応援団長の涙
応援団長の涙
応援団長の涙
「せーの。団長、ありがとう」
六月中旬、体育祭があった。体育祭終了後、応援団は自主的に団別解散式を行う。「せーのー」の掛け声に続いて、団員全員「団長、ありがとう」の声が響いた。団長は後ろ向きになり、体操服の裾で顔を被った。再び団員全員の声が響いた。
「団長、ありがとう」
団長は何か言おうとして正面を向いたが、言葉にならず、再び体操服の裾で顔を被った。身体を震わせていた。団長は顔をくちゃくちゃにしながらも、意を決し正面を向いて言った。
「みんな、短い期間やったけど、ほんまにありがとう。いらいらしていたこともあったし、厳しいことも言ったし、練習もきつかったと思うけど、ようついて来てくれて、ありがとう。こんな頼んない団長やったけど、みんなと一緒にやってきて、一生の思い出が出来て、ほんまによかった。最高やった。一年生は後二回ある、二年生は来年が最後の体育祭となる、この中から団長、副団長、パートリーダーが出てきて欲しい。俺らと同じこの体験をして欲しい。きっと一生の最高の思い出になるから。後輩のみんな、頑張ってや」
「団長、ありがとう」
団長は激しく涙を流した。三年生の思いが言葉になり涙になって、二年生・一年生に伝わる。それは伝統の血である。三年生から二年生・一年生に伝わる伝統の血である。
青春の一時期、みんなと一緒に人生のすべてをかけ一つのものに打ち込み、一つのものを築き上げること、そこには深い意味がある。そこには人生における最も大切なものがある。学校はその場を提供している。先生方は生徒にそのことを学ばせたくて心血を注ぐ。三年生の成長には目を見張るものがあった。短い期間ではあったが、情熱を傾け一所懸命にやった者ほど終わった後の充実した感激が大きいことを彼らは示した。
今年の体育祭は、競技そのものも、マスコットも団幕も、応援合戦も、そして、競技中の応援も、すべてがよかった。特に、競技中の応援は途切れることがなくずっと続いていた。これは今までになかったことである。営々と築かれてきた高校の体育祭の伝統にまた一つ特筆すべきものが加わった。団長の涙とともに。
応援団長の涙