女帝
里美は初めてボランティアに参加した。市の文化センターでイベント会場の設営と撤収をする仕事だ。社会人3年目になり、仕事も覚えて余裕がでてきたということもある。
事務局の指示で五人一組になってチーム分けがなされた。概ね性別と年齢層が同じになるように組み分けされたようで、里美のチームは学生、主婦、会社員、フリーターと職種は違えど全員20代の女性で皆このボランティアに参加するのは初めてだった。
作業をする内に指示する者と指示を受ける側は自然と分かれる。竹下さんは一番年長なのもあって、作業の段取りが分かってくるとメンバーに柔らかく指示を出すようになった。
最初は「こういう役割分担にしましょうか」というところから始まり「じゃ○○さんはこっち、△△さんはあっちってことでいいよね?」という感じ。
聞くと彼女は職場でもチームリーダーの役職を担っており、優秀な人はどこにいてもリーダーシップを発揮するものだなと感じた。
その後も同じ場所のボランティアに参加した。メンバーは多少入れ換わることはあったが竹下さんとはいつも一緒だった。彼女はやはりリーダー的な立場を進んで担い、皆その役割に満足していた。
ある日のボランティアで竹下さんが「事務局の○○ってウザくない?」と切り出した。同調する人もいたが里美はその人を知らないので黙っていた。しかし悪口は随分盛り上がり、チームの結束は増したようにも感じられた。
以降竹下さんは次第に求心力を持ち、その指示には誰も意見できない空気が醸成されていった。不満を漏らすと取り巻き連中が一緒になって陰口を叩いたり露骨に無視したりする。今や竹下さんには誰も意見することができなくなった。
里美はそんな人間関係が煩わしくなりボランティアは止めてしまった。でも女帝というものはこうして生まれるのだなという勉強にはなった
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