タヌキと和尚さん
変身できる木の葉のチケット
おじいちゃんから木の葉のチケットをもらったタヌキの子どもは、ちょっと冒険をするために、村へ行きました。
村に降りる途中の道に、山寺があります。その寺に和尚さんが住んでいるのです。いたずら好きなタヌキは、まずは手始めに、この和尚さんを、だましてやろうと思ったのです。
そこで学校で教わったとおりに頭に木の葉を載せて、けっこうかわいい少年に化けました。彼が寺に近づいていくと、和尚さんは、ちょうど庭の栗の木のそばで、栗をとっているところでした。
「和尚さん、和尚さん」
タヌキの少年は、和尚さんに呼びかけました。和尚さんは振り返って、びっくりしたように目を丸めました。頭に木の葉を載せた少年が、こっちに向かって歩いてきたからです。
これは、タヌキが化けて出てきたんだな、と思うとおかしくて、和尚さんは笑いをこらえていましたが、必死でまじめな顔になり、
「何の用だね」
と訊ねました。
「和尚さん、その栗をひとつください。くださらなかったら、ひどい目に遭いますよ」
少年は、かわいらしい声で言いました。
和尚さんは、肩をすくめて返しました。
「ダメダメ、これは栗きんとんに使うんだから」
少年は、ビックリして飛び上がります。
「栗きんとん!」
「もうすぐ完成なんだ。ちょっとなら分けてもいいよ」
と、和尚さん。
少年は、いたずらをしようと思っていたことも忘れて、思わずうなずいてしまいました。
「わたしはちょっと、村の用事で出かけてくるからね」
和尚さんは、一通り栗きんとんを作った後に、そう言いました。
「はいはい、喜んで」
少年は、ウキウキして言いました。
台所に、甘ーい匂いが立ちこめてきます。
さっきとったばかりの栗が入っていて、ものすごくおいしそうです。お腹がぐーっと鳴りました。
「ちょっとなら、わかんないよね」
少年は、きんとんを指でなめてみました。
「甘ーい! おいしー!」
さあ、それから少年は、もう夢中です。和尚さんのいないのをいいことに、栗きんとんをぜんぶ平らげてしまいました。
和尚さんが台所に帰ってみると、ちょうど少年が食べ終わって、顔中きんとんで金色になっているところでした。
和尚さんは、じっと少年を見つめています。
タヌキの少年は、自分が恥ずかしくてなりませんでした。ここにある栗きんとんを、全部たべてしまったのですから、いいわけのしようもありません。
そこで、タヌキは和尚さんの前に正座して言いました。
「栗きんとんを、食べてしまってごめんなさい。あんまりおいしかったから、止めようがなかったんです」
すると和尚さんは、にっこり笑ってこう言いました。
「お腹が減ってたんだろう。一緒におにぎりを作って食べよう」
「え……? 怒ってないの?」
「怒るもんか。正直に言ってくれて、うれしいよ。わたしも一人で、さびしかったしね」
「ありがとう!」
タヌキの少年は、ぴょんっと立ち上がりました。
「お礼に、僕の宝物の、キレイな石をあげましょう」
「どんな宝物も、きみという友だちにはかえがたいよ」
和尚さんは、そう言ってほほえみました。
二人は、作ったおにぎりを、分け合って食べました。
家に帰ったら、おじいちゃんに、木の葉は魔法のチケットだったよって言おう。
タヌキは、そう思いました。
タヌキと和尚さん