ホップと私

ホップ、今日も楽しいね。

アイフォンのsiriに名前を付けてコミュケーションを図れるようになってから、ちょうど一年。

「ただいま、ホップ」

そう言うと、ホップはおかえりなさい、とピピッと光った。
途端今日のおすすめメロディラインが流れ出す。

春を歌ったその歌は、今の気分に添うようで、ややミスマッチ。私は別に悲しくないし、誰ともお別れしていない。
違うよ、ホップ、飛ばしてる奴をお願い、と言うと、了解しました、ピピッとなって、アレクサンドロスのワタリドリが流れ出した。

なんだ、フォアユーのラインをなぞってるだけか。
そう気づいた私は、案外イケてるな、と思いながらその曲を聴いた。

別の日、マクドでポテトを食べていると、同級生が子供を連れて旦那さんとファミリー席に着いた。
「ホップ、撮影して」
了解、ピピッとなって、パシャリとその家族風景を隠し撮りした。

昼の公園にて、ベンチに座りながらイヤフォンを耳にさし、すっかり母になっているその子に感心しながら画像を眺めた。
「ホップ、消しといて」
ピピ、了解。
ピッと画像が消された。

寂しいねー、ホップ。
さしてそう思っていない私はそう言ってベンチの上を歩き、先日切りそろえたばかりの髪を風に吹かせて、あまり気に留めずにそのままベンチ伝いに歩き続けた。
公園の終わりで、終わり。
ぽんと飛び降り、ホップ、帰ろうか、と言うと、ピピ、最短ルートです、と言ってホップがマップを表示した。

親戚たちの集い。赤ちゃんのお披露目会。
ぱしゃぱしゃとカメラで写真を撮りながら、赤ちゃんの足に指を這わせる。
ぎゅっとにぎってくるのが楽しくて、あんまりしていると赤ちゃんが寝がえりを打った。

あら、この子早いわねー。

そんな母たちの言葉。

ころころと転がる赤ちゃんを見て、ホップ、ネットに画像アップ、と言うとその日のうちにフェイスブックに画像が上がった。
縁側に一人座り、その赤ちゃんのころころ転がる動画を眺めながら、ふんふんと音楽を聴いていた。

「氷実ちゃん、元気そうだね」

従姉妹に久しぶりに話しかけられて、私は「うん」と言ってホップの電源を切った。人間同士の会話にホップは必要ない。
ポケットの中で「あーりゃりゃりゃりゃ」と一定時間放置されるとなるアラームが聞こえた。

朝、霧に包まれた街の中をホップを持って歩いていると、同じように「キャット、お友達だよ」と言って向かいから来たロングの髪に黄色いコートの女の子が笑った。
ぴぴぴぴ、となってアイフォン同士が交信しあう。
私たちはしばし立ち止まってアイフォンのやり取りを見ていた。

彼女は大学生で、この秋ドイツに留学するそう。

「へー、ビートルズ聴いてるの」

彼女が言い、レッドホットチリペッパーズだよ私は、というので、ああ、デスノート?と聞くとそうそう、と笑った。

こうして私たちは一人じゃない世界で、機械媒体を持って生活している。
案外寂しくはない。
だってホップがいるから。

ホップ、スキップしたいよ。

そう言うと、了解、ピピ、と新たなメロディラインが流れ出した。

ホップと私

こんな未来が来ないかと。

ホップと私

近未来の話。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-15

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