トルソー

トルソー





トルソー プランA



小さな頃からずっと、今でも、身体的特徴で笑われてきた。バカにされたり、ランドセルを蹴られたり、大人になった今、みんな口には出さないけど、思ってるんでしょう?下条亜莉菜はデブだって。
よくあんな原色のタイツとスカート履けるなって。電車の中で、バスの中で、街の中で。
下条亜莉菜ってデブだよな。
うん、わかってる。
私はデブ中のデブ。

デブデブデブ。
でぶでぶでぶ。

でもね、見つけたの。
やっと見つけたの。
ここが私の輝ける場所。

やっと見つけた、私の、オアシスー


「亜莉菜おはよー」
「おはよ、亜莉菜」
ああ、今日も美神×2は美しすぎる。
自己紹介が遅れました。
下条亜莉菜19才、体重100キロ★
乙女座のA型でぃーす!
「課題もうできた?」
「うん、余裕ー!」
「いーなァ、リーナまだしつけなうだよ」
「「おっそ!!」」
「デザインするのは得意なんだけどさあ、、、
実践はさあ、、、」
はい、このおめめの大きなモデルさん体型の将来デザイナーになるのが夢の、「MELTY」のカリスマ店員さん、塚原理依奈ちゃん、18才。
しし座のO型★
読モもたまにやってるんだー。
すごいでしょ?
「亜莉菜頼んでたアレ、どうなった?」
「はい!かしこまりー★って言ったよね?昨日言ったよね?じゃーん!これディース!」
「「・・・・・・・」」
「「きゃーーー!!」」
「どうですかい?お客さん」
「買う!これはもう5千円で買う!!」
はい、この興奮して鼻血出そうな綺麗めお姉さん、名前からしてもうお嬢っぷりがぱねえ(古い?)修学院愛華ちゃん。21才。魚座のO型。趣味はサンリオピューロランドで死ぬほどキティちゃんを買いだめすること。社会勉強のために我文化服装アートデザイン学校に入ってきた、ちょっと天然の愛華ちゃん。みんなからはアイ様って呼ばれてるけど本人不本意みたいで仲間内では愛ちゃんて呼んでるよ。
「五千円も出す価値ないよー」
と、ここで謙遜をイン!
「そんなことないって。やだ!リーナも欲しい!!作ってー!」
「そうおっしゃると思いましてな・・・」
「!!」
「キャー!!ありなってぃまじ神!!」
「はいこれ五千円。もちろんパパのお金だよ★」
「うぇーい!あざーっす」
「私も払う!ね、これ着てランドかシー行こうよ!」
「いーねー」
・・・・・1人だけまたどかーん!と浮くんだろうなァ、あたし。ハッ!ネガティブスイッチがオンになりかけてる!こんな美神と友人の俺、かっこいいだろう?そう思うんだ!思い込むんだ!
「おはよー」
「「おはよー」」
「ねえ、ありなってぃの新作どよ?」
「「「!!!!!!」」」
「か、かわいい・・・原色レインボー炸裂なのに!!このぽんぽんはなに?」
「りぼんだよ。裾にぐるっと手縫いしたった!」
「はいお客さんお客さん、五千円でこのレインボーふわふわスカート3人まで作っちゃうよ?」
「「「買った!!!」」」
「はい3人で一万五千円なーりー」
「かしこまり★」
「てかなにこれサテンなのにいやらしくない・・・めりーぱみゅぱみゅが履いたら超似合いそう!!」
「あーわかる。もうメルヘンキューティー炸裂」
「あい様こういうのも好きなんだねー」
「ねーありなってぃ・・・自分のブランド持ちなよ。これは原宿の女のコ、大好物だわ」
「そ、そうかなァ・・・」
と、またまたここで謙遜をin★
はあ、みんなが私の作った服でこんなにキャーキャー言ってくれるなんて・・・・・快っ感!!てなんか古い映画であったよね。知らないけど。
「ねえ、ありなってぃ・・・私の分も・・・だめ?」
「ダメーはいダメー。リーナ最初に言ったよ?3人までって」
「「えーーーー」」
「プラス2人までなら頑張るぞっ★」
「出た。博愛ありな」
「じゃ5人さん五千円ずつあい様に渡してー」
「お布施じゃ。わしゃあ一万出すよ」
「出た課金厨!」
大好きなお洋服作って、それがみんなに喜んでもらえて・・・下条亜莉菜、19才、乙女座のA型、体重100キロオーバー(ほんとは105キロ★てへ★)だけど、大好きな友達に囲まれて、ハッピーハッピー超ハッピー★ライフ送ってます!かっこ、まる!!









トルソー プランB




液晶が100.5kgを表示する。
嘘だ!こんなの絶対に認めない!
さっき食べたばかりの生クリームたらこスパゲティが脳裏をよぎる。
吐かなくては・・・・
体重70kgだった頃の私に戻らなくては!
家の外では蛙がゲコゲコ鳴いている。
夏の気配をただ待つ、じっとりとした季節。
便器のへりに左手を持っていって、
右手はひたすら喉の奥を刺激する。
「ゴォアォオホッ」
さっき飲み込むように食べたスパゲティが、
原形をとどめて口から溢れ出す。
・・・・・生クリームもかけたから、油分の
膜とまみれてとても汚い。
そう、私は汚い女。
そして、醜い。
とても、醜い。

体重計に再び乗ってみる。
98.5kg。
・・・・よかった。
本当によかった。
よかった?本当に?
まだ目標の70kgまで30kg近くあるのに?
・・・・・まだ、吐ける?


再度、体重計に乗る。
96.5kg。
・・・・よかった。
本当によかった。
あと25kg近くあるけど、この方法で、
私は私で頑張ればいいじゃないか。
70kgまであとひとふんばり。
70kgになったらイノリミズダの本店に行って、
ふわふわのパジャマとアイピロー、クッションも買っちゃおう。
それにはお金がいる。
さて、今日も手をよく洗って、はじめますか。

ご紹介が遅れました。
私、上条有菜、19才です。
学校にも仕事にも、そういった訓練学校にも行ってない、ただのニートです。
でも自分のものは自分で買います。
吐き専のお菓子もプリパレ代も大好きなお人形たちも。
なにを生業に?
お人形専用の服を自分で作ってそれを専門のアプリやオークションで売っています。
今日はminaちゃん様専用の一式五千円のゴスロリメイド服を作成中。
お裁縫って不思議で。
全部頭の中真っ白になって雑念とか全然浮かんでこないんです。
これを作ったら前から目をつけていたblycaちゃんの限定スケートセットをマイオク!で落札できそう。
・・・・・ああ倖せ。
自分の作った「モノ」が誰かの幸福を満たしているなんて・・・ビバ、ハンドメイド!
ピンコン。
あ、スケートブライカちゃんの値が上がった。五万五千円・・・。まあ泳がせておこう。
机の上のブライカちゃんがじっと私を見つめてくる。レースの黒いパンティとゴスゴスロリロリのメイド服。うん、似合ってるよ。
とってもとっても、似合ってる。
御主人様は今、どんな気持ちであなたの帰りを待ちわびているのかなあ・・・。
あ、名前は「ミリア」ちゃんか。
ミリオンダラーベイビーの「ミリア」ちゃん。
顔も綺麗に加工されていて、
お目々が淡い紫色って、とても、素敵だね。
ピンコン。
また値が上がった。
おのれ、、、この人たちしつこいなあ。
7万にあげちゃおうかな。
ね、スケートブライカちゃん。
早くおいで。
六畳の狭い我が家だけど、
仲間たち、「リリィ」「メルティ」「カノン」「ピリカ」「ソナレ」「ソワレ」「ミミ」「メロウ」「メリィ」
みをなあなたが来るのを、待ってるよ。

楽しみに、待ってるよ ー








トルソー プランC



「人ってすごいよね。人を愛することもできるしこんな風に簡単に殺しちゃうこともできちゃう」
AM8:00。
テレビのワイドショーでは一斉に昨日大阪で起きた通り魔事件を取り上げている。
「平和なの見たいから、ママ、MHKにしていいかしら」
ママが私の返事を待たずにチャンネルをさっとMHKに変える。
「ああ、やっぱり朝は無働とぺノッチね」
「だね」
とろとろのチーズがのっている朝ごはんのトーストを頬張りながら私は答える。
「にしても朝からすごいわね」
「赤ちゃんのためでしゅ」
「彼氏のいないあなたにどうやって赤ちゃんが出来るのかしらね」
ママがいたずらっ子みたいに私にウインクしてくる。
もう!
「だってさー過食期なんだもん」
「そうよねえ。先生はなんて?」
「吐くのは死ぬこともあるから止めなさいって」
「あなた、吐いてる?」
「吐けないんだYO!」
「あははっ。じゃあ食べちゃいなさい。
大丈夫。ありちゃんが何キロになっても
ちゃんとパパとママ、守って愛してあげるから」
「THE・愛の劇場」
「ちゃかさないのっ!」
「てへ!」
「てへへ!」
「あり菜の真似しないで!」
「はあい」
「もうっ!」
ほんとは自分でも理解ってる。
体重はもう100kg近く、いや、もしかすると
100kgを超えているのではないか。
「と....。でもなァ。美味しいんだよねぇ」
「もう食パンはないわよ」
ぺノッチを見ながらママがそう言う。
「じゃあアイスたーべよっと」
「ありちゃん、そろそろ体重計に乗った方がいいとママは思うんだけど」
「えーーーー」
急に現実に引き戻される。
いくら爪を可愛くしても、メイクを頑張っても、ダメ。だって「男の人」は「本能」で綺麗な人を「好き」になるから。そういうものだから。いくら中身が汚れていても「綺麗」な「女の人」の方が「男の人」は「好き」 なのだ。
ーそろそろ現実を思い知る時が来てもいいのかもしれない。お腹も脚も腕も、顔身体全てが綿あめみたいな鉛を纏っているように、痩せていた時できていたことがまるでできない。
前みたいに脚が組めない。
洋服を格好良く着こなせない。
周囲の視線が、「ちっ、デブが」
って感じになっている。
だけど止められない。
拒食期の次は過食期。
ここで吐いちゃう人もたくさんいるけど、
食べ物は粗末にはしてはいけないよって、
パパもママも言うから、ありはそれをちゃんと守ってる。
「そろそろ学校に行く準備しないと、あり菜ちゃん」
いつの間にか編み物を始めていたママにそう促されて私は自室に戻る。
8畳の部屋は私の「スキ」なもので溢れている。
ピンクのユニコーンカーテン、レインボーカラーとピンクが絶妙のお城が描かれているお姫様ベッドカバー、枕、小学生の時から使っている学習机、本棚、白のドレッサー、トルソー......。
裸んぼにしたトルソーが私になにかをねだっているような気がしてくる。
「早く、早く私にあのめりーぱみゅぱみゅが着ているような素敵なお洋服を着させて?」
「ダメ。ありは忙しいんだから」
「1講は休講だからまだ大丈夫なくせに」
「あーもう!うるさいなァ」
「着させて、っていうか貴方が前着てたお洋服、もう1回着ようよ!」
「うるさい。はー。うるさい」
部屋を出る。
トイレの隣の脱衣所にある体重計を目指す。
入る。
そのままでは服の分が気になるから私も裸んぼになる。
体重計に乗る。
............怖い。
目を開いて「それ」を確認するのが、怖い。
でも女は度胸!さあ思い知れ私!
ビバラ100kgの私.....!!
『85.5kg』
電子体重計にはそう表示されていた。
「!!!!!」
間髪入れずにママを呼ぶ。
「ママぁ!ママぁ!早く来て!!早くーー!!」
「そんな大きな声で....まあありちゃん!
いいから早く服を着なさい!」
「いいじゃん別にーそれよりさ!みてみて!」
「服を着てから!」
「もーお堅いんだからー」
「そういうことは大切な時のためにとっておくの!誰それ構わずぽいぽい裸になって、いいわけないでしょ!」
......ママは怒るとヒステリーがちになる。
ここは大人しく、服を着るか。
「あ、電子のかば!バカバカ!消えてるー。
ママあのね、あり菜85.5kgだったんだよ!!
100kgじゃなかった!」
「まあおめでとう!でも他の女の子たちと比べたら、あと30kgは落とさないとね。ま、ママのことじゃないからどうでもいいんだけどっ」
そう言ってママはリビングへ行ってしまった。
30kgじゃない。
あと35kgで前の私に戻れる。
可愛いね。
脚キレイだね。
服のセンス、いいね。
どっか行かない?
好きなんだけど。
.......好きなんだけど。
来月留学先から帰ってくる聖(ひじり)君は私を見てショックを受けるだろうな。
ま、最近では連絡取ってないし聖くん三回生だし会うだろうけど私って気づかないよね。きっと。
ぐう。
お腹は減ってはいないけど、
心のお腹がペコペコだ。
さーてアイスを食べながら、
ゆっくり準備しよっと。












トルソー プランD




この世からデブがいなくなったらいいのに。
ぼんやりと車内のにぎやかな集団を見つめながら佐田アリナはそう考える。
外勤といっても地下鉄に乗って区役所までパンフレットを持っていくという、その辺のガキにでもできそうな仕
「ぎゃはははははは!もっかいやって!」
「めりーぱみゅぱみゅー」
「まじそっくり!お前、今すぐ痩せろ?」
「うるさいなあ近藤は」
「もっかい!もっかいやってあーちゃん!」
「周りに迷惑だからやめなって近藤」
「そうだよー」
「ぎゃははははは!まじ似てるわそれも」
「「「もうー」」」
「「「かぶった!」」」
「「「あはははは!」」」
ちっ。依田駅から乗ってきた修学院だか
高慶だかの派手な学生の集団がまじうぜえ。
メリパみたいな3人組の真ん中の超デブが堂々としてるのも気に食わねえし。
ピンコン。
携帯に通知が入る。
『minaちゃん様
ミリアちゃんとゴスロリ服先程送付させていただきました。ミリアちゃん、とっても、お似合いですよ。着せ替えた後の服も一緒に入れておいたのでご安心ください。それでは、また、ご縁があればよろしくお願い致します。』
やーっと来たか。
まじおせえし。
うちのミリアちゃんやっとショーデビューだわ。
「ぎゃはははは!0.1トン!」
「でも痩せるんだもん!」
「近藤はありなに謝んな」
「イヤだね」
「永沢くん!」
「「「「あはははははは」」」」
まじ殺意ぱねえ。
車両移動しよう。
ふう。やっと落ち着くわ.....
てまーたデブ発見。
さっきのよりかましだけど、
デブのくせにイケメンと2人で仲良く話して....
うぜえ。
まじ、うぜえ。
音楽でも聴こう。
「13俺のハートが燃え盛るよ!」
だめ。
「I can fly so」
だめ。
「どんな顔ではじめまして。言えるかな?」
うぜえ。
「death death death!!her g father died....」
そうこれ。
こういう時はやっぱデスメタルでしょ。
「deathdeathdeathdeathdeathdeathdeath」
そうそう。
死ねよ。
デブ、お前らみんな、死ね?
あ、死んでもらっちゃ困るか。
私の引き立て役いなくなっちゃうもんねえ.....
「アリナさんおかえりなさい」
はい、イケメンくんただいま。
「お帰り」
はい美女同期ただいまー。
「ただいまぁ。もうっほんっとに疲れちゃったぁ」
「なーんで杉下は毎回アリナ先輩つかうんすかねえ」
「しらなあい。杉下課長のこと考えてもアリナ、疲れちゃうから仕事しよーっと!」
ふう。やっと人間に会えた。
落ち着くわ。
「アリナ先輩アリナ先輩っ。明後日丸鋼物産と合コンあるけど来ませんかぁ?」
私よりややデブの、若いだけが取り柄の丸山美香がウサギのような瞳でこちらを見つめてくる。
「ごっめぇん。明後日ダーリンとご飯なんだぁ」
「!」
「言ってなかったけどお、この前地元帰った時に元彼に会ってえ。えへっ」
「ごめんなさい。知らなくて。じゃあ他の人に頼みますね。てかアリナ先輩また痩せたんじゃないですか?細くってうらやましいー」
「そんなことないよぉ。デブだし私。ね、下川くん」
「いや、あ、うーん、いや。全然細いですよ」
「そんなことないもぉんだ!ふふっ。でもありがとぅ」
多分今夜にはミリアが届いているはず。
第4回ミリアちゃん解体ショー!!

宅配ボックスにカードを差し込む。
受取を押すと「704」の表示がある。
よし!よしよし!
家に帰ってすぐ開けてみる。
すげえ。
これ素人がほんとに作ったの?
よくこんなの作れるね。天才?
晩御飯のジャムパンを食べながらショーをはじめる。
まずは洋服を綺麗にきがえようねー。
五千円、もったいないもんね。
『思っていたものと異なるため返送します。返金手続きは1週間以内にお願いします。』
これでよしと。

ハロー。
私、みりあちゃん。
醜いものが嫌いだから
自己主張してそれらを
全部消し去るの。
私が処女で一度も彼氏いないなんて
おかしいよね?
おかしいと思ったら右手を食べて?

ぶちっ。
右手を引きちぎる。

今日下川くんに話しかけたけど
相変わらず素っ気ないよね。
わたしなんかしたかなあ。
したと思わないなら左脚、よろしく!

ぶち。
左脚をもいでやる。

なんかさあ、今日見かけたデブ幸せオーラ
全開で腹が立つったらありゃしない。
よーし。デブはみんな、死ね?
左腕右脚同時にどうぞ!

さあみなさんお待ちかね!
鏡よ鏡よ鏡さん?
世界一いい女は佐田アリナだよね?
イエスならその包丁で首をお、ね、が、い。

ぴんぽーん。

ふいの電子音に心臓が飛び上がる。
液晶画面に映っているのは、え、やだ。
トキメクー


ー世田谷OLバラバラ殺人事件についてお伝えします。被害者の佐田アリナさん25歳は何者かに両手足、頭部を切断されその両手足はマンション前に、頭部は自転車置き場の自転車のカゴの中に置かれた状態で発見され.........犯人は依然として見つかっておりません。



トルソー

トルソー

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • ホラー
  • 青年向け
更新日
登録日
2016-10-24

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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