好きだといえば好きだといってくれるロボット
好きだといえば好きだといってくれるロボットをあげよう。
いつも誰かに好きだといってもらいたいキミへ。
誰からも好きだといってもらえないキミへ。
ぼくは生きている。ぼくは人間です。ぼくは十七歳です。さいきんは花をたべるのに夢中です。花は甘いようで、意外とにがい。
好きだといえば好きだといってくれるロボットをもらいました。
ぼくはロボットにいいます。
好きだよ、と。
ロボットはこたえます。
ぼくも好きだよ、と。
わらえるね。くだらないね。さびしいね。
ロボットはロボットらしく無機質で、ぎこちない感じでいうのです。好きだよ、と。
わらえるし、くだらないし、さびしいし、むなしいと思うだのけれど、なぜだか泣けます。泣けてきます。からだのなかにあたたかくて甘いココアをそそがれたような気分です。ぼくは学校の帰りに摘んだ名も知らぬ黄色い花をくちにいれます。奥歯で噛みしめます。涙がとまります。花弁からじわっと汁が滲み出てきます。花の血だ、と想うとなんだか自分が吸血鬼になったような心持ちです。妙な興奮を覚えて、ぞくぞくします。
きのう、ぼくの大好きなあの子が消えました。
さいきん、どうして、ぼくの好きな子たちが続々といなくなるのでしょう。
とつぜん消えるのです。そして、消えた子たちはまるで最初から存在していなかったかのように、みんなの記憶からもきれいさっぱり消えてしまうのです。
ぼくの好きな子たちは、ぼくのことも好きな子たちなので、つまりはぼくのことを好きだといってくれる子たちがこの世界からどんどんいなくなってしまうということ。よくいっしょにカラオケに行ったクラスメイトのJくん、となりのクラスで中学からの友人であるKくん、小学生のときに同じサッカー教室に通っていて今は同じ塾でとなりの席のYくん、部活動の先輩であるUさん、そしてきのう消えてしまったぼくの大好きなあの子、T。
どうせ消すのなら、ぼくもいっしょに消してくれればいいのにと思います。
ロボットはきょうも正常です。
「好きだよ」
というと、
「ぼくも好きだよ」
とこたえます。
外は雨だ。
いや、雪だ。
いやいや、あれは綿か。
大好きなあの子が冬になると着ていたモスグリーンのダウンジャケットの中身、かもしれないと思ったら、いますぐ外に飛び出したくなった。
好きになった子たちが次々といなくなる世界。
「ぼくは永遠にひとりぼっちだ」
とつぶやくと、
「だいじょうぶ、ぼくがいるよ」
とロボットがいいました。
二足歩行の、頭の丸い、目がぴかぴか青く光るやつが、やさしくほほえんだような気がしました。
好きだといえば好きだといってくれるロボット