ぱぴぷぺぽランドセル

タイムカプセルは空を飛ぶ

 小学校を卒業する際に最後の行事として各々の子供たちは自らのランドセルに学び舎の記憶を大切に大切に選んでゆっくりと中に入れていきます。それらは羽の生えた風船に括りつけられて校舎の屋上から羽ばたいていきます。八年後にまた会いましょうと先生と生徒は手を振るのです。
 
「死刑囚、リッツ!銃殺の刑を執行する!」
 打ち放しの高い城壁、良く刈られた青々とした芝生、その中心に一本の木が葉を伸ばして影を作っている。その木の足元に真っ白な服とズボンを履いた青年が両手を上げて立っていた。その青年の頭に向かって狙いを定める三人の軍服を着けた執行人が険しい顔を浮かべている。何時でも鉄の弾を放てる状況がそこにあると言うのに、青年は一瞬も表情を変えず、その芝と同じ色のヘルメットを被った執行人をにらみつけている。
「くそ!生意気な奴め、汗一つ垂らしやしない!」
 鼻が牡丹餅の様に大きい兵士は言った。その言葉を聞いて真ん中にいる眉のない兵士が「流石、革命家のボスと言ったところか……だが、ここまでだな」と憎たらしい笑みを作った。と、眉のない兵士の横にいた背が小さくダルマの格好を真似した兵士が澄んだ空に向かってユビを指して叫んだ。
「み、見ろよ!空から羽の生えた風船に括りつけられた真っ赤なランドセルがこっちに向かって落ちてくるぞ!」
 二人の執行人はその叫んだ先を見上げた。テカテカとした赤い風船は空気を泳ぐようにして静かに地に向かって降りてくる。風船の結び目から糸が生えていて、その下にはランドセルがある。三人の執行人は降りてくる風船とランドセルを眺めていたが、やがてそれは死刑囚と三人の執行人の間に音もなく着地した。すると風船は『パァアアアン!!』と破裂した。
 死刑囚は目を瞑って黙っていた。それと対比してこの光景に三人の死刑囚は目を見開いて驚いて飛び上がった。だが、破裂した風船をよく見ると垂れ幕が姿を現していく。何やら、ゴシック体の文字で書いてある。
『リッツ・コンフィールドくん!成人おめでとう!』
 この表示された文字を読んで背が低いダルマの兵士は「あ! わかった! これ小学校六年生の時に打ち上げるタイムカプセルですよ!それで本人が二十歳になった時に舞い戻って来るんですよ! しかも持ち主の居る場所にやって来る、お墨付きでね!」
 鼻が牡丹餅の様に大きい兵士がニヤリと笑い「ふぅん、そいつは面白い、革命家のリーダーさんが幼少期の頃、どんな奴だったか気になるぜ」
 続いて眉のない兵士が「確かに、殺すまえに見てみるか、興味がある」
 そう言って三人の執行人は赤いランドセルに近づいて鞄を開いた。
 ランドセルの中からはクレヨンで描かれた絵、ガラクタで造られたロボットの玩具、押し花が出てきた。
「なんだか一般的なガキの私物しか出てこないな」と背の低いダルマの兵士は呟いた。
「なんだこれは?」
 鼻が牡丹餅の様な兵士はノートを見つけたらしくペラペラと捲った。
「日記か? 何が書いてあるんだ?」眉のない兵士は言う。

 僕は学校を飛び出した。理由は簡単だ。あんなつまらない場所にいてたまるか、何が地球人こそが至高の生命体だ。他の宇宙生物を馬鹿にしやがって、そんなにエライものなのか?僕たちは? 僕はそう苦々しく思いながら川辺へと歩いて行った。一人になりたい時にはこの落ち着いた場所に座って黙想する。そして夕焼けを見て、暗くなった後、無限に広がる星を見るのだ。僕は何時もの様に何時もの場所に座ろうと進む。すると見かけない少女が黄色いワンピースを履いて裸足で冷たく流れる川にバシャバシャと遊んでいた。僕はその光景に何故か引き込まれて立ち止まってしまう。そして長い間、楽しそうにしている少女を見ていた。そうしていると僕がジッと見ている事に気づいたらしく彼女はコッチを向き微笑んで言った。
「ぱぱぴぽ?」
 僕は恥ずかしく思いながら返事をした。
「何をしているの?」
 彼女はまた笑い「ぺぺぽぱ」と言った。
 それが少女との初めての出会いであった。彼女はコッボ星のコッボ星人であった。僕は知っていた。コッボ星人は地球人よりも遥かに優れた文化と科学技術を持っていて、弱い宇宙人を虐める地球人を心底嫌っている事を。しかし僕にとってはそれは非常に関係ない事でそして少女がコッボ星人と言う事も気にならなかった。
「ぺぺぺぱぴ」
「あれは鳥っていう動物だよ」
 僕はカワセミに指を向けて教えた。
「ぽぽぴぱ」
「狸だねあれは」
 リンゴを洗う動物に指を向けて教える。
「ぷぷぷぽ」
「あははは! まだ、夕焼けはこないよ。あと一時間後かな?」
 僕は微笑む。
「ぺぱぴぽぽ」
 少女も笑った。コッボ星人は地球人の日本語で言うぱ行しか使わなかった。でもテレパシーか最先端な技術の力か分からないけども意思疎通が出来た。彼女と出会って四か月がたったが、学校が終わってこの川に通うことが日課となっていた。そして彼女に会いたいと言う気持ちが一番の原動力になっていた。
 そして今日も川辺に向かって進んでいた。彼女に会おうと足を速めていた時である、突如、空彼方から火と硫黄の柱の雨が降り注いで、住宅やビル、街に向かって降り注いだ。人々は叫び、奇声を発して逃げパニックに陥る。僕は恐怖を抱いたが、少女が気になって走り出した。

 少女は川辺にいた。だがもう一人見かけない奴が横に立っていた。威厳がある面で背の高いマントを羽織った男であった。僕は睨んだ。
「誰だお前は?」
 僕の答えに男は答えた。
「ぱ」
 男の返答はコッボ星人だ。と述べた。
「ぺぺぽぽぱぷぽ」
 そして、僕に話始める。妹がお世話になったな。だが、お前には悪いが地球人は今日を持って消し去ってしまう事にした。理由はお前にも分かるであろう?この素晴らしい星を汚し、己同士で剣を持ち、他の弱い星を侵略する愚かで欲の深い生物である事を……妹からは聞いている、お前は良い地球人だと。どうだ私と一緒にコッボ星に来ないか?
「ぱぱぴぱ」
 少女も泣きそうな顔で一緒に行こうよと言った。
 だが私は断った。
「そんなの嫌だよ!」
 男は鋭い眼で僕を見下ろした。
「ぱぱぱぱぺぺ」
 それは出来ない。もはや限界だ。一夜として一人も残さずに殺す。
 僕は懇願した。きっと地球人だって分かってくれるそう思って。
 お願いだからまだ待ってよ!僕がこの悪い地球人を治すから……と。しかし男は難しい表情をする。その男の顔を見て少女は「ぱぱぱぴぴぽ」と言った。
 お兄さん。待ってあげて、リッツならこの地球人を変えられるかもしれない。他にもリッツ見たいな地球人がいるかもしれないでしょ?
 男は少し考えて口を動かした「ぺぺぺぽぷ」
 分かった。もう少しだけ時間を置いてみよう。だが猶予は君が成人するまでだ! 君が成人したその日に地球人が今と変わらない状況なら、その時、絶対に滅ぼす!

 そこでノートは終わっていた。
 途端に、快晴の空に黒い円盤が幾千と並んでいた。気づかなかった。三人の執行人は震えながらそれを見つめていた。円盤の底が開いていくおそらく、八年前に起きた大殺戮が再び起きるのである。
 そして空から声が「ぱぱぺぽぱぱ」と女の発音が地に降り注いだ。
 目の前にいる死刑囚の青年は目を瞑って涙を流していた。

ぱぴぷぺぽランドセル

ぱぴぷぺぽランドセル

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-09

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