その愛を受け入れて…
ファーストキスは…
「ふぅ・・・・」
5月GW・・・・ 職場も休みということで散歩がてら家の傍の公園に来ていた。
缶コーヒーを手に一口飲み、ベンチに一息ついたとこだった。
GWということで、旅行に行かない家族など、カップルが楽しそうに過ごしている。
そんな風景を見ながら、なごみを感じていた。
特に、小さな子供がはしゃぐ姿を見ていると、よりなごみを感じるものだ。
私もとうとう40を超えていたことが影響しているのか、精神的安らぎを自然と求めていたのかもしれない。
いまだに家族を持たないというか、彼女すらこの年になるまで、作ったことすらない。
だからこそ、よその家族が最近、羨ましく思ったりもしている。
「子供はかわいいな~」
とても無邪気にはしゃぐ子供たちをみて、ありきたりの感想を述べていると、懐かしい声が届いた。
「先生、ロリコンですか?」
その声の方を振り向くと、見たことあるようなないような、懐かしい声だと思って知り合いだと思った
私は、その女性が誰かわからなかった。
「・・・・えと、失礼だが、どちら様でしたか?」
その返答に、納得できないのか、彼女は頬を膨らませてる。
「と、な、り 座ってもいいですか?」
「ああ、もちろん」
近くで、彼女の顔を見るとある人物の面影を思い出した。
「ほんとに覚えてないんですか?最後に会ってから、まだ2ヶ月ですよ?」
「・・・いや、思い出したよ、木下さん」
「弥栄です 弥栄 まぁ思い出してくれたから 言及はしません」
「しかし、まだ2ヶ月か、ちょっと会わないだけでとても大人っぽくなったね」
「ふふふ、一応大学生ですからね 高校生じゃありませんからね~」
たしかに 高校の時と比べればとても、変わった。
出会った頃というかあの時はそう
校則違反の常習犯だったなぁ
髪も染めていたし、服装も着崩していた。
「どうしてここに、GWだろう 友達や家族と出かけたりはしないのか?」
「はい、今日は先生に会いに来たんですよ」
悪戯に、昔と変わらない笑顔 その笑顔に一時期惹かれてしまったこと少し思い出した。
過ちではなく、彼女は 私と身体の関係を一度だけ持ったことがある。
「約束、覚えていますか?」
------1年前
身体の関係を築くのはまだ半年も先なのだが
どうせなら彼女との出会いから話そう
その約束をしてくれた 経緯を・・・・・
5月 新学期がスタートして 最初に大型連休を今日と同じように 公園で過ごしていた。
教員ももう20年近くしていることもあって、新人教員のように、休み返上で教育準備に追われることはない。
三年の担当としては、学生の進路関係も本格的に考えて、受け持つ教室の生徒の把握は大事なのであるんだが
せっかくのGW 少しのんびりする時間をもらってもバチはあたることもあるまい。
やはり 休日、たかだか1年でその雰囲気が変わることはそうそうない。
家族やカップルが多く見受けられる。
「風が気持ちいいな せっかくなら桜でも見てみたかった」
当然桜は散っている 今では緑がとても茂って、風で羽音が奏でる音に風の気持ちよさが増してる気がする。
家族やカップルが多い公園に、一人のおじさんがベンチに座り続けるのは、ダメだな・・・
時計をみて ちょうど正午あたりを針がさしていた
コンビニでもよってごはんでも買って帰るか
重い腰をあげて公園をでて コンビニ向かっていた
コンビニで弁当を買い、マンションに戻りご飯を食べてまったり過ごす
いつも通りのいつもの日常
何十年と繰り返す 代り映えのしない毎日 変わることも求めないし 求められることもない
この先も 変わることはない そう思っていた。
GWも終わり、生徒たちも休みボケが見受けられるかと思ったが、さすがは三年生 受験が控えているためか浮つきはなく それ以外の就職組なんかも同じように浮つくものは少ない。
やはりこのご時世 進学者が多いためか 気持ちの切り替えがはっきり見て取れる。
どこの学校でもすべての生徒が優秀で聞き分けよく、素行が良い生徒ばかりではない
一昔前まではいかないとしても、今どきの若者にある恰好を好み、そういう風な恰好を指導されても変えない生徒は少なからずいるものだ。
もちろん 私が受け持つクラスの生徒にも数名だがいる。
今日も生活指導の先生は指導しているみたいだ。
指導室をみていると 何人かの生徒が指導室からでてきた。
受け持つ生徒もいるかなと思い そちらに目をやると・・・・・いた。
いつかは注意されるだろうと 思ったし、見て見ぬふりを決めていた。先生は親ではないが指導者として注意するべきことは注意をする
教師として当たり前ではあるが、私はそんなに熱心ではない 今も昔も・・・・
教育指導の先生が、指導室からでてきて 私の名前を呼んだ。
珍しかった。今までも素行の悪い生徒は、いたが それで呼ばれることはそうなかった 全体的に素行の悪い生徒の注意を促すことが多い
私の名前が呼ばれた原因を指導室にいく原因を少し考えてた。
「うちの生徒はなにをしでかしたのやら 身なりに対してだろうか?」
疑問も答えが出ないまま、指導室に入り 指導の先生と対面に座り 私の前に箱を出してきた。
「これ 先生の受け持つ生徒が持っていたものです。」
「・・・・え」
驚きに返事が遅れてしまった。
「うちの生徒 たしか 木下がですか?」
「そうです まぁたばこは吸ってなかったみたいですが、複数の生徒からも同じようにたばこを所持して吸っていた現場を押さえました。」
「あの それで停学処分ですか?」
原因より 処分のが気になる この時期こういうのがほかの生徒に知られ、集中を切られるのは、まずい
面倒は避けたい
「いえ 言ったでしょう 吸ってはいなかったんで 取り上げだけ そして今回のみ 注意だけで済ませてます。まぁ吸っていた生徒に関しては、停学にさせてもらう 示しが付きませんからね。」
「わかりました では 私の方でも 厳重に注意をします 今回はお手数をおかけしてすいません」
深々と頭を下げる
「お願いします。 今後こういう事がないようにしていただければ今回はこれ以上は何も。」
「ありがとうございます。」
指導室をでて 再び 自分の席に着き 出席簿を開いた
木下 弥栄(きのした やえ)
成績は まぁ悪くはないな 学年全体でみても 中間層にいる。 外見はまぁ 髪を染めて 制服も気崩した格好だ。
家庭環境が影響してるのか 彼女の家は母子家庭で 母親は夜の仕事をしていたんだったかな
取り敢えず 近々 話してみないといけないな。
悪い話を聞かされた後なのか お酒でも久々に買って帰りたい気分だ。 家の近くのコンビニにより ビールを1本買い、弁当を買った。
コンビニをでて まっすぐ家に戻る途中に 肩を叩かれた。振り向くと見知った顔だ。
とても整った顔立ちで 美少女と呼ばれる部類ではないだろうか。
顔よりも髪の方が目立つ 金に染め上げた長い髪 腰近くまであるのだろうか 綺麗に染まっている
「木下 どうした?」
「・・・・・」
どうやら 今日の事を気にしているようだ
「今日の事なら 今度詳しく聞かせてもらうから また後日でいいぞ」
正直 仕事が終わってまで 生徒の面倒を見る気に慣れない
「・・・・・その ごめんなさい」
驚いた が 今までの切り替えしがクセになっているのか
さっきと同じようなことをいった
「また 後日に改めるから その謝罪だけで今日はいいよ もう暗くなるし 帰りなさい」
木下は私の言葉に納得できないのかさらに声をかけてくる
「ごめんなさい その今日の事は親には・・・・・」
なるほど 私としてもめんどくさいことは避けたい
「・・・ああ それは約束する さぁ帰りなさい」
「先生 めんどそうな物言いですね」
「ん?」
私は 木下との会話にめんどくさそうな そんな話し方をしたのだろうか?
そんな疑問を考えてたら さらに木下はこういった
「顔 とくに目 話し方は普通なんだけど 目がめんどうそうな感じが伺えるんですが?気のせいではないですよね?」
なんだ この子 確信的な物言いは そんなこと今まで言われたことはないだけに 戸惑ってしまった。
「いや そんなことはない 今から急用があるからそれでだ」
子供は正直だ 大人の言動に敏感だ と聞いたことがあるが さすがにここまで 大きく育った子供にそんなことがわかるはずもない
そんな風に思ってたせいか言い訳も 嘘っぽかった
「ふ~ん そうは思えません 私わかるんですよ 大人の人の 声や 目 態度 でそれがどう表れているのか」
木下はとても冷めた目で 問いかけてきた
「先生 急用なんて嘘で 思い付きで答えましたよね?」
「・・・・いや そんなことはない 本当に急用があるんだ」
見透かされてる その目がそう言っている そんな言葉当てはまる
私は1周りは離れている そんな子供に動揺が隠し切れない
「じゃあ ついていきます 本当かどうか」
「・・・・悪い 嘘だ めんどくさかっただけだ」
本当についてきそうな感じがする だからこそ・・・・
面倒は避ける それが一番 ここは正直言う方が得策だ 信用を失っても仕方ない
「ふふ 意外とあっさり認めましたね」
さっきまでの笑顔とは違う かわいらしい笑顔だった
我が家に戻った 私は 缶ビールをあけ 一口飲んだ
「ぬるいな・・・・」
缶ビールを見つめ さっきのやりとりを思い出し 木下の事を考えていた。
最初は 反省をして とても外見から思いもつかない、しおらしさをしていた
だが 次は 冷めた目をしていたな まるで大人なんかを信用していない目だ
そして 最後には あの笑顔だ
とても不思議だった
しかし 教員をして 学外で 声をかけられ 気にするなんて 今までなかったな
私が他人を考えるなんてそうない 学校で 生徒から 先生から 相談を持ち掛けられても 正論しか述べることしかしてこなかった
当たり障りなく 答えて 面倒をさける 生きていく上で 面倒ごとに巻き込まれないように しっかりと線引きをして生きてきたのに
「ふぅ・・・ 年かな・・・」
思わず にやけてしまいそうになる
次の日の放課後
ほとんどの生徒が下校し 校内も静まり返り 西日が差し込む、空き教室に 木下を呼び出した
「こっちだ 座ってくれ」
木下は 髪を触りながら 席に近づいて 椅子に腰を下ろす
どう切り出すかを考えながら 木下を見ていた
「・・・・先生 見すぎですよ セクハラですか?」
嫌悪感のある口調でなく 少し楽し気に 髪をいじりながら 私を見ている
「ん・・・ いやいや そういう風には見ていないよ」
「それは本当みたいですね」
まただ また 見透かしたように・・・・
「・・・・ その誤解はしないでくれ その髪は染めているのか?」
昨日も思ったのだが 髪がとても綺麗で映えている。傷んでいる様子がない
「え・・・いや ブリーチして 色抜いてるんですよ なんでそんなこと聞くんですか?」
髪をいじりながら不思議そうに見つめてくる
「似合ってると思ってね とても似合ってる。」
髪は校則違反で 金にも近い色している
その髪の色も夕日に反射して より一層映えていた
きっと 誤解されるだろうし 変な人だと思うだろう それでも純粋にそう思った。
「えーと・・・・ありがとうございます?」
とても困ってた
それはそうだ 昨日のタバコの事で呼び出されたのに そんなことを言われると思ってもいなかっただろう。
「でも先生が 褒めてもいいんですか? 教師でしょ 校則違反なのに」
「率直な感想だし 校則違反を理解しているなら 私に注意を受けなくてもいいだろう?」
「一理ありますね それより 呼び出したことは 髪でですか?」
長引かせてもあれだし 終わらせよう
「タバコは 吸ってないんだろう?」
「私は吸わないわ 買ってきて 言われたから買ってきたとこを捕まっただけ」
「・・・・なら いいんだ 誤解を生まないように 今後、そういうのは断るんだ」
「あ また面倒だって思って 終わらせようとしてるんですか?」
まったく 勘がいい
「・・・・注意されるのは短いのがいいだろう?」
「いいえ ほかの先生なら そう思うのかも でも先生は もう少し話してたいんです」
この言葉の意味が分からなかった
何を言ってるんだ? 興味を持たれるような事は一切してないはずだ
しかし 無下に断れば すぐにバレてしまうだろう そんな予感がしていた
「・・・・それでなにが話したいんだ?」
「あら 逃げないんですね?」
やはり 見透かされてる この子には嘘がつけない 確信した
「そうですね 先生は結婚されてるんですか?うーん それはないかな
昨日コンビニで弁当買ってましたものね、バツイチですか?」
聞きにくいことをズバリ聞いてくるな・・・・
「・・・・ずっと 独身だよ」
言い訳もする気もおきない 事実を隠すつもりもない
私は そんな感情は 生まれることはなかったんだから・・・・
「え 彼女とかもいないんですか?」
さすがに驚いているようだ まぁ無理もない いい年した おっさんが 独身で未婚なんて 問題ありとしか映らないかもしれないな
「いないよ ずっとね・・・・」
そう この年まで 女性の裸すら 見たことがない まぁ 昔、本などで見たことはあるくらいだが
家にはそういうのすらないんだが・・・
「・・・・・童貞です?」
「私は 教え子に羞恥をさらす気はないが、 まぁそうだ」
さすがに 少し恥ずかしいが、まぁ 40近いせいか、恥ずかしさを全面に出すことはない
木下は私の返答に 茶化すこともなく さらに質問をしてきた
「先生・・・・今・・・・好きな人はいますか?」
「ふぅ・・・・」
二日連続でコンビニで缶ビールを買い 一口。
今までにない行動 こうしてビールを買う 私は飲兵衛ではないんだが、飲まずにはいられなかった
彼女の最後に質問に動揺が隠せず むせてしまった
そう 好きな人いますか?の後に彼女はこういったのだ
『私と付き合ってみませんか?』
もちろん 教師と教え子 そういうのはご法度だ
私は、40年近く生きて 異性から しかも 1周り以上違う若者からあんなことを言われるとは思わなかった。
からかっているのだろうと思ったが 彼女は真剣だった
『本気ですよ? からかう気もないし まぁいきなり恋人というのが抵抗があれば 付き合う前提でってのもありです』
何を言っているのだ 意味が分からなかった
だから
『悪いな もっと若い子を選びなさい それ以前に教師と生徒だ ありえない』
私はそんな感情は持ち合わせていない 信じてもいない
信じてはだめだ・・・・
『私と付き合ってみませんか?』
急に胃の中が逆流するのがわかった
急いでトイレに駆け込み 嗚咽と嘔吐を起こした
気分が落ち着き 口を拭う
「余計なことは考えないどこう」
----------わたしは まだ 過去を捨てきれてない--------
「先生」
私は その声の主が分かった
ここ最近よく聞くからだ
「木下 遅こ・・・・・」
朝から来てなかった 木下に注意をしようと振り向いて その姿に驚いた
腰近くまであった長い髪は肩くらい短くなり
そして 金髪に近かった髪は黒くなってた
「えへへ 遅くなりました ごめんなさい」
悪戯に 反省が見えない その謝り方 そんなのが気にならないくらいに
彼女の変わりに驚きが隠せなかった
「おまえ・・・・髪・・・」
ハトが豆を食らった顔でもしてるんだろうか 彼女はかわいらしく笑ってた
「似合ってますか?」
「ああ・・・・とても似合ってる」
その笑顔を前に自然と 褒めてしまった
昨日までの金髪もよかったが 素材がいいせいか なんにしても似合ってた
「ありがとうございます それでは 失礼します」
「ああ それより放課後 話があるから 昨日と同じ教室で待ってなさい」
なぜだろう 私はこの約40年 人に興味すらない
興味を持つことさえせずに 一生懸命にやってきた
学生の時は勉学に
独り暮らしの家賃を確保にバイトに明け暮れ
社会に出てから 職場一筋で 周りに目を向けることなく生きてきた
それが当たり前だし 不思議でもなかった
それなのに…
それなのに・・・・
私は…
彼女が言った最後の言葉が胸に刺さっていたのだ
『私と付き合ってみませんか?』
淡い期待があるわけでない
ただ この三日 彼女の存在は
私の中に 入りこんでいるのだ
その日の放課後
昨日と同じように空き教室に 二人対面して座っていた。
「ふふ 先生どうしたんですか? 悪いことしてませんよ?」
悪戯に その笑顔が小憎らしい感じだ。
「しただろう 遅刻」
呼び出した理由は簡単だ 遅刻について
「無断で遅刻したのは申し訳ないですぅ でも この遅刻は先生にとって問題でした?」
髪を褒めたことで 悪びれない その顔だ 髪型を変え 色も変え 上目遣いで 顎に人差し指を置き
そのしぐさがとてもかわいく見える
「担任として問題だ 遅刻をするなら事前にいいなさい」
どんな顔でいってるんだろう
「そうですね~ でも担任としてなら 相殺されていませんか?」
彼女の言うことに少し考えさせられたが 意味が分かった
そう 彼女は前々日に たばこの件で 教育指導につかまり 注意を受けたのだ
その反省を込めて髪を切り 黒く染めてきたのだ
それが私の指導ではないが 結果的に指導したように映り
教育指導の先生からも さすがですね しっかり指導されている
と おほめの言葉をもらった
「・・・・ッ ああ その通りだ」
どこまでも見透かしている
「先生 そんなことよりも どうせコンビニでごはんなんですよね?」
「ん ああ、そうだが」
「じゃ 隣町まで ごはん食べにいきましょ 隣町なら そうそう生徒に会わないでしょうから」
彼女の意味がわからない発言が 意味わからない鼓動を発している
「それは 無理だ 自分の家で食べなさい」
「私の家に来てくれるんですか? 親いないんで 別にいいんですけど・・・」
どう 変換されてるんだ
「教師と生徒だ 何度言えばわかる」
「でも先生・・・・」
そう 呼び出した理由なんて なんでもよかった なんとなく
そうなんとく 彼女と出会い たった三日 それだけで 今までに感じたことがない
それが何なのかわからない・・・・・でも・・・・
「私とお話しがしたかったんですよね」
見透かすように 態度だけじゃなく 私の心までも
彼女の目には映っているのだろうか
「私は昨日言ったことは "本気"ですよ 私は 先生と付き合いたいんです」
その言葉に 心臓が 高鳴りを上げる
あ
あ
あ・・・・
やばい
私は急いで その場を離れようとしたが 遅かった
3歩、歩いた時点で腹部から込み上げてくる流れに逆らえず
嘔吐した・・・・
どれくらい時間がたったのだろうか
嘔吐から 嗚咽に変わり 時間の感覚が わからずにいた
さすがに そんな状況に耐えれず 木下はこの場から離れてるだろう
いや 帰ったが正解か
意識がはっきりしてきて 掃除しなきゃなと思い 立ち上がろうかしたら
「だめよ 先生 はい」
その声に振り向き 彼女は ハンカチと ペットボトルの水を私に差し出してくれた
「すまない・・・・帰らなかったんだな」
感謝よりも 彼女がこうしていてくれた その方に気が回る
そんな質問をよそに ジュースを買いにいったついでにもってきたのだろう
彼女は雑巾で 私の嘔吐物を掃除しようとしていた
「自分で やるから そのままにしておいてくれ」
「慣れてるんで 気にしないでください」
長い嘔吐と嗚咽に体力が奪われたことで
彼女から雑巾を取り上げる気力がなかった
だから 彼女の言葉を考えた
ああ・・・おふくろさんは夜の仕事専門か
水を一口のみ 口を拭ったハンカチをポケットに入れて 彼女から雑巾を取り上げようと手を伸ばした
「 」
ほんとに何がおこっったのか 理解できずにいた
柔らかい そんな感想から始まり 感触を理解して そして嘔吐や嗚咽で鼻孔がダメでも口から匂いが伝わってくる
甘く でも酸っぱさも混ざり そんな複雑さを新たに口の中に侵食してくる
・・・・・絡めてくるその感触に 理解をした
彼女の肩に手をやり突き放そうとしたが遅かった
私の首に、彼女の腕が回り動けなくなった
お互いの舌が絡まる音が 静まり帰った教室に響く
どれくらい時間がたった 短いようで長い その一時に ようやく口から離れて
彼女の顔が はっきり見えた
「ファーストキスが ゲロの味って 最低ですね」
彼女は顔を赤くして 照れて・・・・笑ってた
「私は 先生の事が ずっと前から好きです・・・・」
床は綺麗に掃除されて お互い 教室の壁に背を預けていた
何をどう話せばいいのか 私は 彼女の気持ちを聞かされて どう答えるべきか
そう考えていたが でた言葉は 謝罪だった
「すまない 何から何まで みっともないとこも見せてしまった」
「先生 そんなことはどうでもいいんです」
そう そういうことではないのわかってた でも私は・・・
「謝られても困ります」
「そうだな 掃除してくれてありがとう」
私は 答えを間違っているのだろう でも今はそういう事しか言えない
「はい」
彼女はこのときどんな顔をしていたのだろうか
その愛を受け入れて…