デジタル環境での日本語入力にまつわるちょっとマニアックな話

 『仕事力を高めるデジタル文章術』(河口鴻三、日本経済新聞出版社)を読んだのをきっかけに、最近考えたことや行なったことを書いてみます。といっても、書評ではありません。
 日本語とITに関する少々マニアックな内容ですので、適宜、ググるなり流し読みするなりしてくださいませ。

■手書き派? キーボード派?

 突然ですが、この星空文庫に投稿するような文章を書くとき、あなたは紙とペンで書きますか? それとも最初からPCなどにキーボードで入力しますか?
 僕は昔から手書き派です。学生時代はルーズリーフにシャーペンという組み合わせが常だったため、授業以外で何らかの文章を書くときにもそれらを使うのが自然な流れでした。それに、言葉をひねり出すのにかかる時間が手書きのスピードにちょうど合っていたという事情もありました。
 社会人になってからも、趣味で文章を書くときにはルーズリーフを使い続けて今に至ります。

■デジタル×日本語の由々しき問題

 もし僕の母語が英語だったなら、何の問題もなくいきなりキーボード入力をしていたことでしょう。英語であればキーを打つ端から文が紡がれていくからです。
 ところが日本語の場合、(1)いったんひらがなを入力し、(2)漢字に変換する、という手順を踏まなければなりません。この(1)の段階では文章を考えていられるのですが、(2)の時点ではどの漢字を当てるかに意識を向けなければならず、思考が遮られてしまいます。こうして脳の中で頻繁なタスクの切り替えが発生するため、どうにも文章作成に集中できないのです。
 それで、(ある意味仕方なく)手間暇かけて手書きをしてきました。

 ――こんな愚痴を以前、唯一の物書き仲間に話したことがあるのですが、その方も僕の意見に賛同してくださいました。(世間にはいきなりキーボードを叩くというプロの物書きも多いみたいですけど……。) 結局そのときは問題の共有ができただけで、解決策を見つけようという発想には至らなかったと記憶しています。

 そして月日は流れ……。
 最近、『仕事力を高めるデジタル文章術』を読んだところ、この問題が文章としてうまく表現されているのを発見しました。以下、一部引用してみます。

「たとえていえば、英語の入力は1階建ての建物ですむのですが、日本語の場合は2階建ての建物のイメージです。
 まずキーを打って読み方を入力するのが1階。それがすむとすぐ、文章の横に点線がついている状態になります。これが、2階にある日本語の複雑な表記スペースに行くための踊り場になっています。その段階では、ユーザーが表記を選び、決定します。これでよしとなってエンターキーを押せば、めでたく2階の漢字かなまじり文の世界に移動できることになります。」

 更に読み進めていくと、面白い着眼点で変化ミス問題の本質を突いている箇所がありました。(著者が注目している問題点はむしろこっちです。)
「どうもワープロのプログラミングをするプロの人たちは、長い文章を一気に入力されても、文脈やユーザーのクセをすばやく判断する競争に集中しているようで、ユーザーに少し努力をさせてプログラムを簡素化して精度を上げようという発想はあまりないようなのです。」

 うむ、確かに。技術畑出身の自分としては少々耳の痛い指摘でもあります。

 同書のつづく章では、漢字変換につきものの問題とその解決策がいくつか提案されています。たとえば、分かち書きで入力する方法。文節ごとにかな漢字変換を行なうことにより、変換ミスを減らすことができます。(ちなみに僕は、やたら長い文が予測変換で現われるのが嫌という理由もあり、もう何年も文節ごとの変換を実践してきました。)
 でも、そんなことをしなくても、著者が書いているとおり「ユーザーに少し努力をさせてプログラムを簡素化して精度を上げ」るような日本語入力システムを使えばいいのではないでしょうか?
 この書籍を読んだ僕は、大昔(学生時代)に概略だけ聞いて存在を知っていた、とある日本語入力メソッドの存在を思い出しました。文章を入力する側である人間が漢字かひらがなかなどを指定してやることによって、コンピュータの変換作業を補助することのできるIME……その名もSKKです。

■SKKとは

 Wikipediaの解説もいいのですが、ことSKKに関する限り、ニコニコ大百科の説明が一番分かりやすくて面白いと思います。
    SKKとは http://dic.nicovideo.jp/a/skk
 読んでいただくと分かるとおり、かなり特殊な入力方法です。また、デメリットとして「SKKに慣れると他のシステムにも全部SKKをインストールしたくなる」なんて書かれていたので、当時は試しに使ってみることすらしなかったのでした。

■日本語入力環境をアップグレード!

 SKKを使えば、手書きで下書きをしなくても、文章を考えながら直接パソコンに入力できるかもしれない。そう考えて、今更ながらSKKを導入してみることにしました。
 SKKの実装にはいくつか種類があるようですが、その中からWindows対応で開発継続中のSKK日本語入力FEPを選択。
 やはり使い始めの頃はかなり戸惑い、慣れるまで時間がかかりました。特に、一文を一気にガチャガチャと入力できないのがもどかしかったです。
 が、一ヶ月あまり使い続けて大方のキーバインドを修得した今では、結構快適に入力・変換できるようになりました。むしろ、他のIMEを使うと「ひらがなのままで変換不要なのに何故いちいちエンターキーを押さないといけないのか」なんてフラストレーションが溜まる始末です(笑)

■物書きにとってのメリット・デメリット

 使っていて気付いたことのうち、解説記事には載っていない点を。
 まず、ユーザーが漢字かカタカナかひらがなかなどを入力時に指定するので、特定の言葉の表記を書き分けるのが楽です。例えば創作系の文章だと、人物によって語彙が異なるため、表記も違ってくることがあります。僕が『無剣の騎士』とは別に書いている二次創作では、主人公を君付けで呼ぶキャラが複数いて、それぞれ「○○君」「○○クン」と使い分けています。(これだけでも、主人公とどういう関係なのかというニュアンスがある程度伝わるものと思っています。) これがSKK以外のIMEだと第一変換候補が毎回入れ替わったりして煩わしいものです。それなら最初から表記を指定できるほうがストレスフリーだと僕は思います。
 逆にデメリットとしては、知らない漢字との偶然の出会いが減る可能性があるという点です。『無剣の騎士』第2話 scene.11に「うずめた」という言葉が出てくるのですが、Google日本語入力は「埋めた」と変換してくれました。恥ずかしながら、この漢字を当てるとはその時まで知りませんでした。もしその時点でSKKを使っていたら、僕はひらがなのままで入力していたでしょうから、そんな漢字表記に出会うこともなかったはずです。……要するに、もっと日本語を勉強しなさいということですね、ハイ。

■残りの課題は……

 SKKではShiftキーを多用するため、長時間キーボードを叩いていると小指が痛くなってきます……。もともと僕はemacs使いなので(最近では正確にはxyzzy使い)、Ctrlキーを小指で押しまくる操作には慣れているのですが、CtrlキーよりShiftキーを押す頻度のほうが圧倒的に高い気がします。
 加えて、左右どちらのShiftキーを押そうかと一瞬迷うのがちょっとしたストレスです。長年愛用している HH Keybord Lite2 ではCtrlキーがAキーの左隣にしかなく、Ctrlキーは必ず左手の小指で押します。ならばShiftキーは右側で統一したほうがいいのかなぁ、なんて考えたりしています。(SKKではShiftの代わりにスペースキーを使う方法もあるようですが、まだ試していません。)


 というわけで、この文章はSKK日本語入力FEPを使用して下書きなしでPCに入力してみました。(もちろん推敲はしましたが。)
 内容が全然違うので単純な比較はできませんが、ラノベっぽい小説(のつもりで書いている)『無剣の騎士』と比べてこのエッセイの文体はいかがだったでしょうか?

■後日追記

その1. CorvusSKK に乗り換えました。
その2. 第2弾、書けました → 『デジタル環境での日本語入力にまつわるもっとマニアックな話』 (https://slib.net/84531)

デジタル環境での日本語入力にまつわるちょっとマニアックな話

参考文献:河口鴻三、仕事力を高めるデジタル文章術、日本経済新聞出版社

引用部分以外にも興味深い話題が満載なのでお勧めです。

デジタル環境での日本語入力にまつわるちょっとマニアックな話

文学と技術が交差する時、自分語りが始まる――!!

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-16

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. ■手書き派? キーボード派?
  2. ■デジタル×日本語の由々しき問題
  3. ■SKKとは
  4. ■日本語入力環境をアップグレード!
  5. ■物書きにとってのメリット・デメリット
  6. ■残りの課題は……
  7. ■後日追記