正逆ラストカード(第1~50話)
運命の歯車が今日もまた一つ動き出す…
運命を変えるのはあなた次第―
第1話 出会い
オレたちは出会うはずのない2つの存在だった。あの日までは。
「なぁー、お前はオレの味方だよな。」
「いや、オレ達のほうだよな。」
「ねぇねぇ、この間の約束覚えてくれてる?」
「あ、昨日の委員会のことなんだけどさ…」
やめてくれ、やめてくれ。どいつもこいつもオレのことなんだと思ってんだ。
オレはオレは…
「オレはぁぁぁぁぁぁ」
「…。」
「夢か…。」
「あっ…今日は、…学校の日か。」
「成世、今日は学校の日でしょ?早く用意しなさいよ。」
「ん。」
瀬戸成世(せと なるせ)高校1年生。入学して3ヶ月目にして不登校になった人間。現在は二週間に一回担任と面談してなんとか学校復帰を目指しているわけだが…。そもそもなぜオレが不登校になったのか。それは…。
「成世、目玉焼きは半熟だったけ?」
「あーうん。」
オレは中学生の時は普通に学校行ってたし高校の入試も普通に合格。入学後も新しい友達もできたし部活も入部した。
そんなオレが不登校になった原因。それはオレにもわからなかった。イジメとかそーいうのではなくただ、自分がなぜここにいるのかわからなくなった。教室という空間がオレは次第に怖くなった。そしたら、いつの間にか…。
「早く復帰出来るといいんだけどな…。」
「…。」
オレは学校に向かった。学校までは徒歩で10分ほど。そんなに遠くない。地元の普通科の高校に通っている。
時刻は9時。みんな授業を受けているころだろう。オレは先生といつも面談している教室に向かった。
「おはようございます。」
「瀬戸くん、おはよ。今日はどう?」
「あぁ、まぁ…普通です。」
「そう、まだ学校に行く元気はない?」
「…は、はい。」
「クラスの子も心配してるよ。早く来ないかなって。」
「そうですか…。」
「まぁ、無理はしないでね。」
「はい。」
先生との面談はいつも通り。ちょっと話して今やってる授業の内容聞いて課題渡されてオレは前の課題を提出するという感じ。だいたい1時間ぐらいで終了。
「じゃあ、次は…この日かな。」
「わかりました。」
「また何かあったら連絡してね。」
「ありがとうございました。」
そして、オレは学校を出て家に向かって帰った。
いつもならこれでオレの半日は終わる。しかし、今日は違った。
「みんな心配してるよって…。わかんね。ん?」
オレは何かを発見した。
「なんだこれ?落し物か?」
オレは道に落ちていた1枚のカードらしきものを拾い上げた。名前は書いてない。住所もなし。てか、真っ白。
「なんだ、ゴミか。」
オレは拾ったものをそのまま捨てようとした。が、
(見つけた。)
「え?」
誰かの声が聞こえた。気のせいか…。周りに人はいない。
「え…え?」
すると、オレの持っていたただのゴミだと思っていたカードが突然光だした。
そして、
「うぁ…っ。」
「…。」
一瞬何が起こったか全くわからなかった。
自分が置かれている状況さえ。
「やぁ、初めまして。」
「!?」
オレの目の前には見知らぬ男がいた。
なんでだ。いつのまに?オレはパニック状態。
「瀬戸 成世…。」
「は、はい…っ!?」
急に名前を呼ばれたがなんでオレの名前知ってんだ。もう訳が分からない。
「オレの名前はウィズ…。今日からお前のパートナーとして…。」
「ちょっと待ってくれ。」
オレは何も状況はわかっていなかった。が、1つだけ把握できたことがあった。それは
「おまえ、なんで、全裸でいるんだよ!?」
そう、ウィズと名乗った男は全裸。何も着てない。
「なんで…って。」
「とにかく、見つかったらオレが怪しい人と思われるからちょっと来い。」
オレは男の腕を掴みダッシュで家に帰った。
両親は仕事だから運良く問題はなかった。
とりあえず、この全裸の男をどうにかせねば。
「とりあえず、これ着て。全裸で道の真ん中に立ってるとほんと不審者扱いされるから。」
「…あぁ、すまん。」
男はオレから服を受け取りやっと全裸から回避。
そして、
「瀬戸成世、オレの名前はウィズ。今日からお前のパートナーだ。」
と、言った。
「…。」
いや、急に言われましても何がなんだか。
しかも、このセリフ2回目。
「あ、あの…。もう少し詳しく話してほしいんだけど。」
「…あぁ、とりあえず、オレの名前はウィズ。」
いや、もう名前はいいよ。覚えたから。
ウィズと名乗る男は紫色の髪の毛で黄色の目をしていて耳がとんがっていてどうやら人間と言ってもなんか違う。
「オレは、まぁ見てわかるだろうが地球の人間ではなく異世界から来たものだ。そして、そのカードを見ろ。」
オレは先ほど拾ったカードを見ると真っ白だったはすが文字と絵が現れていた。
「オレは向こうの世界では吊るされた男として生きていた。」
要するにオレの拾ったカードはどうやらタロットカードの一部であった。ウィズは大アルカナ12 吊るされた男のカードの本来の姿だそう。異世界からはるばる地球にやって来たそうだが…。
「で、オレのパートナーとは?」
「オレには任務があってな。お前、今どうやら不登校なんだって?」
「うっ。」
「オレの任務その一。お前を学校に引き戻すこと。」
「は…。」
オレは思った。これは罠か。オレを学校に行かせるための。
「どーせ、大人の仕組んだ罠だろ。オレはそんなのには乗らないぞ。」
「…まぁ、いいさ。お前の運命はすべてこのカードが決める。」
「は…?」
カードがオレの運命を決める?なんだそれ。
「いいか…タロットカードには正の位置、逆の位置の2つがあってそれぞれに意味が込められている。その向きによって要するにお前の運命も同時に決まる。」
道で拾ったカードがそんな物だったとはオレは考えもしなかった。
「つまり…明日の朝。学校に行くか行かないかはこのカードの導きで決まる。」
「オレの意志とは関係なく?」
「まぁ、お前の本当の意志がカードに反映されるわけだが。」
「で、ウィズ…の仕事は?」
「あぁ、オレはお前の…なんだろ?まぁ、何かあったらオレがなんとかするから。」
「は…い。」
いや、こんな簡単に話進んでるけど全然追いついてないんだが。
「とりあえず、お前の両親には姿見てないからまぁ、大丈夫。」
「お、おけ…。」
「とりあえず、腹減った。」
「なんだそれ…。」
「成世、なんかないのか。」
「へいへい…。」
こうして、オレは謎の男ウィズとオレの運命を決めるカードに出会って…何も理解できないままだったが。「明日」という運命の歯車が廻り始めていた。
第2話 運命に従うべき
「あーよく寝たな。」
オレは背伸びをしてカーテンを開ける。外は暖かい日差しがーと言いたいところだが今は梅雨の季節。今日は雨。
「どうせ、オレは学校行くわけじゃないからまぁ、いいや。寝よ寝よ。」
オレは2度寝しようと思いベットに帰還しようとした。
「何言ってんだ。お前。」
「いや?何って…え?」
「え?」
「いや、なんでおまえいるんだよ!?」
「何でって、お前のパートナーだからさ。」
「あっ…そうか。」
「それより、ほら、カードの運命に従えよ。」
「えぇ…っと。」
オレは言われるがままにカードを机から取り出した。するとそのカードからは不思議な力が感じられた。
「今日は学校に行きなさい。そうすればきっとあなたは新しい世界を目にするだろう。だって。」
「よし、成世行くぞ。」
「…えええ!?オレ学校に行くの!?」
「お前それ本気で行ってんのか?バカ?」
「なんで、オレは行く意志なんてないのにさ…。」
「とは、言ってもカードがそう言ってんだ。早よしろ。」
「…はぁ。」
オレは仕方なく制服を身につけカバンに適当に教科書突っ込んで一階に降りた。
「おはよー成世って…あんた…どうしたの!?」
「あぁ、母さんオレ…学校行くよ。」
「…成世…ついに行く気になってくれたのね!あぁ、お弁当作るから待ってなさい。」
「いや、いいって。購買で買うからさ。」
「何言ってんの、久々にお母さんもお弁当作れるんだから。ほら、朝ごはん食べて。」
「…はいはい。」
「なっ、お母さんも喜んでるだろ。」
「引きこもり息子が学校行くって言っただけでそこまで喜ぶ必要もないだろ…。」
「そう言うなよ。心配してんだからさ。」
「ウィズが言うとイマイチ感情がこもってないというか…たんたんと説明文読んでるかんじ。」
「そうか?」
「はい、これお弁当。」
「…ありがと。」
「じゃあ、行ってくる。」
「気をつけてね。いってらっしゃい。」
と、オレは母さんに見送られ学校に向かった。
「はぁ…気が重い。」
「まぁ、オレがいるから大丈夫。」
「そーだなって、なんでついてきてんだ!?」
「…パートナーだからさ。」
「またそれかよ…。」
「オレだって好きでお前についてんじゃないから。これが任務なんだよ。」
「そうですか。」
ウィズと話しているうちにあっという間に学校にたどり着きまずは職員室に向かった。先生には何も言わないで来たからたぶんびっくりするだろう。
「失礼します。」
オレは自分の担任を探した。どうやら、ほかの先生と話している最中だった。オレは数分入口で立って待っていたが先生のほうがちらっとこっちを見た気がした。
「瀬戸くん!」
「…あぁ…えっと。」
「どうしたの!?」
「先生…オレ学校に戻れそうです…たぶん。」
「瀬戸くん…無理しなくっていいんだよ。」
「いや…その…えっと…。」
先生にカードの導きで今日は学校行くことになりましたとか言えるわけないしな。オレがオドオドしていると隣にいたウィズが何か喋った。
「瀬戸くん、先生来てくれてうれしいわ。教室の場所は覚えてる?」
「あぁ、はい。」
「じゃあ、また先生も会議が終わったら覗くから。」
「はい…。」
オレは先生からプリントやら教材を追加で受け取って教室に向かった。
「ウィズ…おまえさっき…。」
「何?」
「いや、なんでも。」
なんか一瞬先生がオレが何を言おうとしたのか察してくれたのか…話はなんとか終わったが。ウィズは何をしたんだ。やっぱりただ者じゃない。
「久々の教室…。」
「緊張してんのか。」
「当たり前だろ。3ヶ月近く休んでいたんだからさ。」
「ふん。まぁ、大丈夫。」
「何が大丈夫なのか。」
オレの手はかすかに震えていた。それは恐怖の現れだった。みんなにどんな顔をすればいいんだ。何をいえばいいんだ。この場から逃げたいと思った。しかし、ウィズがいるから大丈夫なはずと少し安心感もあった。
オレは教室のドアを握りしめ勢いよく開けた。
「!?」
教室にいた数人の生徒がこちらを見た。
オレはドアは開けれたが第一声が何も出てこない。まずい、やばい。
すると、おしゃべりをしていた集団のとある女の子がこっちに気づいた様子で
「あ、成世だ。」
と一言。
「や、やぁ…。」
オレはぎこちない返事しかできなかった。
「瀬戸くん久しぶり〜。」
「あぁ、瀬戸か。」
「元気だったか?」
と、みんな普通に対応してくれた。誰一人オレが休んでた原因を聞かなかった。
「ふぅ…。」
「だから、言ったろ?」
「そうだね…少し考えすぎてたかも。」
オレは自分の席に座った。席替えがあったそうでオレは不在だったから一番後ろの席に飛ばされていた。
なんとか、教室に入る事はできた。
これからうまくやっていけるのかなんてどうにでもなるかと思った。
でも、まだ怖かった。あの夢がまた現実に起こりそうで。
しかし、オレが思ってた以上に現実はオレの予想を超えた方向に廻っていた。それを知るまでそう長くはなかった――。
第3話 放課後
「あー久々だから疲れた…。」
オレはなんとかすべての授業を乗り切り無事、放課後を迎えた。授業中もみんな助けてくれたしウィズは…あいつは寝てたけどいざという時には助けてくれた。
「成世、おまえ部活は行くのか?」
「あー…。」
忘れてた、オレは部活に入ってた。でも、3ヶ月近く休んでたオレに行く資格あるのかと。て、いうか今更行ってもどうにもならない気がした。
「あ…いいよ。もう、ずっと休んでたからさ。」
「おお…んじゃあ。オレ行くわ。」
「すまんな。」
「気にすんなよ。」
オレは先生に退部届けをもらいに行った。オレは正式に部活をやめることにした。
「お前、それでいいのか?」
「ん、今更行ったってオレの居場所ないし。」
「ふーん、まぁ、成世が決めたならそれでいいんやない。」
「よっし、退部届けもらったし帰るか。」
オレは外に出て校門の方へ。
「成世、学校どうだった?」
「あぁ、意外と大丈夫かも。」
「明日も行けるか?」
「それは…。」
「ま、カードの運命に従えばどうにかなるさ。」
「そっか…そいつがいたな。」
オレはズボンのポケットからカードを取り出した。このカード本当にただのタロットカードなのか。見る度に思うがなんか不思議な力を感じる。
「さて、帰ったら課題するか。」
「なぁ。」
「なんだよ。急に」
「腹減った。」
「またかよ…。」
オレは寄り道して近くのコンビニに。
「成世、あれなんだ。」
ウィズがレジのところに置いてある中華まんのショーケースを指さした。
「あぁ、あれは肉まんだよ。」
「肉まん?」
「知らないのか。」
「ん。オレは食べなくっても生きているからな。ただこっちの世界ではこの姿でいるから体力使うんだよ。」
「そうなんだ…じゃあ、食べてみる?肉まん。」
オレはレジにいた店員に肉まんを2つ頼んで会計を済まし店をでた。
「ほら。」
ウィズは渡された肉まんをまじまじと見つめた。あっちの世界に肉まんなんか存在しないもんね。
「ん〜やっぱおいしい。ウィズ食べないの?」
ウィズはまだ肉まんとにらめっこしていた。オレに促され一口。
「どう?」
「まずくはないな。」
「いや、そりゃそーだよ。」
オレはウィズの一言に苦笑いしてしまった。
ウィズはそれから無言で肉まんを食べ進める。
「成世。」
「ん?」
「肉まん。」
「ん。」
「肉まん。」
「ん?」
「うまかった。」
「だろ。」
ウィズの顔はほぼ無表情だったが言葉は本音であろう。オレは少しウィズとの関係もいい方向に進んでる感じた。
「さてと、あのさ、ウィズ。」
「なんだ?」
「オレ、ウィズのこといろいろ知りたい。」
「…。」
「ウィズ、名前は3回も教えてくれたけどそれ以外何も教えてk」
「わからない。」
ウィズはオレの言葉を遮ってそう言った。
「わからない。オレは自分の名前以外。」
「へ?」
「オレには自分が何歳とか誕生日とかそういうのわからない。」
「そうなんだ…。」
ウィズの目はさっきより冷たい感じがした。
「じゃ、じゃあ、オレとウィズが出会った日をウィズの誕生日にしよう!」
オレは何か言わなきゃと思って必死に考えて…
「お前、それ本気か?」
「あぁ、うん。ウィズの誕生日は6月10日。オレがカードを拾った日。」
「お前、覚えとけよ。」
「え?」
「オレは誕生日とか正直どうでもいい。」
「そ、そう?わかった。」
「家帰る。」
「ちょ、ウィズ。」
ウィズのあとをオレは追いかけ家に帰った。
ウィズのことは何もわからないままだった。実際、オレも彼が何者なのかわからない。
ウィズはオレのパートナー、それしか今はわからなかった。
第4話 ステキな出会い?
翌日の朝
オレはいつもと同じ時間に起床した。
ウィズはまだ寝てるようにみえた。
「さて、今日は…。」
机の引き出しからカードを取り出す。
「えーと、今日も行くべし。」
また今日もかよと思ったがカードの導きに従うのが原則決まりだった。
「今日はステキな出会いがあるでしょう。」
ステキな出会いだと…!?
オレの脳内ではすでに妄想が始まっていた。
「瀬戸くん。」
「お、どうした?」
「あ、あの…。」
「ん?」
「ずっと前から、好きでした!」
「オレもだよ…。」
なにそれ、ちょっと学校行かなきゃ。
オレは身支度をして学校に向かった。
ステキな出会い、ステキな出会い。
カードが言ってるんだ、間違いない。
るんるん気分で学校に向かった、オレは職員室に向かい先生と少し話をして教室に。
ウィズは眠たそうな様子だったがオレが学校行くと言うと寝ぼけてんのか、まくらを抱きしめ着いてきた。(もちろん、出る前に置いてきたが)
「おはよ。」
「瀬戸くん、おはよー。」
「成世、成世、こいつさー。」
今日もなんらわかりない教室の空気。
こんなクラスなら最初から行けばよかったかもと内心思った。
「でさ、昨日さー」
「アハハっ、それマジで?」
「だろ、成瀬。」
オレは友達と教室でだべっていた。
「…あの。」
「違うんだってー。」
「お、おい。」
「なんだよ。今いいところなのにさ。」
「いや、だって…。」
「あ。」
オレたちは夢中になっていたから全く気づいていなかったが目の前には女の子が一人。
長い青色の髪にオレンジ色の目、凛々しい姿。オレはじっと見つめていたが
「双葉…さん。すまん。」
「おい、成世。」
「へ、はい。」
「…。」
友達に引っ張られ場所を移動したが彼女はどうやら自分の席に座りたかったようだ。それにしても、その容姿というか雰囲気からなのかちょっと近寄りがたい。
オレの友達も彼女を見ると急いで避けたし。
でも、3ヶ月休んでたオレに彼女の記憶はほぼない。名前さえあまり…。
「なぁ、あの子は…。」
「双葉蒼。クラスのザ・ 狼JKとでも言うのか…。」
「あまりしゃべらないからちょっと近寄りがたい存在だな。」
「まぁ、普通に容姿はいいけどさ。」
「オレ達なんか近寄ったって無理だろ。」
「へぇ…。」
彼女は一人行動が多いらしい。入学当初からそうだったのかな。まぁ、確かにミステリアスすぎて気安く声はかけられないな。
昼休みになってオレは飲み物を買いに出かけた。と、行っても校内の自販機だけど。
「今日はカルピスソーダーの気分だな。えぇーと、150円と。」
ポケットから財布を取り出しお金を投入。ボタンを押す。押す。
「あれ?」
もう一回押す。
「ん?」
「それ、売切れだよ。」
「え?あー…売切れ…。え。」
オレの隣には同じクラスの双葉蒼がいた。
そして、彼女は無言で自分の手に持っていたカルピスソーダーを差し出した。
「え?それ、双葉さんの…。」
彼女はオレに押し付けレモンウォーターを選んだ。
「いいのか?」
彼女は自販機から飲み物を取り出し何も言わないまま走り去ってしまった。
「…。」
「よかったな。」
「う、ウィズ。いつのまに。」
「ずっと前から見てたけど。」
「全然気づいてなかった。」
「にしても、彼女。」
「ほんと、全然しゃべらない人なんだね…。」
「お前、今日のカードの導きは何だった?」
「え、今日はステキな出会いが…って!?」
オレは自分の手に持っているカルピスソーダーを見た。ステキな出会い。いや、でも、クラスメイト…。
「よかったな。」
「よかったなって…オレも全然彼女のこと知らないし。」
「まぁ、オレには関係ないけどな。」
「また、他人事扱いする…。」
とりあえず、飲み物を買ったというかもらったオレは教室に帰った。
そして、この一連の様子を見ていた人物がもう一人いた。
「へぇ…おもしろそうね。」
そう言って直ぐに消えてしまった。
ステキな出会いは結局クラスメイトの人だったが実は彼女と今後深くかかわっていくとは思ってなかった。運命の歯車が再び廻り始めた。
第5話 周りの存在
「だー…一週間疲れた…。」
オレは教室の机に突っ伏していた。
かれこれ、不登校から抜け出して一週間。
久々の学校生活は体力的にも精神的にもきつかった。けど、それなりに楽しい一週間ではあったかもしれない。
「成世、帰るぞー。」
「おう、ちょっと待って。」
友達に呼ばれ荷物をまとめた。ウィズは相変わらず、無表情でオレの作業を見ていた。
「でさ、昨日のさー」
「あれ、成世すごかったよな。」
「いやいや。」
友達と下校とかいつぶりだろうと思った。
「じゃあ、また明日なー。」
「成世、明日は休みだぞ。」
「あっ、月曜日なー。」
友達と別れたオレは一人になった。
一人になると途端に寂しさというかこんなに静かだったけと感じた。家にこもってたときそんなこと考えていなかった。が、学校に行きだして仲のいいやつらとずっと一緒にいるため余計寂しさがこみ上げた。
「ウィズ。」
「なんだ。」
「オレさ学校に行けるようになったらさウィズはもういなくなるの?」
「…。」
「だって、ウィズの任務ってオレを学校に行かせることなんでしょ。」
「そうだが。」
「じゃあ、ウィズはもういなくなるの。」
「…。」
ウィズもいなくなるのかと思うと不安になった。みんないなくなるのか。オレから。
ウィズの顔は何一つ変わっていないがしばらくして、ため息をつき
「オレはしばらくは帰れない。」
「…えっ?」
「オレは異世界に帰れない。」
「なんで…。」
「さぁーな。」
「何の根拠もないのにどうしてそんなこと…。」
「…。」
ウィズは何も言わない。時間だけが流れる。
「あ、あのさ…。」
オレのほうが先に口を開いた。が、言葉が出てこない。また、無言の時間が続く。
すると、偶然なのかそうではないのかクラスメイトの双葉蒼の姿を前方に確認した。
彼女は制服ではなく私服を身にまとっていた。
「…。」
彼女はオレのほうに気づいた様子だが、何も言わず通り過ぎただけだった。オレはとっさに彼女に
「あのさ、」
と、声をかけてしまった。何やってんだと思った。用がないのに引き止めてしまった。
「…。」
彼女は立ち止まってこっちに振り返った。
オレの心臓はバクバクしていた。
彼女の目線がだんだん冷たく感じられた。
このままの状況では完全にまずいとオレは確信する。
「あ、あの…この間の飲み物ありがと…。」
声は震え心臓はさっきよりバクバクしていた。彼女は笑いもせず無言でお辞儀をしてまた歩きだした。
「何やってんやろ…オレ。」
「ほんとな。」
「絶対、オレの印象悪いって…。」
「うん。」
オレは自分の部屋の中でさっきの出来事を振り返っていた。心が打ち砕けた状態。
「なんで引き止めたんやろ…。」
「終わったこと言っても仕方ないだろ。」
「そうだけど。」
「吊るされた男の正の位置、試練。」
「試練…?」
「おまえにはきっと何か試練がある。」
「それがさっきのと何か関係あるのか。」
「さあな。」
「おまえは人任せやな。」
「お前の運命だろ。オレには関係ない。」
「そうだけど、パートナーなんだろ。」
「パートナーはあくまでも補助者だ。」
「はぁ…。」
試練か…。学校に行く以外に何があるのか。
これ以上ややこしい状況になるのもごめんだ。とりあえず、一週間乗り切ったし土日は家から出ないでゴロゴロしようとオレは考えていた。
しかし、日曜日になって
「成世の復帰会と題しましてプチ打ち上げー!」
と、なぜか、オレはファミレスに呼び出されたのであった。
第6話 気になる子
(なんで、なんでだ!?)
「成世、遠慮しなくっていいからな!」
「え、あぁ…。」
(いや、なんでだ!?)
「そうそう、今日はオレらの奢りだからよ。」
「あ、ありがとうございます…。」
遡ること土曜日
オレは自室でゴロゴロ。ベットの上はやっぱ最高だ。ウィズはオレの机の上に座ってた。たぶん、寝てる。久々の学校生活で心身共に疲れていたオレは休日は家から出るつもりはなかった。なかった。
「あ、なんだ。」
スマホに誰かからメッセージが来たと通知音が鳴る。
「あー…なになに。」
オレは送られてきたメッセージを読む。
「明日暇?暇だけど…。」
暇だけど、何か用?とオレは返信。するとすぐ、
「明日、ファミレスに来てくれ。」
いいよと返信。
「じゃあ、明日11時にな。えぇーと、了解。」
オレはスマホを置いた。
「あれ?」
置いたスマホを手に取りさっきのやりとりをもう1度見返した。
「明日は日曜日。ファミレス。11時。…げっ。」
日曜日。休日。ゴロゴロライフ。ゴロゴロライフ…あっさり消滅。
「何やってんだぁぁ、オレ…。」
ベットの上で一人叫ぶ。
ウィズがものすごい冷たい目線を送る。うるさいと言ってるようだ。
「で、成世、注文決まった?」
「あ、うん。」
「すみませんー。」
と、いうことでオレは打ち上げのためにここにいる。打ち上げというかただの飯食いに来てるだけというか。
「成世、そーいえば今度のテスト勉強してるか?」
「いや、全然…。」
「今度また、勉強会しようぜ。」
「う、うん。」
あーテストテスト…そんなものもあったな。
記憶から除外してたな。
「テストが終われば夏休み。」
「と、言っても補習もあるしな。」
「高校ライフ意外とつらいぜ。」
「そーだね。」
「話変わるんだけどさ、この間…。」
「あーあれだろ。双葉蒼が隣のクラスのやつに告白されてたの。」
「げふっ。」
オレは双葉蒼というワードに反応してしまい食べていたご飯を喉につまらせてしまった。
「成世、大丈夫か。」
「大丈夫…。」
水を飲みなんか回避したがなんで、オレは双葉蒼に反応しているだろう。
「どーせ、告白しても振られるだけだろ。」
「まぁ、その通り。隣のクラスのやつ振られてだいぶ落ち込んでた。」
「ほへ…。」
やっぱ双葉蒼は人気高いのか。オレも声かけてしまったけどな…先日。
「あのさ、双葉さんってなんでしゃべらないのかな。」
「さーあ。それは知らない。」
「キャラじゃないの?クラスの女子は一匹狼ぽそうとか言ってたしな。」
「なるほどなー。」
「どした?成世、おまえ…まさか!?」
「なわけ。」
「だよな。双葉蒼に告白したってオッケーされるわけでもないし逆にメンタルえぐられる気も。」
「それに、オレ双葉さんと話したこと…」
ないと言おうとしたがそれは嘘。話したというか、会ったというか…飲み物もらったし。
「けど、オレは2年の先輩のほうがいいなーあの、双子の妹のほう。」
「オレは姉のほうかな。」
その後、なぜか恋愛トークで盛り上がったオレ達は会計を済ませそれぞれ自宅へ。
「ウィズは今日は何してんのかな。」
オレがご飯食べに行ってくると、言ったときまだ寝てたしその後こっちに来ることもなく。家にいるのかな。
「家帰ったら、昼寝しよう。」
大あくびしてるとまたしても、双葉蒼の姿を…?今回は違う、隣には男の人がいた。
オレは陰に隠れその様子を見ていた。
しばらく見ていると男の人が双葉蒼の腕を掴んだ。双葉蒼はその手を振り払おうとしている様にみえた。なんだ、これはナンパというやつか。影で見ていたオレはその2人の元に行き
「すみません、この人オレの…。」
オレの…なんだ。とっさに飛び出したオレは彼女の腕を握ったまま硬直してしまった。
男の人は不思議そうな顔をしていた。
「あ、あなた彼女に何をしてたんですか。」
オレは勇気をふりしぼって双葉蒼を守ろうとした。男の人は何も言わないままその場から突然逃げた。オレは追いかけようとしたが、双葉蒼がいるからその場にとどまった。
「大丈夫だった…?」
「あの…。」
「あ。」
オレは双葉の腕を掴んだままであった。すぐに離し急に出てきてごめんと謝った。
彼女は気まずそうにしてたが小声でありがとうと言って走り去った。本当に口数少ない人。オレも家に帰りウィズにこのことを話したが興味関心ゼロ。まくらを抱きしめ腹減った目で訴える。オレは仕方なくウィズを連れコンビニに行きやつの好きな肉まんを買ってやった。ウィズは満足そうに肉まんをほうばっていた。
帰り道、オレは気づいてなかったが…一枚のカードが落ちていた。そのカードを拾った人物は……だった。
そして、このカードを拾った人物とオレは次なる試練を課せられることになるのであった。
第7話 彼女の一枚
「ふぁ…ねむ。」
オレは目覚ましに起こされる。今何時かなと目覚まし見るとまだ7時前。学校不登校のオレには関係ないと…。いや、関係あるわ。
「用意するか…。」
まだ寝ぼけているオレだが学校の準備をし
朝ごはんを食べ家を出た。
「さて、今日はどんな1日になるかな。」
「おまえ、今日はカードの導き見たのか?」
「今日は何かが起こるって。」
「何か。」
「それについては何も…。」
「ふーん。」
だいたい、ウィズがふーんとかへーとか言うときは興味ゼロ。ウィズはオレに出会ってから肉まんとまくらのことは好きになった?がオレのことに関してはまだまだ興味を持ってくれないというか。扱いになかなか困る。
なんせ、どんな時も大抵無表情。笑ったり泣いたりしないから感情が読めない。
「今日は一時間目体育だから。」
「じゃあ、オレは教室にいるから。」
「え、ウィズも外にいてくれよ。」
「オレは寝る。」
「またか…。」
「成世、ボール行ったで~」
「おうー。よっと。」
一時間目は体育で外でサッカーをしていた。オレは中学生の時はテニス部だったがなんでか、サッカーもそこそこできた。
「パスー。」
体育だからそんなに本気ではないがまぁ、試合みたいな感じでやっていた。女子はテニスをしていた。
「いやーさっきの成世おもしろかった。」
「仕方ねーだろ、オレ、サッカー部じゃないし。」
「そうだな。」
授業が終わり友達と教室に戻っていると双葉蒼がまだコートに残っていた。何しているのか気になった。
「ちょ、先に帰ってて。」
「お、おう。」
「次、遅刻すんなよ。」
「ごめんよ。」
オレはテニスコートのほうに向かった。
「双葉さんー何してるの?」
「…。」
双葉蒼はオレの声に気づいた様子でこっちを振り返った。
「どうしたの?」
「…これ。」
双葉蒼の手には一枚の紙。いや、あれはオレと同じ模様のカード。
「それ…どうしたの?」
「今朝、拾った。」
拾った…?どういうこと。
「ウィ…あいつは教室か…。」
「何呼んだ?」
「何って…え!?いつの間に。」
「お前、オレは瞬間移動使えなくっても特殊な能力を持ってるからすぐ移動できるさ。」
「初耳だよ…。」
ウィズと話してる様子を不思議そうに見ていた双葉蒼。彼女にはウィズの姿が見えないからオレがただ独り言を言っているだけに見えている。そのはずだった。
「誰かいるの…。」
「え?」
「紫色の髪の毛…。」
「ウィズ!」
「どうやら、彼女にはオレが見えているそうだな。」
「どうして…。」
すると、突然彼女の持っていたカードから光が現れまたたくまに周りが白く包まれ…。
「げほっ。なんだ!?」
「えっ。」
オレ達の前にはピンクの服をまとい水色の髪の毛の女の人が。
「久しぶり、ウィズ。」
「…。」
女の人はウィズと言った。この人はどうやらウィズのことを知っているそうだ。
「…プリス・エルダム」
今度はウィズが女の人のおそらく名前を言った。2人は知り合いなのか。
「はじめまして。私はプリス・エルダム。プリスと呼んでほしいわ。」
と、女の人はオレと双葉蒼に向かって言った。双葉蒼は完全に何が何だかわかっていない状況だった。オレはウィズとの出会いを思い出した。こいつも最初は名を名乗っていたなと…あ、こいつの場合は全裸。
「双葉蒼。あなたのパートナーに私は選ばれたの。以後よろしくね。」
プリスは双葉蒼を見て言った。相変わらず、ウィズもプリスも単刀直入というか。いきなり、パートナーと言われても何のことかわかるわけないだろ…。
「…。」
双葉蒼は何も言わないし動かない。
「…て、て、いうか…授業!!」
オレはすっかり授業のこと忘れていたがまだ間に合いそうだった。急いで戻らなきゃ。
「双葉さん、授業始まるよ。」
「…。」
「双葉さん…?」
彼女はどうやら、このいきなりの事についていけなくって硬直している。
このまま彼女をほっておくわけにも行かなかったので彼女を連れ保健室に向かった。
「じゃあ、双葉さん、オレ教室に戻るね。」
双葉蒼を保健室に連れて行ったオレは自分は教室に戻ろうとした。彼女はやっと、意識が戻ったのか
「…あの…。」
小声で何か言っている。
「どうしたの?」
「夢…なの。これ。」
「…現実だよ。」
「…。」
彼女はどうやら、ウィズが見えたこともカードから人が出てきたのも夢だと思ってたそうだ。しかし、これは現実。まぎれもなく、現実。
「…あとで説明するから今は休んでね。」
オレは彼女にそう言って教室に戻った。
結局、授業に遅刻したオレだったが保健室に双葉蒼を連れて行ってましたと説明し先生のお怒りを受ける事はなかった。が、友達からは何してたのかしつこく聞かれた。双葉蒼を保健室に連れて行ったとも言えば変な誤解を生むかもしれないから言わなかった。
そして、双葉蒼も午後には教室に戻ってきて普通に授業を受けていた。ウィズともう一人のプリスなんとか、プリスの姿は確認できなかった。放課後になりオレは双葉蒼を連れ誰も使わないと思われる三棟の隅っこの教室に移動した。
「双葉さん、その、体育の授業の時はごめんなさい…。」
「…。」
「オレはその双葉さんが持ってるカードと同じ物を持っていて…。」
と、オレはポケットからウィズが出てきたカードを取り出した。
「これ。オレもこれを拾ったんだ。」
そして、オレはこのカードを拾ってウィズと出会ったことを話した。同じカード保持者なら話しても問題ないと思って。双葉さんはオレの話をただ黙って聞いてくれた。
「と、いうわけ…。」
「…じゃあ、あの…パートナーっていう人は私のことサポートしにきたってこと?」
「簡単に言うとそうだね。」
「あっ…。」
双葉蒼は自分のカードの表を見ると
「女皇教…。」
と、つぶやいた。ウィズは確か吊るされた男。じゃあ、あのプリスは女皇教。同じ種族だろう、たぶん。身分はなんか違う気がするけど。
「こんなところにいたのね。」
突然、女の人の声がした。辺りを見渡すとプリスが窓の外にいた。
「探したんだけど、蒼。」
さっきより、きつめの声でプリスは言った。
ごめんなさいと彼女は頭を下げた。
プリスは続けて
「この、ヘタレくんから話は聞いた?」
と、オレを指さして言った。ヘタレくんとはなんという…口の悪さ。オレは瀬戸成世という名前があるのに。
「私の使命はあなたをサポートすること。そして、よりよいライフを過ごすためにできる限りのことをする。でも、私は女皇教。言ってみれば、お姫様とでも。だから、プライドは少々高いけど。そこのところ理解してくれるとありがたいんだけどね。」
と、自らお姫様だのプライドが高いだのよく言えるな…と変な意味で感心してしまった。
双葉蒼は黙ってそれを聞いていたが
「よろしくお願いします…。」
と、プリスにお辞儀した。
「で、さっそくなんだけど、第一試練としてあなたのお家にお邪魔するんだけど。」
「は、はい…。」
双葉蒼は返答に困っていたが、プリスの言いたいことは理解してるだろう。
「じゃあ、ヘタレくん、用は終わったから帰ってくだされば。」
「…あ、はい。」
オレはたぶん、プリスはウィズ以上に扱いにくいというか上から目線なのが少し気に入らない。帰れと言われてるから帰るけど。
「じゃ、双葉さん…またね。」
「…ありがと。」
「んん、何かあったらまた聞いてね。」
「ん…。」
荷物を手に取り教室を出た。階段を降りているとずっといなかったウィズがいつの間にか姿を見せた。ウィズにあとでプリスのことを聞こうと思った。
「あの、プリスさん…。」
「プリスでいいよ。」
「あの…私…。」
「あなた、人見知りなんだよね。」
「えっ。」
「だから、クラスのやつに勘違いされてるんでしょ。」
「…。」
「あなたの第一試練はその人見知りを治すところからよ。ヘタレくんの場合は不登校脱出だったけど。」
「…うん。」
双葉蒼は実はものすごい人見知りでそのせいでクラスの人に話しかけられないせいかいつのまにか一人だった。それが、一匹狼キャラと勘違いされていた。
「とりあえず、お家帰ったらお風呂貸してね。」
「うん…どうぞ。」
双葉蒼とプリスの運命はここから始まった。
と、同時にオレの運命もまた一つ新しい導きを辿っていくのであった―。
第8話 進展してゆく関係
あれから、双葉蒼と何度か2人で会う日が増えた。いつも、三棟の隅っこの教室。誰も来ないからある意味いい。で、会って何してるかというと…もちろん、やましいことはしてないぞ。オレにそんなことできるだけの勇気もなきゃ相手は双葉蒼だし…。いや、双葉蒼が嫌いとかではなく彼女のことまだ知らないしなんせ、会話が続かない。ほぼ、毎日会ってるのに何の進展もない。クラスメイトという関係で一生終わりそう。ウィズとプリスは別にそれといって話してるわけじゃないしお互い同じ種族だけどそこまでのかかわりはなさそう。
そんなある日、双葉蒼がまたもや別のクラスのやつから告白されてる現場を見た。
「まずは、友達からでもいいから…連絡先とか教えてもらえないかな。」
「…。」
彼女はいつものように何も言わないまま。
男の人のほうは結構グイグイいってるけど。
「俺、入学してからずっと双葉さんのこと気になってたんだよ。」
「…。」
オレは完全に双葉蒼が困っているようにしか見えなかった。だから、助けに行こうとした。が、プリスに止められた。
「なんで、止めるんですか?」
「まぁ、ヘタレくんは黙ってなさい。」
「え、すみません…。」
「私があの子のパートナーなんだから。お仕事させてくれない?」
と、言ってプリスは双葉蒼の元へ。相手には見えてないから都合がいい。
双葉蒼はプリスに気づいた。
「私に任せなさい。」
なんか、耳打ちして会話している。
「あ、あの…。」
「あのさ、」
双葉蒼がやっと口を開いた。
オレは離れたところで傍観していた、あまり声は聞こえなかったがだいたい何を言ってるかは予想できた。
「私、おまえに興味ない。ごめんけど他あたって。」
「え…あ。」
双葉蒼は男の人を無視してそのまま教室に戻った。男の人は泣きながらどこかへ行ってしまった。何があったんだ…。オレの知っている双葉蒼はもっと口数少ないのに…。
その放課後、オレと双葉蒼は一緒に下校した。なんか、カップルみたいな気分に…ならない。オレは告白の件について尋ねたが彼女自身も何が起こったかわかってないそうだ。自分で言った言葉さえ覚えてないそう。
「プリスさん、あの…双葉さんに何したんですか?」
「何って、何もしてないわよ。」
「え、でも、男の人が泣くってそうとう…。」
「あぁ、私も泣くとは思ってなかったわ。」
「なんていう人だ…。」
「そのうちわかるようになるわよ。」
「そうですか…。」
「むしろ、ウィズから教えてもらってないの?」
「え、何も。」
「はぁ…。」
ウィズからはオレは何も教えてもらってないのは確かだ。ただ、カードの導きに従えとしか。カードの導きはかなりオレにとっては心の支えというか…不思議な力が心地よく感じられる。
「じゃあ、双葉さん、また明日。」
「ん、また明日。」
オレと双葉蒼は途中で別れオレは家に帰った。家に帰るとウィズがまくらを抱きしめて待っていた。
「ただいま。」
「最近、帰り遅い。」
「あーいろいろ話してるからね。」
「…あいつらか。」
「ウィズ、あのさ。」
「アレだろ、プリスから何も話聞かされてないから聞けと言われたんだろ。」
「そうだけど…なんで、知ってるの!?」
「あいつのことだ…それぐらいわかる。」
「そうなんだ…で、話してくれるの?」
「お姫様の命令だ、仕方ない…。」
と、ウィズは持っていたまくらを置き空中に何か描き始めた。しばらくすると、紋章みたいなのが現れた。
「オレらは異世界からやってきたアルカナ族という種族だ。そして、オレたちは向こうの世界ではそれぞれ身分がある。プリスはお姫様。オレはまぁ、一般人とでも言おうか。」
やっぱりプリスは向こうの世界では身分の高い人なんだと改めて実感した。
「で、そのアルカナ族の中でも神のお告げか選ばれた22人がいてそいつらには特別に神の紋章がある。」
神のお告げ…紋章。だんだん、整理が追いつかなくなってきた。すると、ウィズはいきなり服を脱いだ。
「これが、紋章。」
ウィズの右胸には紫色の紋章が確かにあった。出会ったときには全く見てなかったけどプリスにもついているのか…。
「で、その神のお告げかなんかで、オレやプリスはカードとなって人間界にやってきた。」
それで、オレはそのカードを拾ったと。
「カードは予め持ち主が決まっている。その持ち主に拾われたらパートナーとして任務を遂行しなければならない。」
「ウィズの任務はオレの不登校脱出だったよね。」
「そうだな。」
今では、学校に行くのが普通になってきたがはじめのうちは結構大変だったな…。
「で、その22人に選ばれたアルカナ族には特別な力を持っているわけだが。」
そう、それ。オレが聞きたかったの。
「その力はカードの保持者を助けるときにしか基本使えない。それ以外は元からの能力。」
「と、いうことは…いつでも使えるわけじゃないってこと?」
「そういうこと。」
ウィズやプリスの力はオレや双葉蒼を助けるためのものらしく実際、その力がどんなものかは具体的にはハッキリしてないそうだ。
「オレが話せるのはそれぐらいだ。詳しく聞きたいならプリスにでも頼んでくれ。」
「ん…。」
なかなか複雑な話だったが少しだけわかったこともありよかった。ただ、ウィズやプリス自身の詳しい事は何もわからないまま。たぶん、後にわかることなんだろうけど。
そして、このカードが地球上に21枚あること。で、今見つかってるのが2枚。残り20枚。先が長い。しかし、ウィズから1人の人が2枚以上カードを保持することもあるらしい。だから、必ずしも20人いるわけではないそう。
「さて、オレは話したから寝る。」
ウィズはまくらを持って寝てしまった。
オレは双葉蒼にウィズから聞いたことを教えようとスマホを開いたら案の定彼女からも同じことを聞かれた。たぶん、彼女もプリスから話は聞いたのだろう。しばらく、彼女と連絡をとりあっていると
「明日、会えませんか…明日は土曜日か。いいよっと。」
オレはハッとした。明日会えませんか、彼女からきたメッセージはまぎれもなくデートのお誘い。いや、付き合ってはないが2人で学校外で会うというのは初めてだった。
「双葉さんって意外と積極的なんだ…。」
オレは完全に浮かれ始めていたが実際、土曜日になってオレはいろいろわかった。デートなわけじゃなかった。
「ヘタレくんには彼女の人見知りを治すお手伝いをしてもらいます。」
と、プリスから告げられた。双葉蒼は赤面していたがよろしくお願いしますとペコペコ頭をさげた。
こうして、またオレの休日ゴロゴロライフは消えていったのであった。
特別編 ハロウィン
街は色とりどりの装飾で飾られあちらこちらでかぼちゃの置物が見られる。
10月30日。世間ではハロウィンの日と言う。そもそも、外国の文化であるのだが日本にも伝わり今では仮装したりお菓子をもらったりとその形態は変わっているのだが。そして、オレ、瀬戸成世は今日はハロウィンの日でもお家でゴロゴロライフ。そこまで興味があるわけでもないからな。
「最近の若い人ってなんで仮装に力入れるんかな。」
オレはお菓子をつまみながらテレビを見ている。そのテレビで10代、20代の女性が仮装していてインタビューを受けている最中。
まぁ、オレには関係ない話だが。
「ハロウィンとか言って、特別何かあるわけじゃないしな。クリスマスじゃあるまいし。」
「ハロウィン…ってなんだ。」
ウィズがオレの隣で座って尋ねてきた。ウィズは異世界からやってきた人間とは別の種族の生き物。アルカナ族というらしい。で、ウィズはオレのパートナーでもある。
オレは不登校児であっがこいつのおかげで今では学校に通えるようになった。
ウィズはどうやら、ハロウィンというものを知らないそうだ。異世界にはハロウィンというイベントは存在しないのか。
「ハロウィンって言うのは…まぁ、簡単に言えば仮装してお家まわってお菓子もらっていうイベント。」
「ん。」
「で、お菓子もらう時にはトリック・オア・トリートって言うんだ。」
「トリック・オア・トリート。」
「お菓子くれないといたずらするぞっていう意味だって。」
「ふーん。」
ウィズの返答からあまりハロウィンというものに興味が湧いてないというのはわかった。どちらかと言うと女の子が楽しむイベントだったりするからな。
何もすることがないオレは無心にお菓子を貪ってテレビを見ていたが隣にいたウィズが急に
「トリック・オア・トリート。」
と、手を出して言った。オレは自分が食べていたスナック菓子をあげたがウィズはいらないと言った。
「じゃあ、なんだよ!?」
「トリック・オア・トリート。」
「いや、だから、さっきあげたじゃん。」
「おまえ、オレと過ごしてきて何を学んだんだ。」
「何って…なに?」
「トリック・オア・トリート。」
「答え教えてくれないのかよ!」
「オレの好きな食べ物くれないとおまえの運命の導き変えてやるぞ。」
ウィズの言っている事は半分脅しでオレは今すぐにでも答えを探さないとひどい目に遭うと思った。ウィズの好きな食べ物…あ。
「肉まんかよ…。」
そう、ウィズの好物は肉まん。人間界に来て初めて食べた物が肉まんであったがどうやらそれがとても気に入ったそうで。コンビニ行くたびに肉まんを買わされている。
「トリック・オア・トリート。」
「はいはい、買ってきますよ。」
オレは上着と財布を持って近くのコンビニに出かけた。コンビニで肉まんを買って店を出た。
「あ、成世くん。」
「…蒼。」
店を出てオレの前には双葉蒼がいた。彼女はオレのクラスメイトであり同じくタロットカード保持者。そのこともあり彼女とは仲良くなったわけだがこんな日にも会うとは。
「成世くんは何を…。」
「あぁ、ウィズのパシリ。肉まん買ってこいって。トリック・オア・トリートって…。」
「なるほどね。」
彼女はくすっと笑った。オレはその顔にドキッとしたが早く帰らないとウィズに怒られると思った。
「じゃ、オレは帰るから。」
と、双葉蒼に挨拶した。すると、
「成世くん。」
珍しく双葉蒼がオレを呼び止めた。オレは振り返った。
「あ、あの、これよかったら。」
彼女は自分が持っていた紙袋からラッピングされた袋をオレに渡した。そして、じゃあ、またねと言っていつものように走り去った。
オレは数分その場に立ち止まっていた。
あまりの驚きに頭がパニック。
自分が持っている袋を見てうれしさが混みあげた。
ウィズは肉まんを満足そうに食べていた。オレは双葉蒼からもらったクッキーを食べていた。ハロウィンってなんかいい日だなと感じた。今度お返ししよと心の中でオレのドキドキとワクワクが弾んでいた。
10月30日。今日はオレにとってはステキなハロウィンデーになった。
(End)
第9話 変わりゆく2人
「で、オレは何しろと…。」
土曜日の昼間。今ごろ、お布団でお昼寝でもしているころなのに今日のオレは外。なぜか、公園にいるわけだ。公園では小学生ぐらいの子どもが遊んでてオレみたいな高校生ぐらいのやつは…あ、1人。
オレの目の前にいる双葉蒼のみ。彼女はベンチに座ってて下を向いて全然オレの顔を見てくれない。そもそも、なぜオレがここにいるのかというと、双葉蒼にデートのお誘いをされうれしさで浮かれてたらプリスから彼女の人見知りを治すための手伝いと言われ。で、現在ここにいる。デートは一体どこへ…。
「ごめんね、私のためなんかに…。」
「いや…。」
「どーせ、ヘタレくん暇なんでしょ?」
「うっ、まぁ、そーだけど。」
「ほんと、ごめん。」
「いいよ、オレ暇人だから、ハハハ。」
オレは笑いながらも双葉蒼と二人っきりならまだしもなんでプリスがいるんだよと不満ではある。ウィズは家で留守番。
「さて、では、まず…。」
プリスは周りをぐるっと見回し、
「とりあえず、遊具で遊んできなさい。」
とオレと双葉蒼に言った。いや、オレ達高校生だぞとオレは思ったが双葉蒼は言われた通り子どもたちのほうに行ってしまった。
「ヘタレくんも行くんだよ。」
「へいへい…。」
プリスの威圧的な目線でオレも折れて遊具のほうへ。
「さて、遊べと言われても…。」
実際、何すればいいのか全然わからないオレは双葉蒼の様子を見ることにした。様子を伺っていると双葉蒼の様子がおかしいことに気づいた。
「何してんだ…?」
オレは彼女のほうへ行ってみると小学生の男の子に囲まれてる彼女を見た。双葉の顔は真っ赤で口元がプルプル震えている。
「お姉さん、一緒に遊ぼー。」
「オレ達今、ベジタブルレンジャーごっこしてるんだぜ!」
「お姉さんは敵の役してね、こーやって。」
「え、え…と。」
男の子たちは双葉蒼と遊びたいそうだが彼女はどうすればいいのか困ってしまっている。子どもに慣れてないのかなとオレは推測する。数分様子を見てたが彼女が全く動かないのでオレが代わりに子どもたちの相手をするハメになってしまった。
「くらえ、ベジタブルスーパークラッシュ!!」
「ううっ、やられたー…。」
「ハハハ、お兄ちゃん負けた~!」
「ねぇねぇ、次はモンスターハンテングごっこしようぜ!」
「いいよー。」
しばらくの間、オレはこの子どもたちの遊び相手になって双葉蒼のことを忘れてしまっていた。夕方になり、子どもたちも帰って公園にはオレと双葉蒼だけになった。
「ひぇ…最近の子どもは元気だな…。」
ブランコに座っているオレはすっかり体力消耗し動けなくなった。
「お疲れ様…。」
双葉蒼が手に缶ジュースを持って現れた。今でどこに行ってたのだろう。子どもたちの相手に夢中になってて全然見てなかったのがいけなかったかも。双葉蒼はオレにジュースを渡し隣のブランコに座った。
6月だから夕方とは言え明るかった。2人ともしゃべることはなく、ジュースを飲みそのままぼーっとしていた。
「…ごめん。」
双葉蒼が急に謝る。
「何が…。」
「子どもたちの相手…任せちゃって。」
「大丈夫大丈夫。」
「…。」
双葉蒼は完全に落ち込んでいる。人見知りだからきっと初対面の子どもたちに戸惑ってしまったのだろう。無理もないとオレは思った。
「私…。」
「ん?」
双葉蒼は何か言いたいことがあるように思えた。時刻は6時。時間だけが進んでいく。
「私…過去に…誘拐されたことがあるの。」
「ゆ、誘拐…。」
双葉蒼から発せられた言葉は信じ難いものであった。あまりの衝撃事実でオレも何を言えばいいのかわからなくなってしまった。
彼女はそのまま話を続けた。
「私、小学生の時…友達と遊んでた帰り道に知らない人に急に手を引っ張られて車に乗せられたの…。何のことか全然わからなかったけど、お母さんでも、お父さんでもない人だったのはわかった。しばらく立ってその人が車から降りて私も一緒に降りて…やっと、知らない人に私捕まってるってことがわかって助けてって、叫んだ。そしたら、近くにいた人に助けてもらってケガはなかったけど…。怖かったの…たぶん。お家帰ってお母さん、お父さんって泣いてた。」
彼女の口も身体も震えているようにオレは感じた。そんな事実があったなんて知らなかった。小学生の時に誘拐ってなかなか大きなトラウマであろう。そのまま黙ってオレは話を聞き続けた。
「その事件があって、私はしばらく外で遊べなくなってね。学年があがるにつれ…知らない人と話すっていうのも怖くなってきて。初対面の人とどうしても…上手くしゃべれなくって。それで、そのせいか一匹狼とか言われるようになって。」
彼女も自分が一匹狼と周りから言われていることに気づいてた。けど、彼女はどうしても人見知りを治すことができなかった。いや、心の傷のせいだろう。
「…ホントは、話さなきゃいけないと思ってる。でも、怖くって。どうしたらいいのか…わかんなくって。で、告白されるのもちょっと怖くってまた知らない人に連れて行かれるのかなって。この歳にもなって…。」
彼女の目には涙が潤んでいた。相当、苦しかったに違いない。その過去を抱えながらも…オレとは違って学校に通ってた。オレはその場にいることさえもできなかったのに。
オレのほうがかっこ悪い…。
「だから、私は…。」
言いかけたところで彼女は俯いてしまった。
言わなくっていいよ、苦しいならとオレは思った。思っただけじゃ、彼女に伝わらないのはオレにもわかってた。しばらく彼女は何も言わないで黙ったままだった。今度はオレが口を開いた。
「双葉さん…オレ…すごいと思った。」
「え…?」
彼女は顔を上げてキョトンとしていた。
「オレ、誘拐されたことはないけどもし誘拐されて無事だったとしてもそのままそれずっと引きずって学校行かなくなると思う…。現に、オレ不登校してたし。」
オレは手に持ってた缶ジュースを地面に置いた。
「でも、双葉さん…学校行ってたし人見知りだけどオレにジュースくれたし、ちょっとだけど会話してくれたじゃん。で、今日も自分の人見知り治そうと思ってオレ呼んだんでしょ?」
「でも…それはプリスが…。」
「たとえ、そうだとしてもオレは双葉さんは勇気ある人だと思うし強い心の持ち主だよ。それに比べてオレは逃げてただけだし。」
オレは逃げてただけ。彼女は苦しかったし辛かっただろうけどそれでも戦ってた、自分の悩みと。そんな彼女をオレは褒めてあげないといけない、守ってやりたい…そう思えた。
オレはブランコから立ち上がり彼女の前に立った。
「双葉さん…きっと、苦しかったよね、辛かったよね。でも、それは恥ずかしいことでも自分を悪く言うことでもないんだ。誰にだって悩みやトラウマあると思う。だから、急がなくっていいから、」
オレは座って彼女の手の上に自分の手を重ねた。そして、まっすぐ彼女を見て
「オレも手伝うから一緒に人見知り治そう。オレはヘタレくんだけど…オレも双葉さんのためにがんばるよ。」
「…あ…。」
「…ありがと。」
彼女からは大粒の涙が零れた。オレはそれ以上は何も言わなかった。彼女の気が済むまでその場にいた。オレはこの時自分で彼女に言った事は同情なんかでもなく自分がお人好しだからでもなく純粋に彼女を守りたいと思ったからであろう。空は夕焼け色になりだんだんと夜が近づいてる。この日、オレは彼女と約束した。
今度からお互いを名前で呼び合うこと。
それと…。
夜、オレはベッドの上に寝転がって考えてた。考えても考えても答えは見つかりそうになかったが。それでも、考えてた。
「成世。」
ウィズがオレにカードを差し出した。このカードを見ろということか?
「成世、吊るされた男の正位置なんだったか覚えてるか?」
「えーと、試練?」
「そう。」
試練とこの件に関して何が共通点なのかオレにはわからない。
「おまえは、一つ試練を乗り越えた。あの子を守りたいと思ったこと、助けてやりたいと思ったこと。それは、今でのおまえの性格上そうしなきゃいけなかったというわけではなく、純粋な気持ちの現れからだろう。」
ウィズもわかっていた。オレが学校に行けなくなった原因の一つである周りから頼られることがだんだん苦になるという事。でも、オレは断れなかった。全部引き受けた。今回は違う、自分で自分の意志でオレは動いた。
それは立派な試練の一つだったのであろう。
月曜日がやってきた。また、一週間が始まる。オレはいつものように通学路を歩いてた。
「おはよ…成世くん。」
オレは振り返った。オレの後ろには双葉蒼がいた。彼女の恥ずかしいのか頬がほんのり赤色になっていた。
「おはよ、蒼。」
オレも彼女に挨拶をした。
彼女はうれしそうにニコッとしてオレの横を通り過ぎた。
彼女との距離は最初の時よりは縮まった気がする。オレは背伸びをして
「今日も一日がんばるかー」
と意気込んだ。
「おまえ、教科書忘れてたぞ。」
ウィズがオレの教科書をくるくると指で器用に回しながら言った。
「あ、…すまん。」
オレのヘタレは相変わらず変わることもなく…今日の一日もこんなかんじで始まったのであった。
第10話 試練ではなく試験
「いいか、ここテストに出るかもしれないからよく覚えるように。」
「先生、出るかもじゃなくって絶対出してくださいよー。」
「それはわからん。」
「えええー。」
6月も残り数日となりますます夏が近づいてくる今日このごろ。もうすぐ、試験という名の恐ろしいやつがオレ達を襲いに来る。高校生の試験は中学の時と比にならないくらい大変でありまさに地獄。赤点を採れば夏休みともさよならだろう。あいにく、オレは数ヶ月休んでたため今回のテストは危ない予感。遅れを取り戻すためがんばっているが一人で解決できそうにもない。しかし、幸運なことに数学と化学など理系科目は得意だが英語がどうにもならない。最近は、放課後も勉強するようになったが…
「ええーと、んーと…。」
「わかんねえええ。」
一人頭を抱え撃沈。だいたい、なんだ現在完了形?過去完了形?そんなもの知るかよってテキスト投げたくなる。こーいうときに…いてほしい存在…ド○モンとでも言おうか。しかし、オレの後ろにはド○モンではなく
「ふぁ~…。」
のんきにあくびしているやつ。紫色の髪に黄色の目。暑いのにまだ長袖着てる。
「ウィズ、オレのパートナーなら手伝って…よ。」
「しらん。」
彼はウィズという名の異世界人。ついこの間、オレのパートナーになったやつだ。こいつとの出会いは第1話を読んでくれ。
「役立たず…。」
オレはつい本音を漏らしてしまった。まずいと思ったが既に遅かった。ウィズは無表情のまま右手の中指を立てて
「fuck。」
と、言った。オレはすみませんすみませんと土下座。
オレの放課後は毎日こんな様子だった。
さて、テスト一週間前。
「テスト範囲はー。」
うげ、テスト範囲に苦手なところ入ってる。
オレには夏休みがなくなる可能性がこれでさらに高まった。これはまずい、何とかせねばとオレは思い朝早く学校に行き勉強するようになった。
「んー、ここは時制は過去だから…have?いや、had?やっぱ、わかんねえええ。」
「そこは…hadだよ。過去完了。」
「おーなるほど!って、」
オレは声がした方を振り返るとそこには双葉蒼が。
「ふ、双葉さん…。」
「おはよ、成世くん。」
「お、おはよ。」
彼女はオレのクラスメイトの双葉蒼。彼女とは最近よく話すようになった。彼女も同じくパートナー持ち、いわゆる、タロットカード保持者。彼女は自分の机にカバンを置きオレの机の隣のいすに座った。
「現在完了と過去完了は…。」
「ん、ん。」
なんかよくわからないが彼女はオレに勉強を教えてくれた。丁寧な説明だしわかりやすいからオレでも理解できた。
「蒼、英語得意なの?」
「いや、そうでもないけど…。」
「すごく、わかりやすかったよ!」
「…ありがと。」
そして、オレはひらめいた。
彼女に英語を教えてもらえばいいんだと。
「蒼…あの…。」
「うぃーす、成世おはよー」
「…。」
せっかく、言おうとしたところで邪魔が入った。くそ、後でぶっこr((
「あれ?あれれ?成世くんー…。」
「てめぇ、こっちこいよ。」
オレは立ち上がって友人を連れ教室の外に出た。双葉蒼は自分の席に戻って準備をしてた。数分経って、オレと友人は教室に帰ってきたわけだが何があったかは察してくれ。
で、オレは双葉蒼に勉強を教えてと言おうとしてたのだがそのチャンスも散ってしまい…。しかし、テスト前の放課後、オレにラッキーチャンスが到来した。
「成世くん、今度の休みの日…。」
「あ、あの…蒼、オレに英語を教えてください!!頼む!」
なんと、双葉蒼の方から声をかけてくれたことによってオレは伝えようとしてたことが無事言えたのであった。彼女はすぐ、
「いいよ。」
と、返事してくれた。そして、オレは彼女と勉強会をすることになった。
「じゃあ、ここはどっちになる?」
「えーと、…have been toかな。」
「ん、正解。」
「よっしゃー!」
オレと双葉蒼はだだいまテスト勉強中。それで、ここは双葉蒼の部屋。彼女の両親は出かけているそうで、特別にお邪魔させてもらっている。女の子の部屋に入ったのはたぶん久しぶり。女の子の部屋というのはこんなにもいい匂いが…。
「成世くん?」
「は、はい。」
「次行くよ?」
「お、おう!」
かなり浮かれているオレだが本来の目的は勉強。余計なこと考えてたら、赤点採って楽しい夏休みともさよならだ。自分を律してその後も無言で問題を解いていた。
「はぁ…英語大丈夫かな。」
「大丈夫…だと思うよ。成世くん、ちゃんと理解できてるし。」
「でも、不安だよ…。」
「私だって、化学全然できないし…成世くんに教えてもらって理解できたところだし…。」
と、2人とも謙遜しまくってるわけだが他人から見れば何アイツら…と思われそうだが。
無事、勉強会を乗り越えたオレはそろそろ帰ろうかと思った。
「そろそろ、オレ帰ろうと。」
「うん。今日はありがとう。」
「こちらこそありがとう。ほんと、助かった。」
オレは荷物を片付け部屋を出ようとした。
しかし、ずっと座ってて足が痺れてしまって
立ったときに転けそうになった。と、いうか、転けた。
「危ない…!」
「あ、あ…痛てぇ。」
「ひ、え、う…。」
「…?え、あ。」
お約束と言いましょうか、オレの下には双葉蒼が。しかも、顔近い。オレは急いで彼女から離れた。
「ご、ごめん。」
「…だ、だ。」
双葉蒼は顔が真っ赤で若干涙目になってた。
本当に申し訳ないことをした。
オレは彼女にひたすら謝って急いで家から退出した。
「あ…何やってんだ…。」
まさか、あんなお約束パターンがオレにもやってくるとは。そんなことより、本当に申し訳なさすぎて。もしかして、オレ嫌われるかもと考えてしまった。
その日の夜、彼女に今日は本当にごめんとLINEした。彼女からは大丈夫と返事がきた。が、本当に大丈夫なのか心配でしかたなかった。でも、終わったことは仕方ない、あれは事故だ、事故と自分に言い聞かせ最後のテストの追い込みをした。
テスト当日。
オレは数分と化学は余裕で終えたが問題の英語にさしかかった。しかし、双葉蒼と勉強したから大丈夫と思った。
「赤点…回避…おめでとう、夏休み!」
オレは返ってきたテストを見て歓喜に満ちてた。勉強したかいがあった。双葉蒼のほうも赤点はなく苦手だと言って化学もオレよりできていた。本当に彼女には感謝でいっぱいだった。
「夏休み…どーしょうかな~」
オレはるんるんで廊下を歩いてた。すると、突然、オレの背後から
「瀬戸成世、おまえに決闘を申し込む!!」
「…え?」
「おまえに勝ってオレは彼女の彼氏になるんだ!!」
決闘を申し込む…???
また、オレの運命は思わぬ方向に廻り出していた。
第11話 男の決闘
太陽が照りつけ気温もますます高くなっていく今日このごろ。夏休みを目前に控えているオレにとってはこんな暑さぐらいへっちゃら。無事テストを終え赤点も回避しルンルン気分だった。そんなオレの目の前に現れたやつのせいでオレはとんでもない試練にぶち当たるのであった。ただ、夏休みを優雅に過ごしたいだけなのに…なんでだ!!!
「あの…人違いじゃないでしょうか…。」
「何を言う、おまえはまさしく1年3組10番瀬戸成世だろ!」
「なんで、オレの組番号まで知ってるんですか!?」
「ふふっ、それはまぁ、オレにかかればそんぐらい。」
オレは廊下を歩いてたらこの変なおそらく2年か3年の先輩に絡まれた。オレは何もしていないのに。
「…て、いうかどちら様ですか?オレはあなたのこと知りませんけど。」
「よくぞ、聞いてくれた!オレは2年4組のイケメン王子とでも言いましょうか…しかし、オレはただのイケメンではない!2年4組そして、バスケ部の次期部長であり、体育委員長の天谷遥だ!」
「…すみません、帰ります。」
「ちょーっと、待って。今なんで無視した?え?」
「あの、オレはバスケ部に入ったりとかしませんから。」
「いや、瀬戸くん。おまえにバスケ部に入れなんてオレは頼んでないぞー?」
「じゃあ、なんですか…。」
「おまえ、同じクラスに双葉蒼ということがいるだろ。」
「いますけど…。」
「オレはあの子に…一目惚れした。そして、オレはあの子の彼氏になりたい、いや、彼氏が無理ならバスケ部のマネージャーでもいい。」
「…。」
「しかし、最近彼女とおまえがよく一緒にいるのをオレは知っている。まさかと思うが…。」
「…別に彼氏でもありませんが、クラスメイトですが。」
「だろ?が、オレは独占欲の強い男でな…おまえと彼女が一緒にいることが許せない。そこで、おまえに決闘を申し込みに来たわけさ。」
まさしく、くそめんどくさい先輩だった。オレに決闘を申し込まなくっても告白すればいいじゃないか、独占欲?そんなもの知るかよ。とりあえずこの場から早くいなくなりたいオレは適当に話を聞き流して…。
「で、決闘の内容はズバリ、1対1!バスケ勝負!!」
この人どうしても勝ちたいんだなとオレは思った。自分の得意種目だし。
「この勝負でオレが勝ったら双葉蒼はもらう、おまえが勝てばオレはもうあきらめる。」
オレに負けてあきらめるって…この人も所詮はその程度か。別にオレは負けてもいいと思った。この時は。けれど、運命はそう簡単にオレの思うようには進んでくれなかった。
やっとのことで解放されたオレは家に帰りウィズにこの事を話した。ウィズはふーんと適当に相槌を打ってそのまま寝てしまった。
こいつも自分に関係ない話は聞き流すタイプだったと思い出した。決闘の日までは約二週間ある。その二週間でオレは練習でもしようかと思ったが、負けてもいいと思ってたから練習する気力はなかった。
スマホを触り適当にゴロゴロしてたらメッセージが届いた。
「明日の放課後よかったら一緒に帰らない?」
双葉蒼からのLINEだった。いいよといつもなら返せるのに今回はあの先輩に絡まれてしまったからな…目撃でもされたら厄介だと思って
「ごめん、明日は用があるから。と…ごめん、蒼。あの変な先輩に絡まれてなければ…。」
そう、全てはあの変な先輩のせいだ。オレは普通に生活してただけなのに。
「…この勝負負けるわけには…。」
さっきまで、負けても構わないと思ってたがやはり双葉蒼と気まずくなるのは嫌だしなんせ、この間約束したんだ、彼女と。
「しかし、バスケだろ…相手はバスケ部だし。身長もオレより高い。勝てる余地はあるのかな…。」
普通に戦っても負けるのは目に見えてた。作戦を考えないと。と、言ってもどうすれば。
「そうだ!」
オレは机の引き出しからタロットカードを取り出した。
「忍耐…英知…。ん?」
いつもなら、もう少し細かく記してくれてるのに今回は漢字だけ。
「忍耐…つまり、耐えろ?英知…知識?」
オレは自分でこの言葉を解釈しようとしたが何のことか全然掴めず結局、毎日練習することにした。
友人に手伝ってもらい、いろいろ基本から教わったがやっぱオレは初心者だからそう簡単にはいかない。突き指というのも初めてなった。
「今日の練習も疲れた…。」
「お疲れ様、随分がんばってるね。」
校門の前にあの変な先輩がいた。
「まぁ、せいぜい頑張りたまえー。」
と、オレの肩を叩いて去った。あの変な先輩とは絶対仲良くなれないと思った。
決闘の日まで残り一週間
最近、双葉蒼に指の怪我どうしたのと尋ねられたが決闘を申し込まれその練習をしているなんて言えない。まして、彼女も関係してるから余計に言えなかった。
初心者ながらもそれなりにバスケの形にはなりだしたが相手はバスケ部の次期部長とか言ってるぐらいだからそれなりの腕があるのは間違いない。オレはできる限りのことのをし決闘当日に臨んだ。
「やぁー瀬戸くん、来てくれたんだね。」
「当たり前です。」
「まぁ、オレが勝つに決まってるがなー。」
「遥コテンパンにしてやれー。」
「1年にまけんなー。」
なぜか、彼の部活のメンバーまで集まっていた。と、いうか体育館でするからそうなるのも仕方ない。
「じゃあ、ルール説明ね。先に3点取ったほうが勝ち。まぁ、オレはハンデありで3ポイントシュートはなし。まぁ、なくっても勝てるからいいけど。」
先輩は余裕そうな顔。その顔もなかなかムカつくが。とりあえず、この勝負に勝って夏休みを…優雅に…あ、もちろん、双葉蒼も大切だが。
「ボールは瀬戸くんからでいいよ。」
「ありがとうございます…。」
「両者位置について。これより、瀬戸成世と天谷遥の決闘を始める。」
バスケ部の審判が笛を吹いて試合が開始された。オレはドリブルをしリングに向かった。まずは、一点を先制したいところ。
「瀬戸くん、それじゃあ、すぐ取れるよ?」
先輩はオレのボールを簡単に奪い取りそのままドリブルシュート。
「天谷遥選手に一点。」
「やー、ごめんね。」
オレは先に一点を先制されてしまった。まだ、一点だから取り返しの余地はある。
しかし、オレはなかなか点を入れることができないまま試合が進んでいく。
そして、始まって5分すぎにまた先輩に追加点。
「ラスト〜。」
先輩はまだまだ余裕だった。体力もまだありそうでオレは若干苦しくなってきた。練習してきたんだ、大丈夫と自分を勇気づけた。
試合が再開され先輩がまたシュートを入れそうになった。絶対入れさせてたまるかと思ってオレは腕を伸ばしカットした。
「へぇーやるじゃん。」
「負けません…から。」
「けど、あとオレは一点だけど瀬戸くんはまだ全然点入ってないよ。大丈夫かな?」
くそ、どうしたらいいんだ。練習したんだからできる。オレはなんとか一点を取ろうと必死でボールに食らいつく。何回もシュートのチャンスはあるもののなかなか入らない。
もう無理かもしれない、やっぱ無駄な努力するより負けてもいいと内心思えてきた。
「カードの導き。」
誰かの声が聞こえた。オレは辺りを見渡すが姿が見えない。
「忍耐…英知。」
忍耐…英知…。あ、オレは忘れていた。
カードの導きは絶対だ、苦しいけど耐えろそして、頭を使え。チャンスは必ずある。
オレは自分の頬を叩き喝を入れ
「先輩、オレはこの勝負に必ず勝ちます!」
と、宣言した。
「…アハハハっ、まぁ、頑張ってくれ。」
再び、試合の笛が体育館に鳴り響いた。
第12話 忍耐と英知
まずは、彼の行動パターンをよく見ろ。
どっかにすきがあるはず。
右、今度は後ろ…左…。
「成世くん、さっきの勝利宣言は何だったんかな?全然、攻めてこないじゃないか。」
天谷遥はゲラゲラ笑いながらボールをリバウンドさせていた。挑発に乗ってはいけない。今は耐えろ、もうすぐだ、チャンスは!!
「じゃ、ラスト一点もらうね〜。」
彼がコートを走りだそうとした、その瞬間…
「そこだ!!」
オレはボールを奪い取ることに成功した。
「逃がさない。」
先輩も負けじとボールを奪い返そうとする。オレはそのまま一直線に走り
「いけえええ!!」
無謀なことにスリーポイントゾーンからシュートした。そのボールはまっすぐきれいにリングに向かい
シュッ
「…。あ、瀬戸選手に三点入りました…。」
「…よっしゃぁぁ!!」
ピー
「うそ…だろ…。」
オレは見事スリーポイントを決めそれと同時に試合が終了した。オレはこの決闘に勝つことができた。自分でもびっくりしている。カードの導きはやっぱ正しかった。
天谷遥は悔しそうな顔をしながらも、
「負けた…約束通り…オレは双葉蒼には近づかないようにするよ。」
と、オレに告げた。でも、オレはその先輩の言葉に対して
「先輩、あの、好きなら…好きならあきらめたらいけないと思います。と、いうか…告白するのにどうして他人の許可が必要なんですか?オレは彼女とは付き合っていません、ただの友達です。オレに負けたぐらいであきらめるって先輩の気持ちはそんなものなんですか?」
先輩にオレは自分の思いを伝えた。
「…瀬戸くん。オレはキミみたいな人でありたかった。ありがとう。」
そう言って手を差し伸べた。オレも先輩の手を握った。友情の証の握手を交わした。
バン
いきなり、体育館のドアが開いた。
「天谷遥はいるか。」
体育館にいる全員がドアのほうを見た。
「天谷遥…おまえ、今日は委員会があると伝えてたのだが…何してたんだ。」
「ふ、副会長…。」
オレたちの前に現れたのはこの北海学園の生徒会副会長、四津。彼女は噂によるとどんなヤンキーでも黙らせてしまうほどの凛とした声の持ち主でなおかつ怖い。
オレが入学したとき確か挨拶してたけどそれ以外オレは何も知らないが。
「遅刻するとはどーいうことだ。」
「す、すみません。」
「罰として委員会後、書類の片付けを一人でやってもらうからな。」
「は、はい。」
「失礼した。」
彼女は先輩を引き連れ体育館から出ていった。残された部員とオレは無言で片付けをし体育館から退出した。
それにしても、あの副会長…怖い。見た目からはあんま感じられないがオーラが怖い。
目をつけられたらオレは終わりだなと思って今後の行動には気をつけようと思った。
「とりあえず、決闘は勝ったし夏休みはゴロゴロ…。」
「瀬戸くん!」
「あ、蒼。」
「その…。」
そういえば、オレはしばらくの間双葉蒼との連絡をしていなかった。練習に夢中になり疲れて寝て…学校でも彼女にこの決闘をバレないように気をつけていた。
「あ、あの…。」
「ごめん、無視してたわけじゃないんだ。いろいろあって、その…。」
「知ってるよ。」
「え?」
「ウィズくんから…聞いた。」
「え、ウィズから…?」
「ん、なんか、先輩に絡まれて決闘することになった、それでバスケの練習してるって。」
「そ、そうなの…?」
ウィズはオレの話を聞いていないものと思ってたがちゃんと聞いてたし…てか、なんで勝手に言ってるんだよと思ったが事情を説明する手間は省けた。
「だから、指…怪我してたんだね。」
「あーこれぐらいどってことないよ。」
「それで、あの。」
双葉蒼はカバンから何かを取り出しオレに手渡した。
「夏休み…よかったら、夏祭り行かない…?」
手渡されたものは夏祭りのチラシ。オレの住んでいる地元のお祭りで結構規模も大きいほう。毎年たくさんの人が集まる。
「…いいよ、一緒に行こう。」
「この前のお返しというか…瀬戸くんにはいろいろお世話になってるから。」
「そんなことないよ…オレこそ蒼にいろいろ頼ってたから。」
「じゃ、またね。」
「あ…せっかくだから…」
「一緒に帰ろ。」
オレは彼女に言った。少し間があり彼女も笑顔で
「いいよ。」
と言った。
(やっぱ、勝負負けなくってよかった。)
オレの心には彼女を他の人に渡したくないという密かな恋心が芽生えていた。
そして、今年の夏は新たな思い出ができそうな予感がした―。
第13話 夏が始まる時
「ついに」
「ついに、夏休みきたァァ!!」
「うるせ。。」
オレ、瀬戸成世は北海学園の一年生。今日から夏休みになりテンションはMAX。そんなオレを白々しい目で見てるのはパートナーのウィズ。ウィズは夏なのに長袖…見てるこっちが嫌な気分になりそうだ。
試験を終え赤点もなく無事夏休みを迎えたのだが夏休みは何をするかと言うと
「よっし、寝る。」
これに限りますよね。平日でも学校がないという幸せ。最高だ。
「成世~ちょっとおつかい頼めない?」
ゴロゴロしてたら親に呼ばれた。仕方なく、一階に降りて母さんから頼まれたおつかいの仕事をすることになった。外は夏の日差しが照りつけ気温も30度近くはあるだろう。汗が滝のように流れる。
「あつい…。」
部屋はクーラーや扇風機があって涼しく快適なのに外はなんでこんなにも暑いのだ。
「おつかいって…えーと。」
オレが頼まれたのはスーパーで野菜と肉と…あと、ドラッグストアで洗剤と歯磨き粉を買ってこいとのこと。オレはまず、スーパーに行くことに。
「野菜はこれでよし、あとは…肉を。」
オレは肉売り場に移動して鶏肉を探す。
「あ、これだ。」
オレは鶏肉を見つけ手を伸ばした。すると、近くにいた人の手とぶつかってしまった。
「す、すみません。」
「すみません。」
「あ。」
「あなた…。」
手があたってしまった相手は北海学園の生徒会副会長…四津彩里だった。彼女は制服を着ていた。おそらく、学校帰りだろう。
「ほんと、すみません。」
「いや…あの、どうぞ。」
副会長はオレが取ろうとしてたパックを渡して別のを選んでカゴに入れ別の売り場に行ってしまった。
「1530円になります。」
「ありがとうございましたー。」
オレは会計を済ませ店を出た。副会長はやっぱオーラが怖かったなと思いながら家に帰っていった。
母さんに買ってきたものを渡しオレは部屋に戻った。ウィズがいなくなってた。たぶん、どっか出かけてるんだろうと思ってオレはベッドでゴロゴロしてた。ゴロゴロしてたらいつの間にか寝てしまってた。
「おまえは…世界の運命さえ変えてしまう力を持っているんだ。」
「世界の運命…?」
「今はわからないだろう、そのうちわかる。」
「パパも世界の運命変えるの?」
「どーだろうな。」
「ぼく、大きくなったら勇者になりたい!」
「おーそうかそうか。」
(あれ…ここは…。)
『あなたは人間としてこれから生きていきなさい。またいつか元の姿に戻れます。』
(どういうこと。)
『あなたは―』
「成世、大丈夫か。」
「う、ウィズ?」
「おまえ、うなされてたぞ。」
「あー…たまにあるんだ。夢を見るんだ。」
「そうか。」
「てか、どこに行ってたの?」
「あープリスに呼ばれてな。」
「そうなんだ。」
「プリスから司令が出たのだが。」
「司令?」
「タロットカード保持者を探すことだ。」
この司令によってオレの夏休みゴロゴロライフもあっさり消えてしまいそうだ。
しかし、保持者は意外にも身近なところに既に存在することになりそうだった。
第14話 星を探して
「これよりータロットカード保持者を捜索する任務を課す。いい?そこの…。」
「あち…。」
「プリス…元気ね。」
「アルカナ族は暑さに強い種族よ。て、いうか、ほとんど体感温度感じないけどね。」
「うらやましいぜ…。」
時は7月、こんなクソ暑いなか、オレたちは公園の日陰にいても熱中症になりそうだった。プリスからの司令でオレと双葉蒼はこれから保持者探しをすることに。にしても、暑い。
「それでだ、今回は夏休みだから特別に合宿を行う。」
「なぜまた…。」
「人が多いところの方が探すのにはいいだろう。」
「はぁ…。」
「一泊二日の特別合宿は明後日から。場所はもう決まってるから。」
いつの間に宿泊するところの予約してたのか不思議だった。オレも双葉も全然よくわからないまま謎の合宿に参加することになった。てか、二人で合宿って意味あるのか…。
「夏だ、海だ!」
「太陽…だ。」
「暑い…今日も。」
合宿一日目。今日の気温も35度近く夏の暑さが感じられる。オレと双葉は荷物を持って宿泊施設に移動した。今回はホテルというかわりと民営合宿所に近いような雰囲気。
「さて、とりあえず午前中は浜辺で探す。」
「と、いうことは…。」
「海だー!」
オレは久々の海に感度していた。夏休みのため人もそれなりに多いが、わりと朝早いからまだそこまででもない。オレと蒼は水着でプリスとウィズはそのままの格好。
「じゃ、ふたてにわかれて…。」
オレとウィズは海の家側、蒼とプリスは海側をそれぞれ探すことに。本当に見つかるのだろうか半信半疑だった。
「ウィズはいると思う?」
「さーな、そう簡単に見つかるとは思わんが。」
「でしょ?」
「まぁ…姫が言うんだから仕方ない。」
「前から思ってたけどプリスとウィズって向こうの世界ではどんな感じだったの?」
「どんなって…。」
「関係とか?」
「前にも話したと思うが…プリスはアルカナ族でも地位の高いやつだ。まぁ、皇族というか姫だからな。オレは一般人。それに…。」
ウィズの表情が一瞬曇った気がした。やはり、何かあったのだろう。でも、それをウィズは話してくれない。オレも無理に聞き出そうとはしないけど、気になるのは気になる。
「いらっしゃいませーそこのお兄ちゃん、焼きそばどう?おいしいぞー。」
「あ、今はいいです。」
「てか、キミ…。」
「はい?」
「いや、なんでもない。海楽しんでね~」
「プリス…人多くってこれじゃ探せないと…。」
「何言ってんの、人が多いからいいのよ。」
「でも、こんなにいたら…あ、ごめんなさい。」
双葉は前から来た人とぶつかってしまった。
とっさに謝って顔をあげると
「姉ちゃん、かわいいね?1人?」
「あ、え…と。」
「誰もいないならよかったらオレと一緒にどう?」
「え、あ…。」
双葉はかなりの人見知りのためだんだん話すことができなくなっている。このままでは、彼女は知らない男の人に連れて行かれてしまう。
「いいから、行こう…。」
「いやっ。」
男の人が無理やり双葉の手を握った。その時
「彼女の手離してもらえませんか?」
「は?なんだてめぇ。」
「…。」
「ちっ。」
男の人は双葉の手を離しどこかに去っていった。
「大丈夫?」
「はい、ありがとうござ…副会長さん?」
「そうだけど…あなた北海学園の生徒?」
「はい…一年生の双葉蒼です…。」
「双葉さん、一緒に誰かと来ているのですか?」
「はい…でも、今は…。」
副会長にタロットカード保持者探しと言ってもたぶん何のことかわからないため双葉はどう説明したらいいのか困っていた。
「こーいうところで事件に巻き込まれる生徒もいるから気をつけなさいね。」
副会長は双葉にそう言ってその場から離れた。
結局、この日はタロットカード保持者は見つかることはなかった。宿泊施設で夕食と入浴を済ませ二人とも布団の中に入った。
二人も無言のままだった。
「蒼…起きてる?」
「…。」
双葉はどうやらもう既に寝てしまっていた。
オレは布団から出て外の空気を吸いにベランダに出た。外は暗かったが空には星がキラキラ輝いてた。海の小波が聞こえる。静かな夜。この時、オレは何を考えていたのか。
しばらく外にいたが眠気がやっときた。布団に戻り目を閉じた。
「ねぇ…ムーン…。」
「なんだ、スター。」
「見つかるといいね。」
「そうだな。」
「そして、私達も…。」
「そうだな。」
「今日の星はきれいだね。」
「ん。」
二つの影が浜辺に映し出されていた。そして、気づいた時にはもうその影はなくなっていた―。
第15話 夏の試練の始まり
二日目の朝。まだ昼前なのに朝から暑さが身体でもわかる。今日もタロットカード保持者探しだが今回は水族館で探すことになった。宿泊施設から歩いて10分ほどの場所にある水族館に。プリスいわく、人が多いところを探せばいいと。だったら、結局海である必要もなく水族館でもなくっていいのに。彼女の考えてることがオレには理解できない。支度してオレたちは水族館に向かった。
「へぇー結構でかいな。」
「そうだね。」
オレと双葉はチケットを購入し館内に入った。家族で来てる人、カップルなど朝から大勢の人がいた。オレと双葉はとりあえず、館内を一周してみることに。
「わぁ…きれいな魚。」
「あいつ、なんか触覚生えてない?」
「ほんとだね。」
「成世くん、ジンベイザメだよ。大きい…。」
「そうだなー、水族館なんて久々だな。」
「えーと、今ここだから次はあっちかな?」
「ペンギンエリアだな。」
オレたちはタロットカード保持者探しに来てるのになんだか普通に水族館を楽しんでいた。双葉がいろいろな魚を見る度に表情を変えるからオレはなんだかドキドキしっぱなしだった。大勢の人に呑まれながらもなんとか一周終え一旦休憩を取ることに。
「クラゲっていろんな種類がいるんだね。」
双葉は自分で撮った写真を見ながら言った。
「オレも初めて見たやつもいたな。」
「ずいぶん、楽しそうにしてたけど見つかったの?」
「え、と…。」
「見つかってない…。」
「はぁ…。まったく。」
「てか、タロットカード保持者探しって誰が持ってるかなんてわかるはずないだろ。」
「やっぱ、簡単には見つからないか。」
「ごめんね、プリス…。」
「今回はまあ、成果なし。でも、私は保持者はいると思う。見つけ次第報告してね。」
一泊二日の合宿を終えたわけだが何の成果も得られず終わってしまった。しかし、オレは双葉と一緒に過ごせたから満足だが。
合宿が終わってから途端にオレはすることがなくなった。もちろん、宿題はあるがそれはボチボチすればいいかなと。
「あー…暑い。」
オレは部屋から出てカバンを持ってでかけた。どこかに行くわけでもなく自転車に乗ってぶらぶら。
「えーと、こっちだっけ。」
オレは自分の記憶を頼りにあるところに行くことにした。そして、20分ほどして目的地に着いた。
「昔とさほど変わってないけど…。」
周りは住宅地になってた。ここは昔オレが遊んでたところ。秘密基地を作ったりした。それとない面影があったが昔の様子とは違っていた。オレはそのまま自転車に乗ってもう一つの目的地に。
「あ、あった。」
そこには石で造られた十字架のような形をひたものが。住宅街になぜかある石。あまりにも不自然。
「久々に見たけど何も変わってないな…。」
『そこにいるの。』
「へ?…」
『あなたは。』
「どこ…。」
「気のせいか。」
オレは不思議な気持ちのまま家に帰った。あの声はなんだった。聞いたことはある。でも、思い出せない。
「成世ー、先生から電話よ。」
「先生?」
「もしもし。」
「瀬戸くん、あなた明日から学校来てください。」
「へ?」
「瀬戸くんは今のままだと次の学年に上がれない可能性があります、ですから夏休みの一週間を特別授業として学校に来てもらうことになりました。急でごめんなさい。」
「は、はい。」
「…オレの…オレの…オレの夏休みがぁぁぁあ。」
夏休みもまた特別授業という名のやつに奪われることになった。これがオレの夏の試練の始まりだった―。
第16話 動き出す運命
「瀬戸くん、今日はここまで。明日はー」
先生、オレはどうしてここにいるんですか。
「瀬戸くん、聞いてる?」
先生、数字って何ですか、おいしいですか。
「ー瀬戸くん。」
先生、オレの夏休みはどこですー
「瀬戸成世くん!!」
「は、ひゃい!」
「聞いてた?明日のこと。」
「あ、あ、はい。」
「ちゃんとがんばらないと二年生になれないよ。」
「すみません…。」
オレは今学校で授業受けていた。本来なら夏休み。しかし、オレは不登校でしばらく学校を休んでいたために一学期の単位が足りないという事態が発生。そのため夏休みに特別授業を受け単位を取って二年生になれるように…って言われても…こんなクソ暑いのに集中できるわけ。おまけに、教室にはオレと先生と二人しかいない。
「じゃあ、瀬戸くん明日も遅刻しないように。」
「ありがとうございました。」
先生は教室から出て行った。オレも帰る支度をして教室の鍵を閉める。夏休みの学校には生徒はほとんどおらず部活動のために来てる生徒がいるぐらい。職員室に鍵を戻してオレは一人歩いていた。
「あと、4日も学校か…。」
「あなたたち、部活動とはいえスプレー使う場合は決められた部室で使いなさい。」
「げ、副会長だ。」
「す、すまん。」
「次、このような行動見つけた場合は禁止にしますよ。」
「部室行こうぜ。」
「まったく。」
「いろり、あんま厳しく言わなくてもいいよ。」
「…会長。」
夏休みというのに生徒会の人たちは学校なんだとオレは思った。それにしても、副会長は怖い。最近やたら見かけるわけだがいつ見ても怖い。オレも目をつけられないように行動には気をつけている。そして、隣にいるのは北海学園の生徒会会長、日渡一颯。会長と副会長が一緒にいるのは初めて見たかも。
「あ、キミ!」
「え。」
階段でボーッとしてたら会長に気づかれてしまい声をかけられた。さっきの見てたわけではないんです。すみません。
「キミ、この間海にいたよね?」
「え、…そうです。」
「北海学園の生徒だったんだ。オレのことわかる?海の家にいたんだけど。」
オレは頭をフル回転させ記憶をたどる。
「あ、あー…。」
そういえば、海の家の前を通った時に声をかけられた。その、お兄さん?
「夏休みなのに学校なんだ、おつかれ。」
「あ、いや…そのわけあって。」
「会長行きますよ。」
「はいはい、じゃあ。」
会長と副会長は他にも仕事があるそうでオレの前から立ち去った。オレも家に帰った。
「あーあ、夏休みなのに明日も学校。」
「お前は苦労人だな。」
「ウィズはいいよな、学校で授業受ける必要ないし。」
「まぁな。」
オレはベッドの上でゴロゴロ転がっていたわけだがふと思い出したことが。
「蒼と約束したお祭りはいつだった…」
「明日!?え!?」
オレはスマホのカレンダーを見て叫んだ。
明日は夏祭り。すっかり忘れていた。
「明日は学校行って夏祭りか…。」
オレは学校なのは嫌であったが夏祭りに行くことを楽しみに明日をがんばろうと思った。
明日、またオレは新たなタロットカード保持者を見つけることになる。そのことを今のオレは考えもしなかった。そして、その保持者が抱える問題になぜか巻き込まれるオレ。
運命の歯車が少しずつ廻りだしていた。夏の始まりは実はここからだったのかもしれない―。
第17話 夏祭り
「蒼…キレイだね。」
「そうだね、花火キレイだね。」
「いや…あの、花火もキレイだけど…おまえもキレイだよ。」
「瀬戸くん…。」
「蒼…オレはおまえが…。」
「瀬戸くん!」
「は、はい…!」
「なんか、幸せそうな顔して寝てましたけど。」
「あ、す、すみません。」
「眠たいかもしれんけど、授業ちゃんと聞いてくださいね。」
「はい…。」
夏休み特別授業も今日で残り3日。そして、今日は夏祭り。オレは双葉と行く約束をしていたのだが…今は授業受けるなう。
「はい、じゃあ、ここまで。」
「ありがとうございました。」
「明日は、数学があると思うけど変更で英語ね。」
先生はオレに連絡事項を伝えて教室を出た。オレも荷物をまとめ教室を出た。家に帰り夏祭りの準備をした。と、いっても浴衣着たりとかするわけではないが。
「成世、どっか行くの?」
「あー友達と祭り。」
「そうなの?気をつけてね。」
「ほーい。」
とは、いえまだ時間はある。夏祭りはオレの住んでいる地域であるからさほど遠くない。しかし、毎年大勢の人が来るためなかなか大変ではある。双葉との約束の時間まで適当に家でゴロゴロすることに。
「ウィズはどうするの?」
「何が?」
「祭り。」
「オレはまぁ、興味ないが。プリスが保持者探しするから来いって。」
「プリスもこりないね…。」
「あの姫さんはそういう人だからな。」
「ウィズも大変だね。」
「オレは別に構わんがな。」
「今日のカードの導きはー…」
オレは机の引き出しからカードを取り出した。そのカードには
「花火…え、花火?これだけ?また意味わからない導きだな。」
『花火』の二文字だけが書いてあった。花火がどうしたってオレは思った。このカードの導きは絶対に従うべきものだがこれでは何のことかさっぱり。とりあえず、頭にはこのことを置いておくことに。
約束の時間が少しずつ近づいてきた。オレは家を出て待ち合わせ場所に向かった。
「なんか、緊張するな…。」
「なんでだ?」
「だって、夏祭りだよ。女の子と。」
「ふーん。」
オレは待ち合わせ場所に着いて双葉が来るのを待った。しばらくして、双葉の姿が見えた。双葉は浴衣を着ていた。
「ごめんなさい…待たせてしまって。」
「いやいや、そんなことないよ。」
双葉は白地に金魚の絵柄の浴衣を着ていた。いつもならおろしている髪もきれいにまとめられていて簪がついていた。双葉は学年問わず人気があり告白を結構されている。そんな女性がオレの目の前に…しかも、浴衣で。
オレがあんまりにも凝視してたためプリスに変態ヘタレ野郎とか理不尽な罵倒を受けた。「もう、行くわよ。」
なぜか、オレ達よりプリスが一番行く気満々だった。夏祭りの会場は山の下にある神社の周辺だった。向かってる途中にも浴衣を着た人を見かけみんな祭りに行くように思われた。
「花火は9:30からだから…それまで屋台でも見るか。」
「そうだね。」
オレ達は屋台をいろいろ見ることに。
「蒼は何か食べたいものとか…ある?」
「りんご飴…かな。」
「りんご飴は…あ、あそこにある。」
オレは蒼の手を握ってはぐれないようにりんご飴の屋台のところへ。最近はいちごとかぶどうの飴もあるんだなとオレは感動していた。双葉はりんご飴を購入してうれしそうな顔だった。その後もいろいろな屋台を回った。ウィズとプリスは保持者探しをするためオレ達とは別行動をしていた。
だんだん、空の色も変わっていき人も増えてきた。広場のほうでは盆踊り大会や夏の歌祭りと題してライブもしていた。
「蒼、他に何か…。」
「瀬戸くん…あれ!」
双葉は何か見つけた様子で指を指していた。
「あれ…って…タロットカード?」
双葉が指指していたのはオレ達が持っているタロットカードと同じ模様が描かれたカード。
「ほんとだ。近くに行ってみよう。」
オレと双葉はそのカードの近くに行こうとした。しかし、人があまりにも多く上手く近づけない。なんとか人混みをかき分けたどり着いたがその時にはカードは消えてしまっていた。
「カードがない…。」
「他の人が持って行ったのかな…。」
「仕方ないよ、あとでプリスに報告しよ。」
「そうだね。」
オレと双葉はプリスにこのことを報告した。
プリスも別の場所でカードを見つけたそうだが、そのカードは男の人が手にしてたそう。とりあえず、この夏祭りでタロットカードが2枚存在していたことはわかった。持ち主はいずれわかるだろうとプリスは言った。
オレと双葉も校内に新たな保持者が見つかるかもしれないということを心に留めておいた。
「さて、まぁ今回は成果あったことだし。そろそろ花火の時間じゃない?」
「あ、そうだ。」
「瀬戸くん…行こう。」
オレと双葉は花火を見に場所を変えた。大勢の人が花火を待っていた。
ドーン、ドーン
花火の音が聞こえ空には色とりどりの花火が打ち上げられている。今年の夏初めての花火。
「キレイだね。」
「そうだね。」
オレと双葉は空を見上げていた。
次々に花火が打ち上げられていく。
結局オレはカードの導きの意味はわからないままであったが今日という日が自分にとっては大切な思い出となった。そして、隣にいる彼女もきっと同じだろう―。
第18話 候補者はあの人
「一颯、彩里、ごめんなさい…。」
「ママ…パパ?」
「一颯くん行くよ。」
「お願いします…。」
「会長、涼んでないで仕事してください!」
「副会長〜こーわーi…」
「会長…。」
「ごめんごめん。」
「まっまく。。」
「夏休み特別授業もあと明日で終わり…。」
オレ、瀬戸成世は今日も特別授業のために学校に来ていた。昨日の夏祭りとはいっぺんして一気に現実に戻された感じ。しかし、この特別授業も明日で終わり。よくがんばったと自分を褒めてやりたい。オレは校舎から出て次なる場所へ。今日はいとこが家に来るとかで親に買い物を頼まれた。全く、オレは暇じゃないんだぜと言いたい。あ、暇だけどな。
「それにしても、暑いなー。」
オレはスーパーにたどり着きとりあえず頼まれた物をかごに入れていった。
「ウィズに肉まんでも買っておいてあげよ。」
オレは家に帰る前にコンビニに立ち寄りウィズの好物の肉まんを買って家に帰った。
家に帰るともういとこたちが来ていた。
「あ、成世くんこんにちは。」
「こんにちは、おばさん。」
「なるにぃー遊ぼー。」
「はいはい、ちょっと待ってね。」
いとこは5歳と8歳でオレとかなり年が離れている。オレは子どもを連れ近くの噴水公園に。
「つめたーい!」
「なるにぃ、水鉄砲しよー。」
「はいはい。」
オレは家でゴロゴロしたい。こんな暑いなかなんで元気なんだと思っていた。水鉄砲で遊ぶ8歳のお兄ちゃんと5歳の妹をある意味うらやましく思った。
「なるにぃ、えーい。」
「つめた。」
「ハハハ、なるにぃビシャビシャ。」
「やったなー!」
オレも水鉄砲を持って一緒になって遊んだ。しばらく、遊んだあとお腹すいたーとか喉乾いたーと言われオレはいとこを連れ近くにあった自販機で飲み物を買ってやった。
「なるにぃ、あけてー。」
「ん?ちょっと待ってな。」
いとこたちはおとなしくジュースを飲んでいた。これが飲み終わったら家に帰ろとオレは言った。
「ごみポイしてくる。」
「わかった。」
「子どもの相手は大変やな…。」
「そーやな。」
「そうですね。って、会長さん!?」
「よぉ!」
オレの隣には北海学園の会長がなぜか座っていた。全然気づいてなかった。てか、なぜいるのか。
「あの…なんでいるんですか?」
「たまたま。」
「たまたまって…。」
「なるにぃー。」
「おっ、おかえり。」
「この人誰?」
「あーこの人はー」
「成世くんのお友達だよー。」
「ちょっと、会長!?」
「こんにちはー。」
「お、あいさつちゃんとできるんやな。えらいえらい。」
「お兄ちゃんのお名前は?わたち、あやっていうのー。」
「お兄ちゃんは一颯っていうんだぜ。」
「いふき?」
「いぶき。」
「いふき?」
「ぶがちゃんと言えないんだね。」
「成世って兄妹いたんやな。」
「あーこの子たちはいとこです。」
「そうなんだ。」
「けいと、あや、そろそろ帰るぞ。」
「はーい、お兄ちゃんまたね〜」
「さようなら。」
「じゃあ、会長さん家に帰るので。」
「バイバイ。」
オレは会長にあいさつをして家に帰った。
いとこは帰るとき仲良く手を繋いでた。その様子を会長はしばらく見ていた。
「…兄妹か。」
家に帰ると晩ご飯の準備がされていた。
いとこたちは明日の朝に帰るそうだ。
オレは部屋に戻った。
「ウィズ、帰ったよ。」
「おかえり。」
「ウィズ、肉まん食べた?」
「ん。」
「よかった。」
「成世、プリスから報告があった。」
「ん?何?」
「カードの持ち主がわかったそうだ。」
「ほんと!?」
「ほんとかはわからんが。」
「誰なの?」
「四津彩里。」
「四津彩里…。」
「ふ、副会長!?」
オレは驚きを隠せなかった。三人目の保持者候補がまさかの副会長だったから。しかし、それが本当かはわからない。副会長に説明するにしてもあの近寄りがたい雰囲気があり怖いし…。それでも、三人目の候補を知ることができてその点はよかったと思えた。オレは今日はこのことを考えるのはやめていとこたちと夜を過ごした。
「もうすぐで会えるよ…。」
「あなたのお兄さんに。」
特別編 ポッキーの日
11月11日。世間ではポッキーの日と言われている。誰がこんな日を作ったんだろうか、お菓子会社か若者か。そんなことはどうでもいい。オレにとっては無縁な話。だいたい、こういう日は女の子が楽しんでるだけのように思える。
「全く…朝から女子はすごいな。」
「そうだな。」
「オレ、隣のクラスのカップルがポッキーゲームしてたの見た。」
「ポッキーゲームか。」
「彼女いないおれには羨ましい話だがな。」
と、オレと友人は教室で話していた。
女の子たちは自分が持ってきたポッキーを互いに見せあって写真撮ったりなんだか楽しそうだった。
昼休みになると、持参したポッキーでポッキーゲームをしてた。ポッキーゲームとはポッキーの両端から互いに食べていきどちらが先に食べるかというものだった。カップルの場合だいたいキスしそうな…というか絶対してるだろ。なんだよ、羨ましいよ、オレだって。オレはてっきり女の子だけが楽しんでるのかと思ってたがクラスの男子がポッキーゲームしようぜーとかで男同士でやっていた。まぁ、よくやれるな…とある意味感心。
それにしても、ポッキーの日というのは偉大だな…1日でポッキーとかプリッとか普段の倍ぐらいは売れる。なんて、オレは全く楽しくもないが。
「じゃあ、成世お先にー。」
「おう、またな。」
放課後になりみんな部活やらなんやらで教室はあっという間にガラガラに。女の子たちは部活でもポッキーゲームするそうでルンルン気分だった。と、いうか一体いくつ買ってるのか…不思議だった。
「はぁーオレも彼女とかいたらいいのになー。」
と、ひとり言をつぶやいた。誰もいないと思ってたら
「成世くん、いないの?」
と、双葉が返答した。
「えええ、蒼いたの?」
「いたよ。」
「いつから?」
「朝から。」
「全然気づいてなかった。」
「まぁ、話さないからね…。」
「いや、ごめん。」
「なんで、謝るの?」
「え、あー…。」
「瀬戸くん、変なの。」
双葉は笑ってた。その顔をオレは見てたわけだが、普通にかわいい。双葉はクラスでは一匹狼という風に見られているがそれは違う。彼女は極度の人見知りなだけ。普通に話はしてくれるし…なんせ、かわいい。
「みんな、楽しそうだったね。」
「蒼は興味ないの?」
「え、んーあんまり。」
「そうなんだ。」
双葉は確かにあまりワイワイ大人数でやるの好きそうではなかった。本当のところはわからないけど。それから、しばらく無言の時間が続いた。教室に二人っきりなんて久しぶりだった。何話せばいいのか…話題は…とオレは頭を働かせたが何も出てこない。
すると、双葉はカバンの片付けを始めた。このまま帰るのかなと思った。それはそれでいいが最後に何か話をー。
「あ、あの。」
双葉がオレの目の前にやってきた。
オレはびっくりしてつい椅子から立ち上がった。
「ど、どうした?」
双葉はなんか恥ずかしそうにもじもじしてたが後ろに隠してた手を出して
「ポッキー…一緒に食べよ。」
と、言った。
「今…なんて…。」
「一緒に食べよ…。」
双葉の顔は一気に真っ赤になった。それにつられたぶんオレの顔も真っ赤だろう。
「は、ひ、う、おれでいいんですか。」
オレの言葉はロボットみたいに片言だった。こんなかわいい女の子から一緒に食べよなんて言われた人生初めて。やばい、ポッキーの日というものは本当に偉大だった。
そして、オレと双葉は一緒にポッキーを食べながら話をした。こんな放課後幸せすぎ。
「あら、もう残り一本か。」
「瀬戸くん、食べていいよ。」
「いや、蒼が買ったんだから食べていいよ。」
残り一本となったポッキーを互いに譲りあっていた。なかなかどちらとも食べないまま数分経った。
オレは今日一番の勇気を振り絞って言った。
「ぽ、ポッキーゲーム…ポッキーゲームしよ。」
「…。」
双葉の顔がまた紅くなった。オレも自分で言った言葉に動揺してしまい
「いや、違うんだ、ごめん。」
と、慌てて謝罪した。
そして、また数分無言の時間が流れ双葉が
「…ポッキーゲームする。」
そう言って残り一本のポッキーを口にくわえた。これはたぶんオレの言葉に対する返答だろう。オレも片方の端をくわえポッキーゲームが始まった。やばい、めっちゃドキドキする。オレは目を瞑って食べてた。しかし、これではどこまで食べたかわからないからおそるおそる目を開いた。双葉の目があって…口があって―。
「じゃあ、また明日。」
「バイバイ。」
オレと双葉はそれぞれの家に向かって帰った。帰ってる途中にふと今日の放課後のことを思い出してしまい一人興奮してたオレだった。ポッキーの日、来年もいい日になるかなと思った。
「ポッキーゲーム」
と書かれていた、カードの導きに。
たぶん、そのおかげだったかもしれない。
―End―
第19話 現れた三人目
「なるにぃーまたね!」
「おいたましました。」
「また遊びにおいでね。」
「またな。」
いとこたちが家に遊びに来ていたが今朝帰っていった。子供の相手は大変だったが二人とも成長していてなんだか微笑ましい。そして、オレは特別授業のため学校へ。
「今日で授業も終わりだー。」
「お前、カバン忘れてるぞ。」
ウィズがオレのリュックを手に提げていた。
オレはすみませんと言ってリュックを受け取った。今日はウィズも一緒についてきている。たぶん、タロットカードの保持者候補を確かめるために。夏祭りで二枚のタロットカードを見つけたもののどちらとも行方不明に。それ以降、誰が持っているかわからなかったが昨日プリスからの報告で判明した。それが、北海学園の副会長四津彩里だった。ほんとかはまだ誰も知らない。ちょうど、オレは学校に行くつもりだったからプリスからの司令で副会長に聞いてこいと。でも、あの副会長にタロットカード持ってますか?何て言えるはずもない…。
「あーどうやって話しかけたらいいんだろ。」
「普通に。」
「いや、その普通が難しいんだって!」
「じゃあ、普通以外に何かあるのか?」
「えー…いや…ない。」
「だろ?」
「けど、何でオレなんだ!」
「それはプリスに聞け。」
「プリスも人の扱いが雑というか…。」
とりあえず、最初に特別授業を三時間受けてから副会長に尋ねることにしようとオレは思った。話しかける勇気はあまりないが司令だから仕方ないと半ばあきらめていた。
三時間の授業を終えやっとみんなと同じぐらいの内容はわかるようになった。英語は相変わらず皆無だが。また、双葉に教えてもらおうと思った。そして、副会長に会うために生徒会室に向かった。
「はぁ…怖いな。」
「まぁ、これもある意味試練だな。」
「そうだね…気が重いよ。」
「これで、三人目が現れたら大きな成果にはなるが。」
「でも、副会長さんに何か悩みとか…あるのかな。」
「私がどうしたって?」
「え、いえ、あ!?」
オレの目の前には書類を手に抱えた副会長四津彩里がいた。
さて、オレはここで考えた。このまま何でもないですと言ってこの場から去るか思い切ってタロットカードのことを話すか。早くしないと副会長はどこかに行くかオレは怒られる運命になるかー
「ここでクイズです!」
オレが立ち止まっていると副会長の後ろから声が聞こえた。姿は見えない。
「私は誰でーしょうか。」
そう言って、姿を現した人物がいた。金髪の長い髪に片方だけ袖の長い服に顔には星の模様が2つ。耳は尖ってて…。
「あ!!いた!!」
オレは思わず指を指して叫んだ。まさしく、オレが探していたタロットカードとその中から出てきたやつがいた。
「初めまして、私はスター・リエンド。スターって呼んでくれるとうれしいです。」
金髪の女の子はそう言った。
「スター…あなたも…。」
「あーうん、私も大アルカナの一人よ。あら、ウィズじゃん久しぶり。」
オレの横にいたウィズを見るなりそう言った。彼女はどうやら間違いなく大アルカナ17の紋章を持ったアルカナ族だった。
「瀬戸成世。」
「は、はい。」
「それで、あたしに何の用だ?まだ他にも仕事があるのだが。」
「え、あ…あ。」
副会長の目つきがだんだん怖く感じられてきた。でも、大アルカナも先に副会長と出会ってるし話をしても問題なさそうに思えた。
「あの、副会長さん。」
「なんだ。」
「オレはその…タロットカードの保持者を探してたんです。」
「何それ。」
「え、でも、そこに…。」
「エヘヘ、ごめんーまだ話してないの。」
「え?」
「私、この子にまだ何も話してないの。あ、名前は言ったよ。」
スターはニコニコしている。いや、なんで何も説明してないんだ。だいたい、どうしてウィズもプリスもスターも自分の名だけは忘れず言うのかそれのほうが不思議だった。
「副会長さんその…。」
「話は後にしてくれ。仕事があるんだ。」
副会長はオレの言葉を遮ってその場を立ち去った。せっかく、会えたが何も言えないまま終わった。しかし、大アルカナの存在を確認することはできた。オレはプリスに報告した。それと、スターが何も話してないとオレが言うとプリスはやっぱり…スターはマイペースというか肝心なことをたまにすっぽかしてるやつよと言った。異世界でもそうだったらしい。それで、プリスに明日こそ副会長に話をしなさいとオレは言われた。
「また明日学校行くんか…。」
「お前がモタモタしてるからだろ。」
「そう言われてもさー。」
「とりあえず、話をしないと何も進まない。」
「うぁぁ、やだよー。」
オレは今日のでかなりのダメージを負った。副会長に話しかけるだけでものすごい気力を使ったのに…。一人だから話しかけにくいのか…そうだ!
「蒼も一緒に!」
オレは双葉に連絡してみた。すると、双葉からすぐ返信が来た。見ると
「ごめん、明日から家族で旅行に行くの。」
断られた。双葉がダメなら他の人にというわけにもいかなかった。結局、明日も一人で副会長の元に行かなくてはならない。
オレは困った。どうやって話すか。あの、スターが少しでも話してくれればこっちからも話しやすいのにと思った。
「仕方ない…こうなったら、カードの導きに。」
オレは机の引き出しからタロットカードを取り出した。カードには
『忍耐』
と、書かれていた。また、漢字だけという。
「…。はぁ…。」
オレは机にカードを戻しベッドに転がった。
双葉もダメ、カードもまたあてにならないアドバイス、結局頼れるのはウィズだけ…と、いっても自分でどうにかしなくてはならない。
「オレはどうしたらいいんだーぁぁぁぁ。」
「とりあえず、話かけないと何も始まらない。」
「そうだけど…。」
「何かあったら助けるから。」
「そう言われてもぉぉー。」
ウィズに慰めてもらってんのかけなされてんのかわからないが助けてくれるというのでオレは一人で行くことに。
そして、次の日の朝。オレは学校に向かった。副会長に会うために。
題して
『副会長と話そう大作戦』
の始まりだった―。
第20話 『副会長とお話しよう大作戦』
「副会長さん…あの、先日のことでおh」
「悪いがこれから生徒会の集まりがあるんだ。」
「副会長さん、あの、」
「悪いがこれから職員室に行くんだ。」
「副会長さん、」
「悪いがこれから部活動の集まりがあるんだ。」
「副会長」
「悪いがこれから書類の点検があるんだ。」
「悪いがこれから会議だ。」
「ああああああもう…疲れた…。」
オレは既に灰と化しそうなくらいの疲労感に襲われてた。タロットカードの保持者が生徒会副会長と確実に判明した昨日、プリスから副会長に話をしてこいと言われた。しかし、見ての通り、オレは完全に敗北。会うたび声をかけても仕事があると言われ…。生徒会ってこんなにも大変なんだなと思った。しかし、話をしないといけないがこのままだといつまでもできない感じがしてならない。どうにか、副会長に話をしたい。副会長のパートナーのスターは何の話もしてないらしく、オレが何回も話しかけている間にもたぶんしてない。もう少し、協力してほしいところだ。
「どうやったら…いいんだ。」
「お前、カードの導き覚えてるか?」
「あー忍耐だよ…全くカードの導き最近ろくなアドバイスくれないよね。」
「だが、カードの導きは絶対だ。」
「そうだけどさ…。」
オレは教室の机で一人撃沈していた。すると、教室のドアが開いて
「誰かいますかー」
と声がかかった。
「いますよ…。」
オレは返事をした。顔を覗かせたのは
「あーなんだ、成世か。」
「会長…さん…。」
生徒会会長の日渡一颯だった。彼は鍵を手に持ってた。どうやら、施錠にまわってる様子。
「成世、今日はなんで学校?」
「あーちょっと…。」
「彩里から聞いたぞ、おまえがしつこく話しかけてくるって。」
ですよね…しつこいですよね…オレもこんなことしたくないです。と心の声が言っている。
「彩里に何か用でもあるんか?」
「はい…ちょっと大切な話…。」
「んー告白?」
「いや、なんで、そうなるんですか!?」
「だって、大切な話って言ったら告白っしょ?」
「そんなわけないですよ…。」
会長はケラケラ笑っているがこっちは本当に大変なんです。助けてほしいくらいです。
「ふーん、珍しいね、彩里に大切な話って。」
「どういうことですか…?」
「いや、なんでもない。」
「あの…会長さん。」
「なんだ。」
「副会長にお願いしてもらえませんか…、話をする時間を作ってほしいって。」
「…。」
「お願いします。」
オレは椅子から立ち上がって頭を下げた。会長はしばらく考えて
「ま、成世の頼みならいいよ。」
と、言ってくれた。やっと、これで話ができると思った。
「ただし、…。」
「はい…。」
「彩里を見てたらわかると思うが、あいつあんなんだからあまりしつこくしないようにね!」
「は、はい…気をつけます。」
こうして、オレは会長にお願いをし副会長とやっと話す機会を手に入れることになった。
「で、話って。」
会長は仕事が早いのか昨日の今日で副会長と話をすることになった。ただし30分以内でというのが条件だった。副会長をいざ目の前にすると怖くって話ができない。しかし、手に入れたチャンスをここで失うわけにもいかない。
「あの、副会長さんはどこでタロットカードを拾いましたか。」
「タロットカード?」
「こんなのです。」
オレは自分の持っているカードを副会長に見せた。
「確か、夏祭りのあとカバンを整理してたら入ってた。」
「その、カードから人が出てきませんでしたか?」
「…出てきたが。」
「あの、副会長さん…」
オレは副会長にタロットカードの保持者であることとそのパートナーのことを一通り説明した。オレもよくわかってない部分があるが大まかに話をしとけば大丈夫だろうと思った。すべてを話し終えたところで副会長が
「要するに、私を助けるためにパートナーがいると。それで、カードの導きという謎の力によって運命を変えると。」
「はい、そんな感じです。」
「…くだらない話だ。」
「え?」
「たかが、こんなカードで運命が変わるなんて。魔法使いじゃあるまいし。もし、力があるとしても」
「私はそんなのいらない。」
副会長は立ち上がって教室を出ていってしまった。一人とりのこされたオレはしばらく動けなかった。なんか、初めて味わう感情に浸っていた。
家に帰りプリスに報告した。副会長に話を信じてもらえたかは…たぶん信じてないだろう。あの言い方だと。それに、副会長がそんなのいらないと言った時の顔が何か心の中で引っかかっていた。
「お前。」
「…なに。」
「落ち込んでる?」
「んん…。」
「そうか。」
落ち込んでいるわけではない。ただ、副会長のことが気になって…。確かに、あんなふうに言われると少し傷ついたかもしれないけど。オレはまくらを握りしめそのまま眠った。
「彩里、話ちゃんとしたか?」
「したわよ。けど、たいした話でもなかった。そんなことなら仕事してるほうがいいわ。」
「彩里は頑張りすぎなんだって。」
「いや、そんなことない。」
「…。」
「こんぐらい全然平気。」
「運命を変えるか…。バカらしい…。」
次の日、オレは学校に行き双葉に副会長と話だことを伝えた。
「そうだったのね…ごめんね、なんも力になれなくって。」
「いや、いいんだ。」
「でも、副会長さん…信じてくれてないんだね。」
「たぶんな…。」
「もう一回話したら少しは信じてくれるかな…。」
「どうだろ…。」
オレと双葉は悩んでいた。どうにかして副会長に話を信じてもらいたい。けど、今の副会長にはそんな話をしても意味がないに違いない。
「会長に相談するか…。」
「生徒会会長?」
「ん、会長ならなんとか…。」
「でも、会長さんはタロットカードの保持者じゃないよね。」
「そっか…。」
ますます、悩みは深くなりつつあった。そんな時、スターが現れた。
「ここで問題です!」
相変わらず空気が読めないというかマイペースというか…。
「彩里ちゃんにはお兄さんがいるでしょーか?」
「そんなこと知らない…。」
「正解は…。」
「いたけど、彼女はそのことを覚えてない。」
スターはそう言ってオレたちの前から突然姿を消した。
「なんだったんだ…。」
「副会長さんのお兄さんと何か関係があるんですかね…。」
「でも、…スターが言ったことがもし正しければ。」
「副会長さんに何かあったってことだよね…。」
スターの謎の言葉が理解できないままオレたちはいた。しかし、この言葉が後に大きな意味を果たすことに。
「ふふん〜私のお仕事はこれで終わりー。」
「ごめんけど、ムーン…あとは任せたよ。」
第21話 二人は兄妹
「一体なんだったんのかな…。」
「そうだな…あの言葉も引っかかるし。」
オレと双葉は教室でずっと考えてた。突然ひょこっとスターが現れ何しに来たのかと思えば副会長に実はお兄さんがいるけどそのことを副会長は覚えてないという言葉を残しそのまま消えてしまった。彼女のお兄さんと今回の件について関連性はあるのか…未だ謎。
「もし、お兄さんがいたら…そしたら、何なんだろうね。」
「わかんね…。」
オレと双葉は何も思い浮かばなかった。
「ウィズ何か知らないの〜?」
「オレに言われても何も出てこんぞ。」
「プリスは…あっ、なんか今日は異世界に用があるとかで帰ったんだ。」
「え、帰ることできんの?」
「基本的には…無理だ。しかし、姫様だからな、あいつは。」
「なるほどね…。」
ウィズもプリスもこの件については何も知らないと、でもオレと双葉も思い浮かばなない、これでは答えが見つかるどころかまだスタート地点にも辿り着けてないようだ。
こういう時に誰か助けてくれる優しいお方はいないのかな…。
「よぉ、そこのおふたりさん。」
「か、会長。」
「そろそろ、施錠するんだけどいいかな?」
今日もまた教室の鍵を持った会長が現れた。会長なら副会長といる時間も長いから何か知っていると思ったオレは聞いてみようと思った。
「会長さん、あの…少し話があるんですがお時間いいですか?」
「どうした、そんな深刻な顔して。」
「あの、副会長さんにお兄さんはいるんですか。」
「…。」
会長の顔が一瞬曇ったような気がした。しかし、会長は
「さすがに…そこまではわからないな。」
「そうですか。」
「やっぱ、どうなんでしょうかね…。」
会長も副会長の兄妹事情までは覚えてなかった。結局、何もわからないままになってしまった。
今日は解散することにしてまた明日話し合おうということになった。何かわかり次第すぐに報告しようということも。
「なぜ、言わなかったんだ。」
「言っても、彩里はオレのこと覚えてないだろ。」
「まぁ、それは覚えてないというより思い出したくない過去というかまだ、小さかったからな。」
「ん…それに親は隠してるだろうな。」
「僕が話してもいいのか。」
「ん、正直オレも他人に話したことないからさ。」
二つの影が廊下に移り数分後には一つになっていた。そして、その影は
「彩里…。」
と、つぶやき再び動き出した。
次の日。オレと双葉は副会長に話をしようと学校に集まっていた。今日こそは何か手がかりを見つけ副会長を説得しようというのが目標だった。しかし、何から探せばいいのか…。
「会長も知らないならどーすんだ。」
「そうよね…こればかりは…。」
「姉さんの言ったことは事実だ。」
突然、どこからともなく声が聞こえた。オレと双葉は思わず身構えた。すると、さっきまでいなかったはずの机の上に現れた男の人が。
「僕はムーン・リエンド。スターの双子の弟だ。今日は君たちにようが会って参った。」
と、その男の人は言った。金髪の髪、緑の目、忍者の様な服装をした彼は昨日見たスターとほぼ同じ顔つきだった。
「あ、あの…どいうこと?」
「てか、これって、四人目の…」
「四人目の…」
「タロットカードの保持者がいる!」
オレと双葉は声を揃えて言った。夏になりタロットカードの保持者が二人いることが発覚し一人は生徒会副会長だった。もう一人は誰かわからないままだったがついに姿を見せた。しかし、誰のパートナーなんだろう。
「キミは誰のパートナーなの?」
「そんなことより急いでることがあるんだろ?」
ムーンは机から降りてオレに一枚の写真を手渡した。そこにはお父さん、お母さんらしき人と二人の子供。
「僕は姉さんに頼まれて君たちに話をしに参ったと先程も言ったが、副会長のお兄さんは会長の日渡一颯だ。」
と、ムーンは断言した。
「…え、会長と副会長は」
「兄妹?」
「え、でも、昨日会長は知らないって。」
オレと双葉の頭の中では昨日の話と今の話とスターの言葉でゴチャゴチャになって整理ができていない状況だった。
「姉さんに代わり僕が一から説明する。その説明を聞いて行動するかしないかは君たち次第。」
ムーンはオレに手渡した写真と同じものを映像として空中に創り出した。
「日渡一颯と四津彩里は本当に血の繋がった兄妹だ。それに間違いはない。」
「う、うん。」
「それで…。」
「彼が三歳、彼女が二歳の時親同士が離婚。そして、お兄さんは親戚の家に引き取られ妹のほうは母親に引き取られた。」
「そうなんだ…。」
「そして、離婚してから彼女はお兄さんのことを忘れさせられる。家族の写真とかはお兄さんが写っているものは捨てられ自分は最初から一人だったというふうに親から言われる。そして、彼女が成長するにつれ母親が仕事で忙しくなり家事も1人でやっていたそうだ。それに、彼女は勉強もよくできた。しかし、彼女は母親から褒められることはなかった。もっと、頑張りなさいと言われて育ったそうだ。だから、たぶん今の性格があれなのかもしれない。」
「そうだったんだ…。」
「お兄さんのほうは…。」
「お兄さんは親戚に引き取られたあと優しいおばさんとおじさんに育てられ普通に育ってきた。彼はずっと妹のことを覚えていた。小学校も中学校でも会うことはなかったが高校生になり生徒会で妹を発見したんだが…。」
「したけど…。」
「言えなかった。自分がお兄さんだなんて。普通に会長と副会長という関係でずっといたんだが本当はあいつもきっと苦しい。」
「会長…さん。」
「じゃあ、知らないって言ったのは…。嘘だった。」
「そういうことです。彼は自分から他人に兄妹の話をしたことはないそうだ。しかし、誰よりもたぶん…彼女のことは思っていたでしょう。」
ムーンは映像を閉じてこう言った。
「僕と姉さんは二人を兄妹としてこれから過ごしてほしいと思ってやってきた。しかし、姉さんを見てたらわると思いますが…ちょっと状況的にそうはならない方向に向かっています。ですか、あとは…君たちにお願いしたいのです。」
「副会長と会長に…この話をする…。」
「どうする…。」
「…。」
オレは考えた。会長も副会長もたぶん辛い思いをずっとしてきたんだろうなと。会長には特に助けてもらったし…双葉も副会長にナンパされたのを助けてもらったそうだ…そして、何より副会長にこの事実を知ってもらいたい。そのためには…。
「わかった。副会長さんに話してみよう。」
「ん。そうだね!」
「ありがとうございます…それでは僕はこれで。」
ムーンはオレ達の前から姿を消した。そして、オレはムーンから手渡された写真を見た。たぶん、これはオレに任された試練なんだろうと。運命を変えるための。
「明日、もう一度副会長に話をしよう。」
双葉も頷いた。オレ達はそう決意した―。
第22話 会長と副会長 兄と妹
「で、話とは…。」
次の日の放課後、なんとか副会長を見つけ説得し話を聞いてもらえることになった。今、教室にいるのはオレと副会長とウィズ。スターはどこにいるのか不明。双葉はまた違う用がありここにはいない。オレはものすごく緊張していた。手が震えていた。副会長と話すのはこれが初めてなわけではないが話す内容が内容だけにあって今回はかなりやばい。
オレは深呼吸し自分を落ち着かせた。
「副会長さん、どうして運命を変えられるわけじゃないと思ったんですか。」
「当たり前じゃない、そんなのできたらみんな幸せになれてる。」
「オレはついこの前まで不登校…してました。」
「それが何か関係あるの?」
「オレは学校行くのが怖かったんです。他人に頼られるのは別嫌いではありませんでした。しかし、それがだんだん自分の中では恐怖になっていたんです。それで…次第に休むようになりました。」
「…。」
「けど、オレはこいつに出会って変わったんです。」
オレはウィズのほうを見た。そして、話を続けた。
「オレも最初、出会った時は何を言ってるのかこれっぽちもわからなかったです。オレのパートナーとか運命を変えるとか、そんなのマンガの世界だけだと思ってました。けど、違った…。オレは、半信半疑だったけどこいつの言ってること信じてみようと思いました。学校に復帰してから…だんだん学校へ行くのが当たり前になってそれで、新しい友達もできました。その友達にも辛い過去がありました。オレはそれを知ってその子を守りたいと思いました。それで…オレは思ったんです。」
「運命は自分自身の気持ち次第で変えることができるんだって。オレはそれをウィズ…蒼…プリス…新しい友達に出会って学んだんです。だから、副会長さんにも信じてもらいたいんです。」
「…。」
オレは副会長に伝えたかった思いを言った。オレは決して最初から信じてたわけではなかった。けど、そばにいてくれたウィズや蒼、プリスのおかげで楽しい経験も辛い経験も自分を少しでも変えるための試練を乗り越えここまできた。それは本当に事実だった。
副会長はしばらく黙っていた。これはたぶん信じてもらえるとオレは思っていた。
しかし、
「あたしの苦しみを知らないくせに、簡単に言わないでほしい。」
副会長の目は怒りと辛さが入り混じってていつもの怖い感じとは違った。
「運命を変えることが本当にできるんならあたしだって…。小さいときからがんばってもがんばってもまだあなたならできるでしょ、もっと上を目指しなさいって。それがあたしの当たり前だった。」
副会長をやっぱり自分の当たり前がだんだん苦しくなってきたのにはどうやら気づいていたのかもしれない。それでも、自分に厳しい副会長はたぶん弱音を吐かないようにしていたんだろう。
「あたしだって、苦しいときはあった。けど、それは甘え。副会長としてやらなきゃいけない仕事も山ほどある。生徒がよりよい学校生活を送るためにも。」
「副会長さんは無理しすぎだと思います…。」
「あなたに何がわかるの。」
副会長は叫んだ。オレはそれにびっくりして何も言えなくなってしまった。
「もう、いいでしょ。話はしたんだから。あたしにはまだやらなきゃいけないことあるのよ。」
副会長はカバンを持って教室を出ようとした。その時
「瀬戸くん、会長さん連れて来たよ!」
「あ、蒼。」
「よぉー成世!話はこの子から聞いたよ。」
「本当ですか?」
「うん。」
双葉は会長に自分がお兄さんであることを明かしてほしいと思って話をしてきたそう。副会長を一番近くで見ていた人物だしきっとずっと心配していたんだろう。
だからこそ、今ここで真実を言わなきゃいけないとオレと双葉は思ってた。
「会長…話は終わったからあたしは帰ります。」
「待ってください。」
「副会長さん。」
オレは副会長にムーンからもらった写真を渡した。
「これ見覚えありませんか。」
「…。」
副会長はじっと写真を見た。そして、
「あたしと母親と父親と…。」
とつぶやいた。しかし、やはりお兄さんのことは忘れているのか…何も言わなかった。
それを見た会長が副会長の隣に行き写真にいる人物を指差し
「これは俺だ。」
と、言った。副会長は会長のほうを見て写真のほうを見て
「…どうせいつもの冗談でしょ。」
と、笑った。しかし、会長は笑ったりせずそのまま真剣な表情で
「俺と彩里は兄妹だ。」
それを聞いた副会長は驚いた顔つきに変わった。
「ずっと、黙ってたけど…俺はおまえのお兄さんだ。」
「そんなの…うそ…うそに決まっている。」
「副会長さん、会長さんの話を聞いてあげてください!」
「お願いします!」
オレと双葉は副会長に頭を下げお願いした。終わってほしくなかった、何も知らないままで。それを見た会長が
「ここからは…二人で話がしたい。成世と双葉ちゃん、ありがとうな。オレのために…。」
オレ達はそれを聞いて教室からでた。
会長はたぶん自分で伝えたいんだろう。ずっと隠してた思いを。
「彩里…。嘘なんかじゃないんだ。」
「会長もあの二人に促されてそう言ってるだけでしょ。」
「んん、違うよ。俺とおまえは正真正銘、本当に兄妹だ、俺の名前は日渡一颯だが三歳のときまで俺はの名前は四津一颯だった。」
「日渡…あれ…。」
「日渡は母さんの妹、おばさんの苗字。俺は親の離婚後おばさんに引き取られた。」
「え…。」
「おまえはその時二歳。俺は父親から虐待を受けてた。それを知っていた母親はおばさんに俺を預け父親と離婚し彩里は母さんと一緒に生活することになった。その時、母さんは家族写真や俺の物は全部捨てた。そして、おまえは一人っ子として育てられた。俺はなんのことか全然わかってなかったけど、俺はおばさんから大きくなったときに話を聞きそのことを知っていた。けど、おばさんと母さんが会う時には俺は来てはいけなかった。来てもよかったかもしれんけど…暗黙のルールじゃないけどさ。俺は行けなかった。きっと、どっかでおまえに会えるって願ってた。副会長におまえが立候補したときはびっくりした。自分の妹が近くにいるって…。けど、俺はずっと言えなかった。おまえが黙々と仕事をして誰よりも自分に厳しいおまえを俺はどうにかして支えてやりたかった。けど、たぶん何もできていない。お兄さんであることを明かしてれば運命を変えることができてたのかなと思った。そしたら、俺もさ。」
「はじめまして。」
会長の横にはムーンがいた。そして、さっきまで全然姿を現さなかったスターも副会長の横にいた。
「こいつらはさ、俺とおまえが再び会えるようにしてくれていたのかもしれない。そうじゃなくっても、今これからの運命を変えるために来てくれたのかもしれない。俺はおまえのお兄さん。」
「…お兄さん…。でも、あたしはずっとずっと…。」
彩里は話についていけないのか混乱していた。それを見たスターが彩里に
「彩里…ちょっとごめんね。」
催眠術をかけた。彼ら、大アルカナには保持者を助けるの力が与えられていた。それをスターは使い副会長にとあることをした。
「あれ…ここは。」
『いろり、これはこぉーすんだぜ。』
『だぁー。』
『お兄ちゃんはあやちゃんが好きなんだね。』
『しゅーき?』
『お母さんもあなたたちが幸せそうなの見れて嬉しいわ。』
『パパ…ママ…?』
『この子をお願いします。』
『一颯くん、忘れ物はない?』
『うん…。』
『それでは。』
『いろり…バイバイ。』
『おばさん、俺…彩里に会えるかな。』
『一颯くん、今日のお月様きれいだね。』
『もし、願いが叶うなら…俺は妹に会いたい。』
「…り。」
「いろり…。」
「…ここは…。」
「大丈夫か?」
「あたし…は。」
「彩里…ごめんね。ちょっと記憶操作しちゃった。」
「…会長はずっとあたしのこと…思ってたんですね。」
「当たり前…だろ、妹なんだから。」
「うん…。」
「たぶん…母さんはおまえを育てようと必死だったんだろう。それがエスカレートしてしまったような気もするし。たぶん、おまえの厳しいのも、それを見てきて育ったからだと思う。オレなんか…見ての通り。」
「…ほんと、こんなのが…。」
「こんなのって失礼だな。」
「ううん、でも、…よかった。」
「ん?」
「あたしの家族に会えたから…。」
「あぁ。」
会長はそっと副会長を抱きしめた。ずっとお互い会えないまま時は過ぎ会えても言うことができなかった二人がやっと兄妹として出会えた。
「…お兄ちゃん。」
「彩里。」
副会長の目からは涙がこぼれていた。ずっとずっと耐えてたものが溢れ出てきたんだろう。会長は副会長の頭を優しく撫でていた。スターとムーンはその姿を見てうれしそうにしていた。けど、スターはどこか寂しそうな顔をしていた。
「姉さん…。」
「私達も早く会いたいね。」
「そうですね…。」
「けど、任務は果たしたし。」
「はい。」
それからスターは抱き合う二人の姿をそっと見届けていた。
「会長…。」
「ん?」
「私、明日…あの二人に謝罪しようと思います。」
「どうして?」
「ひどいこと言ってしまったので…。」
「まぁ、信じれなくって当然だと思うけど。」
「…運命を変えるのは…自分の気持ち次第…たぶんそうな気がした。」
「そっか。」
「ねぇ、」
「ん?」
「今日は一緒にご飯食べよ。お母さん帰ってこないから。」
「いいんか?」
「うん、だって、」
「あたしのお兄ちゃんだから。」
「そうだな。よしーお兄ちゃんも彩里と過ごせるなんてうれしいぞー!」
「もー、外なんだからやめてよ。」
「わりぃわりぃ。」
「…まったく。」
彼らは仲良く手を繋いで歩いていた。
夏の夕暮れの空の下。笑い合う兄妹の声は幸せに満ち溢れていた―。
第23話 チームLot
副会長の件が終わってホットしていたオレと双葉。今日は会長と副会長に呼ばれ生徒会室にいる。
「先日のことであなたたちに大変失礼な事を言ってしまい本当にすみません。」
「いや、いいんです。副会長さんにしつこく話しかけ仕事の邪魔をしたオレも悪いんで…。」
「いや、別にそれはいいだけど…その、あなたたちのおかげで、」
副会長は会長をちらっと見た。すかさず会長は
「俺たちは兄妹としていられるしな!」
と、言った。でも、これで本当によかったとオレも双葉も思っていた。
「それで、今日は…。」
「あぁ、今日はその…タロットカードのことについて詳しく話を聞きたいんだが…。」
「実はそれなんですけど…。」
オレと双葉は苦笑いして事の事情を話した。
「要するに詳しいことは何も知らないと…。」
「はい…オレ達も困っているんですけどね。」
「ん…。」
バン
「はーい、みなさん、ここで問題です!」
教室の扉が勢いよく開きスターがどこからともなく現れた。彼女は若干空気が読めない人ではあるが…助言の方はわりと正確であったりと…。
「私たち大アルカナ族は全員で何人いるでしょうか?」
「それはオレ知ってるよ、22人だろ。」
「せーかーい!じゃあ、続いて今発見された大アルカナ族は何人でしょ?」
「えぇーと、4人。」
「せーかーい!じゃあ、問題!あと残り何人探さなきゃいけないでしょうか?」
「18人…。」
「18人って結構多いね…。」
「先は長くなりそうだな。」
「ねぇ、スターの話無視しないでー。」
「あ、わりぃ。」
「それで、その18人の中に探してほしい人がいるの。」
スターの声が急に寂しそうな感じになった。どうやら、今回は真面目な話のようだった。
「私とムーンは双子の姉弟なんだけどね…実は私たちには兄がいるの…。」
「そうなの?」
「うん…私の兄は…向こうの世界で、数年前から姿を消してしまって…行方がわからないの。それで、その兄もまた大アルカナの一人で…。」
「俺たちにそのお兄さんを探してほしいと?」
「まぁ、そうだね…私もムーンもずっと探してるけど見つからなくって…。」
「その、お兄さんの名前は?」
「さ…サン。サン・リエンド。私たちと違って兄はオレンジ色の髪をしているの。」
「じゃあ、そのお兄さんを見つければいいってことだろ!なぁ、成世!」
「え、あ、そうですね!」
「ありがとう!じゃあ、私はこれで、ムーンがたぶん探してると思うから!」
スターは教室のドアから立ち去った。そして、
「とは…言ってもどーするんだ?」
「会長…ノリで言いましたか?」
「ハハハっ、いやーでも、俺もあいつらがいなかったら困ってたわけだがら恩返しにと。」
「そうね。スターとムーンのおかげもあるしね。」
「じゃあ、次の試練はスターとムーンの兄探しか…。これまた、なかなか大変な話だな。」
オレの夏休みはどんどんゴロゴロライフから遠ざかっている気がした。
「あ、」
何かを思いついたのか副会長はチョークを手に取り黒板に書いた。
「今日からあたしたちは言ってみればチームよ。今後また増えるかもしれないけど。とりあえず、週に2回集まって報告会議をしよう。情報共有は大切だからな。」
「おー彩里いいアイディアだな!」
「教室はここを使えばいいだろう。瀬戸いいか?」
「は、はい。」
「あの、その…チーム名は?」
双葉が珍しく積極的に参加しているようにオレは思えた。彼女はかなりの人見知りでなかなか他人とは話をしないがココ最近はわりと話せるようになってきたように思えた。
「そうだな…んー」
「そのままタロットカードってよくない?」
「会長…それは…。」
「えー変?」
「それならまだ、タロットでよくないですか?」
「どっちとも変わらない気がするが…。」
「あの…Lotとかどうですか?」
「ロット?」
「オランダ語で運命を意味する言葉です。」
「いいんじゃね?なんか、長くないし意味も運命だし。」
「じゃあ、これで反対意見はない?」
「オレも蒼ので賛成します。」
「じゃあ、決まりだな。」
「よかったね、蒼。」
「…うん!」
「じゃあ、今日の集まりはここまで。」
「せっかくだし、みんなでご飯食べに行こうぜー。」
「いいんですか?」
「いいよな、彩里。」
「別に…構わんが。」
「よし、じゃあ、レッツゴー!」
会長はカバンを持って先に教室を出た。オレはその会長に早くこいよと言われ慌てて荷物を片付け後を追いかけた。教室に残った双葉と副会長はヤレヤレというような感じだった。
「副会長さん…。」
「…。」
「その、この前はありがとうございました…。」
「双葉さんは…瀬戸のことどう思ってる?」
「どうって…大切な友達かな…。成世くん、私のために人見知りを直そうとがんばってくれたし…。」
「そう、瀬戸はなんか、一見頼りなさそうに見えるが…いいやつなんだな。」
「はい。成世くん、プリスからもヘタレって言われてます。」
「だろうな。そんな気がする。」
副会長と双葉は笑いあった。教室の鍵を閉め双葉は先に会長たちのところへ行くように言われた。
「…たまには自分に優しくなってもいいかもな。」
副会長は窓から3人の姿を見てた。それに気づいた会長が早く来いよと言ってるのか手を振っていた。
「今行きます。」
副会長はポケットに鍵をしまい外で待っている3人の元へと向かった。
ここからまた、新しい運命の歯車が廻り始めるのだった―。
第24話 二学期
「えー、みなさん、今日からは二学期の始まりですがー」
あぁ…オレのゴロゴロライフは終わった。
再び、学校生活が始まるのか。
「二学期には体育祭と文化祭があります。どれもー」
体育祭と文化際か…サボりたい。
今日から二学期が始まった。夏休みは結局なんやかんやであまりゆっくりできたとはいえない。後半は課題に追われていた。あっという間に終わってしまったわけだ。二学期には体育祭、文化祭があるわけだが北海学園の文化祭は結構盛大とか。三年生にとっては最後の行事になるそうだ。今日は始業式がありそのあと、さっそく文化祭の出し物を決めるそうだが正直オレはあまりやる気ではなかった。
「じゃ、文化祭実行委員よりこれから出し物を決めていこうと思いますが…何かこれやりたいっていうのありますか?」
「オレは、お化け屋敷したいー」
「模擬店のほうがいいでしょ」
「カフェとか?」
「舞台とかでも」
なんかいろいろな意見が飛び交っているがオレはもう裏方でいいやと思っていた。
「あ、女装&男装喫茶とかどうですか?」
とあるクラスのやつが言った。すると、みんな笑いながらもそれいいねとか楽しそうとかいう意見が出てオレのクラスでは女装&男装喫茶をやることになった。
その帰り、オレは双葉と一緒に帰ってた。
「オレは裏方でいいかなー。」
「文化際?」
「うん。オレはあんま目立ったことするのが別好きじゃないからな。」
「そっか…。」
「蒼は?」
「私は…あれ…なんか、男装することに…。」
双葉の男装…やばい、似合うかも…。
オレは頭の中で妄想していた。
「でも、私、人見知りだから…その接客とかは…。」
「大丈夫だよ、蒼ならできるよ!」
「…うん。」
「じゃあ、オレはこっちだから。またね。」
オレは手を振って双葉に別れを告げた。双葉もまたねと手を振ってオレとは別の道へ。
「蒼の男装…とかオレが女だったら惚れるだろうなー。」
「お前は何考えてんだ?」
「何って…ウィズいたんだ。」
「オレは朝からずっといるが。」
「そうですね…。」
「たぶん、またプリスから司令が出るだろう。」
「またか…。」
「そーいえば、スターからなんか頼まれたんだろ?」
「あ、お兄さんを探してほしいと。」
「…あいつのこのか。」
「ん?ウィズ、なんか知ってるの?」
「いや。」
「ほんと?」
「あぁ。」
ウィズは何か隠しているとオレは思った。異世界で何かあったのかな。ウィズは何も言わないままだった。オレも聞こうとはしなかった。
「おはよー」
「おはー。」
次の日の朝、オレは廊下を歩いてたわけだがそこで朝から
「ねぇ、私と付き合ってほしいんだけど…。」
「えーでも…。」
告白現場に遭遇。なんで、オレはよく遭遇するのだろうか。オレはその現場を離れた場所から見ていた。しばらくして、女の子のほうが男の子に何か耳打ちをし、男の子のほうは嬉しそうな顔をしてその場から離れていった。一体、何を言ったのか。気になったが、オレに話しかける勇気はなかった。とりあえず、女の子のいる通りを進まないとオレは教室にたどり着けないため何もなかったように歩いた。女の子とすれ違ったときに女の子が何か言ったような気がした。あまりハッキリとは聞き取れなかった。女の子のほうも何もなかったかのように歩きだした。
「つまらない…愛…。」
「おはよー。」
「よぉ、成世ー。」
「オレさっき、告白現場に遭遇した。」
「まじで?誰?」
「え、名前はわかんないけど、茶髪でわりと髪長くって…リボンつけてたかな。」
「…あーそれって、隣のクラスの羽山 叶美じゃん。」
「知ってんの?」
「あぁ。あの子見た目はかわいいんだけどさ、結構いろいろな人と付き合ってるらしくって。」
「この間も二年の先輩に告白してたところ見たぜ。」
「あー、女子からはビッチとか言われてるそうだがな。」
「へぇー。」
オレはあまり交友関係が広いわけではないので知らない人なんか山ほどいる。オレの友達はよく知っているというか彼女は一年の中でも結構名が出る人物だそう。
しかし、オレはまた新たなる事件に巻き込まれることになる。そして、新たな保持者ものちに見つかることになるのであった。
二学期もスタートから波乱の予感でならなかった―。
第25話 近づくあの子
「あー買い出しとか単なるパシリみてーじゃん。」
「お前が裏方でいいとか言うからだろ。」
「そうですね…。」
オレ、瀬戸成世は両手に買い物袋を提げ学校に帰ってる途中。文化際の準備に向けて各クラスがいろんなことをしている。オレのクラスは女装&男装喫茶というのをすることになった。その衣装を作るための布を買いに行けと頼まれ今ここに至る。
「しかし、衣装から作るのはやっぱ本格的だよな。」
「…。」
あ、ウィズは聞いてないとオレはすぐに察知した。ウィズは興味ない話はだいたいスルーするというのが今ではわかってるからいいが。
「帰ってきたよー。」
「瀬戸くん、そこ置いてて。」
「はーい。」
机に荷物を置いてオレは友人たちのいるところへ。
「おかえり、成世。」
「ただいま。」
「オレたち、今これやってんやけど成世も手伝って。」
「へいへい。」
オレは友人に混じって装飾作りをすることに。細かい作業は苦手ではないがあんまする気にはならない。しかし、みんながんばってるからここで帰るのも悪いとオレは思っていた。
文化際の準備が着々と進んでいき、文化際まであと一週間になった。
「衣装完成したよー。」
クラスの女子が出来上がった衣装をみんなに見せていた。女子は執事をイメージした衣装で男子はメイドをイメージした衣装だった。接客担当の人たちはみんな着替えてみることに。
「アハハ、似合ってるよー。」
「みんな、かわいい。」
衣装を着替えた人たちを見ていろんな感想が飛び交い写真を撮ってる人もいた。オレはおーみたいな感じで見ていたが、ある一人の人物を見た時だけは違った。
「あとは…」
「え…と。」
「双葉さん、すごくいい!」
「わぁーかっこいい!」
双葉も接客担当になっていたことを忘れていた。彼女も衣装を着替えて出てきたわけだがかっこいい…てか、イケメン。いつもの長い紙をポニーテールにしているだけなのに一気に雰囲気が変わっているように見えた。
「…成世くん」
「蒼、めっちゃ似合ってるよ。」
「…そうかな。」
衣装は執事でもやっぱ中身は双葉でちょっとおかしかったがそれもまたかわいらしく思えた。
「じゃあ、当日はこれで接客してねー。」
「そしたら、あとは着替えて装飾担当の人たちも片付けて。」
「じゃあ、成世くん…着替えてくるね。」
双葉は恥ずかしいのか急いで制服を持って着替えにいった。あとで、写真を撮ればよかったとオレは後悔していた。まぁ、当日でも撮れるからいいかと思っていた。
「ふーん…成世くんか…。」
廊下の窓からオレのことを見ていた人がいた。彼女は一体何を考えてるのかは誰もこの時は知らなかった。
「蒼、当日は大丈夫?」
「わからない…けど、がんばってみるよ。」
「うん!蒼なら大丈夫だよ。」
「ありがとう…成世くん。」
「ん!」
「じゃあ、また明日ね。」
「バイバイ。」
オレと双葉は別の道を歩いて帰っていった。
「大丈夫かな…。」
双葉は不安な気持ちでいっぱいだった。
「双葉 蒼さん。」
双葉の背後から彼女の名前を呼んだ人がいた。彼女は後ろを振り返った。
「あなたの…大切な人もらうからね。よろしくねぇ!」
と、茶髪の女の子はルンルン気分でそう言って双葉とは真逆の方向に歩いて行った。
双葉はなんのことか全然わからなかった。
「大切な人…。」
この時の双葉はまだ自分でも気づいていなかった。しかし、文化際で巻き起こる出来事に彼女もまた関係することに。そして、茶髪の髪の少女に隠された真実とは…。
「楽しくなってきたなぁ、フフッ。」
第26話 文化祭は恋の嵐?
誰だって大切な人の一番でいたい。好きな人からは愛されたいって思うのが普通。
でも、その愛されたいが私にはわからない。
みんな、どうせ私のことなんか知らないふり。捨てていくだけ。だから…私も…。
「明日からついに文化祭だねー。」
「準備結構大変だったけど楽しかったよね!」
「そうだね!」
オレのクラスでは明日からの文化祭に向けて最終の準備をしていた。装飾も施されいつもの教室がガラッとオシャレになったような感じだ。
「瀬戸くんー悪いんだけどこれとこれと…」
と、オレはまたもや買い出しに行くハメになったわけ。しかし、この準備の間に何回も行ったわけだから今更何も思わないが。
廊下を歩いてたら
「瀬戸成世くん。」
と、呼ばれた。誰かと思って名前が聞こえたほうを見るとそこにはあの隣のクラスの羽山叶美がいた。茶髪の髪をリボンでまとめていて、かわいらしい感じの女の子だった。それに加え…胸が双葉に比べたら大きい…。
(双葉には内緒な)
「え、と…オレになんか…。」
「あのねぇ、私、入学したときから瀬戸くんのこと気になってて…。」
これはまさか!!とオレは思った。ついにオレにもモテ期が到来。ありがとうございます、神様。なんて、オレは想像していた。
しかし、そんなオレは残念ながら既に好きな人がいた。だから、正直うれしいけど付き合おうとは思わなかった。
「もしよければ、お付き合いしたいなぁ…。」
「あの…気持ちはうれしいけど…ごめん。」
「そっか…やっぱ瀬戸くんはかっこいいからいろんな人にモテるもんねぇ…。」
「いやいや、そんなことないよ。」
「ねぇ…彼氏にならなくってもいいからさぁ…。」
と、彼女はだんだんオレに近寄ってきた。オレもさすがにドキドキしてきた。そんな、オレはウィズに後ろから叩かれ、その場に崩れた。
「う、何すんだよ…。」
「買い出し。」
「…あ、そうだった!」
オレは立ち上がって彼女にごめんと謝って急いで買い出しに行った。
「あぁー…もうちょっとだったのになぁ…。」
彼女は残念そうな顔をしていた。しかし、その表情がガラッと変わって
「フフン…、瀬戸くん逃がさないからね。」
と、満面の笑顔になっていた。
「一体、何だったんやろ…。てか、オレのことどこで知ったんだろ…。」
オレは買い出しを終え教室に戻りながら考えてた。オレはあまりほかのクラスには顔を出さないからそんなに名は知れてないと思っていた。それにしても、あの仕草といい胸といい…男にはいい意味で辛いものだった。
「すまん、遅くなって。」
「おかえり。」
「瀬戸くん、そこに置いてて。」
「成世くん。」
双葉がオレに近寄ってきた。双葉は羽山叶美とは違って青色の長くって綺麗な髪をしていた。口下手だけど一生懸命なところがかわいい女の子だった。
「どした?」
「あのね…昨日の帰り道で…」
双葉もまた昨日、羽山叶美に会ったそうだ。そして、彼女から言われた
「大切な人をもらうか…。何だろうね…。」
大切な人をもらうというメッセージ。それと、オレが今日告白されたことは何か関係があるのか不思議だった。
「まぁ、たぶんただのからかいかもしれないから気にしなくってもいいと思うよ。」
「うん…。」
「それに、オレも他に好きな人いるから…。」
オレの好きな人というのはもちろん目の前にいる人だった。でも、双葉が果たしてオレのことを恋愛対象としているかはわからなかった。
「ありがとう、成世くん。」
「うん。」
「今日は文化祭が無事挙行されることになりました。生徒のみなさんはー」
朝からたくさんの人が北海学園に来ていた。他の学校の生徒も来ていたし地域の人や保護者も。
「会長、学園祭始まっているんですよ。呑気に寝てないで仕事してください。」
「彩里…もう五分だけ…。」
「はぁ…仕方ない兄ですね。」
「アハハ…おやすみ。」
「いらっしゃいませー」
「お化け屋敷どうですかー?」
「おいしいクレープ売ってますよ〜」
「体育館では劇が始まります!」
いろんな場所で活気のある声が飛び交っていた。そんな中、オレたちの喫茶店のほうも大忙しだった。
「え、と、ケーキセットとドリンクお持ちしました。」
「すみませんー注文お願いします。」
「はい、行きます。」
オレはお客様からの注文をひたすら受け取っていた。この仕事もなかなか大変だった。
「お待ちして申し訳ございません…。」
「あ、いえ…。」
「ねぇねぇ、かっこいいね。」
「そうだね。」
双葉もがんばって接客していたわけだが女子生徒からの人気も絶大だった。すごく恥ずかしそうにしてた。
客足が落ち着いてきてやっとゆっくりできるようになった。オレと双葉は休憩をもらいいろいろな場所をまわって見ることに。
「蒼、なんか食べたいもんとかある?」
「えーと、」
「私はワッフル食べたいなー」
「ワッフル…って…え!?」
オレの横には羽山叶美がいつの間にかいた。
彼女は猫耳を頭に着けていた。確か、隣のクラスは劇をすることになっていたからそれが終わったのかもしれない。
「瀬戸くん…この間の話の続きなんだけど…。」
と、言いながらチラッと双葉のほうを見ていた。
「二人っきりで話したいんだよね…。」
「悪い…けど、オレは彼女とこれから廻るからさ。」
と、言って双葉の手を持って彼女を通り抜けた。
「…んーうまくいかないなー」
彼女は猫耳を外しそれを持って別のほうへ歩いていった。
「ほんと、なんだろうね。」
「成世くん…別に行ってもよかったのに…。」
「いや、いいよ。オレは彼女と話したことないし。」
双葉はなんか申し訳なさそうな顔をしていた。
「はい、食べる?」
オレは彼女にクレープを差し出した。
「うん…ありがとう。」
双葉もうれしそうに受け取った。
オレと双葉はそのまま仲良く別の場所へと移っていった。
しかし、これで終わらなかった。彼女はまだ諦めてなかった。そして、新たなタロットカードの存在も動き出していた。
第27話 遊び心
文化祭も終わりに近づいてきた。北海学園では、メインイベントとも言える『届けこの愛を』と題して告白大会がある。その会場である体育館にはたくさんの人が集まっていた。参加は自由だから飛び入りもOKだった。
オレはもちろん参加しない。いや、確かに好きな人はいるがこんな大勢の前で告白なんてできるわけない。
「お前のことが好きだー!」
「かっこいいぞー」
「ヒューヒュー」
参加者の告白に会場も盛り上がっているわけだがとある人物がステージに上がっていた。
「では、学年とお名前を。」
「一年、羽山叶美です!」
そう、彼女であった。なんでこんなところにいるのかその時は理解できなかったが。
「では、羽山さん。あなたの思いを伝えてください!」
「私は…」
「私は…瀬戸成世くんのことが…好きです!!」
え?
「はい、ありがとうございました。」
いや、え?
「…ええええええ!!!」
体育館からはオレの叫び声が聞こえていたのたった。
その後、オレの頭の中はパニック状態だった。クラスの人からいろいろ言われたがそれさえも頭に入ってこなかった。あの彼女は本当にオレのことが好きだとは思っていなかった。しかも、あんな大勢の前で言われてしまい…。
「なんでだ…なんでだ…。」
「なんでって…好きだからだよぉ?」
オレの後ろには羽山叶美がニコニコして立っていた。
「ねぇ、私の思い届いた?」
「あ、あ…。」
「それで…お返事は…。」
「え、と…。」
オレは口をもごもごさせていた。それを見た彼女がオレの手をとった。
「ねぇ、どう?」
だんだん顔が近寄ってきた。すると、タイミングが悪いことに双葉が前方からやってきているのが見えた。羽山もそれに気づきさらにオレに詰め寄ってきた。
「瀬戸くん…。」
双葉がオレたちに気づいた。そして、数秒こっちを見た。
「いや、蒼…。」
「…成世くん、私先に教室に戻ってるね。」
双葉はオレの横を通り抜けた。
「双葉さん、いいのかな〜?」
羽山がニコニコしながら双葉に言った。
「え…?」
「あれれ?覚えてないの?」
「悪い…羽山、オレ…お前の気持ちに…」
と、オレが答えようとした。
「やっぱ、そうだよね…。」
羽山は手を離した。すると、今度は
「私の気持ち…瀬戸くんには届いてないよね…。」
と、泣き出した。オレはびっくりしてごめんと謝った。
「ごめん、そんなつもりじゃないんだ。」
「…。」
羽山は黙り込んだ。すると、急に
「アハハ…アハハ、やっぱ、男の人って単純だよねぇ〜。」
声をあげて笑いだした。羽山は笑顔だった。その笑顔を見てオレはゾッとした。
「瀬戸くん、単純そうだったから落とせるかなと思ったんだけど…なかなか上手くいかなかったわぁ。まぁ、ちょっとは楽しませてくれたけど。」
「どういうことだ。」
「えぇーそのままの意味だけどぉ。」
「私の大切な人…をもらうって…。」
「けど、失敗した。思いの外、あの子に一途だから…。」
「…。」
「じゃあ、瀬戸くん、バイバイ。楽しいお時間ありがとう!」
羽山はそう言って去っていった。
オレはこの時悲しみと怒りと複雑な気持ちが入り混じっていた。
文化祭も終わり生徒たちは下校していた。しかし、オレは教室の机に突っ伏していた。
「…はぁ…。」
オレはどうやら彼女の遊び道具として使われていたようだった。そして、双葉が傷つくように仕向けていた。それが、許せなかった。オレには…。
「成世くん…。」
双葉がオレの様子を見に教室にやってきた。
オレは返事をしなかった。
「あのね…成世くん…。私は大丈夫だよ。」
「…。」
「思うんだけどさ…羽山さん…きっと何かあるんだと思うよ。」
「だからって…。」
「うん…けど、私は大丈夫だよ。」
双葉がオレに心配かけまいとして言ってるように思えた。けれど、オレはその言葉を受け入れようとは思えなかった。
しばらくして、双葉は教室を出ていった。
「成世くん…。」
「蒼。」
「プリス…。私…。」
「蒼、聞いて。」
「羽山叶美はタロットカードの保持者よ。さっき、確認してきたけど、やっぱそうだったわ。」
「そうなの…?」
「でも、まだタロットカードからは出てないと思う。」
「つまり…あの子も何かあるからだよね…。」
「たぶんね。」
「プリス…。」
「何?」
「今度は私が成世くん…助けたい。」
「…。」
「成世くん…いい人だから…。」
「蒼。」
「…?」
「私もサポートするから。」
「ありがとう。」
彼女は大切な友達を救たいと思った。今度は自分が助ける番だと。
「成世くん…私がんばるから。」
彼女の試練がここから始まるのであった。
「愛されたい…愛したい…。けれど、本当の愛は知らない…。」
「ウィズ…元気かな〜。」
ピンク色の三つ編みが廊下の窓にひっそり映し出されていた。
第28話 愛されたい愛したい
文化祭が終わり体育祭への準備へと移る中、オレは魂が抜けたような顔をしていた。事の発端は文化祭で起きた告白事件。あれ以来、オレに告白してきた羽山叶美の姿を見るとどうしても拒絶反応が起きる。それもそうだなが。そして、双葉はオレのほうをチラチラ見たりするものの話はかけてこない。やっぱり、気にしてると感じていた。
「体育祭では男女混合でフォークダンスあるんだって。」
「それ、三年だけでしょ?」
「好きな人と当たったらうれしくない?」
「そうだね。」
なんて、クラスの女子は呑気に話してるけど今は恋愛とかそういう類の会話が一切オレは拒否してる。本当にメンタルをやられてしまったようだ。
放課後、オレは教室に残ってボーッとしていた。何も考えなくてよい時間がほしかった。
そして、誰もいないのがよかった。
今はこうしてると落ち着く。
「はぁ…どうしたもんかな。」
オレが深いため息をついてると教室のドアが開いた。
「こんにちはぁ〜。」
ピンク色の髪をした少女が入ってきた。
「…。」
オレは見ただけで返事はしなかった。
嫌な予感がした。よく見ると耳が尖っているし服からは紋章のような物がチラチラ見えて
「ワタシの名前はラー」
と、言いかけたとき、ドアの外から別の手が二本少女を引っ張りそのままドアが閉まった。一体何がしたかったのか。オレは呆然としていた。
「ちょっと、何するのよぉー。」
「ご、ごめんなさい。」
「あれ?あなたは…。」
「久しぶりだな、ラブ・」
「あら…ら?プリスじゃん!おひさ〜!」
別の教室では先ほどの少女と双葉、プリスがいた。どうやら、双葉が少女を引きずり出したそうだ。そして、その少女はラブ・。彼女もまたアルカナ族の一人だった。そして、
「あなたは…タロットカードの…。」
「もちろーん!私はタロットカード番号」
「あなた、何しに来たの?」
プリスの目がいつになく殺気を放っていた。
「そんなの〜ウィズくんに会いに来たのよぉ!」
「あなたはまだこりてないわけ!?」
「だから、あれは違うって言ったでしょ?」
プリスとラブは異世界で何かかかわりがあったのだろう。特にプリスはいつになく怖い。
「ウィズくんに会いに来たのはもちろんだけど、ちゃんとワタシの使命があって来たんだからね。そこのところ勘違いしないでよ。」
ラブはそう言うと黒板になぜかハートを描いた。
「愛されたい…愛したい…けれど…本当の愛は知らない子。」
ハートの隣に『はやまかなみ』と描いた。
「羽山さん…?あなたは…。」
「ワタシはこの子のパートナー。けど、お名前だけ言ってちょっと…。」
たぶん、名前だけ名乗ってそのまま逃げたはずだろう。そして、今ここにいる。
「まぁ、この子についていうなら本当の愛を知らない。ゆえに、彼女からすれば男なんて遊び道具。」
「遊び道具…。成世くん…。」
「あら?あなたも被害者なのぉ?かわいそうに。」
ラブは同情じみた顔をしたが余計にそれがプリスを怒らせた。
「それで、なんなの?」
「説明するのヤになったからこれでも、見ればわかるよ。ワタシはウィズくんに会いに行ってくる!バイバーイ!」
と、ラブは一冊のノートを机に置いてそのまま消えてしまった。アルカナ族はみんな自由人というか…自由人。
双葉はそのノートを手に取り中を開いた。
そこには日記のようなものが綴られていた。
「今日、わたしは学校でわるぐちを言われました。わたしはつくえの上にバカと書かれた文字を見ました。」
ノートには学校で起きたことが書いてあった。そして、どの内容を見てもその子がいじめられていたという内容。読み進めていくとこんな文章も見つけた。
「私、彼氏できました。一つ上の先輩。ちょーイケメンなの!」
その後のページをめくると
「結局、みんな私を捨てていくだけ。裏切り。」
と、一ページまるまる使って大きく書かれていた。それからノートには何も書いてなかった。
「…羽山さん。」
双葉は悲しい気持ちになった。本当は悪い子ではなかった。過去にあった出来事が影響し彼女の性格は変わったようだ。そして、彼女が本当の愛を知らないのもたぶんそのせいであろう。
「助けなきゃ…。」
双葉はノートをカバンに閉まって教室から出た。急いで家に帰り、とある人物に連絡した。
「もしもし…。」
「もしもし、成世くん。私だよ。」
「蒼…どうしたの?」
「私…わかったの。」
「何が?」
「私、助ける。成世くんも羽山さんも。」
彼女の声はいつものオドオドした声と違い真剣で勇気に満ち溢れていた。
「だから、待ってて。成世くん…。」
「蒼…?」
「今度は私が成世くんを守るから。」
彼女は最後にそう告げ電話を切った。切った後急に恥ずかしくなったのか手がプルプルしていた。
「なんか、勢いで喋っちゃった…。」
彼女の顔は徐々に赤くなりいつもの双葉に戻ったように見えた。けれど、助けたいという意志は変わっていなかった。大切な人を守るために試練に立ち向かおうとしていた。
「ウィズくん…いないー。」
「オレがなに。」
「え?」
ラブは見た。そこにはウィズがいた。彼女は驚きと喜びのあまり登っていた木から落ちた。
「ウィズ!久しぶりぃ〜。」
彼女は飛びつこうとした。それをウィズは華麗にかわした。
「もぉーなんでぇ。」
「…。」
「…そうだよね。ワタシ…じゃないもんね。」
「その話をしないでくれ。」
「ごめん…。」
「お前、パートナーのところに戻りなよ。」
「わかってる。」
「じゃあ。」
ウィズは姿を消した。残されたラブはその場から動かなかった。
「…仕方ないか!」
いつもの明るい声で彼女は言い消え去っていった。
新たなタロットカードの保持者とパートナーによってまた運命の歯車が進んでいくのであった―。
第29話 彼女の決意
「昨日、蒼…いつもと違ってたけど…。」
オレは教室の机で昨日のことを考えてた。
双葉からの電話。そして、彼女から告げられた言葉。すべてがグルグルと入り混じっていた。オレは双葉のほうに目をやったが彼女はいつもと変わりない様子。しかし、実際は
「成世くん…。大丈夫かな。」
と、心の中で心配していたのであった。
それに、彼女には試練があった。その試練を乗り越えるため彼女はどうにかして羽山叶美と話す機会を得ようと考えてた。
「大丈夫…カードの導きを信じれば。」
彼女もまたタロットカードの保持者であった。そして、カードの導きを見てきたわけだがそのカードには
『真相が見えてくる』
と、書かれていた。彼女はその言葉を信じてみようと思った。
「明日から一年生合同で練習が始まるからー。」
「合同…。」
つまり、羽山に会えるチャンスがあった。双葉はこのチャンスを期に話をしようと決心した。
「プリス…。大丈夫かな…私。」
「大丈夫だよ。てか、あの、女をコテンパンにしてやりたいぐらいだわ。」
「何かあったの?」
「蒼…聞いてくれる?」
「うん。」
「あの女、わたしの王子を寝取ろうとしたのよ!」
「え!?」
「ほんと、悪女だわ…。」
「え〜っ、悪女ってひどいな〜。」
「噂をすれば…。」
「やっほープリス。」
今日もニコニコしながらラブは現れた。プリスの眉間にシワができていた。双葉はその様子を見ながらなんとかしようとオロオロしていた。
「今日は何の用かしら?」
「あなたに用があるわけじゃないの〜。」
「私…?」
「あなた、好きな人いたりするの?」
「え…と…。」
「まぁ…それはいいんだけどぉ。愛って何だと思う?」
「愛…。うーん…。」
「別に恋愛だけが愛ではないけどね。友達でも、家族でも。」
「うん…。」
「だから、あなたにお願いがあるの。」
「お願い?」
「叶美の友達になってあげて。そして、あの子にも分かってほしい。本当の意味での愛を。」
「…うん、やってみる。」
「ありがとうね。」
「もう、いいかしら話は。」
「プリス〜こわぃー!」
「うるさいわね。用が住んだら帰りなさいよ。」
「もぉーそんなに言わなくっていいでしょ?」
プリスの目がだんだん怒りに満ち溢れていく。ラブもそれを見てバイバイと手を振って消えた。プリスはため息をついた。プリスとラブは永遠にわかりあえなさそうな二人であった。双葉はラブからの頼み事を受けますます不安になったがここまで来たなら逃げたらダメだと思っていた。
「あーあ、つまんないな…。」
羽山は男の子の写真をハサミで切っていた。床には無数の紙が落ちててそこには殴り書きで
『愛されたい』
というのが書いてあった。
「ねぇーあなたは何のために来たの?」
「そうね〜。いろいろ!」
「ふーん。まぁ、いいけど。」
「そのうち…わかるよ。」
ラブは笑っていたが心の中は悲しんでた。しかし、彼女は本人がそれに気づいてくれないと意味が無いと思ってた。だから、何も言わなかった。今は彼女がしたいようにさせればいいと思っていたのだった。
一年生合同練習が今日から始まることになった。主に開会式や閉会式の練習がメイン。
「あーダルイ…。」
「成世、最近元気ないよな。」
「あーハハ、大丈夫だぜ。」
「にしても、暑いよなー。」
オレは大丈夫だけどまだ少し気にはしていた。そろそろ、忘れたいところだが結構この代償は大きいものだった。ウィズも何も言わないし、いつもそうだけど。そして、オレの斜め前には双葉がいた。彼女も必要なとき以外は話してこない。それも気にしていたことだった。
「じゃあ、入場から始めるぞー。」
体育の先生が合図を出し練習が始まった。
開会式の流れを一通りやり一旦休憩に入った。そして、双葉は羽山を探した。
「あ、いた。」
双葉は羽山の姿を見つけ彼女に近寄った。羽山も双葉に気づきやっほーと挨拶をした。
「双葉さん、どーしたの?」
「今日の放課後…話があります。」
「何の話?」
「この間のことです…。」
「この間のこと…あー。」
羽山の顔が少し曇ったというよりまるで自分が悪いとは思ってないような顔つきだった。
「207の教室で待ってます。では…。」
双葉は彼女にお辞儀をして立ち去った。
その姿を羽山は見ていたが彼女も自分のクラスの元に帰っていった。
「蒼、よく言えたね。」
「緊張した…。」
「あなたももう少し自信持ちなさい。」
「うん。」
双葉はこの時、何を考えていたのだろう。
オレにはわからなかった。けど、彼女のおかげでオレはまた一つ大切なことに気づいたかもしれない…。そして、彼女の気持ちが実は…だったから。
「…成世くん…あともう少しで解決するから。そしたら…。」
双葉はオレのほうを見て真剣な顔をしていた。今日の放課後、新たな運命が廻り始める時だったのだ―。
第30話 優しい心
一年生合同練習が終わり放課後になった。
オレは疲れ果てていた。それで、そのまま教室で寝てしまっていた。時同じくして、双葉は急いで207教室に向かってた。彼女には大切な試練があった。
「よかった…まだ来てないみたい。」
教室のドアを開け人がいないことを確認した。彼女は今日の練習中に羽山叶美と話をした。それで、その話が放課後にされるわけである。双葉は羽山が来るまでいすに座ってた。しばらくして、ドアをノックする音があった。どうぞと言うと羽山が入ってきた。
「双葉さん、話ってなぁに?」
「…成世くんに」
「成世くんに謝ってほしい。」
双葉は羽山をまっすぐ見て言った。羽山はすぐには答えなかったがちょっとしてから
「どうして?」
と、いつもと変わらない調子で言った。
「成世くんは傷ついています。」
「そうなの?」
「…成世くんは優しいし、誰よりも頑張っている人だと私は思ってます。私も彼に助けられました。本当に感謝してます。だから、今度は私が助けなきゃって。成世くん…私の心配してくれてたし、でも、私は全然平気。成世くんのほうが傷ついてる。羽山さんのやったことは決していいことではないと思います。それで、人を傷つけてるんだから。…だから、成世くんに謝ってもらいたいんです。お願いします。」
双葉は立ち上がって頭を下げた。
「…。」
羽山は何も答えなかった。双葉が続けて
「…羽山さんがこんなことをするにも何か理由があると思うの。けど、人の気持ちを貶すようなことは…してはいけないと思う。」
と、言った。すると羽山が笑って
「理由なんかないわよ。別に向こうから寄ってくるから相手してるだけだよぉ。それに、私はそんな悪いことしてるつもりないけどなぁ。」
と言ったが双葉は全然動じてなかった。
「そんなことないはずです。」
「なんで、そう思うの?」
「なんでって…。羽山さんが悪い人だとは思ってないからです。」
「なら、私は謝る必要ないでしょ?」
「悪い人じゃないのに…自分で悪い人にしてるの。」
「そんなこと言われてもなぁ〜。」
双葉はカバンから一冊のノートを出し羽山に見せた。
「私、これ読みました。」
「…これ…。」
「ラブさんからもらったんです。」
「なんで、私の日記持ってるの!返しなさいよ!」
羽山は立ち上がって双葉に掴みかかった。しかし、双葉はノートを離そうともしなかった。羽山に掴みかかれながらも必死に続けた。
「羽山さん、…昔、イジメに合ってきっととても辛い思いしたんだと思います。このノートを読んでもその様子が伝わってきて…私も辛かったです。好きな先輩とお付き合いして…うれしかったたぶん、そんな気持ちだったのに、捨てられたときの悲しみや辛さ、怒り…そいうのも全部私は知りました。」
「だから、何よ。返しなさいよ!」
「いや、まだ話は終わってません。返しません!」
ますます激しくなっていく二人を外から見守ってた人物がいた。
「羽山さん、本当にこんなことして自分のためになると思ってますか?」
「そんなこと、あなたにわかるわけないでしょ!」
「羽山さん、きっと、寂しかった…そばにいてくれる人が欲しかったんじゃないですか?」
「余計なお世話よ!」
羽山は双葉をつき倒した。双葉は倒れかけたがなんとか踏ん張ってその場に留まった。
「…あなたに私の寂しさなんてわかるわけないでしょ!ずっといじめられて…バカにされて…こんなやつらにバカにされてたまるかって。中学生のときは外見も中身も変えて全然違う人間になったように私は振舞った。そしたら、男の人が自分に寄ってくるようになった。最初はうれしかった…けど、私はあの時の傷を忘れてはいなかった。今度は私が私が…痛めつけて…復讐してやろうと思ってた。でも、そんな私は先輩に恋をした。かっこよかった、優しかった。ステキな先輩だった。付き合ったよ、うれしかったよ。学校行くのがすごく楽しかったよ。けど、やっぱり…あの先輩も裏切り。私を捨てて…。それから私は復讐に目覚めた。近寄ってくる男はみんなみんな。私と同じ思いをさせてやろうって。楽しかった、あいつらの悲しそうな顔を見るのが。気持ちよかった、私を…裏切るのがいけないのよ。」
羽山は息を切らしながらも自分の心の内を語っていた。双葉はそれを聞きますます悲しみと怒りのような不思議な感情の中にいた。
「…正直、瀬戸成世に興味があったわけじゃない。ただ、あなたと一緒にいて楽しそうにしてるのが気に入らなかった。壊してやりたかった。…けど、失敗した。あなたは全然平気そうだもん。それに私…わかってた。自分が嫉妬してるだけなんだって。」
「羽山さん…。」
「こんなくだらないことして自分の心を満たそうと必死だった。でも、楽しいけど何も生まれなかった。」
「…。」
「私は…ただ、」
羽山はポケットからカッターを取り出した。
双葉はびっくりした。殺されると思ってた。
外で見守ってた人物も驚き助けに入ろうとした。しかし、そのカッターの刃は双葉ではなく
「私は傷ついた、自分を忘れようとした。けど、ダメだった。もう、私は誰からも愛されないし…私なんか。」
羽山は自分にめがけてカッターを刺そうとした。双葉はその瞬間、カッターを叩き落とし羽山の頬を叩いた。
「羽山さん!そんなことしないでください。」
羽山は叩かれたところを押さえて言った。
「邪魔しないで!」
双葉は羽山の言葉を無視して彼女に抱きついた。
「羽山さん…。あなたの心が泣いてますよ。これ以上、傷つけたらダメです。」
双葉は優しく声をかけた。
「なんでよぉ…。あなたに…私の気持ちなんて」
「私は…小学生の時に…知らない大人の人に誘拐されました。」
「…え。」
「怖かったです。今でも、怖いです。けれど、私には…プリスがいます、成世くんもウィズくんも…。最近、生徒会長さんと副会長さんにも出会いました。私の周りには私を助けてくれる優しい人がいます。」
「…それならいいじゃん。」
「だから、私は…羽山さん…あなたを助けたいと思いました。」
「…。」
「羽山さん…。」
双葉は手を離し羽山を見た。
「私と友達になりませんか?」
羽山に手を差し伸べた。
「…なんで、私…ひどいことしたのに。あなた、瀬戸成世に謝れって。」
「もちろん、謝ってほしいです。けど、私は…羽山さんに本当の愛を知ってもらいたいだけです。」
「本当の愛…。」
「本当の愛を知りたいあなたに…。」
『叶美ちゃん。』
「あなたは…。」
『私はあなただよ。』
「私?」
『本当は気づいてたんでしょ?』
「…。」
『大丈夫、私には優しい仲間がいるから。』
『叶美ちゃん、もうこんなことはやめよ。』
「…双葉さん。」
「はい。」
「…ごめんなさい。」
羽山の目には涙が溢れていた。双葉はそれを見て優しく微笑み
「分かってもらえたなら…いいですよ。」
「…それと、」
羽山は涙を拭き双葉に手を差し出して言った。
「友達に…なってください。」
「もちろんです。」
双葉も手を握りしめた。羽山は泣きながらも笑っていた。双葉もそれにつられ笑っていた。
「よかった…。」
「蒼はいい子ね、相変わらず。」
外で見守ってたいた人物は二人の様子を見てホッとしていた。それに双葉は気づいてしまった。
「成世くん…?プリス?」
「おいおい、蒼が気づいたよ。」
「もういいでしょ?終わったから。」
プリスはドアを開けて中に入っていった。それを見てオレも結局入った。
「ごめん、蒼…。」
「いつからいたの?」
「えぇーと…わりと最初から。」
「そうなんだ。」
オレは申し訳なかった。そんなオレの前に羽山が来た。
「瀬戸くん、ごめんなさい…ひどいことして。」
「大丈夫だよ。」
オレは双葉を見た。彼女は頷いた。
「瀬戸くん、双葉さん…本当にありがとう。」
羽山はカバンを持って教室から出ていった。
教室に残されたオレと双葉は気まずい雰囲気だった。久々に二人っきりになったから。
「…蒼。」
「成世くん…。私も今回の件でわかったことがあります。」
「…?」
「優しさや温かい気持ちを忘れないってことです。」
「だな。」
オレと双葉は笑顔でお互いを見た。
「帰るか。」
「ん。」
荷物を持ってオレ達は教室を出た。この時、双葉はオレのことどう思っていたのか。オレのこと大切な人だと思ってくれてたのはうれしかった。けど、それは友達としてなのか。
「好き…だなんて。」
オレの心は少し苦しかった。恋心はだいぶ前から芽生えてたけど最近ますます大きくなっている。気持ちを伝えたいけど…オレはヘタレだからまだ言えなかった。きっと、いつか言えるだろうと思ってた。
「成世くん?」
「うん?」
「ううん、体育祭がんばろうね。」
「あぁ。」
今はまだ友達でもいいやとオレは隣にいる彼女を見てそう思っていたのだった―。
第31話 体育祭
「ほんとあっという間だなー。」
「晴れてよかったね。」
「だな。」
今日は体育祭本番である。天気にも、恵まれ秋らしい爽やかな日であった。グラウンドには北海学園の生徒が並んでいた。北海学園は学年ごちゃまぜで六チームあり競い合うというものだった。今年も白熱した体育祭になりそうだった。
「えーみんな、とりあえず楽しんでケガのないように今日の体育祭を行いましょう!」
生徒会会長の日渡が登壇して挨拶をした。
そして、体操を全員で行い15分後に最初の競技が行われる予定になっていた。
「成世くんは何にでるんだっけ?」
「オレは騎馬戦。蒼は?」
「私は二人三脚。」
「お互いがんばろうな。」
「みてー副会長だよ!」
「副会長バスケ部だもんね。」
「かっこいいよねー。」
最初の種目は男女混合リレーで一人100mずつ走りアンカーの男子は200m走るという競技だった。その列に並んでた副会長四津彩里は生徒からの歓声を一段と浴びていた。彼女はバスケ部のエースらしく(オレは最近知った。)足も速いという。
「副会長さん応援しよ。がんばってください!」
「副会長さん、がんばれー!」
そして、リレーが始まった。副会長は第4走者だった。オレたちは緑組で副会長は青組だった。今回はライバル同士だったが、そんなことは気にしてなかった。第三走者のときトップにいたのは赤組、それから緑、黄色、紫、青、白という順番だった。副会長はバトンを素早く受け取り前にいた走者を追い抜かしていきコーナーを曲がった時には二番目に追い上げていた。
「副会長速いな…。」
「すごいね。」
「だろ?さすが、俺の妹だな。」
「会長さん!?」
「こんにちは…。」
「てか、会長さん同じ組だったんですね。」
「成世、おせーぞ、気づくの。」
「すみません。」
会長と会話してたら走者は五番目に変わっていた。最後まで副会長の走りは見ることができなかった。
「じゃあ、二人ともまたあとで。」
会長は本部のテントに戻って行った。
「ただいまの男女混合リレーの結果は一位青組、二位緑組、三位赤組」
「オレたちは二位か。」
「そうだね。」
「次の競技はー」
体育祭は文化祭と違った盛り上がりを見せていた。いろんな人がテントから応援していた。そして、オレの出る競技騎馬戦が始まろうとしていた。
「成世くんがんばってー。」
テントから蒼の声が聞こえた。オレはかっこいいところを見せてやろうと思っていた。
騎馬戦は二組ずつやっていき三試合の結果でトーナメント戦をしていくというものだった。
「では、まず赤組と黄色組の人は準備してください。」
アナウンスの合図で騎馬を組み競技開始の合図を待っていた。
「試合は8分ようーい」
笛の音で試合が始まった。逃げる者もいれば真っ向から戦っていく者、いろいろだった。オレはそれを見てドキドキしていた。
最初の試合は黄色が勝った。その後の試合でも黄色が優勢で黄色が二本取りこの組の勝負は終わった。
「次は緑組と白組です。」
アナウンスがありオレの番になった。オレは土台担当だった。
「それでは、試合開始です。」
笛の合図があり一斉に試合が始まった。オレの騎馬は上に乗っている人がかなり背が低く狙われにくかった。そのまま逃げていた。
「ヘタレくんらしいねー。」
「そうだな。」
双葉の隣で日傘をさしているプリスとウィズがコメントをした。
「プリスいたんだ。」
「うん。もしかしたら、タロットカードの保持者がいるかもだからね。」
「アハハ…。」
「羽山さん、この間の…。」
「ごめんなさい。」
テントの外で羽山とおそらく三年生であろう生徒がいた。双葉は気になって少し見ていた。羽山が頭を下げそのままテントに戻って行った。おそらく、告白か何かされたのだろう。しかし、彼女は先日の件もあり悔い改めてるように見えた。
「羽山さん…よかった。」
「ただいまの勝負は白組の勝ちです。」
「え、成世くんは?」
「あいつは生き残ったけど総合的には白の勝ちらしいよ。」
「そうなんだ…。」
緑組と白組の騎馬戦は緑組も白組も一本ずつ取ったが最後の試合は白が勝ちトーナメント戦は白組が出場だった。
そして、騎馬戦は黄色が一位という結果で終わった。
「お疲れ様。」
「負けちゃったよ。」
「仕方ないよ、成世くんがんばってたよ。」
「土台だったけどね。」
「プリス、それを言うなよ。」
「ヘタレのくせに頭が高い。」
「なんだよ、それ!」
オレとプリスとのやり取りに双葉は笑っていた。今日はいつになく双葉が明るく見えた。
体育祭の種目は進んでいき午前中の最後の種目の二人三脚になった。双葉が出るということでオレはテントで応援していた。
「がんばれー。」
「蒼がんばりなさいよー。」
双葉と同じく二人三脚に羽山も出ていた。
「羽山さんも二人三脚だったんだ。」
「負けないからね!」
「私も…負けませんよ。」
二人三脚は男女でわかれていた。まずは女子から先にあった。第一走者に双葉と羽山がいた。
「蒼大丈夫かな。」
「大丈夫。」
「あらぁ〜プリスいたのねぇ。」
「…何か用かしら、ラブ。」
「ウィズくんに会いに来ただけですぅー。」
「なら、早く帰ってくれませんか?」
双葉からは聞いていたがプリスとラブの仲の悪さは恐ろしいものだった。プリスは目つきが怖いしラブはニコニコしてるけどある意味それが怖いし。オレは二人に関与せず、双葉のほうを見ていた。
「位置について、よーい」
ピストルがなり第一走者がスタートした。
「蒼ーがんばれー。」
双葉の隣を走っていた羽山。二人は一歩も引かず走っていた。途中で双葉の足がもつれかけていたが転ぶことはなかったが羽山に先を越されてしまっていた。
「この勝負は私の勝ちね!」
「そうだね…。」
「座ろっか。」
「うん。」
走り終わったあと、二人は他の走者を応援しながら話していた。
「パートナーたちは仲悪いけど本人たちはそんなことないんだね。」
オレはテントから二人の姿を見て思った。午前中の競技が終わりお昼休憩になった。
オレと双葉は教室でご飯を食べていた。
「午後の応援合戦で会長さん団長するんだって。」
「そうなんだ。」
「会長ならやりそうなイメージはあったけどな。」
「だね。」
お弁当を食べていたとき、双葉の足首にケガの箇所があったのに気づいた。
「そこ、大丈夫?」
「え、あ…大丈夫だよ。たぶん、足がもつれたときに擦っただけだから。」
「いや、でも、」
「成世くんはやっぱり優しいね。」
「そんなことないよ。」
オレは慌てて言った。双葉は自分のカバンからポーチを取り出し絆創膏を貼った。
「これで、大丈夫。心配してくれてありがとうね。」
「ううん。」
「私、先にテントに戻っておくね。」
双葉は荷物をしまい教室から出ていった。
「…やっぱり…」
オレの恋心はこの時ウズウズしていたのであった。
「ただいまから各チームによります応援合戦が始まります。」
「おかえり。」
「あぁ、ただいま。」
「会長さん、そこにいるよ。」
双葉は入場門にいる会長を指さした。
いつの間にか学ランを着ていた会長がいた。
「それでは、緑組の応援です。」
「いくぞー!」
会長のかけ声でグラウンドに集まった人たちはみんな汗をかきながらも必死に声を張り上げていた。その姿を見てかっこいいなとオレは思っていた。
「お兄さんの姿が見れなくって残念ね。」
「そうですね。」
「彩里も応援合戦に参加するからね。」
別のテントで応援合戦を見ていたスターとムーン。彼らは双子でありその保持者も兄妹同士という組み合わせだった。
「これで、緑組の応援を終わります。ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
テントからは拍手があり会長はピースをして退場門のほうへ走っていった。
「次は青組の応援です。」
「あれ、副会長さんがいる。」
「本当だ。」
「副会長さんは何でもやるんだな…。」
オレと双葉は副会長の姿を見てた。副会長はしっかり者でいつも忙しそうにしている。だからこそ、この応援合戦にも参加しているようにも少し思えた。他の組の応援合戦も熱くかっこいいものばかりだった。応援合戦が終わり競技がまた進んでいった。オレは途中でトイレに行きたくなってテントから出た。
「にしても、人が多いな。」
と、言ったそばからぶつかってしまった。
「前見て歩けよ。」
「すみません。」
オレとぶつかった上級生の人はそのまま進んでいった。オレも謝って急いでトイレに向かった。
「次の競技は組対抗リレーです。この競技が最終競技です。」
「早いもんだなー。」
「そうだね。」
トイレから帰ってきて二種目終えたあと、最後の種目の組対抗リレーが始まろうとしていた。この競技は足の速い人たちばかりが集まっていて、またもや副会長が出ていた。それと、
「あ、」
「どーしたの?」
「トイレに行く時ぶつかった人…。」
オレがトイレに行く途中でぶつかってしまった上級生はどうやら二年生であった。その先輩は副会長と同じ青組だった。
「足速いんだね。」
「彼は陸上部だからね。」
「会長さん、知ってるんですか?」
「あぁ、まぁ、そんなに知ってるわけじゃないけどね。」
「そうなんですか。」
「それでは、第一走者の人準備をしてください。」
第一走者の人がレーンに入りまもなく始まろうとしていた。ピストルを持った人が上に突き上げた。
「位置について、よーい」
パン
「さぁ、始まりました。」
テントからはがんばれーという歓声で盛り上がっていた。オレも双葉も会長も応援していた。副会長は午前中走ったにもかかわらずトップスピードで他の走者を追い抜かしていった。アンカーにバトンが渡っていき一番最初に青組がゴール。
「やー彩里の勇姿が見れて俺はうれしいぜ。」
「会長さん…。」
女子のリレーが終わり男子のリレーが始まろうとしていた。
第一走者にオレがぶつかってしまった先輩がいた。ピストルの合図を待っていた。
「位置について、よーい」
パンパン。
フライングの合図が鳴った。フライングしたのは…青組の先輩だった。
「次、フライングしたら失格になります。注意してください。」
「位置について、よーい」
パン
今度はきちんとスタートをした。トップには紫色のゼッケンの先輩が走っていた。
「負けてたまるかよ。」
その後からさっきの先輩が追いかけていた。コーナーになったとき、急に紫色のゼッケンを来た先輩が転けそのまま青組の先輩がトップに出た。
「あちゃー痛そうだな。」
「だね。」
オレたちは転んだ先輩を心配していた。
それから、リレーは進んでいき男子の部も青組が一位だった。
「これで、全ての競技が終わりました。最後に三年生のフォークダンスがありますので、三年生の皆さんはー」
「じゃあ、行ってくる。」
会長は入場門のほうへ向かった。それと同時に副会長が帰ってきた。
「お疲れ様です。」
「副会長さん足速かったです。」
「そんなことないけどね。」
副会長は汗を吹きながら言った。それから、三年生のフォークダンスを見てた。会長はノリノリだったが若干動きがずれていた。副会長は珍しく笑っていた。オレたちはそれにつられ笑っていた。体育祭も無事に終わることができた。それについてはよかった。
けど、それで終わるはずもなかった。
「…ふぁー眠い。」
木の上から今日の体育祭をずっと見ていた人物がいた。その人物は眠たそうにあくびをしてそのまま立ち上がった。
「オレの出番はまだ来ないだろうな。」
そう言うと木から降り姿をくらました。
また、新たなる運命が廻り始める時だった。
そして、オレの…恋心もまた発展していくことになっていった。
第32話 緊急会議?
「失礼します。」
「お邪魔します。」
体育祭が終わりまたいつものような生活に戻った。今日はオレと双葉は生徒会室に呼ばれていた。生徒会室には大あくびしている会長の日渡一颯と書類の整理をしている副会長の四津彩里がいた。
「そこに座ってくれたら。」
「はい。」
オレと双葉はカバンを下ろし椅子に座った。今日は久しぶりに報告会というので集まることに。
「五人目のタロットカード保持者が確認されたらしいがー」
「あ、副会長さん、連れて来たんですが。」
オレは立ち上がってドアを開けた。そこには羽山叶美が待っていた。
「彼女も中に入るように言ってくれ。」
「羽山さん、中に入ってだって。」
「うん。」
羽山も中に入りカバンを下ろし双葉の隣に座った。
「それで、とりあえず揃ったんだよね。」
「はい。」
「羽山叶美です、よろしくお願いします。」
「四津彩里だ、こっちは会長の」
「日渡一颯です!よろしくね、叶美ちゃん。」
会長は相変わらずフレンドリーというかノリがいいのか。羽山はちょっと困っていた。
「じゃあ、始めるが最近変わったことはあったりしたか?」
「そうですね…。」
「体育祭のときは特に何も…。」
「俺も何もわかんね。」
「会長は探す気あるんですか?」
「あるに決まってるさー。」
「じゃあ、もう少しは活動してくださいよ。」
「はいはい、そんなに彩里怒んなって。」
「まぁ、ココ最近は何もないということか。」
「タロットカード保持者を探すのは難しいですもんね…。」
「いつ現れるかわからないし…。」
生徒会室で報告会が行われている間別の教室でも何やら話し声が聞こえていた。
「さて、やっと五人目が見つかりこの調子でどんどん探していきたいところなんだけどねー」
「そこ、髪の毛結び直すのは後でもいいんじゃないかしら?」
「えぇーもうすぐで終わるから待ってくれてもいいんじゃないかなぁ?」
「あなたの待っては何時間かしら?」
「ねぇ、ムーン今日は何で集まってんだっけ?」
「集取会議らしいです、姉さん。」
「…。」
「あなたたち、やる気あるのかしら?」
そう、こちらはパートナーたちが集まっていた。集まったというよりプリスに強制的に集められたというほうが正しいのかもしれない。髪の毛を結び直しているラブ、寝てるのか起きてるのかわからないウィズ、なぜかニコニコしているスターとその隣にいるムーン。プリスは深いため息をついたが仕切り直し
「いい、私たちは保持者を助けるために選ばれたわけよ。それと同時に他のアルカナたちも見つけないといけないわけよ。」
「わかってるよー。」
「それで、何か情報を持っている人はいないわけ?」
「ないよー。」
「スターはいいよ…。ウィズは?」
「特にない。」
「あんたは?」
「なんで、私は名前で呼んでくれないのぉ?」
「それはいいでしょ。それよりないの?」
「ないわよー。よぉーし、結べた。」
「全然、ダメね…。」
プリスはまた大きなため息をついたのだった。
「それでだ、本をちょっと借りてきたんだが。」
副会長がカバンから三冊本を取り出した。どれも、タロットカードについての本だった。
副会長は一冊手に取りページをめくった。
「タロットカードには大アルカナと小アルカナがあるそうだ。あたしたちが持っているカードは大アルカナのほうらしい。それで、大アルカナは全部で22枚。」
「なんか、プリスも言ってたね。」
「そうだね。」
「それで、今見つかってるのはー」
「えーと、ウィズは12の吊るされた男です。」
「プリスは02の女教皇です。」
「あたしと会長は星と月だから」
「16、17だな。」
「それと」
「私は06恋人です。」
「というような感じか…。それと、スターが探しているお兄さんについてはー。」
副会長はページをめくっていき見出しに18太陽と書かれているページを開いた。
「たぶん、これだろう。」
「でも、何もてがかりないんだよね…。」
「そうだな…ウィズも知らないそうだし。」
「てか、タロットカード保持者ってどーやって決まってんの?」
「それはあたしにもわからない。」
「プリスによると何かしろ悩みを持った人の前に現れるとか…言ってました。」
「そうなんだね。」
「私も詳しくは…知らないです。」
「悩みを持った人…。」
副会長はしばらく考えていた。そして、何かひらめいたのか黒板に書き始めた。
「悩みを持った人を探すにはいいと思んだが。」
副会長の提案はお悩み相談箱を設けることだった。生徒会で実施するという名目にとりあえずしとけば先生からも許しは出るだろうとのことだ。
「それいいと思います!」
「これなら、早く見つかりそうだね。」
「そうだね。」
「一週間に1回箱を開いて集まったお悩みをチームにわかれて探していこう。それならたぶん見つけやすくはなると思う。」
「副会長はやっぱ考えることが違うなー」
「会長、あなたもやるんですよ?」
「わかってる。」
「とりあえず、この作戦で様子を見よう。じゃあ、今日はこれで終わり。次は…来週になるが、随時何かあれば報告してほしい。」
「わかりました。」
「羽山さん、後で連絡先聞いてもいい?」
「あ、うん。いいよ。」
「じゃあ、解散ってことで俺は帰るー。」
「会長、まだ帰れませんよ。」
「えぇー、今日はもういいじゃん。」
「ダメです。」
「相変わらず、仲良しだね。」
「あれでも、兄妹だもんね。」
「え、会長さんと副会長さん兄妹なの?」
「そうだよ。」
「全然そんなふうに見えないけど…。」
「アハハ…。」
オレ達は生徒会室から出ていき三人で帰ることにした。生徒会室からは怒ってるのかじゃれてるのかわからないけど楽しそうな声が廊下に聞こえていたのだった。
「早く、お兄さんに会いたいね。」
「そうですね、姉さん。」
「王子はこっちに来てるのかしら…。」
「…。」
「会えるといいね…。」
それぞれ思うことはあったが、誰も諦めてはいなかった。大切な人に会えることを。
そして、運命の歯車は少しずつ新しい物語を作っていく。次なる、物語は一体誰なのか―。
第33話 お悩み相談箱
「今日提出の書類はこれで…。」
「あ、あと、これはこっちで」
「…これはこうで。」
「会長!!寝てないで仕事してください!」
「あーおはよー。」
「…。」
「いてぇ、叩くなよ!」
「兄だからって容赦はしませんよ。」
「全く、かわいげのない妹。」
生徒会室で仕事をしていた副会長の四津彩里とずっと爆睡していた会長の日渡一颯。四津はあまりにも仕事をしない日渡の頭を書類で叩いた。このやりとりはだいたい日常茶飯事。そして、彼らは兄妹であるのだが四津のほうが姉のようにだんだん思えてくる今日このごろ。
「そーいえば、お悩み相談箱どうなったかな?」
「まだ、見てないけど。」
「何か入ってるかなー」
「会長、それは後でいいからこっちやってください。」
「えーわかりましたよ。」
四津に怒られながらも会長は仕事をこなしていった。
「成世くん、今日の放課後は生徒会室に行くんだよね。」
「あ、忘れてたぁ。」
「あらら、私先行っておくね。」
「オレもすぐ行くから。」
オレは急いで片付けをし双葉の後を追った。生徒会室に着いたときにはみんなそろっていてオレが一番最後だった。副会長に遅いって怒られすみませんと頭を下げ席に座った。
「じゃあ、そろったから始まるが今日は第一回目のお悩み相談箱開封日だ。」
「おぉー!」
会長が一人で拍手をしていて副会長に冷たい目をされた。
「じゃあ、開けてみたいと思います。」
と、副会長は箱を開けた。中には
「ちゃんと紙入ってた!」
「よかった…。」
「全部で五枚…最初はこんなもんか。」
箱に入ってた紙は全部で五枚。一人一枚ずつ手に取り内容を読んでみることに。
「えぇーと、部活の活動時間をもう少し長くしてほしいです。サッカー部一同」
「教室の本棚に本を増やしてほしい。1年川村まどか」
「合宿費用の内訳が不公平じゃないですか?女子バドミントン部」
「制服のスカートが地味だから変えてほしいー2年C組」
副会長以外の四人がそれぞれ紙に書いてあることを読み上げてみた。部活のことや学級のことその他いろいろな悩みがあった。
「部員が来なくって困ってます。」
副会長の読み上げてみた内容はこれだけで名前も学年もどこの部活かも書かれてなかった。
「とりあえず、身元のわかる相談から片付けることにしょう。私と瀬戸、羽山はサッカー部とバドミントン部のところに行こう。」
「オレと双葉ちゃんは残りのやつね。」
「はい。」
「じゃあ、あとはこの仕事が終わり次第解散ってことにするから。」
「ほーい。」
二組に分かれ相談解決に向かっていった。
まず、オレ達はサッカー部が練習しているグラウンドに来た。
「生徒会だ。サッカー部の部長はいるか。」
「あ、副会長だ。」
「部員ー副会長さん来ましたよー。」
「部員の山川だ。」
サッカー部の部長が副会長のところにやって来た。副会長はとりあえず相談箱に入ってた紙を取り出しこれがサッカー部が書いたものか確認を取った。
「あぁ、俺たちのだな。」
「具体的にはどれぐらい時間を延ばしてほしいのか。」
「そうだな、せめて19時まで練習がしたい。冬の時はいいんだが夏ごろはもう少し長くしてほしい。」
「19時…わかった、生徒部活動担当の先生に相談してみる。また、連絡するからここにー」
「副会長さんってやっぱすごいな。」
「本当…。」
オレと羽山は少し離れたところで副会長を見ていた。そして、話が終わったようで次のバドミントン部が練習している体育館に向かった。
「あの、…えーと…。」
「木村まどかちゃんかな?」
「え、あ、はい。」
「生徒会なんだけど君のお便り見たよー!」
こちらは会長と双葉ペア。まず最初に本を増やしてほしいと頼んだ子の元に行った。実際、その子に会うことができたのだがなんせ人見知りの双葉とフレンドリーすぎる会長だから大変そうな感じだった。
「学級の本を増やしてほしい…んー」
「…お願いできませんか?」
「そうだなー」
「…これは図書の先生に聞いたほうがよさそうなのでは…。」
「さすが、双葉ちゃん!と、いうことでこの件は解決!」
「会長…さん。あ、え…先生に相談してみますね。」
「ありがとうございます。」
「双葉ちゃん、次行くよー。」
「会長さん、待ってください。」
「生徒会だ。バドミントン部の部長はいるか。」
「副会長さんだ〜」
「やっぱまじかで見るとかっこいいよねー」
バドミントン部のいる体育館の二階に来たがここでも副会長は人気だった。同性からも好かれるのはさすがだなと…。
そして、バドミントン部の部長がやって来て交渉が始まった。
「副会長さんみたいな人になりたいな。」
「そうなのか?」
「…ん。なんでもこなしてるし、いろんな人に好かれてるし。」
「なるほどなー。」
オレは羽山が少しうらやましいそうな顔をしているのだがどこか寂しそうな顔をしていた。
「羽山さん…運命は変えることができるんだよ。」
「どういうこと?」
「自分の運命は自分次第。副会長さんもそうだから。」
オレは副会長はこの間まではタロットカードのことも信じてくれなかったし運命を変えられることも否定していた。しかし、今の副会長はその時とは変わっていた。だから、運命は自分の気持ち次第でいくらでも変わることをオレは言いたかった。
「…そっか。運命は自分の気持ちか。」
「終わったから、今日はもう解散していいぞ。」
「すみません、何もしなくって。」
「もともと、生徒会の仕事だからな。」
「ありがとうございます…。」
「私は先生のところに行くからさっきに帰りなよ。」
副会長はそう言って体育館から出ていった。オレと羽山も体育館から出て下足箱のところで双葉を待つことにした。
「ふぅー終わった終わった。」
「大丈夫なんかな…。」
会長と双葉は制服の件について話し合って来たそうだが解決策がどうなったのか気になるところだ。会長は楽しそうな顔だが双葉は不安げであった。とりあえず、仕事は終わったそうで双葉はそのまま帰り会長は生徒会室に戻っていった。
「…。」
四津はポケットから紙を取り出した。宛名のない相談用紙。一体誰が書いたものか見当もつかなかった。
「仕方ない…全部まわるか。」
「彩里、どうした?」
「あ、終わったの?」
「おう。バッチリ!」
「…本当に?」
「うんうん。」
会長も副会長と合流し一緒に先生のところに向かった。
四津の心の中にはまだ未解決の問題があった。それを解決しなきゃという義務感が彼女の中にはあった。
残った一枚の相談は一体誰が何のために書いたのか。その問題についてはこれから明らかになっていくのであった―。
第34話 依頼者不明の相談用紙
「しゅん、今回もリレーメンバーだって?」
「ん、別にそんな速くないけどなぁー」
「でも、三年の先輩も言ってたぞ。七宮は練習すればするほど向上していくって。」
「…そうか?」
「まぁ、がんばろーぜ!」
「おう!」
俺だって…そんなはずじゃなかった。
悔しい…悔しい…。
でも、もうそこにかける思いは俺の中からは消えてしまった。煙しかもう残ってない。
「ふぅー今日の仕事も終わったー。」
生徒会室では会長の日渡が机に積み上げられた書類を見て背伸びをした。今日も生徒会の仕事で忙しいはずの…はずの…
副会長はいなかった。いつもなら、生徒会室にいて書類の整理をテキパキとし寝てばっかの会長を叩き起し…。でも、今日はいなかった。それにはわけがあった。
「すみません、生徒会です。この相談はあなたたちのですか?」
「いや…違うっぽい。」
「ありがとうございます。」
「すみません、生徒会です。この相談に見覚えありませんか?」
「んー違うかな。」
「ありがとうございます。」
「ここもバツ…次は、放送部。」
副会長の四津は昨日、お悩み相談箱を開封したときに出てきたなぞの相談を解決するため全部活動をまわっていた。北海学園には文化部、運動部合わせて20近くある。それを全部、一人でまわっていた。どうしてかというと、この相談を書いた人の名前、学年、どこの部活か一切個人を特定する情報がなかった。文章の『部員がー』って書いてあるというのから部活動の関係というのは推測できた。しかし、それ以外のことは全く手がかりなし。
「文化部は終わったから…次は運動部か。」
副会長は時計を見て時間内に終わるか不安だったが、すぐグラウンドのほうへ行きまた聞きにまわっていった。
「にしても、彩里は何してんのかなー。」
生徒会室では仕事を終えた会長が暇そうにしてた。副会長にこの書類を片付けてと頼まれやっていたそうだ。会長は副会長に電話をかけた。
「おかけになった電話は現在留守電状態ー」
「っ…まったく。少しは頼ってほしいんだよな。」
会長は電話を切り仕方なく副会長が帰ってくるのを待つことにした。
「サッカー部バツ、野球部バツ…。」
グラウンドの片隅を一人歩く四津は珍しく困った顔をしていた。なかなか、相談用紙の持ち主が見つからないからだ。それに、今日練習していない部活動もありなかなか特定が難しい状態だった。
「あとは、明日美術部と料理研究部、ラグビー部に陸上…。この四つか。」
四津は仕方なく生徒会室に戻っていった。
「あ、彩里、待ってたんだけど。」
「あ、ごめん。終わったの?」
「ちゃーんとしましたよ!ほら。」
「日頃からしてくれればありがたいんですがね。」
「まぁまぁ。で、何してたの?」
「ちょっとね。」
「まぁ、いいけどさ。」
四津は日渡と顔を合わせず片付けをしていた。
「…頼ってくれたっていいのに、おまえの兄ちゃんなんだから。」
日渡はそう言って四津の頭を優しく撫でた。
「うん…。」
「帰ろう。」
「うん。」
日渡は荷物の準備をし廊下に出た。四津も急いで片付けてたが目には涙が溢れていた。
「おーい、まだかー。」
廊下から日渡は四津を呼んだ。今行くと返事があった。涙をふきカバンを手に取って廊下に出た。
誰もいなくなった生徒会室には積み上げられた書類が一枚床に落ちてただけだった。
彼女の試練はこれからどうなっていくのであろうか―。
第35話 やっと見つけた依頼人
「違います、ごめんなさい…。」
「俺たちも違う。」
「見覚えないな。。」
「美術部、料理研究、ラグビー部共にバツ…か。」
一人グラウンドを歩いてた副会長の四津は昨日に引き続き相談用紙の持ち主を探していた。昨日はどこの部活も違うということで今日もまわっていたがなかなか見つからないまま残り一つとなった。
「…あとは陸上部。」
四津は陸上部が練習しているところに向かった。
「すみません、生徒会です。」
「副会長、お疲れ様です。」
「こんにちは!」
「あの、この相談用紙に見覚えはありませんか?」
四津は自分の持っていた紙を部員に渡した。さっきまで、走ってた部員も何だろうと興味深々に集まってきた。
「いや、オレのではないな。」
「オレも違うわー。」
「…そうですか。」
結局、陸上部も違うということになってしまった。でも、全部違うということはありえない。どこかの部活が嘘をついているはずと四津は心の中で思っていた。
下校時間になった。部活をしていた人が一斉に帰り始めた。四津も校門を出ようとしていた。
「あ、あの、副会長さん。」
後ろを振り返ると男の子が一人立っていた。
「何か。」
「お、オレ陸上部の松野と言います。」
松野と名乗った男の子は副会長に頭を下げこう言った。
「あの、その紙…僕のです。」
「…。」
「副会長さんが来た時に言えばよかったんですが、どうしても…部員がいる前では言えなかったんです。無駄足かけてすみません。」
もう一度頭を下げた。副会長はカバンからその紙を取り出し
「本当にあなたのですね?」
と尋ねた。
「はい。」
「じゃあ、詳しい話は明日聞かせてもらうけどいい?」
「わかり…ました。」
「放課後、生徒会室で待ってます。それじゃぁ。」
四津はお辞儀をしその場から去っていった。
持ち主がやっと判明して四津の心は少し軽くなったような気がしていた。しかし、まだ問題は未解決である。解決するまでは気を抜くわけにはいかないと四津は思った。
次の日、約束通り生徒会室には昨日の男の子は来た。
「そこに座ってくれ。」
「ありがとうございます。」
「それで、相談というのは。」
「…あの…。」
松野は黙った。しばらく、無言の時間が続く。
「…僕の親友の一風瞬矢…は陸上部の中でも足が速く先輩からも注目を浴びていた人です。彼は…。」
松野の話を四津は真剣に聞いていた。
「彼は一年生のとき、リレーのメンバーに選ばれました。彼はとても嬉しそうでした…。」
松野の顔が途端に悲しそうな表情になっていた。
「しかし、彼は…大会直前の練習で足を痛めてしまいました。それでも彼は出ました。…けれど、結果もいいものではありませんでした。それに、彼の足の状態も。彼は試合後病気に運ばれました。そして、二年生になってから…練習に来なくなりました。けれど、体育祭のとき彼は走ってたました。その時、僕思ったんです。本当は…まだ走りたいんじゃないかって。」
松野は彼が練習に来てほしいと思っていたけど自分ではどうすることもできずにいたのであろう。他の部員がどう思っているのかはわからないが少なくとも親友の彼は助けたいと思っているようだ。四津は納得した表情で松野に言った。
「わかりました。話をしてみます。」
「本当ですか!?」
「ただし、私はあくまでも…サポートしかできません。部に戻るか戻らないかは一風が決めることですから。」
「わかりました。」
「じゃあ、話は終わりです。」
「ありがとうございました…。失礼します。」
松野は席から離れドアに向かった。
そして、お辞儀をして出ていった。
「…一風瞬矢…。同じクラスなのはわかってるが。話はしたこと…ないな。」
四津は窓の外を眺め考えてた。どうして、彼が練習に来なくなったのか。でも、彼はまだ走りたいと思ってるはずと言った松野の言葉。彼女は紙を握りしめまっすぐ外の景色を見つめた。
「大丈夫。」
彼女はそう言い一人生徒会室で仕事をしていたのであった。
「オレの出番はまだーまだだな。」
窓の外からひっそり四津を見ていた人物は木に寝転がりそのまま寝てしまった。
ここからどんな物語が始まるのか…それは―。
第36話 窓の外
「副会長さん、わかったんですか!?」
「あぁ。」
副会長から至急生徒会室に来るようにとのことがありオレと双葉、羽山は急いでやって来た。相談用紙の五枚のうち名前もなく個人が特定できないものが一つありその身元がやっと判明したと副会長から報告を受けた。
「依頼人は陸上部。どうやら、依頼者彼の親友を部活に連れ戻してほしいとのことだ。」
「陸上部…。」
「なるほどですね。」
「それでだ、」
副会長は真剣な眼差しをしてオレ達を見た。
「今回、この相談は私が一人でやることにした。」
副会長は堂々とオレ達に向かって言った。オレ達はなんと返事をすればいいのかわからなかった。とりあえず、三人とも
「わかりました…。」
と、声を揃えて言った。副会長は頷き、もう帰っていいよと言った。
「副会長さん…あの」
「今回はどうしてもあたし一人でやりたいんだ。」
「…はい。」
「何かあれば、君たちも頼るから。心配しないでくれ。」
「はい…わかりました。」
オレはあまり納得できなかったが副会長が大丈夫というので仕方なく諦めた。
「成世くん、私用事あるから先帰るね。」
「蒼またね。」
双葉は先に生徒会室から出て帰った。オレと羽山もしばらくして生徒会室を出た。
「副会長大丈夫かな…。」
「きっと、大丈夫ですよ。」
「てか、二人で帰るの初めてだよね。」
「そうだね。」
オレも羽山も何も話すことがなく無言だった。話すことがないわけではない。聞きたいことはいっぱいある。しかし、何か気まずい。
「じゃあ、オレこっちだから。」
「…バイバイ。」
「また明日。」
「さて、」
四津は生徒会室から出て自分の教室に向かった。この時間に教室に誰か残っていることはほとんどないが今回は違った。窓側の席に一人座っている人がいた。四津は気にすることもなく教室のドアを開けた。そして、無言で自分の席から忘れてた教科書を取った。
「…一風。」
四津は窓側に座っていた人物の名前を呼んだ。彼は振り返り四津を見た。
「副会長か。」
彼は四津を確認したらまた窓の外を見た。
「聞きたいことがあるんだが。」
「何だ。」
「陸上部の練習に行ってないのは本当か。」
「…。」
一風は黙ったままだった。副会長はもう一度聞いた。
「本当か。」
「…あぁ、そうだが。」
「どうしてだ。」
「つまらないから。」
「本当にそうなのか。」
「そうだが。」
「走りたくないのか。」
「走るのやめた。」
「そうか。じゃあ…最後に。」
四津は一風の目の前に立っていた。
「走るのは嫌いか。」
「…。」
一風は何も答えなかった。何も答えないままカバンを持ってドアのほうに行った。
「…嫌いではないが今は嫌い。」
と、言い残し教室を出て行った。
「…時間がかかるかもな。」
四津も教室を出てそのまま帰宅した。
次の日の朝
四津は教室の席に座っていた。すると、ドアが開いた。
「…。」
一風が無言で入ってきた。そして、昨日と同じように窓側の席に座って外を眺めていた。外では朝練のある部活が練習をしていた。
もちろん、陸上部も練習していた。四津には彼が気になっているようにしか思えなかった。それで、彼女はまた彼に質問した。
「一風、何でそんなに外を見るんだ。」
「…俺の勝手だろ。」
「そうだな。」
「あたしは知りたいんだ。」
「…。」
「本当は走りたいんじゃないのか。だから、外を見てるんじゃないか。」
四津は一風に言った。すると、一風はいすから立ち上がり副会長の目の前に来た。
そして、
「俺に関与するな。副会長だからって偉そうにすんな。」
と、四津に向かって言った。しかし、四津は全然平気そうな顔をして逆に言い返した。
「偉そうにはしてないが?君を助けてほしいという人の為にしてるんだが。」
「…余計なお世話だ。」
「おまえを必要としている人がいるんだ。」
「…っ。」
一風は四津の胸ぐらを掴んだ。副会長は何一つ表情を変えなかった。一風も殴ろうとは思っていなかった。でも、抑えきれなかった何があるんだろう。
「副会長、俺に関与し続けるなら容赦はしない。」
「ふっ、構わんが。」
一風は四津から離れ席に戻った。
四津は思った。彼は予想以上に手のかかるやつかもしれないけど、彼の中にある純粋な走りたいという気持ちは変わってないことを。その印に現に外をずっと眺めているんだから。
「一風。」
四津は立ち上がってまた彼の目の前に立った。
「なんだ。」
「あたしと勝負しよう。」
「は?」
「今度、私と100m走ってどちらが速いか勝負しよう。」
「勝負って…おまえ、俺のこと馬鹿にしてんのか?」
「馬鹿にしてないから勝負しようと言ってんだ。」
「…。」
「逃げたら負けだ。」
「…あーわかったよ、いいよ、勝負してやろう。」
「私が勝てばおとなしく陸上部の練習出るようにしてもらう。」
「あぁ、いいさ。」
「私が負けたら…そうだなー」
「…。」
一風は何か言おうとしてた。四津は自分が負けたらどうしようか迷ってて一風のほうなんかは見てないが。
「まぁ、あたしが負けたらおまえの願い何か聞こうではないか。」
「あ、あ…。」
「勝負は今週の金曜日。」
「わかった。」
四津は自分の席へ戻って行った。彼女に何か秘策があるのか。四津は何を考えているのか。それは本人にしかわからなかった。けれど、これから起こる運命は紛れもなく既に決まっていたのかもしれない…。
第37話 走りたいという気持ち
「彩里〜。」
「スターどうした?」
「ううん、今度の勝負がんばってーね!」 「はいはい。」
「じゃあ、ムーンのところ行ってくるね。」
「わかった。」
帰り道、四津とパートナーのスターは一緒に帰っていた。が、なぜか、スターは双子の弟ムーンのところへ行ってしまった。一体何のために一緒に帰ったのか。家に帰ると玄関に知らないくつがあった。誰だろうと四津は疑問に思った。
「ただいま。」
「おかえりー」
「…。何で。」
「アハハ、来ちゃった!許して!」
「…一言連絡ください。」
「サプライズだよ、サプライズ。」
「そうですか、で、実際何しに。」
「んー一緒に飯食おうと思って。」
「はぁ…まぁいいけど。」
四津の家には会長の日渡が来ていた。彼と四津は兄妹だったが小さい時に別々の家庭で過ごしていた。今もそうであるがときどき一緒にご飯を食べたりはしていた。四津は自分の部屋に行き荷物を置いて晩ご飯の支度を始めた。
「でさ、相談のほうはどーなってんだ?」
「あれなら、あたしが引き受けたでしょ。」
「じゃなくって、」
「今週の金曜日、勝負することにした。」
「何の?」
「100m走。」
「…彩里らしいな。手伝うよ。」
「ありがとう。」
「俺のこと少しは頼れよ。」
「…。」
「おまえの兄さんだぞ?」
「はいはい。」
キッチンで二人はたわいない話をしながら夜を共に過ごしたのであった。
そして、時は金曜日。ついに、勝負の日になった。放課後のグラウンドには四津と一風がいた。他の部の練習の妨げにならないところで。
「今回は副会長さんの命令でオレ達は口出しダメになってるけどやっぱ気になるよね。」
「そうだよね。」
「窓から見てたらいいんじゃない?」
教室ではオレと双葉、羽山が窓の外を見つめながらいた。今回は副会長が一人でやりたいと言ったためにオレ達はおとなしくしてるけど。正直、気になる。
「でもさ、プリスがもしかしたらこれで保持者が見つかるかもって。」
「どーだかな。」
オレ達はただただ外の二人を見守ることしかできなかった。
「ちゃんと来てくれたのね。」
「当たり前だろ。」
「じゃあ、始めるよ。」
四津はスタートラインに立った。一風も軽くウォーミングアップをし四津の横に立った。
スタートの合図は…
「スター、いないの。」
「はいはーい。お呼びですかー?」
「スタートの合図やって。」
「でも、彼には…?」
「笛の音は聞こえるでしょ?」
「わかった!」
四津はスターに合図を出してもらうことにしスタートラインに戻った。
「じゃあ、いきますよー!位置について、よーい」
ピィー
笛の合図で二人は一斉にスタートした。四津はバスケ部で脚も速いが一風は陸上部で断然彼のほうが優勢に思える。しかし、勝負は思わぬ方向に。先にゴールしたのは
「…あたしの勝ちだな。」
四津だった。四津は何か卑怯な手を使ったわけでもない。紛れもなく彼女の実力だった。
走り終わった一風に四津は尋ねた。
「どうして、本気で走らなかった。」
「俺は本気だ。」
「本気なら勝てるだろ?」
「…。」
「やっぱり…怖いのか。」
四津の言葉に反応した一風は表情が一変して変わった。
「…足の怪我のこと引きずってんだね。」
「…。」
「一風、本気で走ってくれないか。」
「…おまえに、おまえに。」
「おまえに、何がわかるってんだ!」
一風は悔しそうに叫んだ。四津は思い出した。自分が同じような状況にいたから、この間まで。自分の抱えてる痛みなんて誰もわかってはくれない。そう思ってた。しかし、彼女は知った。大切な人たちに出会って。
「…わからないさ。」
四津は真面目な顔で返した。
「わからない。おまえの痛みは。」
「だろ。なら、俺に関与するなよ。」
「けれど、あたしはおまえが走るの好きだというのはわかる。」
「…。」
「自分でもわかってるんだろ。」
「っ…。」
四津が言ったことは図星だった。しかし、彼は認めなかった。認めたくなかった。
「勝負なんて、こんなのやってらんねーよ。」
と、グラウンドから去ろうとした。
「おっと、それはよくないぜ。」
どこからか声がした。
「勝負はこれからだぜ。」
その声は木の上から聞こえた。
「誰だ…!」
そして、その声の持ち主は木から飛び降りて一風の目の前に立った。
「初めまして。」
「あ…。」
四津は気づいた。彼はタロットカード保持者であることを。そして、一風の目の前にいる人がアルカナ族であることを。
「初めまして、俺の名前はレンクスだ。」
「は…?」
「おまえを助けるために俺はやって来た。よろしくな。」
「助ける…?パートナー?」
「とりあえず、めんどくさいことは俺嫌いなんだ。さっさと終わらすぞ。」
レンクスはそう言うと一風のみぞおちにパンチをした。
「え、」
さすがの四津もこれにはびっくりした。が、大丈夫だった。これは単なる魔法だった。
「弱さを知れ。そして、強くなれ。それには変わろうとする勇気が必要さ。」
「ここは…。」
一風は目を覚ました。すると、そこは
「さぁーやってまいりました。男子100m走決勝戦です。」
「選手の皆さんは準備をしてください。」
「なんだこれ…って。」
一風の服装はいつのまにかユニフォームに変わっていた。そして、審判に早くと促されスタートラインに立った。
「そろいました。」
「まもなく、始まります。」
一風は何がなんだかわからなかったがとりあえず、走ればいいことだけはわかった。
緊張した空気が会場全体に漂う。自分の胸の鼓動も聞こえる。ワクワクしてる。どんな速いやつがいるのか。そいつを超えてやりたいと思う自分もいる。神経を集中させスタートの合図を待つ。
「レリ、」
パン
スタートの合図と共に走り出した。100mは意外と短い。一瞬だ。しかし、その一瞬を俺は楽しんでた。風になったように感じられるこの一瞬が。俺の前には…。
そうだ。俺はやっぱり走るのが好きだった。
足を怪我したとき、悔しかった。もっと悔しかったのは…弱い自分だった。逃げてた。みんなから…。走ることからも。
本当は俺…走るの好き。
「俺は走りたい…!もう一度!」
「やっと、気づいたか。遅いんだよ。」
「副会長。」
「なんだ。」
「次は俺は本気で走る。」
「やっとその気になったか。」
四津は笑った。そして、再びスタートラインに立った。一風も立った。
スターが慌てて合図を出した。
「よーい、」
ピィー
「やっぱり、一風速いな。」
「当たり前だろ。」
二人とも息が上がっていた。しかし、楽しそうだった。夕日が二人を照りつけた。オレンジ色の空が綺麗だった。
「じゃあ、勝負はー。」
「副会長、」
「俺、陸上部に戻るよ。」
一風はまっすぐ、そしてうれしそうな顔だった。四津は空を眺めた。そして、
「そうか。」
と、うれしそうな声で返事をしたのだった―。
第38話 本気だけど
「それと…。」
一風は改まった態度で四津を見た。そして、言った。
「俺、…好きなんだ。副会長のことが。」
「え…。」
「うそ。」
「まじで。」
「わぁー。」
時同じくして校舎の教室のベランダからその光景を見てたオレ、双葉、羽山は三人とも何とも言えない気持ちになってた。副会長にはバレてないがかなり怪しい行動のようには思える。
「…そのなんだ。」
「いや、まぁ、いいんだ。」
一風は照れ臭そうにしてるが四津はいつもと変わらないような気がした。しかし、彼女も一応女の子である。だから、
「…その、えっと…。」
厳しく怖いオーラの副会長と言われてるとは思えないような顔でそして、うれしいのか恥ずかしいのかセーターで顔を隠してた。
それを見ていた一風はさらに胸のドキドキが上がったのが自分でもわかっていた。
そんなムードの中一人空気が読めないのかー
「おおー成世何してんだ!」
「か、会長!」
「みんなそろって何かあるん…ん!?」
会長の日渡もベランダに行って外の様子を見た。すると、四津を見つけたためにさっきのおふざけから真剣な顔つきにかわり…
「成世…あれは…」
「えぇーと…。」
「告白…です。」
「告白!?誰から。」
「陸上部の一風先輩…って、」
会長はオレの言葉を聞くまでもなくベランダから出ておそらく二人の元に向かってしまった。オレも追いかけようとしたが双葉と羽山に止められベランダから見守ることになった。
「彩里ー!!」
「か、会長…!?」
「告白…!?おまえ、好きな人いたのか!?」
「えー!?会長何か勘違いしてません!?」
「おい、おまえ、彩里は渡さんぞ。」
「やっぱり…会長と付き合ってんの…。」
「え、いや、違うよ。」
「一風といったな、おまえ、彩里を本当に幸せにできんのか!?」
「え、いや…しますけど!」
「なんか、盛り上がってるね…。」
「そうだね。」
「副会長さん大変そう。」
オレ達は三人の様子を見てたがどうみても楽しそうにしか見えなかった。告白のほうがどうなったか気になるのに全然それらしい話はしてない。
「いい加減にしてよ、バカ兄貴!!」
と、ついに四津は日渡にキックを入れた。見事ヒットしその場に崩れ落ちた。
「え…兄貴?」
一風の頭は一瞬にしてハテナでいっぱいになった。そして、二人を見比べた。
「副会長…会長と兄妹なの…?」
「…うん。」
「俺が兄貴で彩里は妹さ!」
四津のキックを受けながらも日渡はすぐに立ち上がり彩里と肩を組んでピースしてた。
「まだ、学校のみんなが知ってるわけじゃないから…ていうか、公表してないし。」
「けれど、俺たちは正真正銘兄妹なのさ!」
「は、は…。」
「それでだ、」
日渡は一風に近づきこう言った。
「本気で彩里を思ってるなら俺は構わんが中途半端な気持ちで妹をやるわけにはいかん。」
いつもチャラチャラしてる会長だったが妹のことを思う気持ちは誰よりも大きかった。一風は黙った。四津も口出しはしなかった。
一風は何かを決心したかのように日渡に向かって言った。
「俺は本気だ。」
日渡はニッと笑って一風の肩を叩きそのまま去っていった。彼の気持ちを確かめに来たのが日渡の目的だったのであろう。このまま自分がいても邪魔になると思ってその場から離れたんだろう。そして、再び一風は四津に伝えた、自分の気持ちを。
「副会長…俺は本気。一年生のときも同じクラスだったが…話はあんましたことなかった。四津が副会長になってからさらに遠い存在になったような気もした。けれど、俺はおまえが好きだった。おまえに強く当たってしまったのは…本当すまなかった。」
一風は頭を下げそして、そのまま告げた。
「四津、もしよかったら俺と付き合ってください!」
「ついに…愛の告白。」
「ラブいつの間に…。」
「だいぶ前から〜」
オレは周りを見たがなぜか、スターと新しい大アルカナのレンクスもいた。みんなたぶん、副会長と一風先輩のことが気になるのであろう。実際どうなのかはわからないが。
「…。」
四津は何も言わなかったが少ししてから優しい表情になった。そして、
「一風…。」
「はい。」
「ありがとう。」
「ん…。」
「どうなるどうなる〜」
ベランダで見守ってるオレ達もドキドキしていた。副会長がそれから立ち去っていった。
「え、どっちなの!?」
「副会長さんに聞いてみる?」
「副会長…お返事したのかな?」
オレ達はベランダから出て副会長の元にかけつけた。
「副会長〜」
「なんだ、瀬戸か。」
「あの、さっきのは。」
「さっきの…?」
「告白です。」
「…見てたのか。」
「え、あ…はい。」
「すみません。」
「私たち、気になってしまって…。」
「まぁ、いいが。」
「それでどうなんですか。」
「秘密だ。」
副会長はオレの横を通り抜けていった。秘密ってなんだ!!!って、オレはがっかりしたが…数日後、副会長が一風先輩と一緒にいるというのを目撃した双葉と羽山の証言から恐らく、付き合ったんだろうとオレは思った。
しかし、実際のところ副会長からは何も教えてくれなかった。教えてくれたことは一風先輩が陸上部の練習に行くようになったこと。依頼してきた同じく陸上部の先輩がとても感謝してたこと。それから、タロットカードの保持者が六人目になったことは…教えてもらわなくってもわかったが。
そんなことより、オレは副会長の恋のほうが知りたいんだって叫んでた。
「あーあ、結局どうなんだろうね。」
「成世くん、ずっとそれ言ってるよね。」
「気になるじゃん。」
「そうだね。」
久々に双葉と二人で帰ってるオレはもう一つ考えていたことがあった。それは…自分の恋だった。今回、一風先輩の告白している姿を見ていつかは自分が相手に思いを伝えなきゃと感じてはいたが…。
「なぁ…蒼。」
「なに?」
「いや、何でもない。」
「成世くん?」
どうやら、オレはまだあの先輩のようには言えなかった。自分が好きだってわかってるのに。
でも、いつか言おうとは思っている。隣にいる君に…自分の気持ちを―。
第39話 六人の保持者
「えーと、また新たに仲間が増えたわけだが。」
「副会長さん、会長寝てますよ…。」
「…やつはほっとけばいい。」
今日は新たに仲間になった一風先輩を加えた六人で報告会議をしていた。最初はオレだけだったのに気づけばこんなにも保持者が増えてた。
「とりあえず、一風は自己紹介。」
「一風瞬矢、学年は2年。陸上部…それから、」
一風は副会長を指さした。
「副会長の彼氏だ。」
「やっぱり…そうですよね。」
「だね、副会長さんおめでとうございます。」
「おめでとうございます!」
「一風、余計なことを言うではない!」
「別にいいだろ、どうせバレるんだし。」
副会長は顔を真っ赤にして一風先輩に注意をしていた。オレ達三人は普段見ることのできない副会長の一面を見れてなんだか面白かったが、ここで笑うとたぶん怒られるだろう。
「そんなわけでよろしく。」
「はい、次はそこ三人。」
「え、瀬戸成世です。一年です。」
「双葉蒼です。同じく一年です…。」
「羽山叶美です。私も一年です。」
「日渡一颯、俺も一年!!」
「会長、余計な冗談はいいです。」
「えーなんで俺は塩対応なの!?」
「と、いうような感じだ。」
副会長は会長をスルーして次の話に移った。
「ところで、みんな…パートナーのほうは…。」
「いませんね…。」
「呼べば来るんですかね?」
「みんな自由気ままだからね…。」
と、言いながらみんなそれぞれが持っているタロットカードを机の上に出した。
基本的にタロットカードの裏面は同じ柄で統一されているが表のほうはそれぞれの絵柄があった。
「前々から思ってたんですが、このカードの持つ力って不思議ですよね。」
「そうだよね。」
「こんなカードに不思議なことってあるのか?」
「このカードはオレ達に運命を示してくれるんです。」
「困ったときにこのカードにお願いするとカードが導いてくれるんです。」
「このカードが?」
「はい。」
「へぇー。」
一風はタロットカードをじっと見てたがおそらくまだ信じきっているとは言えないだろう。でも、ここにいる全員が同じく初めから信じていたわけではない。いろいろな経験をしてそれとなくだが信じてみようと思ったのである。
「ウィズーそこにいるんだろー。」
オレはカードに向かって話しかけてみた。が、何も起こらなかった。やっぱりこのカードの力は未だに不明なままだった。しかし、双葉がオレと同じようにカードに話かけてみた。すると、
「何か用事でもあるのかしら。」
と、聞き覚えのある声がどこからともなく聞こえた。
「うん、用事。」
双葉が返答した。その瞬間カードから無数の光が溢れて
「蒼、呼ぶならもう少し事前にお願いね。」
と、プリスが出てきた。オレは思った。ウィズはきっと出るのをめんどくさがっているだけだと。オレはもう一度、話しかけてみた。
「ウィズ、出てこい。出てこないと肉まんやらないぞー。」
オレはカードに向かってそう言った。すると、同じくカードから紫色の光が溢れ
「お前、俺を肉まんで釣ったからには本当に買ってくれるんだろうな?」
と、ウィズが出てきた。
「はいはい…。」
オレは仕方ないと思った。たぶん、こうでもしなきゃ彼は出てこないから。
副会長と会長、羽山も続けて呼んでみた。
「はぁ〜い、お呼びしたのは何かしら〜。」
「なになに、パーティーでもやるの?」
「姉さん、違いますよ。」
双子のスターとムーン、それからラブが出てきた。一風も戸惑いながらカードに向かって呼んでみた。
「俺の出番は今日は早いな。」
レンクスは何をしていたのか上着を着てなかった。とりあえず、これでパートナーも全員そろった。
「今度はパートナーの紹介をしよう。あたしのパートナーは」
「はいは〜い、ここで問題です!私の名前は何でしょー?」
「スターだ、彼女はかなりマイペースだがそこは気にしなくっていい。」
「彩里、答え言うの早いよ!」
「はい、じゃあ、次は会長。」
「俺のパートナーはムーンだ。彼は彩里のパートナーと双子らしいぜ。」
「以後よろしくお願いします。」
姉とは違って弟のほうは礼儀正しかった。
「次、瀬戸。」
「オレのパートナーはウィズ。」
「よろしく。」
「じゃあ、双葉。」
「私のパートナーはプリスです。」
「よろしく。」
「羽山。」
「私のパートナーはラブちゃんです。」
「よろしくぅ〜。」
「最後は一風。」
「えっと、俺のパートナーのレンクスだ。」
「よろしく。」
「で、これから話合うことは今後の活動についてだ。」
「今後の活動…。」
副会長は黒板に何かを書き始めた。
「とりあえず、今後もお悩み相談箱は継続する。それと、スターの兄さん探しをする。」
「彩里〜覚えててくれてたんだね!」
「当たり前だろ。」
「それから、」
「ちょっといいかしら。」
プリスが発言した。
「実はこの間、異世界に帰ったとき、既に二枚はもう異世界に存在している。つまり、この二枚は保持者から離れはいるが一応、何も問題がない限りこちらの世界にはこないわ。」
「と、いうことは…?」
「全部で22枚あるうち、8枚は見つかっている。残りは14枚。」
「まだまだ、かかりそうだな…。」
「でも、一人が複数枚持つこともあるんだよね…。」
「確率的には低いけどあるにはあるわよ。」
「プリスは他の子がどこにいるかはわからないんだよね…。」
「わかってたら苦労しないわよ。タロットカードは誰の元に行くかは決まってるけど最初からあるわけじゃないからね。」
「とりあえず、スターのお兄さんが見つかるといいんだけどね…。」
「だね。」
「これからも、定期的に集まって報告会をしよう。」
「そう言えば、会長さんって受験は…?」
「あ、俺?もう決まってるぜー。」
「いつの間に!?」
「こーみえて、俺はやる時はやるさ。」
「自慢げに言わなくっていいです。」
副会長に釘を刺され会長はふてくされてた。会長は三年だからもうすぐいなくなってしまうんだなと思った。
「今日はここまでにしよう。あとは、自由にどうぞ。」
「ウィズ、帰るよ。」
「肉まん。」
「はいはい。」
「じゃあ、私も帰ります。お疲れ様でした。」
双葉もカバンを持って生徒会室を出た。羽山も慌てて荷物を持ち生徒会室を出た。
残った上級生三人はというと。
「…あ、あのさ…。」
「一風どうした?」
「い、一緒に帰らないか?」
「いいが…たぶん、こいつもおまけだけど。」
「おまけってひどいなー俺はおまえの兄貴だぞ。」
「ああ、いいですよ。」
内心、二人で帰りたい一風だろうが会長に言えるわけもなく。仲良く三人で帰ることになった。いつか、二人で帰れる時がくると一風は願っていたのであった。
「…あいつはどこにいるんだ。」
「早くしないと…。」
「…世界の運命は時に残酷である。」
「運命を変えるのはオレさ…。」
「ウィズ…。あの時はごめんなさい…。」
地球上に散らばった22枚のタロットカードの行方は誰も知らない。いつ誰がどこで拾うのかさえ。そして、タロットカードの持つ本当の力を知るはずもなく…。
運命の歯車だけは止まらなかった。少しずつ物語を構成していく。そして、これからどんな物語があるのか…それは、きっと明日になればわかるかもしれない。もしかしたら、それ以上かかるかもしれない。
けれど、進まななければならない。次なる運命の物語へと―。
第40話 自分らしさって?
「ねぇねぇ、近づいたらやばいらしいよ。」
「怖いよね…。」
「この間、他校の人とケンカしてたとか。」
「授業の時もだいたいいないよね。」
どうせ、みんなそうだ。
見た目で判断するんだ。
別にそんなつもりはないのに。
ただ、ちょっと見栄を張ってみたら思いの外…。
でも、決めたんだ。
うちは変わるって。
けれど、なかなか上手くいかない…結局高校二年生になって、未だ孤立気味の様な…。もっと、自分らしくいたい。
「そうだ…!あれだ!」
二学期も文化祭、体育祭が終わると暇になるもんだとオレはつくづく実感した。テストとかいうめんどくさいやつを除けばオレはそれなりに楽しい日々を過ごせている気もする。最近は、生徒会室に顔出すことも増え、副会長の仕事を手伝ったりみんなでおしゃべりしたり、けれど…
「いつ…告白したら…。」
「おぉ?成世、好きな人でもいるんか!」
「誰々?」
「おまえらな…。」
偶然友人に聞かれてしまったオレは言わない方がよかったと思った。しかし、彼らは興味津々で聞いてくるからオレも逃げるに逃げれない。
「成世〜俺ら友達だろー?」
「そーだな。」
「なら、いいだろ?教えてくれても。」
「それと、これは別。」
「じゃあ、当てようぜ。」
「んーオレは…片山さんかな。」
「いや、真白さんだろ。」
「おまえら、勝手に…。」
「で、誰なんだよー。」
「成世くん。」
「あ、蒼。どうしたの?」
「今日、生徒会室に来てって副会長さんが。」
「わかった。ありがとうな。」
「んん。じゃあ、またあとでね。」
「あーなるほどね!」
「なんだよ。」
「おまえの好きな人って…。」
「言うなよ。」
友人たちはオレのことを見てニヤニヤしてたが…。確かに、オレは双葉と仲良しだし、名前で呼びあってるけど…好きかと言われたら…いや、好きだぜ。もちろん。
「応援してますよー成世くん!」
「付き合ったら報告しろよ。」
「また、勝手に…。」
散々、いじられたあとでオレは生徒会室に行った。既に、他のメンバーは来ていた。が、一風先輩の姿はなかった。
「あれ、一風先輩は…?」
「今日は陸上部の練習だそうです。」
「なるほど。で、今日は何の仕事ですか?」
「今日はお悩み相談箱の開封日だ。」
「あっ、もうそんな日か…早いな。」
副会長の四津はお悩み相談箱を開けて中に入ってた紙を取り出した。今回も前回に引き続きそれなりに入ってた。
「今回も前と同じようにチームで分担しよう。それで、一風が増えたから三チームできるな。」
四津はそう言ってあみだくじを作成して、ペアを決めようと言った。みんなそれぞれ好きなところを選んだ。
「今回はまず、瀬戸と羽山。それから、一風と会長。あたしと双葉だ。」
「羽山さん、よろしくね。」
「よろしくお願いします。」
「それじゃ、仕事に取り掛かる前にこの相談内容から確認しよう。」
副会長の指示でオレ達は相談内容が書かれた紙を一枚一枚読んでいった。
「もっと、自分らしく…いたいです。二年小枝やよい…。」
羽山はこの相談内容が妙に引っかかった。そして、オレにこの相談を引き受けてもいい?と尋ねた。オレは別に何でもよかったからあいよと返事した。
「今日はできる範囲でいいからそれぞれ仕事にとりかかってくれ。会長は一人でも…双葉一緒に行ってやってくれないか?」
「わかりました。」
「相変わらず、俺への信用薄くない?」
「会長を一人しとくとどこへ行くか不安ですから。」
「妹に心配されてんだなー俺幸せー。」
「…。」
会長は妹である副会長に若干どころかかなりベタ惚れしてんのかたまにこいう発言をするわけだが。その度に副会長の顔が三割り増しで怖くなっていくような。オレと羽山は先に相談の依頼者の元に向かった。
前回は副会長と一緒だったからスムーズに進んだが今回は一年二人でだから、上手くいくか不安ではあった。
「えーと、まず、図書館の整備を手伝ってほしい。」
「行ってみよう。」
オレ達は図書室へ向かった。依頼者というよりかは先生がいて、その相談内容を見せたらうれしそうな顔して仕事の説明をしてオレ達は本の片付けをすることになった。
「羽山さん、これはこっちかな。」
「うん、あとこれも。」
「結構、大変だなー。」
オレは本棚に本をしまっていった。途中羽山が一冊の本を手に取りページをめくっていた。
「なんの本?」
「心理学の…。」
「へぇー、そいうの好きなの?」
「んん、興味があるから…大学に行ったら勉強したいなって。」
「そっか。オレは何も考えてないなー。」
作業を再開した。オレは羽山がもう将来のことについて考えてるなんて思ってなかった。それと、初めて羽山に出会った時より彼女に対する印象が変わったとオレは思った。本当はいい子だったんだなと。だから、今は昔のことは気にしなくなった。双葉のおかげでもあるが。本の片付けが終わったオレと羽山は次の依頼者のところへ。
「次は?」
「えーと、部室の道具をしまう倉庫がほしい…これは副会長さんに言えばいいのかな?」
「たぶんな…。」
「そした、この…二年生の小枝さんのところに。」
「いるかな?」
「クラスに行ってみましょ。」
オレと羽山は二年生のクラスがある二棟のほうへ。
「すみません、あの、小枝やよいさんはこのクラスにいますか?」
「いや、違うけど。」
「たしか、隣だったような。」
「ありがとうございます。」
「すみません、あの、小枝やよいさんはいらっしゃいますか…。」
と、羽山が声をかけるとそこにいたのは一人の女子生徒。彼女は本を読んでいた。
「あ、あの、」
「…はっ、すみません。」
彼女は本に夢中になっていたのかオレ達に気づいてなかった。
「あの、小枝やよいさんは…このクラスですか?」
「…え…う、いや、私です!はい!」
彼女は羽山の手をとり立ち上がった。
羽山は一瞬びっくりしたのかわぁぁと声をあげた。
「本当に来てくれるんですね。」
「いや、オレ達は生徒会のメンバーではないんですが副会長さんのお手伝いで。」
「そうなんですか?」
「はい。」
「一年生?」
「あ、そうです。瀬戸成世と言います。」
「羽山叶美です。」
オレと羽山は彼女にお辞儀をした。
「うちの…あ、いや、私の名前は小枝やよい。やよいって呼んでください。」
「はい。それで、あの…相談内容のことなんですが…。具体的には…。」
「えーと…。何て言えばいいのかな…。私、友達がいなくって…それで…。」
「部活とか入ってないんですか?」
「今更入っても引退するし…。」
「趣味とかは…ありますか?」
「趣味…ど、読書とか?」
「それなら、本が好きな方とお友達になれますね!」
「いや、別に好きなわけじゃ…。」
「そうなんですか?」
「じゃあ、他に好きなことはないんですか?」
「…え、え、と、」
小枝は何か躊躇っているのかなかなか言い出さない。そして、急に
「ああ、私、用事があるのですみません。」
と、カバンを持って教室から飛び出してしまった。オレと羽山は急過ぎて対応する暇もなく…。
「帰ってしまいましたね…。」
「また、明日来ようよ。」
「そうだね。」
仕方なく、オレと羽山は生徒会室に帰ることにした。そして、副会長に報告をし今日の仕事を無事終えたのだった。
「あーやっぱ、疲れる。」
彼女は背伸びをし、膝丈のスカートを短くしリボンを取り外した。
「やっぱ、うちはこうでなきゃなー。」
そして、彼女はカバンを肩にかけブラブラ街の中を歩いていた―。
第41話 言えないこと
「今日こそ、がんばるんだ。」
鏡の前で女の子はそう言った。
しかし、彼女の本当の姿は違う。
もっと、自分らしくいたい。
それが、彼女の願いだった。
「今日はちゃんとお話できますかね…。」
「どうだろうなー。」
「じゃあ、また放課後に。」
「おう。」
オレは羽山と別れ自分のクラスに入った。
すると、どうやらオレが彼女と話しているのを見ていたようで
「瀬戸さん、朝からモテモテですねー。」
「いいなー青春してますねー。」
と、友人がひやかしてくる。
「別に、好きとかそんなのじゃないからな。」
オレも誤解だけはされたくなかったから念のために言った。
「瀬戸の好きな人ってさ…もしかして。」
「違う。」
「じゃあ、誰?」
「おまえらな。。」
最近やたらとオレの好きな人を知りたがる困った友人たち。誰だっていいだろとオレは思う。むしろ、ライバルが増えるのは嫌だ。自分よりイケメンで…頭もよく、スポーツもでき…そんな人が彼女を好きになったらと思うと軽々しく言えなかった。
ところで、そのオレの好きな人というのは
同じクラスのあの子。
「おはよー。」
「双葉さん、おはよー。」
「おはようございます。」
双葉、彼女こそオレの本命にして本命の女の子だ。彼女とはいろいろあり結構仲良くなったと思ってて…気づいたら好きになってたんだよな。
「成世くん、おはよ。」
「おはよ。」
彼女に声をかけられオレはうれしさMAXなわけだがクラスメイトのやつに見られるのはあんまり好きじゃないから基本は話さない。
そうだ、オレの好きな人の話じゃなくってオレと羽山は今日の放課後も二年生のクラスに行こうという話をしていた。オレたちはタロットカードという不思議な力を宿したカードを持つ保持者と呼ばれている者である。それで、その保持者たちは他のタロットカードを探して最近は活動していてその一環で生徒会の仕事をしている。その仕事はお悩み相談。で、だ、昨日会った二年生の先輩が途中で逃げてしまい…話は進まなかったため今日も行くことに。
「成世くんのほうはどう?」
「んーまぁそれとなく。蒼は?」
「昨日は会長さんと一緒だったから…。」
「あ、…。」
会長はある意味で自由というか、副会長と違ってテキパキ仕事をするわけではないから大変だったということはなんとなく察した。
「お互いがんばろーな。」
「うん。」
オレは今日の授業を眠さと戦いながらなんとか乗り切り放課後となった。
今日は生徒会室には寄らないで先に二年生のクラスに行くことに。
「先輩いらっしゃるかな…?」
「たぶん、いるんじゃない?」
オレと羽山は二年生のクラスが集まる階にいるわけだが普段そんなに行くこともないので不思議な目で見られている感じがした。
会長と副会長と話すようになってからクラスの人にもなんかすごい目で見られてるというか…。特に、副会長に関してはみんな一目置いている存在だから親しくしているオレが不思議なんだろう。
「あ、いますよ。」
「本当だ。」
昨日の先輩は今日も席で本を読んでいた。オレと羽山は教室のドアを開けてその先輩を呼んだ。またしても返事がなく教室に入ってその先輩の前で言ってみるとびっくりしたのか本を持ったまま後ろに倒れてしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「す、すみません。」
オレと羽山は先輩を起こしすみませんと謝った。先輩は平気平気と言って制服についたホコリを落とした。
「今日は何の…用?」
「あ、え…と、昨日先輩帰ってしまったじゃないですか。」
「それで、私たちもう一度話をしたくって。」
「なるほどね。」
「大丈夫ですか?」
「うん、いいよいいよ。」
先輩は周りにあった机といすをくっつけてオレと羽山に座るように言った。
「それで、なんだけど…あぁ、私、小枝やよいと言います。昨日は突然逃げ出してごめんなさい。」
「だ、大丈夫ですよ…オレは瀬戸成世と言います。」
「羽山叶美です。」
「瀬戸くんと、叶美ちゃんね。よろしくね。」
小枝は二人と握手をした。昨日のなんとなく態度が違うように思えた。
「それで、相談のことですが…自分らしくいたいっていうのは…。」
「具体的に言うと…んー。」
小枝は腕を組み考えて、何か思いついたのかスマホを取り出した。そして、ある写真をオレと羽山に見せた。
「この人は誰ですか?」
「友達さんですか?」
「…。」
オレと羽山の質問に小枝先輩は黙ってしまった。何かいけないことを言ってしまったのかなと思い慌てて謝ったが小枝先輩はそうじゃないの!とオレ達に言った。
「そうじゃないの!あの…これ…。」
「はい…。」
先輩はなかなか言い出せなかった。そして、
「ごめんなさいー!」
と、またもや、急に教室から飛び出してしまった。二回目だったとはいえ予想もしてなかったオレと羽山はポカーンとしていた。
「…先輩帰ってしまったね。」
「そうだね…。」
この話を全部聞けるまで相当な時間がかかりそうな予感がした。
そして、逃げ出した小枝はというと
「またやってしまったぁー。」
と、校門のところで叫んでいた。
「はぁ…やっぱダメやな。うち。」
ため息をつきトボトボそのまま帰ってしまったのだった。
それを、見ていた人物がいた。
「自分らしくいたいって難しいものですね。これは精神的に何かあるように思えますね。」
それから、その人物はひっそりと彼女のあとを尾行していたのだった。
今回のお悩み相談も厄介な事になりそうな気がした。それに、タロットカードの存在も忘れてはならぬ。運命の歯車はどのように進んでいくかは誰も知らなかった。けど、運命の導きだけは決して裏切ることはなかったのだ―。
第42話 それぞれ
自分らしくって結局何だろう。
制服改造すること?
オシャレすること?
よくわかんない。
でも、
うちはうちだ。
「あれ?やよいじゃんーおひさー。」
「先輩、いますかね…?」
「どうかな…。」
オレと羽山は二年生のとあるクラスに向かっていた。用件はもちろんあれ、相談。と、いうのも依頼してきた先輩がまた逃げ出してしまい話は進まないという展開に。で、オレと羽山は今日もその先輩に会うべく教室に向かっている。
「失礼しますー小枝先輩いますかー?」
オレはドアを少し開け中の様子を見た。しかし、返事はなかった。また本に集中してるのかなと思ってドアを全部開け教室の中に入った。
「あれ…いない。」
「本当だね。」
そこに先輩の姿はなかった。いつも、先輩が座っている席に何か紙が置いてあった。覗いてみるとそこには
『今日はいません。小枝』
と、書いてあった。
「今日は不在かー。」
「また明日だね。」
「そうだな。仕方ない。」
オレと羽山は教室から退出し生徒会室に戻った。生徒会室には会長と副会長、それに双葉と一風先輩、今日はみんないた。
「おかえり。」
「ただいま、蒼。」
「小枝先輩、今日はいませんでした…。」
「小枝…?」
「一風先輩何か知ってるんですか?」
「あ、いや、まぁ…中学が一緒だっただけで。」
「そうなんですか?」
「あぁ。」
「どんな人なんですか?」
「詳しくは知らないし…同じクラスでもなかったからな、三年間。」
「そうですか…。」
「ただ、中学二年生のときあいつ荒れてたな。不良グルと絡んでたし。」
「ふ、不良!?」
「いや、まぁ、オレも廊下で見かけただけでそれ以外は…知らん。」
「そうなんですか…。」
「頼りにならなくってごめんな。」
「いえ、先輩ありがとうございます。」
オレはあの先輩が不良だったとは思えなかった。しかし、あの写真がもし先輩だったら…不良だったということが成り立つと思えた。不良と自分らしくが一体何を意味しているのはわからない。羽山はどう思っているのだろうか…。
「とりあえず、今日はそこまで仕事ないから帰っていいぞ。」
「わかりました。」
「一風は残ってな。」
「はいはい。」
「じゃあ、蒼、羽山さん帰ろうか。」
「うん、副会長さんまた明日お世話になります。」
「失礼します。」
オレ達は生徒会室を出て三人で下校した。生徒会室では副会長と一風先輩と会長は…あれ?会長そういえば今日はおとなしかったな…。
「で、彩里なんでオレも残ってんだ?」
「それはだな、仕事の手伝いをしてもらうためだ。」
「ふーん。」
一風は四津の隣に立って彼女のほうをじっと見た。
「何か。」
「彩里って、素直じゃないよね。」
一風はそう言うと彩里の頭をポンポンとした。そして、何もなかったように仕事へと取りかかった。
「…。」
四津は急に頭を撫でられたのがダメだったようでしばらくその場で停止してた。
そして、我に返ったのか急いで仕事に取りかかった。
「かわいい…。」
一風は心の中でそう思った。なかなか二人っきりにはなれないけどこういうのもいいかなと一風は思ったのであった。
そのころ、三人で帰ってたオレ、双葉、羽山は少し寄り道をしていた。
「ここのクレープ食べてみたかったんだよなー。」
「この間、テレビで紹介されてたよね。」
「うん。地元で有名なお店らしいけどね。」
と、クレープを食べながら帰っていた。歩いていると右の曲がり角から三、四人の女子高生ぐらいの人たちが出てきた。その中にオレ達と同じ制服を着た人がいた。
「もしかして…。」
「小枝先輩…?」
オレと羽山は恐らく小枝先輩と思われる人物を見た。しかし、オレ達が知っている小枝先輩は三つ編み姿でスカートの丈も長かったし…リボンもちゃんとしてたし真面目な印象だった。今の先輩はスカートも短いしリボンもしてないしまさにあの写真のような感じだった。
「でさ、まじあいつ意味わかんなくってさ。」
「アハハ、うけるうける。」
オレ達は立ち止まってた。すると、小枝先輩が後ろをチラッと見て目が合ってしまい…。
「やよい、どした?」
「んん、なんでもない。」
「それで、」
と、先輩は何も見てないふりをしそのまま行ってしまった。
「あれ、小枝先輩だったよね…。」
「だな。」
「やっぱ、何かあるよね。」
「うん。」
オレと羽山は先輩のことが気になって仕方なかった。双葉は詳しいことがわからないため話についていけなかった。それで、双葉が
「ごめん、私先帰るね。」
と、言って去ってしまった。オレは彼女を追いかけようとしたが羽山を一人残すわけにもいかなく結局追いかけなかった。
「いいの?…。」
羽山がオレを気遣ってそう言った。オレは大丈夫、あとで謝っておくと言った。
「じゃあ、また明日先輩のところに行こう。」
「うん、わかった。」
オレと羽山もそれぞれ別の道を通り帰宅したのだった。
それで、その晩双葉にオレは『ごめん』と一言メッセージを飛ばした。すると、双葉からは『大丈夫。気にしなくっていいよ。』と返事が返ってきた。オレは少しばかり後悔した。仕事とは言え六人で一応情報は共有すべきだと思った。双葉に先輩の件についてのメッセージを送った。双葉からは『ありがとう。』と、返ってきた。なんだか、スッキリしない感じだった。また明日、直接謝ろうとオレは思った。
「仕事だから…。仕方ないよね。」
と、双葉は瀬戸からきたメッセージを見て思ってた。彼女はちょっと寂しいというか嫉妬という思いがあった。しかし、それが瀬戸のことを意識してる、要するに好きだというふうにはまだ結びついていないようにも思える。
「成世くん…。」
彼女はスマホを置き、勉強に取りかかった。それを見ていたプリスは何も言わず見守っていた。
それぞれの運命が徐々に新しい物語を形成していく。好きな人との恋に、自分らしくいることに悩んでいる人…。彼らの運命がどうなるかは決まっているわけではなかった。
ただ、もうすぐ答えが見つかるかもしれないということだけはハッキリしていたのだった―。
第43話 向き合うこと
「蒼、その…」
「「ごめんなさい。」」
「え、」
「え…と。」
朝の教室。オレは昨日の件について双葉に謝ろうと思っていた。が、なぜか二人同時に謝っているという状況。そして、二人とも不思議な顔でお互いを見ていた。
「や、その…オレ、別に蒼を除け者にしようとかそんなことはなかった。でも、情報何も知らなかったらその場にいずらいのはほんとオレが悪かった!」
「え、でも、私も…急に帰ってごめん…それに情報のことはそれとなくわかっていたし…。」
と、二人ともまじなめなのか何なのかよくわからないが周りから見るとただのイチャイチャしてるようにしか思われなさそうな光景。
「その、えーと…。」
「んん、成世くん、大丈夫だよ。私も副会長さんとお仕事がんばるから。」
「うん…ごめんね。」
とりあえず、昨日のことについてはよくわからない謝罪同士で終わった。
しかし、まだ終わってない件があった。
それが、小枝先輩のこと。昨日偶然目撃したが、その姿がまるで学校にいるときの先輩とは思えなかった。詳しい事情は何も知らないが言えることは過去に何かあったこと。それが原因で、何か悩んでいるということ。それを早く突き止めなければならないのにあの先輩は…話の途中で逃走するから全く進まない。何かいい方法はないのか。
「どーすりゃいいんだろなー。」
「でも、一風先輩も…言ってたよね。中学生のとき不良グルと絡んでたって。」
「そうだな…。」
「だとしたら、昨日の小枝先輩と一緒にいたのはその時の人とかっていう可能性もあるんじゃ…。」
「それも一理あるな…。」
「今日も行くんでしょ?」
「あぁ、うん。」
「聞いてみたら?」
「そうだな…。」
「大丈夫だよ。成世くんなら。」
「うん。やってみるよ。」
双葉に励まされオレは先輩に昨日の件とそれと過去のことについて聞いてみることにした。
放課後、隣のクラスにいる羽山と一緒にオレは小枝先輩の元に向かった。二年生の教室に行くのにはもう慣れてしまったがやっぱり緊張はする。
「失礼します。先輩いますかー?」
オレは教室のドアを開けた。すると中には先輩ではなく見たことない人物がいた。このクラスの人かなと思って声をかけてみた。
「すみません、あの、小枝先輩…は?」
「ん?誰だ、お主。」
「え、いや…え?」
オレが声をかけた人物はパッと見人間に見えるがよく見ると耳が尖ってたし服装がそもそも制服ではない。よって…
「あ、アルカナ族!?」
「なんだ、私の存在をお主は知ってるのか?」
「でも、なんでここにいるの?」
「オレもわかんない。」
「ふーん。」
オレと羽山にその人物は近づきなぜか匂いを嗅いだ。そして、納得したのか改まった態度で
「私はジャスミンだ。そして、お主たちが言ったようにアルカナ族である。」
「やっぱり…アルカナ族だったんかって…あのどちら様の…。」
「ああ、私は彼女のだよ。」
と、ジャスミンは小枝先輩の机を指さした。
「彼女は今日もここにこない。」
「なんでわかるんですか?」
「彼女がそう言ったのだ。」
「…でも、私たち、小枝先輩と話さないといけないことがあるし…。」
「…。」
「小枝先輩…きっと、すごく悩んでいるんだと思います。本当は相談したいのになかなか言い出せないだけだと思うんです。だから、私たちはお手伝いしたいんです。先輩に話さなきゃいけないことがまだまだ…。」
羽山は真剣な表情だった。ジャスミンは羽山のその眼差しに嘘はないと思ったのか
「だろうと思って、本人を呼んでいます。」
「え、でも、さっき…」
「私はアルカナ族だ。何かあれば力は使えるからな。」
そう言うとジャスミンは呪文を唱え始めた。すると、そこにいなかったはずの小枝先輩がどういうわけか出てきたのだった。
「え!?なに!?ここどこ!?」
「先輩!」
「え、え、瀬戸くん?あれ、羽山ちゃんもいるじゃん。」
「先輩、ここは教室です。」
「…うそ!?教室!?」
小枝は何を思ったのか急いで髪をくくり外していたリボンをつけスカートの丈を伸ばした。すると、いつもの、オレが知っている先輩に戻った。
「あの、先輩…話があるんです。」
「話…?」
「昨日、先輩…誰といたんですか?」
「誰って家にいたよ?」
「私たち、小枝先輩を見ました。」
「人違いじゃないの?」
「小枝先輩…私たちのほうを見ました。でも、何もなかったように行ってしまいました。」
「…。」
「誰と一緒だったんですか?」
「誰でもいいじゃない?」
「どうしてですか…。」
「…。」
小枝先輩はなかなか本当のことを言い出そうとはしなかった。羽山は本当のことを先輩が話してくれるまで諦めるつもりはなかった。
「先輩…中学生のとき不良グルと絡んでたんですか?あの、写真はその時のですか…?」
「…。」
「私は、先輩が悩んでいるんだと思います…でも、誰にも言えなくって相談してきたんだと思っています。それなら、私は全力で手伝いをしたいと思っています。だから、先輩、本当のことを話してください。お願いします!」
羽山は小枝に頭を下げた。小枝はずっと黙っていたが
「わかった…。」
と、やっと返事をした。
「私は中学生のとき確かに不良グルとつるんでいた。そして、あの写真は昔の私…。あの時私は毎日遊んで授業もろくに受けてなかったし…でも、楽しかった。けれど、私、夢があってね…。それで、その夢を諦めきれなくってこのままじゃあ、ダメだと思って中三の時に不良グルから抜けて必死に勉強したの。けれど、誘惑は多かったわ。それでも、必死に勉強して高校入って…入ったのはいいけどその不良時代の時の服装とか口調とかすぐには治らなくって隠そうとしてたの。そしたら、なんか自分らしさっていうのがだんだんわからなくなって。別に本読むのは好きではないし、スカート長いのも私は嫌い。けれど、周りに合わせていなきゃ浮いちゃうし。不良だったことはやっぱ隠しておきたいし…。」
「そうだったんですか…。」
「昨日、昔のやつに声をかけられてね。久々に遊んでたんだけど…そしたら、羽山ちゃんとかに見られてしまったときにしまったと思ってね…。」
「どうしてですか?」
「私が不良だったことは…隠しておきたかったから。」
「…。」
「でも、私…作ろうのは下手くそだし。たまに口調があやふやで結局人と話すと途中でわけわかんなくなって逃げ出してしまうから…。」
「…はい。」
「ごめんなさい。本当は話そうとは思ってたの。でも、自分から言うの…やっぱ怖くって…。」
「先輩…話してくれてありがとうございます。」
羽山は小枝に言った。そして、羽山は自分の思いを伝えた。
「先輩…あの、私もそうなんです。私…この間まで悪いことばっかしててほかの人を傷つけていました。間違っていることはわかってました。けれど、止められなかったんです。その時、私を助けてくれた子がいました。その子のおかげで私は今の私でいられてます。誰にだって言えない悩みや不安はあると思います。でも、先輩は私たちに本当のこと話してくれました。私は先輩が先輩のままでいればいいと思います。自分を貫くことも大切だと私は思います。」
「けど…私…。こんなんだから…友達いないし。」
「先輩…運命は変えようという気持ちがあればきっと変わりますよ。」
「運命を変える…?」
「はい。運命を変えるとか信じるとか、バカバカしいかもしれませんが、私は自分を変えたいと思って信じてみることにしました。今では大切な仲間もいます。それにこうやって人の役に立つことができていますし。」
「…。」
「先輩…自分らしくいることにこだわる必要もないと思います。先輩は先輩でいいと思います。だから、無理しないでください。周りの目を気にするとか作ろうとかそんなことしなくってもいいと思います。」
羽山は小枝の目をしっかり見て話した。羽山も自分が前まで変わることができなかったが今では本当の自分でいられているような気がしてた。そして、人の役に立とうとがんばっていた。小枝は黙ったままだった。そして、何も言わないまま…その場から逃げ出そうとした。羽山は小枝の服の袖を掴んだ。小枝はそれを振り払い教室から出ていってしまった。
「先輩…。」
羽山は悲しそうな顔だった。自分の気持ちが伝わらなかったと思った。
「…私…。」
オレは羽山に何か声をかけようとしたが何を言えばいいのかわからなかった。
しかし、ジャスミンは羽山にこう言った。
「大丈夫、きっと彼女に届いている。あとは私に任せてください。」
ジャスミンは羽山にありがとうの意味でお辞儀をしその場から消えた。
「羽山…帰ろう。あとはジャスミンがたぶんやってくれるから。」
「うん…。」
オレは悲しそうな羽山に何もできなかった。帰るときも無言だった。
こういうときに何もできない自分が情けなかった。もし自分が会長みたいに明るい性格だったら何かできていたのかなと思った。
そして、次の日。オレと羽山はジャスミンに呼ばれた。そこにいたのは…。
第44話 これがうちや!
「「せ、先輩!?」」
「アハハ…。」
オレと羽山はジャスミンに呼ばれ小枝先輩のクラスにいる。小枝先輩から来て欲しいとのことで行ったわけだがオレ達の前にいる先輩の姿がまるで別人だった。三つ編みヘアーの髪をバッサリ切りショートになって制服もだいぶ違う着こなしになっていた。
「先輩どうしたんですか?…」
「どうしたって、これがうちや。」
「は…。」
しかも、口調も違う。前までは一人称が『私』だったが『うち』というふうになっていた。
「羽山ちゃんの言葉聞いて…考え直したんや。で、昨日ジャスミンと話をして…。そんで、こーなったわけ。急に飛び出したのは本当ごめんなさい。けれど、羽山ちゃん、あなたにはとても感謝してる。ほんま、ありがとう。」
小枝先輩はそう言うと羽山を抱きしめた。
羽山はわぁっっとかわいらしい声であたふたしていた。オレは今回特別何かしたわけではないがなんだかうれしい気持ちになった。そして、羽山も人の役に立つことができきっとうれしい気持ちでいっぱいだろうと思った。
「うちさ、ずっと思ってたんやけど羽山ちゃんかわいいよね〜。」
「そうですか…?」
「それに、女の子の匂いがする〜。」
なんか、小枝先輩のキャラが変な方向に向かっている気がするのはオレだけか?もともと、こんな感じなのか?よくわからないが羽山は少し困っているものの嫌そうな感じではなかった。
こうして、オレと羽山は無事お悩み相談を解決することができたのだった。
そして、次の日はまちに望んだ…ゴロゴロライフ日!!
の、はずだった…。
「なんで、オレは今日も学校にいるんだぁぁあ!!」
「瀬戸、うるさい。」
「ごめんなさい…。」
今日は土曜日。本来ならオレは自宅のベットの上でのんびーりゴロゴロするはずだった。なのに、なぜか今日も制服で学校にいる。何でだ…というのも、昨日七人目の保持者が発覚しそれで集まっているわけ。しかし、これって毎回見つかるごとにやるんだとオレは思った。副会長が真面目な故、たぶんこーなっているんだなって。別に副会長が悪いわけじゃないけどさ。
「改めて、七人目の保持者が見つかったということで、羽山と瀬戸は今回がんばったと思う。」
「はい。」
「うっす…。」
「小枝やよいです。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
「あれ?あんた、どっかで見たこと…。」
「あ?オレ?一応、おまえと同じ中学だったが。」
「へぇーそうなの?」
「あぁ。」
「羽山ちゃんはもう前から知ってるよ〜。」
「せ、先輩。急に抱きつくのはやめてくだしゃぃ。」
小枝にコショコショされ最後のほうの語尾が上手く言えてない。て、いうか…羽山ってやっぱ普通にしてたらそれにかわいいよな…ってオレは思った。
「それで、七人に増えたわけだが…未だスターの兄についての情報はないわけか…。」
「スター…の兄…。」
「ジャスミン何か知ってるの?」
「確か、あいつは…。」
「あいつは…。」
「…や、すまん。何も覚えてない。」
「なんじゃそりゃ…。」
ジャスミンの思わせぶりな発言に一同はガッカリというかそこまで言っててないのかよって、ツッコミたくなる。
「まだまだ、時間がかかりそうか…。」
「て、いうか、なんで、覚えてないの?」
「え?」
「我々、アルカナ族は地球人ではないため…その、なんていうかタロットカードになって飛ばされるときに一部記憶を失ってしまうこともあるんだ。」
「けれど、プリスは結構覚えてるよね…。」
「彼女は姫だから特別何かあるのだろう。私は一般的なアルカナ族の中から選ばれた者だからな…。」
「へぇー…ウィズもだから覚えてないのか…。」
「いや…彼の場合は…。」
「ん?」
「何でもない。」
「とにかく、早いうちに見つけ出そう。そして、このタロットカードの正体を突き止めよう。」
「はい。」
「じゃあ、今日はこれで終わりだ。あとは自由に解散してくれ。」
「蒼、帰ろ。」
「うん。」
「オレは練習あるから、お先に。」
「一風先輩、がんばってください!」
「おう。」
「ねぇ、羽山ちゃん、よかったらこの後一緒にご飯食べに行こー。」
「私ですか?」
「副会長もどう?」
「あたしは…まだ残るから。ありがとうな。」
「じゃあ、羽山ちゃん行きましょー」
「え、先輩!?わああ」
すっかり、小枝に気に入られた羽山は小枝に手を引っ張られながら教室を出ていった。
オレと双葉も教室を出て久しぶりに二人で帰った。
「なんか、にぎやかになってきたな〜。」
「そうだね。」
「最初はオレだけだったのに。」
「だね。そして、私も…。」
「だな。」
自分が前まで不登校だったということがなんだか嘘のように思えるぐらい今は充実した学校生活のように思えた。そして、仲間も増え毎日にぎやかだし楽しい。そんな毎日がこれからも続けばいいなとオレは思ってた。
「成世くん、あのね。」
双葉が何か言おうとした。その時だった。
『おまえは―。』
「え?なに?」
「成世くん、どうしたの?」
「いや…今誰かの声が聞こえた…。」
「ん?」
「気のせい…。か、で、蒼さっきのは何?」
「え?いや…えーと…。」
双葉の顔がだんだん紅くなってきていた。オレは双葉が何を言いたいのかわからなかったが…。
「成世くん、あのね!」
双葉が今度こそ言おうとした。すると、タイミングがいいの悪いのかオレ達の横を電車が通り、その風で―。
「あ…、」
「きゃっ。」
双葉のスカートがめくれピンク色のレースがついた…アレがちらっと見え…た。
神様…ありがとうございます…とオレは思った。双葉の顔はさっきよりも紅くなっていた。そして、オレに
「成世くん…み、」
「見てない!見てない!」
オレは必死に取り繕った。双葉の目は少しうるっとしていた。オレはごめんごめんと謝った。
「大丈夫…。」
「ん、ん、じゃ、じゃあ、帰ろっか。」
オレは決して双葉のパーが見えたことは言わなかった。そして、踏切を渡ってそれぞれの家へと帰った。
『早く…しないと。』
彼は急いで誰かを探していた。
「ワンワン、ワンワン」
『う、なんだ、おまえは!』
「ワンワン、ワンワン!」
彼は家の庭につながれた犬にびっくりしていた。それもそうだ、彼は犬というものを知らなかったから。恐る恐る通り抜けそのまま彼は走った。
『スター…ムーン…もうすぐだから…待っててくれ。』
彼は公園にたどり着いた。公園にはたくさんの人がいた。辺りを見渡し、誰かを探した。
『ここでもない…。』
彼はそう言うと姿を消しまた別の場所へ移動した。
彼は一体誰を探しているのか…。この物語が始まるのはもう少し時間がかかるように思えた―。
第45話 ドキドキ勉強会
この間まで、文化祭に体育祭と大忙しだったのに気づけばもう冬も近づいてきた。
外に出ると寒さが身にしみ温かい飲み物や上着が必要になってくると思われる。
そして、オレは今日自宅の部屋で暗号だらけの教科書とにらめっこしていた。と、いうのももうすぐ定期テストというものがありオレは勉強している。もちろん、一人で勉強しているわけではなく今回もオレにとっては大先生の…
「成世くん、ここまた間違えてるよ。」
「あ、ほんとだ。」
双葉がいる。それも、オレの部屋に。
この前は双葉の部屋で勉強会をしていたが今回は交代でオレの部屋。女の子が遊びに来ると母に伝えたら掃除しなさいよと言われ珍しく部屋が片付いている。
「やっぱ英語は難しいな…。」
「でも、最初の時に比べたら全然できるようになっているよ!」
「そうかな…。」
そうかな…と言いながらも顔がデレデレしているだろうな、たぶん。
「あとは…このプリントをやってと。」
「成世くん、よかったら次化学教えてね。」
「おっけー任せてください。」
化学はオレの得意分野だからな。オレはどちらかというとまあ、理系だし双葉は文系。と、なると二年生の時は別のクラスになる確率が高くなりそうな予感がしてた。二年生になると文理選択があるためクラス分けもそれによって変わってくる。自分が得意な方を取るべきだが双葉と別のクラスになるのは嫌だな…。
「成世くん、次の定期テストがんばろうね。」
「ああ、もちろん。」
双葉の笑顔を見るだけでオレはとてつもなく幸せな気分だった。
「そろそろ、休憩する?飲み物持ってくるよ。」
オレはそう言って一旦部屋を出た。
「えぇーと、ここはこうで…。」
双葉は瀬戸が戻ってくるまで勉強していた。そして、チラッと瀬戸のノートを見て
「成世くん、授業中寝てる…んだろうな。」
と、つぶやいた。瀬戸のノートに書かれた字がところどころ読めなくって解読に困りそうな感じだった。席は双葉のほうが前で瀬戸が後ろだから直接寝ているのを見ているわけではないがこの字からして予想はできた。
「ただいまー。」
「おかえり。」
「蒼はどっちがいい?」
「じゃあ、こっちもらうね。」
「ほい。」
「あ、そうだ!」
双葉はカバンから何かを取り出した。
「これ、作ったの。」
双葉は手作りのカップケーキをオレが持ってきたクッキーのお皿に乗せた。
「おおーおいしそ!」
「ちょっと、焦げてるけど…。」
「いや、全然、普通においしそうだよ!」
「ありがとう…。」
「食べていい?」
「うん。」
オレは双葉の作ったカップケーキを口にした。しっとりとした甘くて美味しい味が口の中に広がった。焦げてるとか言ってたけど全く気にならなかった。オレはあっという間にケーキをたいらげた。
「蒼はお菓子作ったりするの好きなの?」
「うん、よく作ってるよ。」
「へぇーそうなんだ。」
「この前は…ショートケーキ作ったの。」
「ショートケーキ!?またすごいな…。」
「お母さんの誕生日だったの。」
「そうなんだ。オレお菓子作ることないからな…。」
「成世くんは料理しないの?」
「んー目玉焼きは作れるよ!」
「それ以外は?」
「あとは…。」
そういえばオレ自分でご飯作ることもあまりないから料理とかほとんどしなかった。自分一人だったらカップ麺とかで済ましたりするし…よくないのは知ってるけどオレが料理したらたぶん悪魔の料理ができそうで…。
「オレあんましないから…料理…。」
「今度一緒にお菓子作りしよ。」
「え、ほんと?」
「うん、私が教えるから成世くんも料理上手な人になろうよ!」
「うん!蒼が教えてくれるならオレやるよ!」
「じゃあ、決まりね。」
双葉はなんだかうれしそうだった。オレも同じくうれしかった。てか、幸せすぎてこのまま…死んでも…いや、よくない!
実はこんなにラブラブそうに見える(かもしれないが)オレ達はまだ友達という段階だ。告白なんてしてない…いや、しようとは思ってる。が、オレにそんな勇気は…。
だから、この間もプリスに『ヘタレ』なんて言われたんだろうなと自覚はしていた。
「成世くん、あのね…。」
「ん?」
「成世くんって、」
「ん。」
「す、」
「す、」
「す、すき…」
「すき…」
「すき…好きな食べ物ってなに!?」
「へぇ!?え!?」
オレは双葉の言葉にびっくりといか好きな食べ物、え、えと思考が追いついていなかった。
「す、好きな食べ物…えーと…からあげ…とか?」
「からあげ…。」
「てか、何で今それを…?」
「えっ、だ、だって今度料理するから…。」
「あ、あ、なるほどなーなるほどー。」
お互いパニック状態で会話が妙に変だった。それにしてもこの間から双葉はオレに何かを言おうとしている。けれど、それが一体何かは未だ不明。
「成世くん、」
「今度は、どうしたの?」
「化学教えてください。」
「あ、そっか、やろうか。」
オレと双葉はまたテスト勉強に戻った。
教えるというのもなかなか大変だったが双葉は理解してくれるのが早くってオレも説明するのが楽だった。
「成世くんはどう思う?」
「何を?」
「タロットカードのこと…。」
「んー…よくわからない。」
「そうなんだ…。」
「よくわからないけどウィズとか他の子見てても全然悪い人たちには思えないしそれどころかみんな頼りないところもあるし。」
「フフッ、だね。」
「だけど…。」
「だけど?」
「時々、変な夢見るんだ。」
「夢?」
「でも夢の内容は朝起きたら忘れている。一体何の夢なんか…全然覚えてない。」
「疲れてるんじゃない?」
「かもなー。」
「テスト終わればきっとゆっくりできるよ。」
「だな。」
オレと双葉はもう少しテスト勉強をやっていた。夕方になり双葉がそろそろ帰る時間になってきた。
「蒼、時間のほうは?」
「あ、じゃあ、そろそろ帰るね。」
「今日はありがとうな。」
「んん、私こそありがとうね。」
「じゃあ、途中まで送るよ。」
「大丈夫だよ。」
「オレがそうしたいんだ。」
「わかった。」
オレは双葉を途中まで送った。というのも昔、双葉が誘拐事件に巻き込まれたというのを知ってなるべく一人にしないようにはと気を遣っていた。
「この辺で大丈夫。」
「んじゃ、また明日。」
「成世くん、」
「ん?」
「今度は料理一緒にしようね!」
「もちろん!」
オレは双葉に手を振った。双葉も手を振ってオレと反対の道を進んだ。
「さてと、テストがんばるぞー。」
オレははりきっていた。これをがんばればまた双葉との楽しみがやってくるからだ。オレは彼女といることがやっぱり自分の支えになっていると思った。と、同時に彼女のことが好きだとずっと思ってた。だから、早く告白したかった。けれど、それはまだ達成できなさそうだった。
「家帰ったらもう少し勉強がんばろ。」
オレの心は今後の楽しみでいっぱいだった。その為にもまずはこのテストを乗り越えようと思ったのだった―。
第46話 ぐるぐる恋心
「よっし、この問題解ける…!」
オレ、瀬戸成世は今このわけわかめな英文と戦っている最中。しかし、こんなのオレにとって雑魚キャラ。オレにかかればちょちょいのちょーいみたいなノリでテストを受けていた。そう、今オレは定期試験真っ只中。
昨日、双葉との勉強会で苦手な英語もなんなく解けていた。
「あーさっきのテスト難しかったくね?」
「そうか?」
「成世ってあんま勉強してなさそうだよなー」
「失礼だな。オレだってする時はするさ。」
「なら早く、好きな子に告白し、ろ、よ!」
「うるさいなー!」
友人に冷やかされながらもオレは次の勉強もしていた。オレの好きな子は席に座ってノートを見ていた。彼女は双葉蒼。オレの友達でオレの気になる子…。今日は珍しく長い髪を二つに結んでいた。あれはレア物だなとオレは思った。こっそり、写真撮りたいという欲が湧き上がっていた。いや、本当にするわけではないぞ。
「ほら、席につけー。」
先生が教室に入ってきてみんな一斉に席についた。次はオレの得意な化学だった。
これは余裕だなとオレは思った。で、その言葉の通りあっという間に終わってしまい残った時間で見直しもできて個人的にはこれで大満足だった。しかし、まだテスト地獄というのが続くのだった。
「今日の分は終了…。」
オレは全てのテストが終わった時口から自分の魂が出ていきそうな感覚だった。
また明日も残りの教科があるわけだ。
オレは双葉と一緒に帰っていた。
「最近、寒くなってきたなー」
「そうだね。マフラーそろそろ出そうかな…。」
「マフラーなー昔手作りのマフラー貰ったことあるな…。」
「え…。」
「ばあちゃんからな。女の子からもらったことはないよ。」
「う、うん。」
なんか、最近私成世くんの女の子事情がすごく気になるんだけどどうしてかな…。自分でもよくわからないけど…。双葉は恥ずかしくなって下を向いて歩いていた。
「明日のテストもがんばろーぜ。」
「うん。がんばろ…。」
「どした?元気ないけど。」
「んん、なんでもないよ。」
双葉はあたふたしてたけどなんかオレにはかわいくって仕方なかった。
「じゃ、また。」
「ん、バイバイ。」
オレと双葉は途中で別れそれぞれの家に向かって帰っていった。
「おまえさ、」
「え、ウィズなんでいるの!?」
「なんでって…。なんでだ?」
「いや、オレが知りたいんだけど!」
「まぁ、いいさ。」
「はぁ…で、用件は?」
「いや、特別何もないが…。あえて言うなら」
「うん。」
「腹減った。」
「何やそりゃ…。」
「肉まん食べたい。」
「はいはい。ウィズはほんと肉まんしか食べないよね。」
「そうか?」
「うん。」
「お前に言われたらそうかもな。」
「珍しく認めてる…。」
オレは途中でコンビニにより肉まんを買ってそれで家に帰った。ウィズは満足げに肉まんを食べていた。まったく、よくわからないやつだ。
…。
よくわからない。
そうだ、オレはウィズについて未だ何も分かっていなかった。こいつが本当は何者なのか。アルカナ族、オレのパートナー…いや、それ以外に何かあるはず…。けれど、あいつは何も言わない。覚えてない。ジャスミンが言ってた。アルカナ族が地球に来る時は記憶の一部が消えてしまうことがあるって。ということはウィズの中の大切な記憶が消えている。だから、何も覚えてないんだ。
「どした?」
「ウィズ。」
「なんだ?」
「ウィズは本当は何しに来たの?」
「…。」
「ウィズはオレが学校復帰できるようにそのために来たんだよね…。」
「…。」
「ウィズ…。」
「すまん…。俺も覚えてないんだ。」
「…。」
「そのうち思い出すはずさ。」
「そのうちって…。」
「カードの導き。それが教えてくれるさ。」
「これが…。」
「お前は明日のテストのことを心配しろ。」
「ウィズに言われなくっても勉強するし。」
「ちょっとは言い返すようになったな。」
「なんだよ、ウィズまでオレのことヘタレ扱いか!?」
「ヘタレ成世。」
「ウィズー!」
「わりぃわりぃ。」
オレは結局何も知らないままなのだろうか。
カードの導きが教えてくれるってウィズは言うけど。本当にそうなのか。オレは疑問だらけのまま明日のテストを迎えることになったのだった。
次の日。今日もオレはテストを受けていた。昨日と違って苦手な科目がないから楽だった。ちゃっちゃとテストを終わらし今日は普通に家に帰ろうと思っていた。
が、そうはいかなかった。
「えーと、もうすぐ冬休みにクリスマスに皆さん楽しい冬がやってきますが…。」
クリスマスか…もうそんな時季も近づいてるんだな。
「テストの点が40点以下の人は補習があります。」
「ええー。」
「先生まじかよー。」
「そーいうの先に言ってよー。」
冬にも補習があるのかよとオレも思った。夏休みただ一人学校で補習を受けていたオレはその苦しみがよくわかっていた。だからこそ、冬はエンジョイしたい。絶対テストで40点以下を採るわけにはいかなかった。
「じゃ、みなさん、残りの授業もがんばって楽しい冬休みを過ごしましょう。」
先生はそう言うと黒板の前に何か紙を貼った。
「あと、席替えするから名前書いといてー。」
席替え!?
「と、いうことは…。」
オレは双葉のほうを見た。もしかしたら、双葉と隣になれるチャンスが!!と、思った。
でも、確率的にはそう簡単になれるとは言えない。オレはこの際運に任せようと思った。しかし、オレはあることを思いついた。
そう、カードの導き
これに聞けばと思ってポケットからカードを取り出した。すると、カードには
『あなたが選んだ箇所に運来る。』
と、書いてあった。結局自分の運に頼らなければ行けないハメになった。
「はぁ…ここでいいや。」
オレはもうどうでもよくなって適当に名前を書いた。そして、帰る準備をして教室から出ていった。
今日は双葉と一緒ではなく一人で帰っていた。いつも、双葉が隣にいると家に帰るまでがあっという間だったが今日はやけに長く感じる。そして、帰り道の途中、オレの前を歩いていた若い男女のカップルがクリスマスのことについて話していた。正直、うらやましかった。自分も早くあーなりたい。そのためには告白…しなければ。しかし、未だに悩んでた。その告白するかどうかということ。
このままの関係でも全然よかった。むしろ、告白して気まずい関係になるほうがオレは嫌だった。
「あーどするかな…。」
オレが下を向きながら歩いていると後ろから誰かが抱きついてきた。オレはとっさに相手の手を振り払った。
「もぉー痛いよー。」
オレに抱きついてきた人物がそう言った。よく見るとオレが知っている人物だった。
「…え、小枝先輩…!?ごめんなさい!」
「瀬戸くんって、案外強いのね…。」
「いや…そんなわけでは。」
「まぁ、うちも悪いけど。」
「ところで、先輩…何の用ですか?」
「あ、たまたま見かけたからちょっと。」
「帰り道こっちなんですか?」
「うん、そーだよ。」
オレは小枝先輩と一緒に帰ることになった。先輩と二人っきりなんてめったにないから何を話せばいいのか思いつかなかった。
無言が続いた。すると、小枝が唐突に
「瀬戸くんって好きな人いるの?」
と、聞いた。
「え?」
「好きな人。」
「…えーと、」
「うちはいるよ。」
「そうなんですか…?」
「誰だと思う?」
「…誰ですか?」
「瀬戸くん。」
第47話 移りゆくもの
「瀬戸くん。」
「え?オレ?」
「…って、いうのは…」
「冗談です!」
「…。先輩オレ先に帰ります。」
「あ、あそんなに怒らないでよ!ね、ごめんって。」
「怒っていません。」
「瀬戸くんがなんか元気なさそうだったから…。」
「…。」
「瀬戸くんって好きな人いるでしょ?」
「…。」
「羽山ちゃんから聞いたよ。」
「え。」
「うち、誰かは知らんけど…でも、いるならその気持ち相手にぶつけるべきだと思うよ。」
「ですよね…。」
「他の人に盗られるかもよ?」
「え、それは…。」
「でしょ?なら、アタックしなきゃ!」
「けれど、オレ…告白とか…そんなこと。」
「大丈夫だってー!瀬戸くんは瀬戸くんらしくしてればいいのよ。」
「小枝先輩…。」
「応援してるよ。」
「はい…。」
「じゃあ、うちこっちだから。またね。」
小枝は瀬戸の肩をポンポンと叩き別の道を進んでいった。先輩に少し励まされオレはがんばってみようかと思った。
「がんばろ。」
オレは自分の心に誓った。
そして、翌日。
黒板には席替えの結果が貼り出されていた。
人が集まっていてよく見えなかったが、先に来ていた双葉がオレに向かってか手を振っていた。
「隣だよ。」
と、教えてくれた。
オレは本当か!?と思って紙を見た。すると、本当だった。オレの横には双葉の名前があった。
「神様…ありがとう…ございます。」
オレは感極まって泣きそうになった。
そして、席を移動し双葉の横へ。
「よろしくね。」
「うん。よろしく。」
これでまた一つオレが学校に行く楽しみが増えたのだった。
「瀬戸くん何か今日はうれしそうね。」
「そうですか?」
オレは生徒会室に来ていた。生徒会室にはオレ、双葉、会長、それと小枝先輩がいた。副会長は書類のコピーがあるらしく今はここにいなかった。羽山は遅れてくるとのこと。一風先輩はもうすぐ陸上の大会があるそうで、そっちの練習で来れないそう。すっかり、このメンバーもお馴染みとなりある意味でこれもオレの楽しみの一つだった。
「すまん、遅くなった。」
副会長が手に大量の資料を持って帰ってきた。オレと双葉は手伝って資料を机の上に置いた。
「副会長さん、この資料は…。」
「あ、もうすぐ選挙があるからな。」
「選挙?」
「会長の選挙。」
「そうだよ、俺がいなくなるんだよー。」
「それは残念です…。」
「俺もだよー。」
「北海学園の選挙は少し変わっているからな。」
オレは資料を手に取り読んでみた。
北海学園では基本一年ごとに役員を総入れ替えするそうだが会長は原則三年がやることになっている。そのため次に三年生になる二年生の中から会長を選びあとはどの学年でもできるため新一年生が入学してから選挙するそうだ。
「じゃあ、来年副会長が会長するっていう可能性も…。」
「さぁーな、それは秘密だ。」
「じゃあ、このメンバーで集まれるのもあと少しですね…。」
「みんな悲しむなよ!オレは卒業しても遊びに行くぜ!」
「会長…大学は県内なんですか?」
「おう、…いや、隣だったわ。」
「あら、じゃあ、一人暮しするんですか?」
「そーなるな。」
「まぁ、その話はこの辺で。とりあえず、選挙のことについてはそういうことだ。」
「来年が楽しみだね。」
「みんな、俺のこと忘れないでなー。」
「はいはい。」
生徒会室は笑いで賑やかだった。これからもこんな毎日が続けばいいなとオレは望んでいた。副会長の仕事を手伝いその後はまた双葉と一緒に帰っていた。
「副会長さんが会長になればいいのになー。」
「そうだね。」
「副会長が役員やめたらオレ達集まることもなくなるんかな。」
「どうなんかな。」
「寂しいな。」
「だね。」
オレと双葉も今の会長と副会長が好きだったからこの二人と話せなくなるのはとても悲しかった。
「成世くん。」
「何?」
「今週の日曜日にこの前約束した…。」
「あぁ、料理?いいよ。オレどうせ暇人だし。」
「じゃあ、私の家で…覚えてる?」
「ん、大丈夫!」
「ん。メニューはどうする?」
「そうだなー。」
「初心者だし…クッキー簡単だから…どう?」
「蒼に任せるよ。」
「え、私!?えーと、」
「クッキーでいいよ!」
「わ、わかった。」
双葉があたふたしてるのもやっぱかわいらしかった。こうして、オレは双葉と日曜日の約束をしそれぞれの家へと帰っていった。
「ただいまー。」
「…。」
「誰もいないのか。」
オレは家に帰宅したが誰もいない様子。自分の部屋に向かった。
「ただいまー。」
「…。」
「ウィズどうしたの?」
オレの部屋ではウィズが何かと睨めっこしていた。オレはウィズに近づいた。
「ウィズ?」
「なんだ、お前か。」
「お前かって…何見てんの?」
「ホラ。」
ウィズはオレに一枚の写真を見せた。そこに写っているのは恐らくウィズであろう人物と…小さい子供。それにウィズと同じくらいの年であろう女の人。
「これ誰?」
「知らん。」
「ウィズの家族?」
「わからん。」
「覚えてないの?」
「あぁ。」
ウィズはオレからその写真を取りポケットに閉まった。やはり、ウィズは何も覚えてないんだとオレは改めて思った。
「わかるといいね。」
「何が?」
「その写真の人たち。」
「…そうだな。」
オレはウィズがきっといつか全ての記憶を取り戻せるはずだと思っていた。オレには力なんかないしこうやって励ます以外何もできなかった。自分に力があれば…そんな話あるわけないか。
「今週の日曜日蒼の家にいるから。」
「うん。」
ウィズは他人事になると話を聞かなくなるという奴だ。これももう慣れてしまったが。ウィズはオレに寝ると一言いいオレのベッドで勝手に寝てしまった。オレは別に起こそうとも思わなかった。親が帰ってくるまで勉強でもするかとオレはカバンから教科書やノートを取り出し机に向かった。
今は日曜日を楽しみに頑張ろうとオレは思った。
しかし、運命は少しずつオレが何もしてなくっても廻っていた。その運命がオレ達に光を導くのか闇を与えるのか…それはその時にしかわからなかった。
第48話 ワクワクLet's cooking
「ご、ごめん、遅くなって…!」
「成世くん、走ってきたの?」
「いや、チャリ飛ばして…。」
「とりあえず、上がって…お茶出すね。」
「ごめんね…。」
オレはとある女の子のお家に来ていた。しかし、肝心な約束の時間を忘れていたわけではなく単に寝坊して急いでチャリ漕いで来たわけ。で、その女の子はもちろん双葉蒼。今日は彼女の家で一緒にお菓子作りをするという約束をしていた。すごく楽しみにしてたわりに寝坊した自分が情けなかった。
「今日、お母さん達はお買い物行ってるからリビングにいても大丈夫だよ。」
「そうなんだ。」
「成世くん、とりあえず…お茶どうぞ。」
「ありがとう。」
オレは双葉からコップを受け取りお茶を飲む。双葉は冷蔵庫から今日のお菓子作りに必要な材料を取り出していた。オレも手を洗って料理ができる準備をした。
「じゃあ、まずー。」
双葉がオレに卵とボールを渡し
「これここに入れて。」
と、指示をする。オレは言われた通りに卵を三個ボールに割った。卵割は得意だからなんなくクリア。その間双葉はバターを溶かしそれをボールにいれ今度はゴムベラで混ぜてと指示。生地づくりはわりとさくさく進んでいった。
「へぇー、なんか楽しいね。」
「いつもは一人でやってるけど成世くんとやるのも楽しい。」
「あ、え、ありがとう…。」
双葉の言葉に思わず胸がときめくオレだがよそ見をしているとボールから小麦粉がこぼれそうになるので必死に耐えていた。
ボールから取り出しラップをししばらく冷蔵庫で冷やす。その間、リビングに座って話をしていた。
「双葉の家キレイだよね。」
「そんなことないよ。もうここに住んで…えーと、八年ぐらいかな。」
「オレは産まれてずっとだから…十年は越えてるなー。」
「結構長いんだね。」
「まあな。」
「成世くんはさ…。」
「ん?」
「…。」
最近よくあるこのやりとりだが双葉が何を言いたいのか察せない自分がいた。どんどん顔が紅くなっていく双葉をオレはじっと不思議な顔で見ていた。
「成世くん…。」
オレの名前を言ってその後が何も出てこない。その様子を見ていた人物がお節介か何なのか…
「成世くん、あの、私のことどう思っていますか!」
「…。」
「え?」
「え、今私…。」
双葉は自分が今何を言ったか分かっていないのかテンパっていた。よく見ると水色の髪をした女の人の姿があった。
「蒼、もう少しハッキリしなさいよ。」
「プリス…いたの!?」
「私はずっといるけど。」
「て、ことは…さっきのは…。」
「私の魔法で。」
「え、え、」
「おいおい。」
「前から思ってたんだけど蒼別に聞いてるのヘタレくんだけなんだからそんなに緊張しなくってもいいのに。」
「でも、でも。」
完全にテンパっている双葉と自分のしたことが別に間違ってはないと思っているプリスとこの二人はある意味対照的だよなーとオレは思った。
「成世くん、さっきの話は聞かなかったことにしてね!」
「あー…うん。」
「プリスも…勝手に魔法使わないでね!」
「蒼にしては珍しく言うのね、わかったわ。」
双葉は顔を真っ赤にしたまま、冷蔵庫に入れたクッキーの生地の様子を見に行った。
あの話はなしと言われたが…オレの脳内から消えそうにもなかった。双葉のことどう思っているか、それはもちろん『好き』。この二文字に限る。しかし、それをオレも言えるかというと…や、たぶん言えない。だから、どう思うって聞かれてもいい人とか優しいとかしか言えないんだろうな…。
「成世くん、型抜きするよー。」
「あぁ、わかった。」
双葉は引き出しからハートや星型の型抜きを取り出した。そして、生地をのばし好きなように型抜きしていいよと言った。オレは星型の型抜きを手にしやってみる。
「どんな風に焼き上がるか楽しみになってきたなー。」
「全部型抜けたら卵黄塗ってあとは焼くだけ。簡単でしょ?」
「うん、お菓子作りもやってみると案外楽しいもんだね。」
「私、一人っ子だから…それにあの事件があってしばらくお外出れなかったからいつも家でお菓子の本とか読んでたの。」
「そうなんだ。オレも一人っ子だからなー。そこは共感できる。」
「成世くん、下にいそうな感じがする。」
「そうかな…?逆に双葉こそ下に妹とかいそうな感じがする。」
「え、…うーん…よく言われるけど一人っ子。」
「アハハ、オレもだよ。」
双葉と会話してるとなんか照れくさい気持ちになるけどそれ以上にやっぱり楽しかった。双葉の笑顔が見れるとオレもうれしい。初対面の時を思い出すと随分双葉は変わったなと思った。あの時の彼女も彼女であるんだが、今のほうが断然彼女の本心が現れていると思う。
「じゃあ、これオーブンに入れて。」
「了解。」
「あとは、焼けるの待つだけ。」
一旦作業を終え、オレと双葉はテレビでも見ることにした。たまたまつけたテレビ番組でクリスマス特集というのをやっていた。
好きな人へのとっておきのプレゼントとかクリスマスに行きたいデートスポットとか紹介してた。終始無言であったがオススメデートスポットの紹介でとある広場のイルミネーションが紹介された時双葉が
「きれいだね…。」
と、つぶやいた。
オレは何も言わなかったがその言葉をしっかりキャッチしていた。
そして、テレビを見ているとほんのりいい匂いがしてきた。
「あと、10分ほどかな?」
「楽しみ。」
「だね。」
もうしばらく待った。
ピーッと、オーブンから音が聞こえ双葉が様子を見に行った。オレも気になって立ち上がり双葉の元へ。
「おおーいい感じに焼けてる。」
「たぶん、焼けてると思うから。はい。」
双葉がオレに一つクッキーを渡してくれた。出来立てのクッキーをオレは食べた。サクサクしてて少ししっとりした食感。味もいい感じ。初めて作ったわりになかなかの物だとオレは思った。お皿に盛りリビングの机に置いた。
「成世くん、ココアとコーヒーどっちがいい?」
「んーココア。」
「わかった。」
双葉は食器棚からマグカップを取り出しココアを作ってくれた。
「成世くん、初めてのお菓子作りは無事終わりました。」
「双葉先生ありがとうございます。」
「先生っていうほどでも…。」
「あ、写真撮ってもいい?」
「ん、全然いいよ。」
オレはカバンからスマホを取り出し記念に写真を撮った。後で親に見せようと思った。
「食べる?」
「うん!」
「それじゃあ、いただきます。」
「いただきますー。」
「うん、おいしいね。」
「ヘタレくんにしてはなかなかだね。」
「…プリス…いたんだ。」
「美味しそうな匂いがしたから来てみた。」
「あぁ…そうですか。」
「ウィズくんはいないの?」
「ウィズは家で寝てるよ。」
「そうなんだ、せっかく作ったから食べて欲しかったのにな…。」
「…持って帰ってもいい?」
「ん、いいよ。あとでラッピング袋持ってくるね。」
「ありがとう。」
オレは双葉と作ったクッキーを食べながら考えていたことがあった。それをいつ言うか迷っていた。今でも…いや、プリスがいるしな。やっぱ今日はやめとこう。
クッキーを食べ終わったオレと双葉は片付けをし、ウィズへのお土産としてクッキーを数枚持って帰ることに。
「今日は楽しかったよ。」
「私も。」
「また今度別のお菓子の作り方教えてください。」
「うん、もちろん。」
「じゃあ、また明日。」
「ん、バイバイ。」
オレは双葉の家の玄関から出ようとした。
しかし、オレは最後に言いたかったことがあった。
「オレ、蒼のこと大切な人だと思っているから…。」
「…成世くん。」
「…じゃ、じゃあね。」
恥ずかしくなったオレは急いでドアを閉め自転車を漕いで家に帰った。オレにしてはよく言えたと思う。自分で言うのも変だけどかっこよかったと思う。
けれど、今のオレにはそれが精いっぱいだった。
「ただいま。」
部屋のドアを開けるとウィズがオレの勉強机のイスに座ってた。
「ウィズ何してんの?」
「お前を待ってた。」
「なんだ、来れば良かったのに。」
「プリス…に会うのがめんどう。」
「そっちか…。」
ウィズはイスから立ち上がりオレの目の前にきた。オレより少し背の低いウィズだが目線の高さはさほど変わらなかった。真正面から見られると変にドキドキしてしまう。
「甘い匂い…。」
「甘い匂い…あ、クッキーか。」
「クッキー?」
「はい、これ。」
オレはカバンからウィズにあげるために持ち帰ったクッキーを取り出した。ウィズは受け取ってイスに座った。
「お前が作ったんか?」
「そうだよー。なかなかいい感じでしょ?」
オレの話をスルーしてウィズはクッキーを食べてた。少しぐらい褒めてよとオレはそう言いたかった。無言でクッキーを食べるウィズをオレはじっと見てた。
「うまいな。」
ウィズは全部食べて残ったラッピング袋をオレに渡した。満足したのかオレのベッドのほうへ移動し枕を抱き抱え…はや、もう寝た…。
「ゴミぐらい捨てろよ、まったく。」
オレはウィズから渡されたラッピング袋を見て言った。彼はもう寝てしまったから聞いてないだろうけど。
「まぁ、おいしかったならよかった…。」
オレはウィズの寝顔が少しばかり幸せそうに思えた。
オレも今日はステキな休日になったと感じた。初めてのお菓子作りだったし双葉との会話も…それにウィズが美味しいって言ってくれたのも、オレはうれしかった。
今度は自分一人でやってみよう。
オレのゴロゴロライフがウキウキライフになった瞬間だった―。
第49話 それぞれの恋
『ねぇ、ウィズ…。』
『私…あなたのことずっと…』
『―だったよ。』
「ウィズ、ウィズ!」
「…う。」
「ウィズ、オレだよ。」
「なる…せ…。」
「ウィズ、これ、肉まん。」
「肉まん…。」
「寝ぼけてる?オレに肉まん買ってこいって言ったのはどこの誰ですか?」
「…。ありがとう。」
「ホラよ。」
オレは自宅なう。そんで、ここはオレの部屋。オレの部屋にはオレ以外にもう一人。彼はウィズ。オレのパートナーであり大切な友人?で、そいつにお腹空いたから肉まん買ってこいとパシられクソ寒い冬の外へと。そんで、やっと暖かい部屋に帰還しコレを渡そうとしてたら待ってる間に寝てた。ウィズは一日の大半が睡眠。オレもずっと寝てたい。
「ウィズ、目覚めた?」
「おかげさまで。」
「なんか、夢でも見てた?」
「…。」
「オレも今はそんなことないけど昔変な夢ばっか見ててさ。」
「うん。」
「でも、起きたらその夢のこと何も覚えてないんだ。」
「…。」
「何だろうね。」
「さぁーな。」
「しかし、今日も寒いなー。」
「てか、成世学校は?」
「冬休み近いからわりと早く授業終わるんだ。もう終わったよ。だから、ウィズにパシられてんだろ?」
「そーだっけ。」
「もういいよ…。」
「成世。」
「今度は何?」
「この服飽きた。」
「は?」
「飽きた。」
「自分の服は?」
「…ない。」
「そーだったな…お前、オレと出会ったとき全裸だったもんな。」
そうアレは…ウィズとオレが初めて出会った時のこと。オレがタロットカードを拾った時ウィズは道のど真ん中で全裸で現れた。
そんな彼をオレは急いで家に連れて帰りオレの服を適当に着させていた。ずっと、そのスタイルでいることに何もオレは違和感を感じていなかったが、夏なのに長袖って暑そうだなとは思ったことがある。
「…しょうがないな…。」
オレは自分のクローゼットを開きなんかウィズに合いそうな服を探した。ウィズの好みなんてわからないしだいたいオレが着るからあまり渡したくないけど…
「どれがいいとかあるの?」
「んーわからない。」
「じゃあ、もうそれでいいじゃん。」
「これ。」
ウィズはカーキ色のパーカーを手に取った。確かそれはオレが高校生になって新しく買った服。着た覚えはあるがまあそれならいいかと思いウィズに渡した。
「これあげるから。もういいだろ?」
「うん。」
ウィズはパーカーを着てフードを被りオレに向かってどう?と聞いてきた。オレは似合ってますよと適当に返事しといた。
「成世。」
「ん?」
「おやすみ。」
「あー…はいはい。」
いちいちオレに報告しなくってもいいのに。てか、いつも勝手に寝てるのに今日はやけにオレを呼ぶウィズ。何かあったのかなとオレは思った。ただ寂しいだけかもしれない。
ウィズは普段自分の感情を表に出さないし泣いたところも笑ったところもあまり見たことがない。オレのことをバカにすることはよくあるけど。
「ウィズ…って本当に何者なんかな。」
オレは窓の外を眺めた。まだ六時前なのに辺りはすっかり日が落ちていた。
「ふああ~ねみぃ。」
翌朝、オレは学校に向かって歩いていた。冬になると布団から出るのが辛くなる。寒いのがいけないんだ。案の定ウィズは寒いから布団から出れないと言い結局着いてこなかった。
「おはよー。」
「よぉ、成世。」
「おはよ。」
「なぁなぁ、聞いてくれよ。オレ…なんと…」
「こいつ彼女できたんだぜ!」
「あ、コラ、オレが言うセリフだぞ!」
「へっへーん。」
「そうなんだ!おめでとう!」
朝から友人の幸せ話を聞かされるオレはなんとなくうらやましい気持ちからイラッとした。友人の恋バナとかあまり知らなかったというかこいつらオレの恋バナの方ばかり聞いてくるし。
「それで、オレ人生で初めてのクリぼっち回避だぜー!」
「…はっ、くそぉ…うらやましいぜ。」
「ハッハッハー。」
「クリスマス…か。」
「オレは彼女と楽しい楽しいメリークリスマスを過したいと思います!」
「なぁなぁ、成世あいつうぜぇな。」
「そうだね。」
「おい、オレを除け者にすんなよ!」
「お幸せに~。」
「お幸せにー。」
「いいよいいよ。おまえらなんか…グズグズ。」
嘘泣きする友人を慰めそれからしょうもない話をダラダラして、なんか高校生だなという感覚に浸ってた。それにしても、友人がうらやましかった。オレも早く告白しなきゃとは思っている。けれど、全然前に進んでない。友人を見習わなければ。
放課後、オレは生徒会室に向かって歩いてた。今日は別に副会長に呼ばれたわけでもなくただ自分が行きたいと思い。生徒会室のドアをオレは開けようとしたが中から話し声が聞こえた。おそらく、副会長と…と?誰?
オレはドアを少しだけ開け中の様子を覗き見。すると、そこにいたのは副会長と一風先輩だった。
「なぁ、」
「なに?」
「クリスマス…25日ヒマ?」
「特別何かあるわけではないが…。」
「あのさ、俺ら付き合ってまだ一度もデートしてねぇじゃん。」
「そうだな。」
えっ、あの二人ってまだデートしてなかったの。それもそのはず。生徒会の仕事で忙しい副会長と陸上部のエースは大会があるわけで、二人ともなかなか予定が合わない。
「…クリスマスデート。その、もしよかったらなんだけど、おまえが見たいって言ってた映画。」
「ん。」
「チケットあるから行かないか?」
「うん。いいよ。」
クリスマスデート、映画、うらやましいな…。オレはドアから離れため息をついた。自分もあんな風にサラッと言えたらなと思った。
「それでさ、」
ん?まだ何かあるのか?
「彩里。」
「なんだ?」
「こっち向いて。」
「?」
「…!?」
「ごちそうさま。」
あれ?今、一風先輩ちゅーしましたよね?あれ?気のせいですか?え?ごちそうさま?
…。
「うらやましいぞおおおおおー。」
「誰かいるの?」
「いや、ドア閉まってるけど。」
瀬戸成世。人生初、キス現場をこの目でしっかりと見た。そして、オレは爆死。
主人公のオレがいなくなったらこの話は進まないだろう。正逆ラスカまさかの50話目前にして打ち切り…。
みなさん、今まで応援ありがとうございました。
「すみません、よかったらオレに告白する勇気をくださぁぁぁあいいいいいー!!」
寒い外を一人泣きながら走るオレは、早く彼女作ってラブラブしたいなと改めて実感するのだった―。
※なおこの作品はこれからも続きます。皆さん、応援お願いします。まだ、話のクライマックスに到達しておりません。温かい目で見守ってくださると嬉しい所存です。
第50話 素直に伝えるって難しい
「クリスマスまであと…一週間か。」
オレは部屋のカレンダーとにらめっこしていた。街はすっかりクリスマスムードで夜になるとそこらじゅうイルミネーションがライトアップされていた。こんな寒い中よく外におれるな…とオレは感心していた。
と、いうかオレにはまだクリスマスを一緒に過ごす相手すらいない。今年も家でゴロゴロするだけかもしれない。しかし、オレは一緒に過ごしたい子がいた。その子を誘うために必死に必死にがんばっているが簡単にはいかなかった。先週、生徒会室で副会長と一風先輩が…キスしている現場を目撃。目撃というかオレが覗き見していて。早くあんな風になりたいと思っていた。それでだ、オレはそのクリスマスを一緒に過したい子をどうやって誘うか研究していた。
「もしよかったら、クリスマス一緒に…もっと、男らしいほうがいいかな…オレと一緒にこのすばらしい聖夜を…いや、それは変。あーどうしたらいいんだー!」
「何やってんだ。」
「何って、見ての通りさ。」
「…。」
「いや、ん、ほっといてくれよぉぉぉ。」
一人部屋の中で変なことをしているオレを冷たい目で見るウィズ。彼はオレの恋愛事情を知るわけでもないしたぶん興味もないだろうから余計な口出しをしてほしくなかった。
「あー誰か助けてぇー。」
オレがベッドに顔を埋めていたらオレの背中に
「こーいうときには…。」
「お、おもだぃ…。」
「カードの導き。」
「そうだね…で、なんでかいでんのぉ…。」
「素直に。」
「素直に?」
「ん。」
「それだけ…?」
「うん。」
「また当てにならない…がぁど…。ウィズ…重たい…。」
オレの背中に乗っかってたウィズはオレのイスの方に移動。やっとのことで解放された。
「素直にか…。カードの導きもよくわからんな。」
「…。」
「とりあえず、がんばって話してみよう。」
クリスマスまであと6日。
オレは学校に行く。歩いているとオレの前を歩いていた双葉を発見。オレは急いで彼女の元へ。
「おはよー。」
「あ、成世くん、おはよ。」
「今日も寒いね。」
「うん、すっかり冬になったね。」
よっし、いい感じ。このままクリスマスデートの話題に…。
「そーいえばさ、もうすぐクリスマスだね。」
「早いね。」
「それで、双葉、あのさ…。」
「成世くん、危ない。」
「え、えっ、」
オレは前を見てなかったため電柱にぶつかりそうになった。なんて、カッコ悪いんだ。
「大丈夫?」
「ん!大丈夫。」
オレはせっかくのチャンスを逃してしまい…気がつけば学校に到着していた。
教室まで一緒に行ったがそれから先クリスマスデートのことは言えなかった。
席が隣であったにも関わらずオレは何も言えないままー
放課後になった。
今日は双葉は家の用事で先に帰ってしまった。オレは一人トボトボ廊下を歩いていた。すると、オレの横に
「瀬戸くん、どうしたの?元気ないね。」
羽山がやってきた。彼女とは別のクラスだから生徒会室以外で顔を合わせることは少なかった。
「いや…ちょっとね。」
「私でよければ…話聞くよ?」
羽山はオレのことを心配していた。しかし、この悩みはどちらかというと異性より同性のほうがよかった。だから、羽山には申し訳なかったけど大丈夫、元気だよと言ってしまった。
「なんかあったらいつでも言ってね。私たちチームなんだから。」
「ありがとうな。」
「じゃあね。」
羽山は先に行ってしまった。
チーム…。
そういえば、オレたちはチームだった。すっかり忘れていた。設立当初は五人だったチームLotも今や七人になった。個性的な先輩や、頼れる同級生に…オレはみんなに出会えて本当によかったと思っている。
「今度…会長に相談してみよ。」
オレは仕方なく今日は諦めまた別の日に誘ってみることにした。
しかし、オレには余裕なんてなかった。
気がつけばクリスマスまであと3日。
会長に会えないまま、時間だけが進んでいく。このままではクリスマスは一人…。何とかして言わなければとオレは思っていた。
それと、オレは重大なミスを犯していた。
と、いうのものクリスマスまであと3日だがよく考えたら学校で双葉に会えるのは今日しかなかった。
「やばくない…オレ。」
完全にオレは失敗してしまった。もっと早くから言っとけばよかったと後悔した。
「はぁ…どーしょ。」
オレは重いため息をついた。そして、またもや前を見てなかったから人にぶつかってしまった。
「おい、気をつけろよ。」
「す、すみません。」
「…瀬戸?」
「一風先輩…。」
「おまえ、体育祭の時もだったよな。オレにぶつかったの。」
「アハハ…すみません。」
「そんなに考えていることでもあるのか?」
「いや、…大したことではないんですが…。」
「時間あるし、着いてこい。」
オレは一風先輩の後を着いて行った。そこは、小さな庭でテーブルといすが置いてあった。
「こんなところがあるんですね…。」
「あまり、知られてないけどな。」
「場所的に気づかないかもしれないですね。」
「瀬戸、何か飲む?」
「いや、いいですよ。自分で払います。」
「…俺が言ってんだから、ほら、何飲むんだ。」
「え、え…とじゃあ、ココアで。」
一風は一旦校舎の中に入り飲み物を買いに行った。一風は若干キレることも多いが根は普通にいい人だった。飲み物を両手に持って帰ってきた一風はイスに座った。
「で、何に悩んでんだ?」
「えーと…。」
「勉強か?」
「いえ、勉強ではないです。」
「じゃあ、部活か?」
「オレ…帰宅部です。」
「それじゃー家庭か?」
「いえ、それでもないです。」
「…何だよ、早く言えよ。」
また、一風は怒ってしまった。この先輩沸点低すぎとオレは思ったが口に出すと余計怒られてしまうから言わなかった。
「…れ、恋愛です。」
「恋愛?」
「はい…。」
「好きな人でもいんのか?」
「はい。」
「誰?」
「え…と…。」
「彩里はやらんぞ。」
「いえ、それはないです、はい!」
「誰なんだ?」
「双葉…さん。」
「双葉?あーあの、髪の青い子?」
「はい…。」
「それで?」
「それで?」
「いや、だからその子に告白したんかって。」
「…してません。」
「向こうは?両思い?片思い?」
「たぶん…片思い…です。」
「なら、告白しろよ。」
「それが…できないんです。」
「できない?」
「何回も言おうとしたんですが…なんかあと一歩が。クリスマス一緒に過したいって誘ってみようかと思っているんです。それも言えないままで…。」
「要するに…おまえ、ヘタレなんだな。」
「い、一風先輩までそれを言わないでください!」
「やっぱ他の人も言うんだね。」
「はい…。」
「まぁ、告白は勇気いるもんな。」
「はい…。でも、一風先輩は自分の気持ちちゃんと言えてて尊敬しました。」
「俺は…なんて言うか…正直言ったモン勝ちだろ。彩里は副会長してるし普通にかわいいし下手したら他の男が彼女に近寄るだろ?だから、俺は早いうちに自分の気持ち言っておこうと思ってさ。」
「そうなんですね…。」
「あれだろ?双葉っていう子もわりと人気あるだろ?」
「告白現場何回も見てます…それに変な先輩に決闘を申し込まれたこともあります…。」
「あーバスケ部のやつか?」
「知ってんですか!?」
「あいつ、年上年下構わず決闘申し込むやつだからな…。オレも一年の時、勘違いかなんかで決闘申し込まれたことあるし。」
「そうなんですね…ハハハ。」
「とりあえず、モタモタしてたら他の人に取られるぞ。」
「はい…。」
「案外、自分の率直な気持ちを伝えればいいと思うよ。」
「率直な気持ち…。」
一風は残っていた飲み物を全て飲みほしゴミを捨て最後にオレに言った。
「がんばれ。」
「…ありがとうございます!」
オレはがんばって自分の気持ちを伝えようと思った。オレの素直な気持ちを…。きっと、大丈夫。
帰り道、オレは双葉と一緒だった。
これがオレにとっては最後のチャンスになるかもしれなかった。しかし、最初の一言が何も出てこない。出てこないけど言わなきゃ終わってしまう。
「成世くん。」
「どした?」
「あのね、私、この間のテレビで紹介されてたイルミネーション…。」
イルミネーション、それだ!
「蒼。」
「ん?」
「オレも…その、イルミネーション見に行きたい。よかったら、一緒に…行ってくれませんか…?」
オレはやっとやっと言えた。結構プルプル震えてたし自分からなかなか言えなかったけど…これが自分の素直な気持ちだった。
双葉はオレの方を見て、微笑んだ。そして、
「いいよ。」
と、言ってくれた。
「あ、ありがとう!」
オレも笑顔で返した。
無事、自分の気持ちを伝えることができたオレはクリスマスは好きな子と一緒に過ごすことに。クリスマス早く来ないかな。
オレの心はワクワクドキドキしていた。
そして、もう一つオレは考えてたことがある。そう、告白。クリスマスデート?には誘えたが肝心な告白は未だ言えず。
一風先輩が言ってた。「他の人に取られる。」その通りだった。だから、言わなきゃいけなかった。勇気を出して、自分の気持ちを…もう一度…オレに勇気をください。
冬の空に向かってオレは密かにお願いするのだった―。
正逆ラストカード(第1~50話)
自創作「正逆ラストカード」の小説です。
ちまちま更新します。。
詳しくはTwitterをのぞいてくださいな。