僕も嬉しかった

全く持って駄目な日があるように
やること成すこと全部が波に乗る時もある

例えば会社までの通勤時間にただの一度も
信号に引っ掛からなかった、だとか
何かを書きたい衝動だけが先走って結局
"葛藤"と言う名の衝突事故を起こしたりだとか

生きている事すら今の今まで知らなかったのに
頭を撫でる言葉ひとつで"大事"のタグを張り付ける
だから僕も本当はあの時 嬉しかったんだよ
いつか色褪せても切り取って遺すだろうって
それくらいには本物だったよ 確かに

きっと今でも彼は待ってくれているよ
ズルズルと引き摺ったジーンズの裾がどうなるか
君なら分かるでしょう? 今の僕らもそうだよ

大切な人との時間の全てが
大切な訳ではないんだろうけど
愛していたよ 改めて言えなくなる程に


形の崩れたシャツは着心地が良くてさ
例えばそれを恋愛に当て嵌めるなら出会った頃の
照れ臭さ、青臭さがない交ぜの感情はもう既に
ぐちゃぐちゃになっているんだろうね

洗濯機がごうんごうんと身体を揺する音も
朝方、布団の中から聞く卵焼きを作る音も
僕、一人では耳にすることはないだろう

だから僕も本当はあの時 嬉しかったんだよ
塩加減を間違えようが多少なり焦げ付いていようが
子供が出来た後にも話に出したくなる程に
それくらいには美味かったよ
じゃあその時に言えよ、って話しだよな

きっと今でも彼は待ってくれているよ
着古した服を最後はどうするか 人それぞれだろうけど
僕は捨てるんだ ありがとうって言って捨てるんだ

大切な人との時間の全てが
大切な訳ではないんだろうけど
愛していたよ 改めて言えなくなる程に

「いつか生まれ変わっても」なんて
まさか言い合ったりしないよ きっと
愛していたよ 今さら言える程に

僕も嬉しかった

僕も嬉しかった

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-20

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