詩集/虹への翼
【 サバンナに生きし友に 】
灼熱の草原の光の中に生れて よりこのかた
姉弟ともに無心に母の乳を飲み幸運にも
数々の試練や捕食者の襲撃を逃れ成長した彼女は
やがて自らの力で狩りをし身を守るすべを覚え
美しさ強さを兼ね備えた一頭の紛れもなき女豹となった
そしてかつての母がなしたごとくに今日まで
長きに渡って子を産み育てこの弱肉強食の
修羅の世界を必死に生き抜いてきたのだ
その彼女が今や深い傷を追い枯草の大地に
動けなくなった自分の身体を横たえている
その一生に思いを巡らせていたのであろうか
しばし夕陽のサバンナを見つめていた金色の瞳は
やがて静かに眠るように閉じられ
二度と再び開くことはなかった
やっと彼女に生きる日々の苦悩から解放され
永遠の安らぎが訪れた瞬間だった
あくる朝そこにはもう彼女の姿はなかった
彼女は見事な一頭の女豹としの一生を終え
遥かな世界へと旅立っていった
彼女の生前の姿は今も私の心の中に
しっかりと息づいている
さらば友よ 美しく勇気ある者よ
【枯葉の下に】
世の受け入れらし者たちの死は
大勢の人々に惜しまれ
その功績を礼讃され
その棺の見送る者の葬列は限りなく続き
彼らの記憶は石に刻まれ
あらゆる媒体を通じて伝説となり
永遠に人々の心に残り続ける
その一方で名もなき者の死は
時には誰一人として見とる者もなく
ひと夜の夢の如く容易に忘れ去られ
墓には石もなく降り積もる枯葉のもと
雨や雪に晒され あろうことか
人々の足蹴にさえされることもある
ああ嘆くな友よ それが此の世の習いなのだ
(2017/12/09)
【 創作地唄歌詞 花の行方 】
戯れの恋と 知らでや 春の夜に
風に誘われ 浮かれては
つれなき素振りの朧月
映す水面に 舞い落ちて
(手 事)
吉野は花よと煽がれて
秋は龍田の散る紅葉
流るる果ての海原に
待つは弥陀の浄土へと
情けの色の褪せぬうち
われの手を取り君よ連れなん
(2017/12/ 07)
【 星の彼方の新天地 】
椅子に座りしケンブリッジの賢者は
科学の言葉を借りて 悟らしめん
我等の未来は もはやこの地上にはあらず
それはあの 無限の夜空に輝く銀河の彼方にありと
此の地上に生まれし我等は目に見えぬ大きさから成長し
遂に我らを取り巻く宇宙をも認識できる知能を得た
愚かなる争いごとに囚われることなく一体となりて
緑の葉の恵みを受け羽根を得て空へ舞い上がる蝶の如くに
此の故郷の惑星を離れて
太古の昔より我らの夢を誘い続けている
あの果てしなき銀河の彼方の新天地を求めて
いまこそ旅発つ時が来たのだと
もしも我等の生き物としての為す業が
その生きる原動力としての果てしなき欲望が
この地上に様々な問題を起こす根本原因であるとするなら
それを果てしなき広大無辺の大宇宙に向けるは理に叶いて
そもそもその目的で我らに知能が備わっているのかも知れぬ
遠い昔 インドの賢者は こう述べている
『 物事は心に導かれ 心に仕え 心によって 創りだされる 』と
願わくば この地上にかつての生き物のように果てることなくして
我らの子孫が此の満天に輝く星空の彼方の新天地に
永遠の繁栄の基礎を築かんことを
(2017/11/09)
【 希望の春に 】
あまりにもたくさんの
一生分の愛をあの娘に捧げてしまったから
もう僕の心の中に ひとかけらの愛さえも
残っていないから それで
もう人を愛せなくなってしまったのかな
こんなに 心が空っぽの感じがするのかな
誰か僕を思いっきり抱きしめてよ
溢れる愛でいっぱいの心で
思いっきり僕を抱きしめて
そして言ってよ 僕の名を何度も呼びながら
あなたを誰よりも心から愛してるって
そうすればこの冷えた体にまた暖かい血が廻りだして
乾ききった心の中に愛の泉が湧き出して
また人を愛せるようになれるかも
僕も誰かと生きたいな ほら
楽しそうに寄り添って花の蜜を吸う
あの小鳥のつがいのように
廻りくる希望の春に胸躍らせながら
(2017.3.9)
離れカラス
ただ一羽
群れを離れて彷徨えば
秋の色葉も舞落ちて
風も冷たき冬枯れ野
ひもじき身をば枯れ枝に
泊まりて呼べど木霊のみ
返りて恋し母の声
畑に残りし忘れ実を
啄ばみ今日も生き延びて
やがて舞い散る雪の中
ただ耐え忍ばん夢に見る
緑花咲くあの春の日を待ち
(2016.12.17)
フランソワの絵
「ねえ、一体どういううつもりなの!?
私の絵の横にかかっているこの落書き、
ちゃんと納得のいく説明が聞きたいわね。」
誰もが認める天才画家は、
自信作の隣に掛かっているスケッチブックに描かれた、
クレパスのぐるぐる螺旋を何度も指さしながら
美術館長に言い寄った。
彼は表情一つ変えずに
「しばらくお待ちを。」と言ってその場を去ると
一人の幼い女の子の手をひいて現れた。
「フランソワ、このおばさんに教えてあげてくれないか。」
「ええ、いいわ。あのねおばちゃん、こっちのぐるぐるがママで、
え~っとこっちのちっちゃなのがわたちで、それから、
この隅っこにお座りしているのが犬のトーマスよ。わかった?
とっても可愛いでしょ?おばちゃん。」
「あっ・・・ええ。フランソワとっても可愛いし
よく描けてるわね。でも・・・。」
「この絵おばさんが描いたの?」「ええ、そうよ。」
「ふ~ん?まあまあね。」「何ですって!?」
「だってわたちの絵のママやトーマスは、
今も絵の中で笑ったり踊ったりしているけど
おばちゃんの絵はなんだか寂しそうだもの・・。
おばちゃん、あたちもう帰る
サラとお人形ごっこするの。
じゃあね、バイバイ。」
(2016.11.10)
新しい夢の始まりに
ぽんと子猫がテーブルの上から
床に飛び降りたかのように
わたしの眼の前の景色が一変し
見たことのない世界に迷い込んだとしたら
わたしは最初に何をするだろうか
子猫のように母親を呼ぶだろうか
それとも神の名を唱えるだろうか
ただこれは悪夢に違いないと思い
早く目覚めようと必死になるだろうか
それが新しい命の目覚めの時
次の夢が始まる時だと知るのは
優しい慈愛に満ちた瞳が顔を覗き込み
わたしの小さな頬にそっと唇が押し当てられ
こんなささやきが聞こえてきた時
「可愛いおチビちゃん、 始めまして
わたしがママよ・・・・ よろしくね。」
(2016.11.9)
故郷の家
白菊の入った水桶を片手に
線香の香りが漂う墓地の小道を歩くと
柿畑の下の家から子供たちの声が響いた
そこには黄色い瓦屋根の或る一軒の家が建っている
でも僕の目に映るのは同じ場所にあった別の家
何処かの解体した家の古木を集めて作り直した
農業を営む貧しい家族が住んでいた小さな一軒家
私の生まれ育った懐かしい我が家だ
表の庭には右手の鶏小屋の横に大きな屋根よりも高い柿の木があり
左手には竹の棒のついた鶴瓶の井戸
そして裏の畑の両脇に大きな巴旦杏の木が茂っていて
僕の背丈よりも大きな無数の赤い実をつけるグミや
ザクロの木もあったっけ
入口の障子の張られた引き戸をがらがらと開けると
薄暗い土間の右手に風呂場があり
その奥に大きな二つ鍋のかかった赤いタイルの釜戸
左手には畳をひいた箪笥が二つばかりの狭い部屋が四つ
その隅々まではっきりと思いだすことが出来るほど
今も僕の脳裏に焼き付いて離れない生まれ育った家
そこに暮らした僕と家族の思い出がいっぱい詰まったその家は
もう僕の心の中にしか存在しない
周りに漂う線香の煙のように別の時空の彼方に消えてしまった
もしあの出来事がなかったとしたら今もあの場所で僕と家族が
昔と変わらない素朴な日々の暮らしを続けているのだろうか
平和な秋の彼岸の故郷の景色を眼下に眺めながら
僕は何をしに来たのかも忘れて しばらくその場に立っていた
(2016/10/11)
アザミの綿毛
『 お前は一体何が望みなんだ
何を実現したいと思ってる 』
神々しい光の中でそう声がした
『 地位かそれとも名声 或は
有り余るほどの金か または美しい女か 』
私は答えた
周りの人たちすべてが この生涯のうちに
何かを為し終えているのにも関わらず
自分だけが 人に誇れる何ものも無し終えずに
歳をとることが たまらなく虚しい気がするのです
自分はこうするためにこの世に生まれてきたんだという
実感が欲しいのかもしれません
『 お前は自分を 何者だと思ってる 』
何ものって人間です 唯の平凡な人間
『 それはお前たちの種がそう思っているだけだ 』
種って どういう意味ですか
『 お前達は この地上に生きている生物の一種に
すぎないということだ そして生物は自分の子孫を
次の世に残すために命懸けで日々を生きている
そしてお前も そのために生きてきたのでは 』
はい そう言われてみれば そうかもしれません
『 そして お前には娘がおりその娘が産んだ孫も
立派に成長している 違うかね 』
はい その通りです
『 つまりお前は配偶者を得て子孫を残すという
生物としての一番重要な役割を 無事果たしたことになる
これは十分に誇れることではないのかな 』
私が黙りこくっているのを見て その声はこう言って
その光の眩い環とともに 眼の前から消え去った
『 よろしい ではお前に その傍らにある
アザミの綿毛のような 自由を与えよう
精々風に乗って大空を駆け廻り
ありったけの欲望を満たしたものの行く末を
とくとその眼で 見届けるがよかろうぞ・・・』
(2016/10/10)
祭り明け
昨日までの蒸し暑さが嘘のように消え
今日は朝から爽やかな秋の空気に包まれて
晴れのいいお天気
小鳥たちも実りの秋に嬉しいのか
鳴き声がとっても元気そう
「明日あたり、秋にしようか・・。」
これは四季を司る神様の言葉じゃなくて
秋とは、稲刈りをするっていう意味
私の家が農家だった頃のある日の父の呟き
あくる日の田圃には父が踏む脱穀機の音が
周りの山に木霊していつまでも続いていたっけ
遠い遠い昔の私の心の中にある秋の風景
何にもない貧乏な暮らしだったけど今より幸せだったかも
ふとそんなことを想いながら祭り明けの朝を迎えています
(2016/10/10)
以下、出来次第。筆者
*下のはるのいずみのスマイルマークを
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