100歳健康法
孔子曰く「吾、15にして学に志し、30にして立ち、40にして惑わず、50にして天命を知る。60にして耳順(耳にしたがう)、70にして心の欲するところに従って矩(のり)をこえず」
唐の詩人杜甫の詩・曲江(きょっこう)「酒債は尋常行く処に有り 人生七十古来稀なり」
徒然草第7段「命長ければ辱多し。長くとも、四十に足らぬほどにて死なんこそ、めやすかるべけれ。」
明治以前については詳しい統計がなく、人間の寿命がどのくらいであったか定かではありませんが、明治中頃以降の統計からみるとおよそ40歳前後ではなかったかと思います。戦後日本人の平均寿命(0歳児の平均余命)は急速に伸びて、1947年に男性50.06歳、女性53.96歳だったものが、1960年には男性65.32歳、女性70.19歳、そして2015年には男性80.79歳、女性87.05歳となり、今世紀中には女性の平均寿命100歳超えも夢ではなさそうです。
高齢者の定義は65歳以上で年金も満額もらえるようになり、65歳~74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と呼んでいましたが、最近日本老年学会の提言がありました。65歳~74歳を準高齢者、75歳以上を高齢者、90歳以上を超高齢者と呼ぼうと言うのです。65歳~74歳は準ですから高齢者から外れることになります。すぐにではないかも知れませんが年金制度も変わってくるかも知れません。
私は1950年生まれ、その当時の男性の平均寿命(0歳児の平均余命)は60歳弱でしたので、2016年現在66歳となり、すでに平均寿命を超えたことになります。私の父は1895年(明治28年)生まれで1985年に90歳で出血性脳梗塞で亡くなりました。母は1915年(大正4年)生まれで2011年96歳老衰で亡くなりました。その時代に生きた人としては長寿であり、私は長寿の遺伝子を引き継いでいると思われます。
長寿の遺伝子に67年生きて来て経験したこと、それに医学の知識を加えて、ここに100歳まで健康で長生きする秘訣について書くことにしました。私の最初の著作「儲かる舟券の買い方」は読んでも儲からないと不評でしたが、この本を読んで実践すれば100歳まで健康で長生き出来るかどうかと言う実証は33年待って下さい。
健康を考える前に金儲けを考えなさい!
健康を考える前に先立つものは金です。金がなければ食べるものも買えませんし、健康を維持するためのスポーツ、趣味で余暇を過ごす時間も取れません。仕事をして金を稼げるのはサラリーマンですと20台から定年(60~65歳)までの約45年くらいです。平均寿命が伸びて、就業人口の割合が減ってくると、年金機構も破綻しそうで、私も65歳を超えて満額年金をもらっていますが、月に15万もないくらいで、これだけでは余生を安心して過ごすことは出来ません。となると、親の残した遺産に頼るか、働けるうちに貯金をしておくか、金になる資産としてとっておくか、年をとっても働ける仕事を見つけるかです。私の父は知多で運送会社を創立しましたが、65歳くらいの時に大きな運送会社に吸収合併されて引退しました。年金もなかったようで、その後は母が教員免許を持っていたので、代用教員として働き、私たちの学資を出してくれました。父はホンダのスーパーカブに90歳くらいまで乗って、好きな囲碁を打ちに出かけていましたが、小遣いが無くなると蔵の中に貯め込んであった骨董品を売っては作っていました。一番の骨董品は本萱の天地柾の6寸盤とそれに見合う転がりそうな蛤と那智黒の碁石でしたが、300万で売れたそうです。私は母のお蔭で、東海中学・高校を出て、1年浪人して京都大学の理学部に入ることが出来ました。その頃は地球物理学と言う学問に憧れていましたが、学生運動が一番盛んな時で正規の授業が半年なかったのをよいこととして、囲碁部に入って碁ばかり打っていました。母からの仕送りは月に2万円ほどでしたから、下宿代と食費ですぐに消えてしまいました。家庭教師のアルバイトもしていましたが週4回やっても1万円くらいしかもらえませんでした。金がなくなると、生協の素うどん(1杯30円)で1週間くらい凌いだこともありました。3回生になった頃に、母親同士が付き合っていたこともあり、保育園と小学校の同級生の今の女房と半分お見合いをさせられました。女房は県芸の4年生で大学院も進む予定でした。私は3回生と言ってもほとんど単位は取ってなくて、この先卒業まで何年かかるか判らない状態でしたし、後にフィールズ賞をもらい大数学者となった森重文君を見ていて、学問の世界で身を立てることも諦めていましたし、理学部を卒業しても学校の先生くらいしか働き口はありません。そこで、女房との結婚を前提に将来の安定を考えて、高校時代一番嫌いだった医学部への転向を決心しました。医学部は確かに一人前になるのに時間はかかりますが、一度医師免許を取れば、更新制度はありませんし、動ける限り仕事にあぶれることはありません。すでに昔のような3世代、4世代同居と言った大家族制は破綻しており、働くことが出来なくなってから子供に面倒を見てもらう期待は早々に放棄した方がよさそうで老後の計画は自分の責任で立てなければいけません。私は検視立会医として年間数十例の変死体を診ていますが、最近多いのは一人暮らし老人のゴミ屋敷での孤独死です。最後は少なくとも施設に入るくらいのお金は準備しておかなければいけません。
働かずに、頭を使って金を儲ける方法としてギャンブルで儲ける方法を以前から研究しています。公営ギャンブルは競馬、競輪、競艇、オートレースがありますが、公営ギャンブルの還元率は75%と決まっています。出鱈目に買っていれば、25%ずつ損をしていくのが平均である計算となりますが、私は競艇で儲ける方程式を創ろうと思っています。以前フライングして書いた『儲かる舟券の買い方』はその通りに買っていても儲かりません。でも最近はほぼトントンで遊べるようになりました。確実に儲かる方程式が完成したらまた発表したいと思います。
100歳まで長生きするには
100歳まで長生きするのは簡単です。死ななければよいのです。何故死ぬかと言えば、死因があるから死ぬのです。死亡の原因となる死因をひとつずつ取り除いていけば、必然的に長生き出来ることになります。死因は時代によって変わりますが、毎年死因統計が厚生の指標として発表されています。それは死亡診断書・検案書から死亡小票が作られて集められまとめられたものです。平成23年の死因統計を見ると、全年代で見ると、1位悪性新生物(癌)、2位心疾患、3位肺炎、4位脳血管疾患、5位不慮の事故で、3大死因と言われた中から脳血管疾患が順位を下げ、肺炎が3位に上がって来ました。年代ごとに死因を見ると、特徴があります。19歳までは不慮の事故がトップですが、20~39歳までは自殺がトップです。働き盛りになる40歳から89歳までは癌がトップになり、心疾患が2位です。90~99歳までは心疾患がトップで、100歳を超えると老衰となります。それでは死因ごとにそれを予防・克服する方法を考えてみましょう。
君子危うきに近寄らず
20歳までの若い人の死因で多いのは不慮の事故によるものです。それ以外に死ぬ理由がないと言うのが本当のところでしょうが、交通事故や無差別殺人の犠牲になるのは子供か老人が多いのは確かです。昔は戦争で死んだ若者がたくさんいましたが、今の日本ではPKOで派遣されて死んだ自衛隊員も今のところいません。時に治安の悪い国へ行って、紛争に巻き込まれて命を落とす人もいます。自分で無謀運転をすれば自業自得ですが、交通ルールを守っていても飲酒運転や覚醒剤中毒者やスマホをしている運転者により命を落とす人もいます。また想定外の地震や津波で命を落としたり、火山の噴火で命を落とす場合も稀ですがあります。防ぎようのない事故もありますが、防ぐことの出来るもの、想定外でも対応によって命運を分ける場合もあります。いずれにしても危険が想定される場所を出来るだけ避けましょう。
自殺を防ぐには?
自殺は交通事故の5倍以上あり、増加傾向にあります。20~39歳では第1位となり、10~19歳、40~64歳でも5位以内に入っています。以前蒲郡の警察医を10年あまりしていたことがあり、その時に毎年数十例の異常死体の検案をしていました。そんなある年に日本警察医会で蒲郡での自殺例を調べて7年間の統計をまとめた発表をしたことがあります。その時に日本での自殺の頻度は人口10万人対で20人弱でしたが、蒲郡では22人くらいになりました。それは蒲郡が自殺に適した環境が整っているからと考えられました。新幹線、JR在来線と名鉄と言う3本の鉄道があり、毎年のように飛込み自殺がありましたし、海と山があり、入水自殺、山の中での首吊りの場所にも困りません。しかし、自殺の方法で多いのは何と言っても、オーソドックスな首吊りと練炭自殺でした。名鉄が高架化したことで、飛込みの多かった踏切がなくなり、その場所での自殺はなくなりました。方法を減らすことは多少は自殺の減少に役立つかも知れませんが死にたい人は何とか他の方法を見つけるものです。
自殺の動機を見ると、病気を苦にして、あるいは躁うつ病や統合失調症と言った病気そのものが原因であるものが30%ほどを占めていました。うつ状態の時に他人は励ましがちですが、本人にとってはますます責任を感じて落ち込みますので、逆効果です。うつ状態の時には休ませるのが一番です。借金苦や仕事・人間関係の悩みは自殺の動機としてよくありますが、一般に考えられているような失恋を動機として自殺する人はいませんでした。唯一可愛がっていた猫が死んで後追い自殺したケースがありました。
自殺する人はそのサインを周りに出している人がほとんどです。周りの人はそのサインを見逃さず、対応することである程度減らすことが出来ると思います。
働き盛りに多い癌死
悪性新生物(腫瘍)による死は現在死因のトップを占め、3人に一人は悪性新生物で亡くなります。しかも働き盛りの40歳代から多くなるのは社会的にも大きな問題です。日本では以前は胃癌が女性でも男性でも癌死のトップでしたが、生活様式の変化からか欧米で多い大腸癌、肺癌が男女とも増え、女性では乳癌が増えて来ました。2012年の統計で癌の罹患数の多い順は男性では胃癌、大腸癌、肺癌、前立腺癌、肝臓癌、女性では乳癌、大腸癌、胃癌、肺癌、子宮癌です。死亡数の多い順で見ると治りにくい癌は順位が上がり、男性は肺癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、膵臓癌、女性は大腸癌、肺癌、胃癌、膵臓癌、肝臓癌となっています。私はもともと乳腺専門医で乳癌の手術は800例ほどしていますが、乳癌は表面近くに出来る癌で発見しやすく、検診の普及もあって、罹患数では女性の癌のトップですが、早期発見・早期手術で治りやすく死亡数では5位になっています。他の癌もそうですが、今のところ癌を克服するには近藤 誠先生が何と言おうと、早期発見、早期手術しかありません。それ以外の抗癌剤、放射線治療、免疫療法などは補助的治療でしかなく、非科学的な代替医療はまやかし以外の何物でもありません。人間の心は弱いもので、癌ではないと言われたり、手術しなくても治ると言われるとコロッと騙されてしまいます。私も乳癌で代替医療に飛びついて、助かる道を捨てて若死してしまった患者さんを2人見ています。
それでは癌死を防ぐコツはまず、癌化の危険因子(リスクファクター)を減らすこと、例えばタバコは肺癌、胃癌、喉頭癌などの罹患率を高めますのでやめます。職業病として起こる、膀胱癌、胆道癌、悪性中皮腫などもありますが、その原因物質への被爆を減らすことで罹患する危険を減らすことが出来ます。放射線被爆も甲状腺癌の発生に関与している可能性があります。不幸にして発癌してしまったら、早期に見つけて早期に手術で治すことです。それには1年に1回はそれぞれの癌検診を受けて下さい。通常は40代から始めますが、癌の家族歴がある方は30代後半から気をつけた方がよいでしょう。特に、日本人に多い胃癌では診断が難しいスキルス胃癌が問題で、大きな潰瘍を作らないので、胃透視だけでは見逃される危険があります。私の親類や競艇選手でも一番活躍している30代半ばで手遅れになった方を見ています。
心臓死を防ぐには?
3大死因のひとつ、心臓死は何故起こるか考えてみて下さい。感染による心内膜炎や悪性の不整脈による心臓死もありますが、やはりその多くは心臓を栄養する冠状動脈の硬化から狭窄が起こり、狭心症そして心筋梗塞と進み突然死の原因となります。慢性の心不全も死に至らない小さな心筋梗塞が重なって心機能の低下が進行して起こる病態が多いと思います。ただし、心臓死が死因の第二位であると言うのはちょっと眉唾物です。病院で亡くなると死亡診断書が書かれます。その場合、生前に診断されていた病気が原因でなくなれば、その病名が死因として記載されますし、死因が判らないと病理解剖され調べられるケースもあります。しかし、全死亡の約12%はそれ以外の異常死で東京都では監察医が、それ以外のほとんどの道府県では一般の医師が検案に当たります。異常死の解剖率は日本では約11%と欧米に比較して低く、特に東京都以外ではほとんどが専門の監察医ではない一般医師の外表検査によって決められています。異常死の約65%は事故死、自他殺などの外因死以外の病死ですが、最近では現場で検視官から血液と髄液の採取を頼まれます。血液は心筋トロポニンTの簡易検査を行い、陽性だと虚血性心疾患と判断される場合が多いです。髄液は性状を見て、血性であれば脳内出血、クモ膜下出血などの病名がつけられます。しかしどちらも陰性と言う場合が多く、その場合昔は急性心不全と言う病名がつけられることが多く、ある時になるべくその病名をつけないようにと言う通達が出されたことがあります。その翌年の死因統計で心臓死が急に減った年がありました。実際に死因統計で見る頻度よりは少ないと思われます。
それでも重要な死因であることは間違いなく、これを防ぐにはその中で一番多い虚血性心疾患の予防と治療が重要と言うことになります。予防についてはその前段階となるメタボの予防・改善が重要ですが、それについては項を改めて記述します。治療はその原因である冠状動脈の狭窄を手術的に治療することになります。これには近年発達したカテーテル治療が適応となります。バルーン拡張術、ステント留置など行い狭窄を改善します。再狭窄を予防するために抗凝固剤の内服も必要となります。高度の狭窄に対しては直達手術(A-Cバイパス)も行われることがあります。糖尿病と心筋梗塞の重複では心筋梗塞の痛みが糖尿病の神経障害でマスクされることがありますので要注意です。悪性不整脈に対しては抗不整脈剤やペースメーカー埋め込みが行われます。
最近AEDが駅や公共の建物などに備え付けられて、一般の方でもいざと言うときに使うことが出来るようになりました。実際に有効なのは心室細動と言う状態になっている場合で、心臓が止まったすべてのものに有効である訳ではありませんが、助かるものもありますので、やってみることはよいでしょう。操作方法は音声で案内してくれ、適応の判断もしてくれます。
脳卒中とは?
脳卒中とは脳の血管が破綻するか詰まるかによって起こる病気です。血管の破綻の原因は主に脳底動脈輪に出来た動脈瘤の破裂によるクモ膜下出血で、脳卒中死の約10%を占めます。突然の今まで経験したことのない頭痛で発症し、約1/3はそのまま死亡、約1/3は後遺症が残ります。軽い症状が出た時にすぐに病院に行き検査を受けることが必要で、いったん出血が止まっても再出血で命を落とすことがありますので、外科的な治療(動脈瘤のクリッピング)が必要となります。また動脈瘤があるかどうかは、MRIや造影CTなどで判りますので、心配な方は症状がないうちに脳ドックを受けることをお勧めします。外傷性のもので重要なのは慢性硬膜下血種です。頭を強く打った時に側頭骨にひびが入ってその下を走る中硬膜動脈が切れたために少量の出血が持続して血種が徐々に大きくなり、1週間以上経ってから脳圧迫により発症すると言うもので、その頃には打撲したことも忘れていることがあります。また少量の出血でも生命機能の維持に重要な脳幹近くで起こる出血は致命的になることがあります。
血管が詰まる方は脳梗塞の原因となり、梗塞を起こした脳の部位が何処であるかによって症状は違って来ます。これは虚血性心疾患と同様に動脈硬化の進行により起こりますので、その原因となるメタボリックシンドロームの予防が重要となります。また小さな血管の閉塞で起こる脳梗塞は症状がはっきり出ないこともありますが、確実に神経細胞が死滅して減って行きますので、少しずつ認知症が進んだり、活動能力が低下する原因となります。これについては後のニューロペニアと言う章で記述したいと思います。またその場で血管が狭くなるのではなく、心臓から血栓が流れて来て突然詰まる場合もあります。それは心房細動など心臓内に血栓が出来る原因があることが多いので、血栓予防の薬を内服することにより予防出来る場合もあります。
移植医療
全体の寿命が各臓器の寿命によって決まり、生存に不可欠な臓器の寿命が尽きると死に至ります。例えば他の臓器はピンピンしていても心臓が駄目になれば生きてはいけません。そんな時に駄目になった臓器を入れ替えてやれば寿命を延ばすことが出来ると言うのが移植医療の考え方です。オランダや共産圏の国々では亡くなると体は国家財産として移植医療に有効利用すると言う考え方の国もあり、角膜、心臓、肝臓、腎臓など多数の臓器が利用されるケースもあるようです。一方、日本は遺体は個人・遺族のものと言う考え方が根強くあって、ドナーカードを持っていても遺族の反対で出来ないケースが多いようです。心臓移植はもちろん死体から提供を受けるしかないのですが、肝移植や腎移植でも死体からの提供よりも生体移植の方が多いのが現状です。最も抵抗なく行われているのは献血です。輸血も他人の臓器を入れると言う点で立派な移植医療です。ただ、赤血球の寿命は120日ですからそれ以内に自分の赤血球を作る必要があり、急場しのぎであるのは確かです。次に多いのは角膜移植と骨髄移植です。角膜は死体からも取り出しやすいし、栄養液で数日間の保存が出来ますので、角膜の病気で視力が落ちた方には福音です。骨髄移植は造血幹細胞を移植するので、恒久的な造血作用を移植することが出来ます。白血病や再生不良性貧血などの生命に関わる疾患で切り札となる治療であり、これによって救われる命もあります。私が入っているライオンズクラブでも献血、献眼、献腎、骨髄移植を四献(今ではそれに聴覚を加えて五献)と言って、推進運動を展開しています。
100歳でも健康でなければ意味がない!
寝たきりで100歳まで生きても、痴呆症で100歳まで生きても意味はありません。健康な100歳とは身の回りのことが一人で出来て、周りの社会環境とつながりを持つことが出来て、自身も生活をエンジョイ出来、さらに何か人のためになることが出来れば言うことはありません。そういう100歳が身の回りにいるかどうかちょっと探して見て下さい。なかなかいないはずです。でも中には名古屋の金さん・銀さんのように100歳になってもテレビに出てしっかりと受け答えが出来る人もいれば、日野原重明先生のように105歳にしてまだ現役の医師として活躍している方も見えます。どうしたらそうなれるのかを一緒に考えて見ましょう。人間の体は多くの細胞から出来ており、個々の細胞には人間の寿命よりもはるかに短い寿命があります。例えば赤血球は核を持たない酸素の運搬と言う任務に特化した特殊な細胞ですが、出来てから壊れるまで約120日の寿命しかありません。でも壊れるばかりではどんどん貧血になってしまいますので、新しく同じくらい作られて現状が維持している訳です。それは細胞分裂をして新しい細胞を作る機能があるから出来るわけですが、体の中で細胞分裂をしない種類の細胞もあります。神経細胞がその代表で、分裂をせず壊れるだけであれば当然数はどんどん減っていくことになります。CTで脳みそを輪切りにして見てみると、若い人の脳は皺がなくてパンパンですが、年とともに皺が出来て隙間が空いて来ます。それだけ神経細胞が減っている訳です。神経細胞が細胞の中で一方の対極にある訳ですが、その他のいろいろな器官を作る細胞も分裂による新生と死滅のバランスでその器官の担う能力の低下が進むことになります。肝臓などは再生能力の強い細胞から出来ており、半分肝臓を取ってしまっても2週間後には容積で3/4くらいまで回復します。でもウィルス性の肝炎や薬剤性の肝炎、アルコール性の肝炎などで広範に障害を受けると再起不能の状態となることもあります。肺などもタバコや粉塵による被ばく、あるいは有機溶剤による被ばくで荒廃してしまい再起不能となることもあります。いろいろな臓器機能を100歳まで維持するためにはそれなりに臓器保護に気をつけなければいけません。特にメタボリックシンドロームで起こりやすい糖尿病は腎臓、眼、神経の機能に悪影響を与えますので、まずメタボの改善は最重要課題だと思って下さい。それでも各臓器には相当大きな余裕があり、特に左右1対ある臓器では片方の機能が全廃しても(片方を手術で取ってしまっても)まだ生きていくのに十分な余裕があります。
生命維持に不可欠な臓器の機能が保たれていても、年を取ると筋肉量、骨量、神経細胞の量が減って、活動能力は徐々に低下して行きます。その減少速度を遅らせることが健康な100歳を迎えるためには必要です。この3つの減少をトリプルペニアとして後の章でまとめます。
8020運動
80歳まで自分の歯を20本以上持つと言うのが理想で8020運動と言われています。歯は食事を嚙み砕いて、消化吸収を受けやすくする働きがありますので、歯が悪いあるいは歯がないと、消化吸収が悪くなり、栄養摂取に問題が出て来ます。鮫は歯が内側からどんどん生え変わる仕組みになっていますが、人間は乳歯と永久歯の2回しか生え変わりません。乳歯も虫歯などで早く抜けてしまうと、永久歯の歯並びが悪くなり、永久歯の維持に支障が出る場合がありますので、子供の頃には虫歯予防のための歯磨きが重要です。また50~60歳代になると歯槽膿漏により一気に歯を失う場合があります。これは食物残渣が残り歯垢となって、細菌が繁殖し、歯周炎を起こすのが原因です。固いものを噛むと痛みのある方、リンゴなどを噛むと血の出る方は危険信号です。歯垢を落とすような歯磨きで予防する必要があります。年をとると歯に隙間が出来て来て歯の間にも溜まりやすくなりますので、歯間ブラシ、糸ようじなどが有効です。
メタボリックシンドロームとは?
悪い生活習慣によって起こるメタボリックシンドロームと言う概念があります。「メタボリックシンドローム」は、「内臓脂肪症候群」とも呼ばれ、複数の病気や異常が重なっている状態を表します。どういう状態かというと、腸のまわり、または腹腔内にたまる「内臓脂肪の蓄積」によって、高血圧や糖尿病、脂質異常症(高脂血症)などの生活習慣病の重なりが起こっていることを示しています。
そして、この状態は、心筋梗塞や脳梗塞の原因となる動脈硬化を急速に進行させてしまいます。つまり、それぞれの病気の診断基準を満たさない“予備群”や“軽症”の状態であっても、それらが2つ3つと複数重なっている場合は、動脈硬化の進行予防という観点から“すでに手を打たなければならない状態”として捉える、ということが「メタボリックシンドローム」の考え方なのです。平成17年4月、メタボリックシンドローム診断基準検討委員会(松澤佑次委員長)により策定された診断基準では、腹囲が基準値(男性で85cm、女性で90cm)をオーバーし、加えて、以下の血清脂質、血圧、血糖のうち、2つ以上に異常値があれば「メタボリックシンドローム」とされます。もし、腹囲が基準値以下であっても、内臓脂肪面積が100c㎡以上の人もいますので、正確な状態を知る際には腹部CTスキャンで測定を行います。年に一度は健康診断を受け、ご自身の健康状態を正しく把握しておくことは、とても大切です。
メタボリックシンドロームにすでに陥ってしまった方、予備軍の方、すぐに手を打って下さい。腹囲が基準となっていますが、これは身長によっても変わりますので、簡単に判断するには身長から算出する標準体重を目安にした方がよいでしょう。それには(身長ー100)✖0.9で算出するのが簡単です。その標準体重±10%以内におさまるように体重を調整しましょう。体重の増減は摂取カロリーと消費カロリーのバランスで起こりますので、食事の内容を考えて摂取カロリーを減らすか、運動をして消費カロリーを増やすかどちらかあるいはその両方です。
何を隠そう、かく言う私も腹囲91cm、高血圧で薬を飲み、コレステロール・中性脂肪が高いと言う立派なメタボで、私自身への戒めとしたいと思います。
トリプルペニアを防げ!
ペニアとは減少することです。減少してQOL(生活の質)が低下するものが3つあります。骨と筋肉と神経細胞です。オステオペニア、サルコペニア、ニューロペニアと呼びます。オステオは骨のこと、サルコは筋肉、ニューロは神経のことです。骨量が減少すると、骨粗鬆症となり、骨がもろくなります。年寄りが尻餅をついて大腿骨頸部骨折を起こしたり、腰椎の圧迫骨折を起こして背骨が曲がったりすることはよくあります。筋肉量が減少すると今まで出来ていたことが出来なくなります。サルコペニアのためにせっかく開業したのに仕事が出来なくなって廃業してしまった私よりも若いお医者さんもいます。神経細胞が減少すると物忘れがひどくなったり、反射も鈍くなり、運動機能が低下します。通常の老化よりも早く起こるのが若年性アルツハイマー病です。このひとつずつを章を分けて解説しましょう。
オステオペニア(骨粗鬆症)を防ぐには?
骨量が減少した状態が骨粗鬆症で、骨がカスカスの脆くなった状態で、少しの外力で骨折を起こします。年寄りが尻餅をつくと起きるのが大腿骨頸部骨折で、歩けなくなりそのまま寝たきりになる場合もあります。年寄りの背中が丸くなり、身長がだんだん縮んで来るのは、いつの間にか骨折で脊椎の圧迫骨折が起こるためです。骨は硬くて変化しないものと考えている方が多いと思いますが、実は破骨細胞が絶えず骨を壊し、造骨細胞が絶えず骨を造っていて、そのバランスの上に骨が維持されているのです。骨を造る刺激はその骨にある程度以上の荷重がかかることが必要で、極端な例を挙げると、宇宙飛行士が無重力の状態に長くさらされるとどんどん骨が弱くなります。1か月宇宙旅行をして帰ってくると地上では立てないほどに骨量が減少してしまいます。ですから丈夫にしたい骨にはある程度荷重がかかるように運動をすることが肝要です。それと骨の材料となるカルシウムやリンを摂取すること、またカルシウムの骨への沈着を促進する活性型ビタミンDを多くするために日に当たることも重要です。顎の骨などはある程度固いものも噛んでいないと弱くなります。その意味でも歯の健康を保つことは重要です。
私は過去に2回ほど骨折を起こしたことがあります。一度は高校2年の時に陸上競技部でハードルの練習をしていて、着地の瞬間に左踵の骨折をしました。もう1回はオートバイでダンプに突っ込んだ時で、この時は右尺骨と下顎骨の骨折でした。これらはいずれも外傷による骨折で病的骨折ではありません。骨量の減少による骨折を病的骨折と呼びます。
サルコペニアを防ぐには?
サルコペニアはサルコ(筋肉)ペニア(減少)のことで、筋肉量の減少による筋力の低下によって活動能力が低下することです。主に年とともに運動能力が低下していくのはサルコペニアが原因です。筋肉も神経細胞同様に分裂しない細胞ですので、数が増えることは期待出来ませんが、訓練によって1本1本の筋細胞(線維)が肥大することにより、筋肉量を増やすことが出来ます。筋肉量の減少を判断するのに最もよい指標は椅子から片足で立ち上がることが出来るかどうかで、40歳代の平均では40cmの高さの椅子から片足で立ち上がることが出来ます。うちの祖母は88歳になりますが、最近椅子から両足で立ち上がるのにも苦労するくらいにサルコペニアが進行していて、家族は大変です。筋肉量を増やすには負荷をかけた筋力トレーニングとプロテインの摂取(特にアルギニンの多いものがよい)で、トレーニングして年によらず筋肉ムキムキの人も時々見かけます。普通の日常生活の中で、筋肉量を維持するにはどうすればよいかと言うので、最近注目されているのはIGF-1と言う筋肉若返りホルモンの分泌です。これは食事をすると肝臓で作られて、血流を介して筋肉内に流れて行き、IGF-1が多い状態で筋肉を使うとより筋肉が肥大することが判って来ました。そのために時間をかけて食事を食べると血糖の上昇が少なく、IGF-1の分泌量が増えるそうです。従って、卵・肉類・大豆製品などタンパク質の多い食事内容と30分以上時間をかけて食事を摂ると言う食事習慣の改善が重要です。
ニューロペニア(認知症)を防ぐには?
神経細胞は体の他の細胞と違い、再生しないので、生まれてから死ぬまで数が減るばかりだと言われています。脳の神経細胞はその部位により、知覚に関与する細胞、運動に関与する細胞、記憶に関与する部位、言語能力に関する部位など分担を決めています。また脳を栄養する動脈は終末動脈と言って、バイパス血管がないことが多く、ある血管が詰まるとその先の神経細胞が死んでしまいます。神経細胞の減少はそのような小さな脳梗塞が積もって起こる訳です。大きな血管が詰まるような脳梗塞ではその前後で明らかな変化が認められますので、周りの人も気づくことが多い訳ですが、小さな脳梗塞は見逃されてしまうこともよくあります。人の名前が出て来ない、お釣りの計算が出来ないなどは認知症の始まりかも知れません。知覚神経では視力、聴力の低下もありますが、最初に起こるのは味覚が判らなくなり、調味料を間違えることがよくあります。それでは認知症の予防はどうすればよいかですが、神経細胞の減少はある程度やむを得ないことですが、まだ使っていない神経細胞はたくさん残っていますので、それを使えるようにすることが重要です。具体的には脳トレーニングです。考えることと脳を何かで使って刺激することです。私の父は90歳で出血性脳梗塞で亡くなりましたが、死ぬ3日前までは囲碁が好きでよく頭を使っていましたので、ボケてはいませんでした。手足を使った軽い持久運動もニューロペニアを防ぐ効果があるそうです。
嗜好品と趣味、薬物中毒
嗜好品とは、人間が生きていくために必ずしも必要なものではないが、それを摂取することにより、多幸感や鎮静感が得られるもので、酒とタバコを通常嗜好品と呼んでいます。嗜好品でも健康に害を及ぼしたり、社会的に有害なものは摂取すべきではありません。嗜好品についての私の個人的な見解を述べます。まず、酒ですが、人によってアルコールを代謝する酵素量が違い、アルコールの代謝速度は違いますので、体質により全く受け付けない人もいます。酒に強い人でも多量摂取をして急性アルコール中毒になったり、また通常一日3合×10年で慢性膵炎になったり、アルコール性肝障害を惹起したりしますし、弱い人だと少量でも酩酊状態が長く続き、飲酒運転で事故を起こしたりすることがあります。しかし、酒好きの私はそれで禁酒すべきだと言う結論は出しません。一時、世界最年長男性としてギネスにも載ったことのある沖縄県の泉重千代翁は戸籍の間違いで最年長ではなかったのですが、100歳を超える長寿であったことは間違いないようです。泉翁は毎日少量の泡盛を嗜んでいたそうです。酒も飲み方を間違えなければ百薬の長となります。正しい飲み方とは、週に1、2回休肝日を作ること、飲み過ぎないこと、アルコール度数の高い酒(ウィスキー、焼酎、泡盛など)は割って飲むこと、痛風のある方はビール以外の酒にすること、ウコンなどを前もって飲んでおくことと言った注意事項を守れば何の問題もありません。それに対してタバコは百害あって一利なしです。即禁煙すべきです。タバコはほとんどすべての癌の頻度を高めますし、足の動脈閉塞を起こすバージャー病の原因になったりします。またその習慣性はニコチン中毒であり、他の薬物中毒と大差はありません。受動喫煙によって他人にも被害が及ぶと言うのも問題です。麻薬、覚醒剤、興奮剤などの薬物も幻覚や一時的多幸感はあっても、決して健康によいものはなく、一度間違って手を出すと、その強い中毒性と習慣性で虜となって、破滅への道を突き進みます。大麻、マリファナは国によっては嗜好品として認められているところがあり、海外で経験した人が国内に持ち込んだりして、最近大麻の解禁を訴える人がいますが、これも健康によいとは決して言えず、やはり薬物中毒の一種だと思います。
多幸感や達成感は嗜好品や薬物に頼らなくても得られるものです。例えばマラソンやトライアスロンのような持久系競技は脳内麻薬とも言われるエンドルフィンの分泌を促して、多幸感が得られると言われています。
100歳で人生を楽しむには?
幸運にして、100歳まで死ぬ病気にかからず、トリプルペニアの進行も抑えることの出来た貴方、せっかく長生き出来たのですから人生を楽しみましょう。時々、40歳くらいの年の差婚をする方が見えますが、そう言う方はとても元気です。長生きだから若い奥さんをもらうのか、若い奥さんをもらうから元気で長生きなのかどちらでしょう?私はどちらもあり得ると思います。女性にしてもその他の趣味にしてもいろいろなことに興味を持って貪欲な人は長生きするのではないかと思います。仕事だけが趣味で他に何も趣味がない人が定年を迎えて、仕事がなくなるとテレビの番だけで急速に老けて早死にしてしまったと言うケースはよく目にします。いきなり定年後に新しい趣味を見つけるのは大変ですからフルタイムで働いているうちから時間をうまくやりくりして趣味を見つけて楽しみましょう。
♂と♀の違い
男女で平均寿命には差があり、いつの時代を見ても男より女の方が長生きしています。何故でしょう?男は外で働き、女は家庭を守ると言う構図は女性の社会進出とともに、差が少なくなって来ていますが、どうにもならない違いは女性は妊娠出産をする機能を持ち、男性は精子を提供するだけです。♀の寿命が長いのは人間だけではありません。多くの昆虫では♂は交尾して精子を渡せば用済みとなり、カマキリのように酷い場合は♀に食べられてしまうものもいます。蝶でもほとんどが♀の方が長生きします。人間に話を戻すと、2015年のデータでは女性の方が6.26歳平均寿命が長く、夫婦はだいたい男性が女性より2歳ほど年上が多いので、男性が平均先に死んで、女性は平均8年あまりの老後を一人で過ごすことになります。私の場合は同級生結婚ですから、そんなに差はなく、しかも私の方が長寿の遺伝子を引き継いでいますので、女房に先立たれることを心配しています。女房は50台で乳癌が見つかり、2度の手術と抗がん剤治療でもう10年経ちますので、乗り切ったと思っていますが、最近サルコペニアとオステオペニアが進行しているようですので、毎日もっと体を動かすように励ましています。
高齢者事故の増加
子供と高齢者は交通事故の犠牲になることが多いのは昔からですが、最近高齢ドライバーの起こす事故が問題となっています。ブレーキとアクセルの踏み間違い、自動車専用道での逆走など、常識では考えられないミスを起こすのが高齢ドライバー事故の特徴です。その原因を突き詰めて行くとやはりニューロペニアが元になっているようです。咄嗟の反射機能の低下、判断力の低下を引き起こし、それが運転ミスにつながります。高齢者の一人暮らしが増えて来たと言う社会環境の変化も関係しているかも知れません。昔ならば大家族で高齢者が運転しなくてもアッシー君がいくらでもいたのですが、今は高齢者が運転をしなければならない生活環境が増えているからです。
最近高齢ドライバーの事故増加を受けて、免許更新制度も少し変わりました。運転免許証の更新期間満了の日の年齢が70歳以上の方が運転免許の更新を希望する場合は、「高齢者講習・シニア運転者講習・チャレンジ講習+特定任意運転者講習(簡易講習)」のいずれかの講習を受講しなければ運転免許の更新が出来ません。しかし、運転免許証の返納はあくまで自発的なものです。私ももうじき70歳に達します。どうなったら運転免許を返納すべきなのか、その時が来て判断できるか、あるいは暴走爺さんとなるのかまだ予測がつきません。
老衰とは?
90歳以上の超高齢者の死因の第一位は老衰となっています。しかし、老衰と言う病気はありません。死亡診断書で老衰と書かれたためにあたかも老衰と言う病気があるように思ってしまいますが、癌であるとか、心筋梗塞であるとか、クモ膜下出血であるとかはっきり死因となる病名が判れば当然そのように書かれますが、特定の臓器が生命の維持に差し支えるほど障害されていなくても全体が徐々に機能低下が起こり、食欲も落ちて栄養状態も悪く、貧血も進行した超高齢者ではちょっとした風邪などでも生命の危機が訪れる場合があります。そう言うケースでは風邪で死んだと言うよりは老衰で亡くなったと言う方が一般受けがします。それが老衰と言う死因病名が使われる大きな理由です。
老衰の例をふたつ挙げましょう。一人目は女房の祖母の多仁子おばあさんです。90歳を超えても足腰は丈夫でひ孫の守りや洗濯物をたたんだりはおばあさんの役でした。96歳を超えたある時に風邪をひいて普段は置き薬の改源くらいしか飲んだことがなかったのですが、病院でもらった風邪薬を飲んだら下血が始まりました。その頃私は蒲郡市民病院へ外科部長として赴任したばかりでしたが、多分強い薬のせいで潰瘍か何かが出来て出血したのだろうと考えて、病院で点滴をして治療をすればよくなるよと話して入院をすすめたのですが、本人が頑として拒否しました。しかたなく家で診ていましたが、3日間くらいで眠るように亡くなりました。本人も覚悟の上で、夫の純一おじいさんは62歳の若さで亡くなっていましたから、孫もひ孫も見て亡くなったのは満足な人生だったのでしょう。
もう1例は最近m3ニュースで入って来ました。1月29日、84歳で老衰で亡くなった小沢高将名古屋大学名誉教授(生化学)です。小澤名誉教授は私が名大の学生だったころ、40歳代で、生化学の八木教授の元で助教授をされており、ミトコンドリアと老化の研究で飛ぶ鳥を落とす勢いでした。学生とともにスポーツに興じたり、私がその頃創った医学部囲碁同好会で碁を打っていたらやってきて碁を打ったりといつ見ても若々しい先生でしたので、老衰で亡くなったと聞くとえっと思ってしまいました。
理想の高齢者スポーツ、トライアスロン!
私は、35歳くらいからトライアスロンを始めて、まだ現役で大会に出ています。始めた頃は、日本にトライアスロンと言うスポーツが入って来たばかりで、体力の限界に挑む無謀なチャレンジで物好きのする耐久競技であると言う認識が一般的でした。その後、51.5kmのショートタイプが定着し、オリンピックや国体の種目にも取り上げられ、子供から高齢者まで楽しむことの出来るスポーツとなりました。ご存知のように、水泳、自転車、マラソンの3種目を続けて行う競技で、その3種目はいずれも持久系の競技であり、心肺機能の維持には持って来いで、しかもそれぞれで使う筋肉が違うので、全身の筋肉を維持することが出来ると言う優れたスポーツです。国体やオリンピックを目指す選手は別として、一般の大会で完走を目標にする分には、無理をせずに、日常生活の中でそれらの運動を取り入れることで十分に目標は達成出来ます。かく言う私も普段は真剣にトレーニングすることなく、51.5kmのトライアスロンならば、制限時間内に楽に完走することが出来ます。トリプルペニアを防ぎ、生きるためのエンジンである心肺機能を保つのにまさしく理想のスポーツと言ってもよいと思います。ただし、大会に出て最初の水泳ではバトルに巻き込まれないように(毎年のようにスイムでの死亡事故が起きています)、決して無理をしない心構えが重要です。
100歳以後は?
今世紀中には恐らく女性の平均寿命は100歳近くまで伸びるだろうと思います。100歳まで健康で長生き出来たとして、哀しいかな、いつまでもそれが続く訳ではありません。理想的にはピンピンコロリで本人も意識しないうちに突然死が訪れることですが、そううまく行くとは限りません。平均的には、自分の身の回りのことが出来なくなり、介護が必要になる期間は約9年間と言われています。いまだ、日本の福祉行政は誰でも平等にその期間の介護を受けるまでに進んではいません。昔の大家族制の中では、3世代同居が当たり前で、祖父母の面倒を子や孫が見るのが普通でした。今は核家族化して、子供も成人すると出て行って戻って来ないのが普通で、よほどの田舎でなければ大家族などありません。一人暮らし老人の孤独死、老々介護の末の共倒れなどフリーランスの監察医をしている私はこの眼で数え切れないくらい見て来ています。この解決策はみっつあります。一つ目は、教育・道徳を教え、子供は20年間は親の世話を受けて大きくなる訳ですから、親が動けなくなって困ったら恩返しをすると言う当たり前のことを浸透させるのです。これは言ってみれば大家族制の復活となる訳ですが、なかなか時代に逆行するようで難しいことは確かです。二つ目は税金で負担して誰もが年を取れば国が面倒を見るような社会福祉を充実させることです。三つ目は最初にお金を儲けなさいと言ったように、若い元気なうちに老後の蓄えをしておくことです。それは年金や保険の考えにも通じることです。
100歳健康法
蒲郡の眼科医療器メーカー、ニデックの初代社長、小澤秀雄氏はトライアスロンを支援してくれて、トライアスロンがオリンピック種目として初めて取り上げられたシドニーに同社の細谷はるな選手が出場しましたので、一緒に応援に行きました。その頃ニデックはバイオ技術にも進出を始めた頃で、小澤氏は人間は臓器を古くなったら取り換えれば200歳まで生きられると息巻いていました。小澤氏は蒲郡商工会議所の会頭を務め、亡くなったのはその9年後の2009年で、79歳でした。死因は心筋梗塞と言われていますので、確かに臓器移植をすればもっと長生き出来たかも知れません。臓器移植などと言う奥の手を使わなくても、100歳までならこの本を読んで、それまでの生活の仕方を正しく修正すれば健康で長生き出来ると信じています。