黒い漁船の影が、
時計の針のごとく、沖合へと進んで行く。
ここは、20年前から、
なにも変わらぬ。
ただ、僕の記憶は、枯葉のように、
降り積もってしまう。
小さき祠、
開けてはならぬが、
すでにその扉は、外れかかっている。
そうして、いまや朽ちた枯葉に埋もれる。
風に揺れる椎の小枝のさざめく音と、
遠い場所から聞こえるような漁船のエンジン音が、
小さき両手でしがみついていた小船の記憶を呼び起こす。
島影が、遠くに見え始める。
波の合間に揺れる砂浜で、
海水浴にきた同級生たちが、うごめいていた。
櫓を漕ぐあなたは誰なの?
あの小島には、人っ子一人いやしない。
引き返してくれないか。
その祠の扉を開けてはくれないか?
あの日に、僕は、確かに見たことがある。
薄暗き記憶の端で、小さな蜘蛛の巣の先に
苔に覆われ、それでも愛らしく片手を上げていた。
祠