デネブ
もともとどんな貌だったかも
思い出せないほど霞んでしまっているけど
根付いた感覚がもう何かを掴んで離さないよ
強く抱いたはずの信念を指先ひとつで撃ち砕いて
笑ったのはいいんだけど
笑われたのは気分が悪くて
なんだかなイラッとくんな
隣の頭を軽く叩いた
感情の在り方なんか
ロクに知らないけど
今は知らないでいいや
手を繋げればいいや
想い出の在り処なんて
僕はまだ知らないけど
いつか語れるのなら
それでいいや
それだけでいいや
横で意地悪な顔をした君は言葉を
包み隠さず裸のまま何も纏わずに
至近距離で放り投げる
余りの怖さに僕は思わず目を逸らして
また頭を叩く
何か話そう
そう呟いた君を
僕はただ厭と言って
愛しさを寝かしにかかる
そのままどうか
夢の中でどうか
全て叶っていたら
もう全部いいのにな
まあでもそうか
そんなに簡単にはいかないわな
喜びの酷さなんか
僕らはまだ知らないけど
今は知らないでいいや
本当にそうかな
哀しみの対価なんて
いつも払っているよ
それを君は知らないまま
それがいいや
それだけでいいや
ひとつ欠けたお月様が
淡く魅せたコントラストに
描いた神秘的なものに
僕ら身震いしながらこの世界を
ひと摑みして握り潰した
いつかはきっと
燦爛と輝くクラゲみたいな街
見下ろした嘘みたいなファンタジー
強がった癖に震え出して
バカみたいに目立ったふたつの影
いつかはきっと
心の中で僕は
君をまた呪ってるよ
だけど厭なほど想ってるよ
本当に呪われているって
言葉の掃き溜めなんか
どうせ此処しかないんだなって
わかってるって
思ってたって
君の記憶なんて
いつかは消えちゃうけど
今はあるからいいや
次を考えたくないや
君の香りなんて
もうすぐ無くなっちゃうけど
今夜はまだとか思ってるな
とてもとても気持ち悪いな
僕らの終わりなんて
ぼやけて見えて怖いけど
いつかはハッキリと
見えるならいいや
気持ちの置き場なんか
なくたって良かったのに
今はあるからいいや
捧げられたらいいや
奪ってくれればいいや
それでいいや
それだけでいいや
デネブ