とある男の前に石があった

三題話

お題
「石」
「割れる」
「にぎる」

 とある男が歩いていると、道の真ん中に石があった。
 五センチほどの大きさである。
 男はその石を拾い上げて、脇へ退けた。
 ただ転がせば良かったのに、男は石を放り投げてしまったため、ガチャンと音がした。
 それはガラスの割れる音。
 石は塀を飛び越えて、そこの家の窓ガラスに当たってしまったのだ。
 中から声が聞こえる。
 男は素直に家主へ謝りに行くことにした。

      ◇

 とある男が歩いていると、道の真ん中に石があった。
 五センチほどの大きさである。
 イライラしていたその男は、邪魔な石を思い切り蹴飛ばした。
 ボールとは違い歪な形をしている石は、不規則に跳ねてゆく。
 真っ直ぐ転がらず斜めに跳ね上がった石は、脇に駐めてある車のボンネットの上へ。
 運転席には背広を着た人が乗っている。
 本を読んでいるのかメールを見ているのか、顔は下を向いている。
 男は自分が蹴飛ばした石が車に当たる直前、とっさに横路へ逃げ込んだ。

      ◇

 とある男が歩いていると、道の真ん中に石があった。
 五センチほどの大きさである。
 しかし男はそれに気付かず、石を踏んで足首を捻ってしまった。
 しゃがみ込んで足首をさすっていると、そこへたまたま通り掛かった女性が男に手を差し伸べてきた。
 大丈夫? と男へ優しく声を掛ける。
 男は、ありがとう、と手を伸ばして女性の手を握る。
 立ち上がった男は、少しぎこちない歩き方だったが動けないほどではなかったことに安堵した。

      ◇

 とある男が歩いていると、道の真ん中に石があった。
 五センチほどの大きさである。
 そんなものは跨いでしまえば無視してしまえるもの。
 目障りだけど、邪魔でもない。
 だけど無視できない存在。
 男はその石を拾い上げて、側溝の中へ落としておいた。

 これで誰かがこの石を投げることも蹴飛ばすことも踏みつけることもなくなるだろう。

とある男の前に石があった

とある男の前に石があった

自分以外の誰かからいただいた3つのお題を使ってSS

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-10

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted