シャチと白昼夢

「シャチをたべよう」
「そうしよう」
という会話を、誰かと誰かが交わしている夢を、目を開けたまま見ているのだけれど、さいきん夢と現実の境界線がはちゃめちゃになっているので、もしかしたら夢ではないのかもしれないし、やっぱり夢なのかもしれない。
 学校。五限目。数学の時間。
 黒板に書かれた公式をノートに書き写していると、不意に、口の中に広がるはシャチと思われる味。シャチの味。実際にシャチをたべたことはないのだけれど、たぶん、おそらく、シャチってこういう味。
 もしかしたら、
「シャチをたべよう」
「そうしよう」
という会話はやっぱり夢のことではなくて、誰かとぼくが交わしている現実のやりとりで、ぼくはたった今ほんとうにシャチを食べたのかもしれない。
 学校で、五限目で、数学の時間で、公式を書き写している最中に。
 眠りはいつだって浅い。
 息はしているようで、していないに近い。
 一昨日別れた彼女はシュークリームが大好きだった。シュークリームをにぎりつぶしたらギャアギャアと泣きわめいた。発狂した。
 別れた彼女の友人とやらに昨日、ゲドウだのクサレヤロウだのシネなどと罵られた。やたら香水くさい女と、まぶたから黒々したひじきを生やした女だった。
 ぼくの姉は仕事がないと嘆いている。家にいつもいる。自室にこもってイラストを描いている。母親のつくった夕食のハンバーグをたべながら、仕事がこないと愚痴をこぼす。そして、さめざめと泣く。
 数学教師が黒板に書かれた公式をさっさと消し始める。まだ書き写していないのにと思いながらノートを見ると、ぼくは数学の公式なんかひとつも書き写しちゃいなくて、ではなにをかいていたかってそりゃあ、シャチ。

シャチと白昼夢

シャチと白昼夢

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-09

CC BY-NC-ND
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