狭間

 昔から扉が怖かった。
 扉を開くと必ず、自分が今いる世界と異なる世界が広がっているのだ。
 開かれたドアの端から次第に明らかになっていく全貌、そこにある未知の世界。

 扉の先の世界には出刃包丁を持った男が立っているかもしれないし、そこにあるのは死体かもしれない。友人らがこぞって私の悪口を言っているかもしれないし、そこにあるのはうなだれた母親の姿かもしれない。

 こうした予想は私が扉を開けることを躊躇わせる。そうして、その一瞬の躊躇いに素知らぬ顔をして扉を開くことが、私の身体と中身を引きはがすことになるのだった。目の前で急速に開かれてゆく世界に追いつけない私の中身は、両の世界の狭間に置き去りにされてしまうことがよくあった。

 次にすることは急ぐことである。扉が閉まり、私が分断される前に、中身は身体に追いつく必要があった。本来これらは離れてはいけないものである。誰にも気づかれずに、私にさえも気付かれずに隙間を埋める必要があった。私の中身は、そのことをとても滑稽だと感じているようだったが、私は、本当に滑稽なのは私を挟む両の世界だと思っていた。

狭間

古いHDからサルベージされました。2013年の4月に書いたものですってよ。
どんなふうに表示されるのかテストがてらあげてみました。

狭間

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-17

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