秋の足跡

 僕の家の前に葉っぱが数枚落ちている。朱とか橙のきれいな葉っぱ。誰かの落とし物だろうか。
 僕はその数枚の葉っぱを集めて、わかりやすいように道の真ん中に置いた。
 次の日も、昨日と変わらぬ姿で葉っぱが落ちていた。誰も探しに来なかったみたい。
 僕は「おとしもの」と書いた紙を葉っぱの近くに重石と一緒に置いた。だけれど、いくら待っても「おとしもの」を探しに来る人はなかった。
 しっとりとしてきれいだった葉っぱはだんだんと茶色くなり、からりと乾いてしまった。そうして軽くなってしまった身を風に任せてあちこちへ飛ばした。
 ある日、僕はそのうちの一枚をぐしゃりと踏んでしまった。
 「ああ、どうしよう!誰かの落とし物だったかもしれないというのに!」
 僕に踏まれてしまった葉っぱは、そのさらに軽くなった身を風に任せてどこかへ飛んで行った。
 その次の日は雨だった。
 色鮮やかな木々はしっとりと濡れ、いつもより暗い色をしている。そんな木々を見て「もしかしたら明日、またたくさんの葉が落ちてしまうのではないか」と、僕は少し心配になった。
 翌日、僕の家の前から続く並木道には、やっぱりたくさんの葉が落ちていた。
 その日を境に木々はたくさんの葉を落とすようになった。落ちては乾き、乾いては落ちる。
 いつの間にか木々は黒く染まり、寒風に小枝を震わせるようになった。
 細道に沿うようにずっと延びた枯れ葉の道を見て、僕はやっと気付く。
 「ああ、秋が去ってしまったのだな」
 やがてちらちらと降って来た白雪がさびしい足跡を消した。

秋の足跡

秋の足跡

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-23

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